山田祥平のRe:config.sys【IDF特別編】

テクノロジの向こう側




 技術的には明日からでもできそうなことが、他の理由のために実現不可能になっているという理不尽な状況は少なくない。インターネットがインターナショナルになりにくい根本的な原因もここにある。

●コンシューマー・エンタテイメント・デバイスのIA化

 今回のIDFでは、Intelのデジタルホーム戦略に関するアナウンスが、ほぼスッポリと抜け落ちていた。たぶん、CESにその内容をとっておこうというもくろみなのだろうけれど、それにしたって、一時よりは、トーンダウンしていることは否めない。

 上級副社長兼デジタルホーム事業本部 本部長のエリック・キム氏による基調講演こそなかったが、ご本人の特別な要望で日本人プレスが集まり、ラウンドテーブルが行なわれたが、そこでも、そうホットな話題は出なかった。レポートにもあるように、新しい家電向けのプロセッサであるCanmoreについて多少触れられた程度である。

 Canmoreについては、想像をふくらませれば、いわゆるコンシューマー・エンタテイメント・デバイス(もはや、CEの頭文字はこちらの方がふさわしそうだ)用のプロセッサとして、いろいろな実装シーンが思いつく。

 ポール・オッテリーニ氏は、その基調講演で、これからのCEは、よりコンピュータ的になると予言、アナログから、デジタルへ、そしてインターネットへと遷移していくなかで、開発周期は異なるものの、より、ソフトウェアが貢献するようになり、大きな役割を担うようになるといっている。そして、CE機でさえも、今後のインターネットの変化に、迅速に対応しなければならず、その競争状況には明らかな変化が現れるだろうとしている。

 Intelとしては、そこに対応するために、System on a Chipとして高性能でローパワーのプロセッサを投入し、この分野に大きく投資しようとしている。

 となれば、次期iPod Tochには、この類のプロセッサが搭載されるんじゃないのかとか、もしかしたらLeopard搭載新Macのラインアップに、ピュアタブレットが登場して、iPod TouchとMacの隙間を埋めるんじゃないかとか、いろいろな想像がふくらむ。今、AppleがやろうとしているGUIの変革は、20年近く変わっていないコンピュータと人間との関係に、ちょっとしたメスを入れようというもので、とても興味深く、その兆しが、製品のそこかしこに見え隠れしている。それをIntelが強力にバックアップしない方がおかしい。

 上席副社長兼モビリティー事業本部長のアナンド・チャンドラシーカ氏もまた、その基調講演で、インターネットアクセスができる端末は、実はインターネットアクセスに使われていないことを指摘、その理由として、ソフトウェアのコンパチビリティがないことを挙げる。例としてFlashのバージョンを掲げ、最新バージョンのサポートはPCとモバイル端末とで2年の違いがあるとする。2年という歳月は決して短いものではなく、その証拠に、YouTubeは、たった1年でブレイクしたことに言及する。

 こうして、Intelの思惑通り、デバイスに関しては着々と準備は進行中である。これらのデバイスが勢揃いした時点で、本当に世の中は、大きな変革のときを迎えるのだろうか。

●理不尽な放送電波の再送信

 ぼくが暮らし、仕事をしているマンションには、数年前にケーブルTVが導入された。それまでは屋上の共聴アンテナで東京タワーからの電波を受信し、各戸はその電波で放送を楽しんでいた。

 ケーブルTV業者が入ったことで、屋上のアンテナからの電波配信は廃止となり、各戸のアンテナ端子には、ケーブルTV事業者の信号線が配信されるようになった。パススルーなので、今までとは特に使い勝手は変わらず、事業者と契約しないでも、今まで通りにTVは楽しめる。だが、アナログTVで見る限り、明らかに今までよりも画質は落ちた。というのも、ケーブル事業者は、都心にあるアンテナ施設で東京タワーからの電波を受信し、それを再送信しているため、分岐とブーストを繰り返すなかで、損失や劣化が起こっているからだ。

 どうして、こんなにめんどうなことをするかというと、放送事業者はケーブル事業者に電波を介さずにコンテンツを提供してはいけないからだ。ケーブル事業者もまた、おおむね大きく画質を損なうことなく、電波の再送信だけができることになっている。放送である以上、必ず電波を介さなければならないわけだ。

 普通に考えれば、放送事業者とケーブル事業者が契約し、電波になる前の信号を分けてもらい、それをケーブルTV事業者が配信すればよさそうなものだが、それができない。だから、ケーブルTVなのに、ちゃんとゴーストまである。受信した電波の再送信なのだから当たり前だ。地上波デジタル放送では、そこまでの劣化はないようだが、どうにも理不尽に感じる。仕方がないので、うちの録画環境には、画質の劣化を最小限に抑えるために、ヨドバシカメラで買ってきた1,000円程度の室内アンテナをつないである。ケーブルTVの電波よりも、そちらの方が明らかに画質がよく、ゴーストも少ないからだ。

 配信技術はとうの昔に確立され、知財関連のプロテクトも技術的に可能になっている。そして、デバイスも各種のものが揃いつつある。でも、なんだかわけのわからないことになっている。放送事業者に今以上の力を持たせないためには、どうしても必要になるであろう法規制ではあるが、それが暮らしの便利を邪魔することもあるわけだ。

●待ち受けViiv

 Viivのようなソリューションは、こうした理不尽な状況を打破するのだろうと思っていた。でも、強力なコンテンツ供給源としての地上波放送事業者に課せられた法律的な制限が重くのしかかり、IPブロードキャストのために、優れたコンテンツが揃うのには、まだ時間がかかりそうだ。この問題は、特に日本で顕著である。

 この点に関して、先のラウンドテーブルでエリック・キム氏に質問してみた。キム氏は、IPブロードキャストによるコンテンツ供給は、放送ビジネスでなく、ビデオパッケージのビジネスモデルとして考えたらどうだろうと答えてくれた。

 放送と通信の融合を考えたときに、法律的な問題がたちはだかることは多いが、ビデオパッケージビジネスとしてリビルドしてみれば、多くのハードルは、相当低いものになる。10年ほど前に、きっと10年後にはレンタルビデオショップはなくなっているだろうと自分自身で予想していながら、そういう発想で考えていなかったことに気がついた。

 ぼくは、映画は映画館で観るようにしているが、TV番組は、放送でありながら、それを録画したものを見るのがほとんどで、リアルタイムでTVを見ることはほとんどない。世の中には、家にいるときには、TVがついていないと落ち着かないという方も少なくないようだが、ぼくは、放っておけば、リビングルームのTVを1週間つけないようなこともある。見たい番組をバラで視聴でき、広告モデルとペイパーモデルの両方を選択できるようになれば、それで十分と考えるかもしれない。

 今、レンタルビデオショップに行けば、クールが終了した人気TVドラマの多くは、パッケージで借りられるし、日本発のコンテンツだけではなく、海外ドラマも充実している。でもまだ、オンデマンドの動画配信サービスでは、そこまでコンテンツが充実していない。一回見ればそれで十分というコンテンツは、地上波デジタル放送の不便さをガマンし、個人ユーザーに膨大なストレージ容量やバックアップの手間を要求するよりも、そちらが主流になりそうな気がするのだがどうだろう。そして、そうしたコンテンツが揃ったときにこそ、Viivのようなプラットフォームが有効に機能するようになる。そういう意味では今、Viivは待ちの状態だといえるのかもしれない。

□関連記事
【9月21日】【笠原】ViivからCanmoreへと主力製品を切り替えるIntelのデジタルホーム事業
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0921/ubiq197.htm

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(2007年9月25日)

[Reported by 山田祥平]


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