●地方支店の役割 7月3日、Microsoftは、今年に入って3カ所目となる地方支店として、香川県高松市に四国支店を開設、その活動を開始した。600平米にも及ぶ広いオフィススペースに並ぶデスクのほとんどは空席で、支店長以下わずか4名でのスタートとなるという。都市部の支店が営業拠点としての意味合いが強いのに対して、こうした地域での支店は、多少、それが担う役割が異なるのだという。その役割とは何なのか。Microsoftは、いったいどのようなもくろみをもって、地方と対峙しているのだろう。 四国支店開設のその日、高松市内のホテルで開かれた開設記念パーティの様子をのぞいた。地方とはいえIT業界のパーティである。当地で活躍するベンチャー企業の若手社長などとたくさん会えるのかなと思っていた。ところが、会場を見てびっくりだ。ダークスーツに身を包んだ人たちがほとんどで、年齢層も高く、しかも女性率が異様に低い。大きく掲げられた横幕を見なければ、会場を間違えたのかと思うくらいだ。 パーティの参加者には、県関係者、商工会議所関係者といった面々が目立つ。高松市は四国の玄関口として機能する都市だ。商業都市としては松山市の方が活性化されているが、国の出先機関などは高松に集中、四国の中枢として位置づけることができる。 支店の開設に合わせ、冒頭にあげた「チャレンジ号」が高松市を訪問し、高松商工会議所において「かがわIT経営応援隊IT経営キャラバン隊in高松」を開催した。主催はかがわIT経営応援隊、四国IT経営応援隊、IT経営キャラバン隊、四国経済産業局、高松商工会議所で、香川県とNPO法人ITコーディネータ協会が後援する啓蒙セミナーだ。そこで見かけた聴衆にも、やはり前夜のパーティと同様の雰囲気を感じた。 「マイクロソフト号」と「チャレンジ号」は、ほとんど同じものだが、前者がマイクロソフト製品を使ったソリューションの啓蒙を主目的にしたマーケティングのためのバスであるのに対して、後者はマイクロソフトにより提供され、マイクロソフト自身も発起人として名前を連ねているものの、組織としては12の企業や団体が発起した任意団体のバスである。そして、その目的は、社会貢献活動として、各地の商工団体、教育機関、地方公共団体、業界団体と連携しながら、企業、学生、社会人、フリーターなどを対象にしたイベントを日本各地で展開することにある。 この日、イベントが開催された商工会議所前に駐められたキャラバン号の運転席をのぞきこみ、走行計を確認したところ約2万キロを走っていた。約半年間の走行距離である。 ●国の想いを民間が引き継ぐ ITは地方、都市といった地域格差とは無縁だと思いがちだ。今や、ブロードバンドは日本全国津々浦々に行き渡り、今日、アマゾンで注文した書籍は、明日か明後日には宅配便で配達される。テレビの全国ネットは同時に同じ番組を映し出し、全国紙だって毎日配達される。 もちろん都会には刺激があふれている。ビジネスマンの1日は通勤電車で揺られながら眺める車内吊り広告から始まり、駅構内で見かける大ポスター、商店街では目を見張るショーウィンドウのディスプレイ、夜には夜で、繁華街は不夜城のごとくだ。 でも、ITに関する情報の点で、地域格差は生まれにくいはずだ。マイクロソフトのソリューションに関する情報にしても、ウェブでほとんどのものが手にはいるし、TecNetやMSDNなどの会員制サイトもある。年に1度あるかないかのイベントをのぞけば、地方にいようが東京にいようが、本当に同じ情報が手に入る。 でも、実際には、地方では、東京エリアと同様な起業家がなかなか生まれないという。今回、少し話を聞くことができた香川県商工労働部産業政策課課長の泉川雅俊氏も「高松でがんばっている若いベンチャー企業は今のところ思い当たらない」とつれない答えを返す。 チャレンジ号はITコーディネータによる中小企業へのIT実現伝授を看板に、IT以前のレベルの層に対するコンテンツを持って全国を行脚している。また、ITを活用する側の意識を高めるためのモラル教育の役割も担っている。ほとんどの場合はリクエストベースによる訪問で、呼ぶ側は、商工会議所に代表される各地の任意団体だ。 マイクロソフトでIT経営キャラバン隊を担当する白水公康氏は、「キャラバン隊の活動は12の企業/団体の総意であり、経済産業省、総務省、国土交通省の支援により、国の方針に基づいた活動としての意味合いも強いです。実は、国というのはけっこう進んだ考え方をしているんですよ。国の事業というのは、一度やってしまうと、同じ事はできません。だからこそ、国はキックすることで民間が気がついてくれることを待っているんです。われわれがやっていることは、国の想いを民間が引き継ぐことを初めてできたチャレンジなのではいでしょうか」という。 ●なぜ地方なのか 地方にITベンチャーが育たない要因のひとつとして、大手SIerが地方に手を出し始めていることがあるという。彼らは地方の中堅企業から受注だけしておき、実際の仕事は中国に出してしまうため、結果として地方の中小の事業者には仕事がいかない。その循環を変えることも、キャラバンの大きな目的だ。「情報はたくさんあるのに地方には届いていないんです。でも、われわれが行脚することは、彼らにとって非日常がやってくることでもあるんですね。その効果が高いんです」と白水氏。 たった1日のイベントが大きな効果を生むわけではないことは誰にだってわかる。だが、そのイベントのために、現地との間で何度も会合がもたれ、その地域における地場のITをどのようにしていくかを話すミーティングが開かれる。そして、そこに地場のベンダーが参加することでネットワークが広がっていく。 白水氏はこうもコメントする。「RFP(提案依頼書)さえきちんと読めないベンダーも多いんです。読めないけれども、自社のソリューションで強引に作ってしまう。それでは改革は望めません。だから、RFPをちゃんと読めるベンダーの育成から始める必要があります。ミーティングの中で優秀なITコーディネータが見つかったりもするんですよ。たかだか数日で終わるイベントよりも、そちらの方が価値があるようにも感じています」 キャラバンは、現地を訪れた証にと、その会場にフリースポットを残すようにしているという。特に、学校に残すようにしたいと考えているらしい。というのも、災害時などに避難所となる可能性が高い学校という場所にフリースポットがあれば、社会的にも大きな貢献ができるだろうからだ。ただし、残すのは機材のみで、回線の維持などに関しては、先方が負担しなければならない。そのため、フリースポットの設置を断わられるケースも少なくないのが残念だそうだ。 地方のIT事情を垣間見て、もしかしたら、東京という大都市にいるはずのぼく自身も、アメリカという国に対して同じような立場にあるのかもしれないと気がついた。アメリカで開催されるIT関連イベントにはせっせと出かけてはいるし、それなりに英語のサイトも読む。本来なら、在米ジャーナリストと得られる情報は変わらないはずだけれども、そこにはおそらく大きな隔たりがある。言葉の壁という具体的なハードルを差し引いて考えたとしてもそうだ。 手が届くのに掴めない。ITは、そこをどう解決に導いていくのだろうか。テクノロジーというよりも、本当は、意識の改革が必要なのかもしれない。それをマイクロソフトが旗を振ってやっていることがすごい。それが、たぶん、現社長ダレン・ヒューストン氏が率先して展開する施策の原点である「Plan-J」の凄みだ。
□マイクロソフト全国IT実践キャラバン
(2007年7月6日)
[Reported by 山田祥平]
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