●ペアリングが簡略化されるBluetooth 2.1
短距離無線通信技術であるBluetoothの普及促進を図る業界団体であるBluetooth SIGは11月6日~7日、横浜で日本初の開催となるアジア太平洋開発者会議を開催した。これを受けて8日、都内でプレス向けの説明会を開催した。ここで今年(2007年)リリースされた「Bluetooth 2.1+EDR」の目玉でもあるペアリング技術の改善にかかわるデモ、あるいは2008年の技術ロードマップなどを披露した。 Bluetooth SIGは、今年7月31日に、最新の規格となるBluetooth 2.1+EDRを発表している。Bluetooth 2.1での改良点は、低ビットレート機器向け省電力機能強化と、ペアリングの改善にある。特にペアリングは、Bluetooth機器導入の大きな障害の1つと考えられてきただけに、その改善は待望されていたものだ。 Bluetooth 2.1で導入されるペアリング技術は、SSP(Simple Secure Pairing)と呼ばれるもの。Bluetooth機器を相互接続するには、接続する機器同士をあらかじめ相互認証しておく必要がある(ペアリング)。しかし、ペアリングのプロセスは、4ケタ以上の数字(PINコード)を一定時間以内に入力する必要があったり、そのプロセスが機器毎、あるいはソフトウェアスタック毎に異なっているなど、必ずしも分かりやすいとは言えなかった。
SSPでは、複数のペアリング方法がサポートされており、たとえばPINコード自体は機器が自動生成し、ユーザーは両方の機器でOKボタンを押すだけで済む、といったことも可能になる。また、SuicaやEdyなどの電子マネーカードに使われているNFC(Near Field Communication)を用い、機器同士をタッチすることでペアリングを行なうこともできる。会場で行なわれたデモでは、Nokia製の携帯電話(プロトタイプ)で、キヤノン製のプリンタに触れることでペアリングを行ない、Bluetoothで写真データをプリンタに転送し印刷する様子が実演された。 このSSPを利用するには、接続する機器の両方がBluetooth 2.1に準拠している必要があり、既存のBluetooth機器との間でSSPを利用することはできない。が、Bluetooth 2.1機器はBluetooth 2.0に対し上位互換となっており、既存のペアリング方式もサポートする。いずれにしてもペアリングは、Bluetooth普及の上で最大の障壁と見られていただけに、この改善によりわが国でもBluetoothが広く一般に普及することが期待される。 この2007年の改善に加え、2008年には2つの新機能がBluetoothに加わる見込みだ。1つは消費電力を極限まで抑えた超低電力(ULP: Ultra Low Power)Bluetooth、もう1つは高速Bluetoothだ。 ●低消費電力/高速化を目指すBluetooth、UWBは仕切り直しか
今年6月、Bluetooth SIGは、低消費電力の近距離無線技術であるWibree Forumを統合した。ULP Bluetoothは、このWibreeの技術をベースに、Bluetoothの低消費電力化を図るものである。その目標は、ボタン電池で動作可能というレベルで、従来の10分の1以下の消費電力を目指す。データレートはBluetooth 1.x相当が規格上の上限だが、実効データレートは製品のインプリメントにより異なるものと見られる(低消費電力を目指せばデータレートは低くならざるを得ない)。現時点では、腕時計への組み込みや各種センサーなど、従来Bluetoothが適用できなかった製品への応用を目指している。 低消費電力の近距離無線技術ということでは、すでにZigBeeが実用化されているが、Bluetooth SIGのプロモーターが携帯電話業界の有力企業(Ericsson、Nokia、Motorola)とPC業界の有力企業(Intel、Microsoft、Lenovo、東芝)で占められていることから、現時点で主に産業向けのZigBeeとはおのずと棲み分けされるものと思われる。またBluetooth SIGではULP Bluetoothのアドバンテージとして、Bluetoothがこのクラスで群を抜く出荷量を持つこと、過去のソフトウェア資産の蓄積があること、ULP Bluetoothは通常のBluetooth機器と相互接続可能なこと、ZigBeeより高ビットレートで消費電力が小さいこと、などを挙げている。 高速Bluetoothは、現在よりさらに高いデータレートを確保することで、Bluetoothの応用範囲を広げようというもの。Bluetooth SIGは昨年(2006年)3月にWiMediaアライアンスの推すMB-OFDMベースのUWB技術をBluetooth技術に統合させると発表しており、高速化の最有力候補がUWBであることは間違いない。ただ、Bluetooth SIG側は、UWBなどの物理層に関与することはなく、もっぱら上位レイヤの標準化を行なうため、たとえばほかの技術、無線LAN(IEEE 802.11)の上位レイヤとしてBluetooth技術を使うことも可能性としてはあるという。 UWBについては、IEEEでの標準化は頓挫したものの、すでに製品の投入が可能な状態にある。しかし、商品化の話がとんと聞こえてこない。UWB技術を製品化するにあたって、有力なデファクトスタンダード候補と考えられていたのは、WiMediaが推すWireless USBだったのだが、このWireless USBに準拠した製品は登場していない。UWBの上にBluetoothを乗せる高速Bluetoothで、UWB技術の製品化はもう1度仕切り直し、ということになるのかもしれない。
□Bluetooth SIGのホームページ (2007年11月12日) [Reported by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
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