●いまだに紙で配布される資料 こういう仕事をしていると、ほぼ毎週、何かしらの発表会や説明会といったイベントに出席することになる。そこでは当然、資料が配付されるわけだが、ほとんどの場合その媒体は紙である。資料そのものは、PCを使い、PowerPointで作成されているのだが、我々の手に届けられるのは、それを高速なレーザープリンタで出力したものをホチキス止めしたものが大半だ。 せっかくだから、PDF等のファイルで配布してくれればとは思うものの、メディアにデータを書き込むのは手間と時間がかかる。紙であれば、ソーター付きの高速機にかければ、アッという間に数十人分のコピーができあがるし、大型機ならホチキス止めさえ自動でやってくれる。 しかし、ファイル形式での配布となると、CD-Rにせよフラッシュメディアにしても、簡単に大量のコピーを一度に作ることができない。大規模なイベントであれば、事前に業者に出して、CDやDVDをプレスすることもできるだろうが、数10人規模のイベントでは、それもなかなか難しい。資料の制作やチェックが、発表のギリギリまで行なわれることが珍しくないことを考えると、紙のコピーを配布するのが、一番現実的なソリューションということになる。 将来的には、無線ネットワークを使って、ファイルを一斉配布みたいな時代もくるかもしれないが、当面、資料配付の主流は紙媒体のままだろう。IT業界でこうだから、おそらくほかの業界でも事情が大きく変わるとは思えない。毎月、毎週、あるいは毎日、膨大な数の紙が配られるわけだ。 ●紙資料の電子化が得意な「ScanSnap」 紙の資料は、現場でちょこちょことメモを書き込むにも手軽なのだが、後から検索するのが不便だ。発表の多い週ともなると、1週間で相当の量になる。放っておくと、後から原稿を書く際に、確か資料をもらったハズだがと思いながら、紙の山を前に途方に暮れることになる。せっせと紙の資料をファイルしても、編集部のような組織だと、整理した当人以外にアクセスすることができなかったり、誰かがファイルを持ち出すとそれでアウトになったりもする。 こうした問題を解決する一番良い方法は、やはり電子化してしまうことだ。電子化してサーバーにファイリングしておけば、後から検索することもできるし、複数のユーザーが同時に利用することもできる。もともと、PowerPointで作成されたデータを、一度紙にして、それをもう一度電子化するというのは何とも無駄に思われるが、今のところこれが最も効率的な方法なのである。
紙の資料の電子化で使われるデバイスといえばスキャナが定番だ。特に、配布資料のようなドキュメントのスキャンに使われるスキャナの定番とでも呼ぶべきものが、PFUの「ScanSnap」シリーズである。業務用スキャナのfiシリーズで蓄積されたノウハウをベースに、個人あるいは企業内個人、小規模組織をターゲットに製品化されたScanSnapは、この種のデバイスとしては比較的安価(5万円弱)でありながら、高速な読み取り速度(ノーマル解像度で18ppm、裏表計36ページ)、スキャンボタンを押すだけのワンプッシュスキャンで自動的にPDFファイルにしてくれる簡便性等で高い評価を受けている。特に両面文書のスキャンは、2つのセンサーで表裏を同時にスキャンできる本シリーズが最も得意とするところだ。 さらに標準でADF(Auto Document Feeder:自動給紙機構)を備えているため、1度に50枚の原稿をスキャンすることができる。ADFというと、重送(1度に複数枚の原稿を送ってしまうこと)や紙詰まりといったトラブルを懸念する人もいるかもしれないが、紙をストレートにセンサーに給紙するScanSnapは比較的重送や紙詰まりが起こりにくい。重送が発生した場合も、ほとんどの場合はそれを検知してスキャンを停止させるため、スキャンした後でページ抜けが分かるといったトラブルが発生しにくい。センサー部は大きく開くから、紙詰まりの対処も容易だ。 紙の資料を大量にかつ定期的に受け取る人であれば、このScanSnapの便利さは、一度使えば手放せなくなると断言できるのだが、やはり個人にとってはなかなか敷居が高いらしい。安価なノートPCが5万円台から購入できるご時世、スキャナに対してそれに近い金額を払うのは抵抗があるようだ。 だいたいスキャナといえば、いわゆる複合機等にも採用されているフラットベッド型を思い浮かべる人が多い。フラットベッド型のスタンドアローンモデルであれば、安価なものは1万円台で購入可能だ。フラットベッド型のスキャナ機構を備えた複合機も、最近は1万円を切るものが登場してきている。フラットベッド型は写真等のスキャンにはともかく、複数ページの文書をスキャンするにはあまり適していないのだが、価格的なイメージという点で影響しているのかもしれない。実際、ScanSnapシリーズを量販店でデモすると、多くの人が関心を示すらしいが、価格を聞いて二の足を踏む人が多いのだという。 ●安く、バスパワー動作の「ScanSnap S300」
CEATECでお披露目された新製品、ScanSnap S300は、従来のScanSnapシリーズの長所であるワンプッシュスキャンのコンセプトを継承しながら、低価格化と小型化を図った製品だ。価格はオープンプライスだが、同社オンラインストアでの販売価格は29,800円になっており、3万円を切る価格設定がされている。だいぶ買いやすい価格となった。 サイズ的にS300を一言で表すのは難しいが、おおむね1L入りのペットボトルといったところ。従来のScanSnapも大型ではなかった(設置面積はA4タイプのノートPCより小さい)が、上に物を載せたりすることができない形態のため、ある程度の占有スペースを必要とした。S300は、大幅に小型化を図り、使わない時は容易に片付けておくことができる。重量は1.4kgで、大きさの割にはズッシリとした印象だが、十分持ち運び可能なサイズといえるだろう。
この小型化に合わせて、付属のACアダプタも小型化した。さらに、ACアダプタの代わりにPCのUSBポートから給電すること(信号用のUSBケーブルと合わせて2つのUSBポートから給電)もできるから、外出先に持ち出して、AC電源のないところで文書をスキャンすることも可能だ。この場合、スキャン速度がACアダプタ利用時の半分(150dpiのカラー原稿時、ACアダプタで8ppmがUSBパスパワー時4ppm)になるが、外出先で紙から簡単にPDFを作成できるということは、必要とする人にはかけがえのないものだろう。残念なのは、USBポートからの給電時、一般的なUSBケーブルでなく、本機に付属する専用のUSB給電ケーブルが必要になることだが、電源と信号でそれぞれ独立したコネクタを用いる分かりやすさが優先されたようだ。 PFUではこうしたモバイルユースを意識して、専用のキャリングケースをオプションとして用意している(2,980円)。筆者には、スキャナを持ち出して外出先でスキャンする用事はあまりないが、訪問先でフォームに記入し、それをスキャンして会社へ送り承認を受けるといった使用法は、保険や金融を中心に結構ニーズがあるのではないかと思う。 この小型化により1度にセット可能な原稿が10枚に減ったほか、原稿受けトレイ(スキャンが終了した原稿を受け止めるトレイ)が省略された。外出先で枚数の多いドキュメントをスキャンする可能性は小さい、という判断からかもしれないが、付属のソフトウェア(ScanSnap Manager)の継続読み取り機能を利用することで、複数回のスキャンを1つにまとめることができる。
低価格化をはかった本機で省略されたものの1つは、Adobe Acrobatだ。従来のScanSnapでは、スキャンデータをPDFにするのに、Acrobat Standardを利用していた。S300ではAcrobatではなく、付属のScanSnap ManagerでPDFを生成するように改められた。とはいえ、変換エンジンそのものはAdobe製のものをライセンスの上利用しており、信頼感は高い。外出先で文書をスキャンする必要のあるユーザーはもちろん、これまで価格の点でドキュメントスキャナの導入をためらっていたユーザー、設置場所の点で断念していたユーザーはチェックしてみると良いだろう。 □PFUのホームページ (2007年10月19日) [Reported by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
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