昨今、新しいカテゴリとして定着して定着してきているノート型のゲーミングPC。背景としてプロセッサの電力あたりパフォーマンスが向上し、デスクトップPC並のプロセッサをノート型にも搭載可能になってきていること、プロセッサベンダーも(従来の概念よりは遙かに大きい)ゲーミングノートPC向けプロセッサをラインナップしていること、それに比較的大型の液晶パネルを搭載しやすくなっていることなどが挙げられる。 しかし、プロセッサの消費電力は比較的低水準に推移しているものの、GPUに関してはゲーム用という製品の性格上、消費電力の高いチップを搭載せざるを得ない。ディスプレイサイズは20~17型と大型高解像度のものが主流で、それに見合うだけの高性能GPUをいかにノートPCのフォームファクタに詰め込むかが、開発のテーマとなっているようだ。 こうした背景の中、かつてモバイルPentium 4時代にノートPCの水冷化を果たした日立製作所が、水冷ノートPCを開発するためのコンポーネント技術を開発。PCベンダー向けにノートPC向け水冷コンポーネントの提供と技術サポートを提供していくという。 ノートPC向けハードウェアプラットフォーム技術と組み合わせたソリューション提供を行なうことで、大型ディスプレイ搭載のハイエンドゲーミングノートPCを起点に、ノートPCへの水冷技術の普及を狙う。 ●複数熱源合計で200Wの冷却を求めるPCベンダー この連載では主に携帯型のノートPCや関連情報を扱ってきており、今回のテーマであるゲーミングノートPCは、ある意味、もっとも縁遠いカテゴリの製品である。 しかし、日本ではさほど高い人気を得ているわけではないが、デスクトップPC並のパフォーマンスをノートPCという、もっともシンプルなフォームファクタで得ようというゲーミングノートPCは、北米において一定の成功を収めつつあるようだ。 こうしたハイエンドコンシューマ向けに、モバイル仕様のCore 2 Extremeがラインナップされているのも、そうしたニーズがあることを示している。そもそも、ニーズが無ければ、そこにラインナップは存在しない。 日本では、PCゲームというカテゴリそものもがさほど大きくないという違いはあるが、デスクトップリプレースメントのニーズは大きい。日本の消費者は、たとえデスクトップの置き換えであっても手頃なサイズであることを求める傾向が強いが、一方でデスクトップ一体型の将来的な姿として、現在のゲーミングノートPCのような製品が一般化する可能性はあるだろう。北米を中心にゲーミングノートPCの人気が高まれば、同じ筐体設計を用いて、日本では異なる商品展開を行なうことで、この分野の製品が増えていくことが考えられるからだ。 しかしパワーマネージメント技術や電力あたりパフォーマンスの向上により、高性能プロセッサをノートPC筐体に収めやすくなったとはいえ、現在のゲーミングノートPCはさらに高性能化を果たしていく上での問題が出てきているという。冒頭でも述べたように、GPUの消費電力が上がってきているからだ。 もちろん、パフォーマンスの違いによって異なる消費電力のパッケージをGPUベンダーは用意しているが、GPUの消費電力を上げなければ、特にグラフィックスのハイパフォーマンスを求めるコンシューマにはアピールできない。パフォーマンスでの競争をメーカー間で行なっている中で、どんどん高い消費電力のGPUへと搭載チップの中心がずれてきているという。 その結果、ゲーミングノートPCはCPUとGPUを合わせて200Wあるいはそれ以上の熱源を冷却しなければ、差別化をしにくくなっている。ゲーミングノートPCが大型液晶パネルを搭載した、サイズの小ささに拘らない製品とはいえ、あまりに無骨で分厚いデザインでは興味を引けない。また冷却能力は騒音とのトレードオフとなるため、200W以上の冷却を行ないながら、デザイン性をあまり犠牲にせず、さらに快適性の面でも興味を引ける製品に仕上げていかなければ競争力を高めることができない。 そうしたPCベンダーの声に応じて開発したのが、日立の新しい水冷コンポーネントだ。日立はこれまでもPCベンダー向けにデスクトップ型の水冷システムを開発。先日発売された、NECの水冷型PC「VALUESTAR W」にも最新型水冷コンポーネントがNECとの共同開発という形で採用されている。また、かつて世界初の水冷式ノートPCを自社製品として発売した実績もある。 ●モジュール標準化を進め、パフォーマンスレベルごとに異なるソリューションを提供 日立のノートPC向け水冷モジュールは、マイクロチャネルと呼ばれる極狭水路を持つ銅製ヒートシンクと新開発の薄型高信頼性ポンプ、それにアルミ製ラジエータで構成される。 写真でもわかるとおり、試作用に用意されているアルミ製ラジエータは薄型(試作品では14mm)のもので、これに低騒音のシロッコファンが直結されている。搭載に必要な面積は大きくなるが、大型液晶パネル搭載機を前提にしたデザインを行なった結果だ。ファン2個のラジエータと3個のラジエータがあるが、この組み合わせはベンダーがシステムに合わせて選択できる。 ファン1個分あたりの放熱量は50W程度とのことだが、最終的なコンポーネントの定格としては、2ファンラジエータで90W、3ファンラジエータで130Wの冷却に対応。もちろん、水冷システムにおいても騒音レベルと放熱量はトレードオフの関係にあるため、3ファンラジエータ×2(最大260W対応)で200Wのシステムを冷やすといった使い方をすることで、騒音と放熱量のバランスを取ることになる。 ラジエータ部は、今後、PCベンダーと協議を行ないながら最終的にどのようなサイズ、構成のコンポーネントがベストなのかを決めていくが、いくつかの標準コンポーネントを用意し、これらをつなげることで多様な要求に応じることが可能なシステム化が最終目標だ。
●冷却プレート一体型ポンプの高性能がシステムの核 複数の熱源、複数のラジエータによる組み合わせに対応できる柔軟性の高い冷却ソリューションを提供できる点が、今回の水冷システムのおもしろいところだが、その背景にあるのが新型のマイクロポンプだ。新型ポンプは非常に小型な上、性能面で非常に優れたものになっており、超薄型/小型のため冷却プレートと一体化できる。 日立によると「新型マイクロポンプの構造は現時点ではまだ公にできないが、高さがわずか8.3mmmで、従来のピストン型ポンプに比べ最大流量、最大圧力ともに圧倒的に高い。複数のヒートシンク、複数のラジエータを直列につないだ場合、圧力損失が大きくなるが、新型ポンプならば余裕で対応できる」という。 なお、このマイクロポンプ単体は日立で研究開発したものを、国内のパートナー企業に技術供与しているもので、今年(2007年)のCEATECで展示を行なう予定だ。 「あるPCベンダーの要求で、1インチ以下の薄型ノートPCに水冷システムを搭載するポンプとして開発した」ものだが、加えて薄型故の冷却プレート一体型構造マイクロポンプも実現した。ポンプの下面を銅製マイクロチャネル冷却プレートとし、ポンプの作る水流が直接マイクロチャネル部に当たってから、水路へと流れていく構造。ポンプと冷却プレートを合わせても、高さは11mmに抑えられる。マイクロチャネル部分も、NECVALUESTAR Wに採用されたものに比べ、フィンピッチが狭く、またプレート内にチャネルが埋まった構造のものに変更されている。チャネルのピッチは0.09mm。
ここまでの写真で紹介している試作コンポーネントは、すべて冷却プレートとマイクロポンプの一体型で、チップ冷却用モジュールに見える部分がポンプ。こうすることで実装面積を節約し、ラジエータの形状と冷却ファンの構造を工夫することで、もっと一般的なノートPCの静音化、高性能化を行なうツールとしても使えるようになりそうだ。 ちなみに気になる騒音レベルだが、同程度の冷却能力で比較した場合、空冷時に比べ1/3~1/4になるという。水冷式ではラジエータからの冷えた水流を、直接、熱い部分に当ててることができるため、空冷に比べてピンポイントの熱源を効率よく冷やせるからだ。 水冷システムはNECでのコンシューマPCへの採用事例以外にも、日本ヒューレット・パッカード製ワークステーションの動作音を大幅に下げたことで評価が高まった事例など、実際の製品レベルでさまざまな効果が生まれてきたことで、単に注目されるためのキワモノ技術というよりも、実際の製品力を高めるツールとして認知され始めている。まずは今年年末から来年にかけて、大型ディスプレイ搭載ゲーミングノートPCに水冷型が登場するのは間違いなさそうだ。
□日立製作所のホームページ (2007年9月19日) [Text by 本田雅一]
【PC Watchホームページ】
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