2007年7月の新年度から、マイクロソフト日本法人には久しぶりにコンシューマ事業担当役員が誕生した。
これまで中小企業市場を担当してきた眞柄泰利執行役専務が、執行役専務 デジタルライフスタイル推進・OEM担当となった。このデジタルライフスタイル推進という職責は、PCを含め個人がデジタルを活用することでライフスタイルを活性化していくという狙いで作られたもの。 7月以降のマイクロソフト日本法人は、ダレン・ヒューストン社長の下に、エンタープライズ事業を担当する樋口泰行 代表執行役 兼COO兼 ゼネラルビジネス担当、コンシューマ市場を担当する真柄執行役専務がつく形態となったのだ。 実はこの「デジタルライフスタイル推進」といった組織は他の国にも無い、日本に新たに誕生した独自のものとなる。なぜ、世界各国に先駆けこうした組織を作ったのか。その質問に対し、ダレン・ヒューストン社長は、「デジタルライフスタイルに関しては、日本は世界の先端を行っている。日本にあるさまざまなデファクトスタンダードが、数年後に欧米でも利用される可能性は十分にある」と、日本の可能性を評価してのことだと強調する。 マイクロソフトはコンシューマ市場とどう向き合おうとしているのか? そしてそれによってコンシューマ市場をどう変えていこうとしているのか? ●「ビル・ゲイツは熱狂的なPCファンが日本市場拡大の鍵だと認識している」 マイクロソフトの眞柄執行役専務がコンシューマ担当となることを耳にしたのは、6月末のことだった。「久方ぶりにコンシューマ市場に戻ります!」--ここ数年、眞柄執行役専務といえば中小企業市場担当というイメージが強かったものの、実は眞柄執行役専務は中小企業市場を担当する以前はコンシューマ市場を担当していた。 例えば、Microsoft Wordがジャストシステムの一太郎に遅れをとっていた時代に、「打倒一太郎」という目標を掲げ、Wordのシェアアップのための営業を担当していたのも眞柄執行役専務であった。PC市場が拡大していった時代のことである。 ところが久しぶりに担当するコンシューマ市場は以前と大きく変わってしまっていたようだ。9月に会った時に、眞柄執行役専務は、「市場全体に活気がない。マイクロソフト自身もコンシューマ市場で元気がなくなっている」と顔を曇らせた。
こうした眞柄執行役専務の見方をダレン・ヒューストン社長はどう考えているのだろうか? 10月5日、「CEATEC JAPAN 2007」のマイクロソフトブースにおいて、ヒューストン社長自身にその点を確認してみた。 まず、「コンシューマ市場で元気がないマイクロソフト」ということをどう考えているのだろう。 「マイクロソフトはコンシューマの方を決して忘れたことはありません。そもそもマイクロソフトとは、コンシューマブランドとして起ち上がったベンダーです。Windows Vistaにおいても、コンシューマユーザーの皆さんの満足度をあげるという目標をかかげていた。ただし、ここ数年、エンタープライズユースにおける信頼度向上をアピールすることに、注力していたことは間違いない。その結果として、コンシューマ市場向けアピールが少ないという印象を与えてしまったのかもしれない」 ヒューストン社長のこの発言の背景には、日本はコンシューマ市場においてはPCの普及率が高いものの、企業市場においては欧米に比べるとPC、特にサーバー製品の普及率が決して高くはないという事実をあげることができる。 企業市場に対しては、汎用機やUNIXに比べると信頼性が低いとされてきたWindowsの信頼性をあげることと、もっとITを活用することで企業の業務効率はさらにあがっていくという事実をアピールすることに、ここ数年、マイクロソフトは注力してきた。 それに対して、たくさんのユーザー層を持つコンシューマ市場については、あらためて大きくアピールしなくても大丈夫と思われていたようだ。 ただ、ヒューストン社長は、「日本にはPCの歴史の初期段階から、“パソコンマニア”の人達が多数存在していることは、マイクロソフトは大変よく認識している。ビル・ゲイツ自身が、『日本におけるデジタルライフスタイルを推進していくのは、そういう熱狂的なPCファンの人達であることを決して忘れてはいけない!』と口にしている」とマイクロソフトという企業が、コンシューマユーザーの存在を蔑ろにしているわけではないと強調する。 マイクロソフトが日本のPCユーザーの『熱い思い』を痛感したのは、例えば9月30日の深夜0時に発売された「Windows Home Server」の深夜発売の場面。日本では正式なサポートがない英語版発売だったにもかかわらず、マニアの町・秋葉原では深夜発売イベントが開催された。「あの時に集まっていただいた皆さんには本当に感謝したい」とヒューストン社長も話す。 こうした熱いファンの期待を裏切らないためにも、「マイクロソフトに期待して欲しい」とヒューストン社長は力を込める。 ●日本のメーカー&コンテンツ事業者との良好な関係を築きたい では、マイクロソフトが日本のコンシューマ市場を強化していくことで、何を実現しようとしているのだろう? 「日本市場には、世界の他の国にはない可能性があると思っています。日本におけるデジタルライフスタイルは大変進んでいます。我々がデジタルライフスタイルに積極的に関与していくことで、それを世界に波及させていくことも不可能ではないと思っています。日本に存在するさまざまなスタンダードが、数年後にはアメリカやヨーロッパで活用されていくようなものになっていく可能性は十分にある」 これは企業のPC利用とは全く違う形態の、デジタル家電製品やコンテンツと連動した新しいIT活用--「デジタルライフスタイル」発祥の地が日本となる可能性を見越してのことのようだ。
10月2日には、CEATEC JAPAN 2007の基調講演を、眞柄執行役専務が行なった。実はマイクロソフトがCEATECに出展するのは今回が初めて。 シャープ、松下電器産業、日立製作所、東芝など日本の家電メーカーが新技術発表の場として活用するCEATECだけに、アメリカが本社のマイクロソフトはこれまでは出展を控えてきた。しかし、日本市場で家電メーカーとの協力関係を築いていくという意思表示を行なうために、出展を決意したようだ。 この時の基調講演では、コンテンツやデジタル家電製品メーカーと「Windows Digital Lifestyle Consortium (ウィンドウズ デジタルライフスタイル コンソーシアム)」を設立し、マーケティング活動を共同で展開していくことがアピールされた。 こうした日本でのコンソーシアムについてヒューストン社長は、「日本のIT企業は、日本のみならず世界的に見て重要な企業ばかり。アメリカで特許を申請する企業の上位10社中、5社が日本の企業で、そのいずれもIT企業だと聞いています。マイクロソフトが日本のITベンダーとのパートナーシップを強化することは、世界的に見ても大きなプラスとなる。それはコンテンツ業界においても同様」とヒューストン社長は強調する。 こうしたパートナーとの良好な関係を作っていくためには、「オフィスの席に座り込んでパートナー様と話し合うことはほとんどしない! というような状況であったとしたら、日本のみならず、全世界的なビジネスチャンスを失うことになる。そういった事態に陥らないよう、パートナー様と積極的に関わりを持って行くことが、眞柄の役割であり、その上流工程の関係を作っていくのが堺(堺和夫 執行役)の役割」とこれまで以上に日本での活動を活発化させていく必要があるという。
●建設的な意見なら辛口もOK! インタビューの最後、ヒューストン社長にあらためて日本のPCユーザーに向けたメッセージをもらった。 「これまでお話しした通り、日本発のデジタルライフスタイルを作るのは日本のメーカー、コンテンツ事業者、そしてユーザーの皆さんだと思っている。ユーザーの皆さんには、マイクロソフトの施策や製品について、どんどんフィードバックをもらいたい!」 この答えを聞いて、「でも、日本のPCマニアは、結構、辛口だが・・・」というとヒューストン社長は満面の笑みを浮かべてこう答えた。 「建設的な意見なら、辛口もOK! マイクロソフトというのは、日本人とよく似たところがあって、自己批判的な企業だから、建設的な意見であれば、それも十分に受け入れる」 現在、42歳のヒューストン社長が最初に買ったPCは、タンディのもので、記憶媒体はカセットテープだったそうだ。そう、案外ヒューストン社長自身がPCマニアなのである。日本のPCマニアの声も十分に通る可能性はあると感じたが、果たして・・・? □マイクロソフトのホームページ (2007年10月9日) [Reported by 三浦優子]
【PC Watchホームページ】
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