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AMDの次世代GPUは55nmプロセスがターゲット




●AMD合併の影響を受けるR700/R800アーキテクチャ

 AMDの「Radeon HD 2000(R6xx)」ファミリは、旧ATI TechnologiesがAMDに買収される前にほぼ設計を完了していた。言ってみれば、純ATIの最後の世代のGPUだ。それに対して、今後投入されるGPUアーキテクチャ「R700」と「R800」は、AMDとの合併時にはまだ設計中か上流設計段階だった。そのため、R700とR800は、AMDの設計思想の影響を受けると推測される。R700とR800は、果たしてどのようなアプローチを取るのだろう。

 1つ明確なことは、AMDがハイエンドGPUビジネスを含めた、GPUビジネスを継続することだ。

 「AMDとATIが統合された新AMDでも、我々はハイパフォーマンスのディスクリートグラフィックスへの需要は継続すると考えている。ハイパフォーマンスのディスクリートGPUラインがなくなることはないだろう」とAMDのPhil Hester(フィル・へスター)氏(Senior Vice President & Chief Technology Officer(CTO))は語る。AMDは、R700とR800は継続して開発しており、今後1年サイクルでこれら新マイクロアーキテクチャのGPU群が登場すると予想されている。

 しかし、これまでと全く同様にハイエンドGPUの肥大化が続くことはない。過去7年間続いてきた、ハイエンドGPUの肥大化には、ついに歯止めがかかる見込みだ。そのため、AMDのGPUアーキテクチャは、かなり根源的な変化を始めると予想される。

●プロセス技術とAPIの鼓動に乗って進化するGPU

David(Dave) E. Orton(デイブ・オートン)氏

 GPUの発展は、「心臓の鼓動」に似ていると語るのはAMDのグラフィックス部門を統括するDavid(Dave) E. Orton(デイブ・オートン)氏(Executive Vice President, Visual and Media Businesses, AMD)。一定の周期で、進化を続けているからだ。

 「グラフィックスの発展を、マクロレベルで見てみよう。まず、シリコンノードは2年毎に変わり、その間にハーフノードが挟まる。ハーフノードを含めると1年サイクルで代わる。これがプロセスレベルの鼓動だ。現在は65nmプロセスだが、次は55nmプロセスが来て、その先に45nmがある。

 次がAPIレベルで、過去にはこれも1年毎に代わっていた。これらが鼓動のように、グラフィックスの発展をドライブしている」(Orton氏)

 下の図は、Orton氏が描いた図を整理したものだ。APIはDirectX 9まではほぼ1年サイクルでAPIが革新されていた。APIが発展するとGPUに実装しなければならないフィーチャ(仕様)が増える。しかし、半導体のプロセス技術が微細化すると、GPUチップにより多くの機能を実装できるようになる。

GPUの世代交代のパターン
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 このように、APIとプロセス技術が両輪となって、GPUの機能を急速にリッチにしてきた。APIの拡張はDirectX 9以降はスローダウンしたが、中間世代的な発展が挟まれているため、現在も約2年サイクルで革新が続いている。API側のこのサイクルは、今後も続くと予想される。

 「APIについては、我々とNVIDIAが協力して策定している。どちらも、APIが継続して進化することを望んでいるからだ。グラフィックス業界にとって最悪なことは、APIの進化が止まってしまうことだ。APIを通じて、次世代のグラフィックスアーキテクチャのソフトウェアが定義される。そのため、APIの革新がストップしたら、グラフィックスハード自体の革新が凍結されてしまう。だから、我々は、懸命になってAPIの進歩を推進している」(Orton氏)

 現在のGPUは、グラフィックスAPI上では定義されていない、ストリームコンピューティングのための機能拡張も加え始めている。その意味では、グラフィックスAPIだけが、GPUアーキテクチャを引っ張る要素ではなくなりつつある。しかし、AMDは、グラフィックスAPIが、今後も継続してGPUアーキテクチャのメインの牽引車になるという見方を崩してはいない。

●GPUの世代交代のパターンは今後も続く

 プロセス技術とAPIの鼓動の上に、さらにGPUマイクロアーキテクチャの発展が載る。これも鼓動のように、一定のビートで続く。

 「グラフィックスエンジンのレベルでは、ハイエンド(製品)は6カ月サイクルで革新される。その理由は、市場が6カ月毎に一定レベルの革新を求めているからだ。CPUのように四半期毎に周波数を上げるのではなく、GPUでは6カ月毎に何らかの新機能を加える。ブランドを変え、フィーチャを追加し、周波数を引き上げる。

 もっとも、実際にはアーキテクチャを変えるのは1年サイクル。6カ月サイクルの拡張は、ちょっとエンジンを改良した上で、多くのマーケティングを加えたものだが(笑)」とOrton氏は語る。

 ハイエンドGPUは、通常1年に1つの新マイクロアーキテクチャが投入され、その改良アーキテクチャが半年後に追加される。それによって春と秋のモデルチェンジがなされている。Orton氏は、ハイエンドGPUのこのパターンは、今後も継続されるだろうという。

 「一方、ローエンドGPUでは、半年毎のビートは必要がない。革新は1年に1度でいい。興味深いのはミドルクラスのGPUだ。ミドルも革新は、1年に1度のサイクルだが、パフォーマンスは、6カ月毎に何らか追加が必要となる。

 グラフィックス市場の4層全体を見渡すと、上の2つの市場は、6カ月サイクルで何かを考えなければならない。下の2つの市場は1年サイクルと2つのサイクルに分かれる。我々は、6ヶ月毎に、大波、小波、大波、小波を作るように考えている。そして、このパターン自体は、今後3~4年のうちに大きく変わるとは思っていない」

 GPUビジネスのこうした構造は、NVIDIAもほぼ同じだ。両社とも約1年毎に新アーキテクチャの大波、中間の6カ月で拡張版の小波と、2つの波を重ねて製品をリリースしている。背後にある、プロセス技術とAPIのビートが変わらない限り、このパターンは継続されるというのが、AMDの考え方だ。

●R700は55nm、R800は45nmプロセスがターゲット

 そのため、AMDの今後のGPUのプロセス技術や階層も、ある程度は予測ができる。

 「我々が(GPUロードマップについて)やろうとしていることは、こう考えることができる。65nmは600ファミリだった。700ファミリは55nmあたりとなり、R800ファミリは45nmになるだろう。そして、R600のミッドライフには、まだ顧客にしか明かしていない何かがある(笑)。きっちりした歩調で進んでいる」(Orton氏)

 AMDのR600ファミリは、ハイエンドのR600は80nmプロセスだが、ミッドレンジの「Radeon HD 2600(RV630)」とメインストリーム&バリューの「Radeon HD 2400(RV610)」は65nmプロセスで製造されている。R600アーキテクチャは、プロセス的には65nmをターゲットとしたものだ。同様に、R700系は55nmを、R800系は45nmをターゲットとしているようだ。これは、GPUの発展が、プロセス技術の進歩の鼓動の上に載っているためだ。

 そして、その上で、AMDは各市場セグメント毎に異なるGPUシリコンを投入している。このスタイルも、今後とも変わらない。ただし、実際には市場セグメントは4層なのに、シリコンチップ自体は3種類しかないとOrton氏は指摘する。

 「1種類のGPUシリコンでは、全ての市場の要求を解決はできない。そのため、今日、我々とNVIDIAはどちらも、異なる特徴を持つ3種類のシリコンデバイスを用意している。実際には、おそらく、4種類(のGPUチップ)が必要なのだが、現状では我々は3層しか持っていない。

 4種類というのは、市場の価格ポイントが4層になっているからだ。最下層が(グラフィックス)ボードの市場価格が70ドルのレンジ。その上がボード価格が79以上で149ドルまでのレンジ。さらに上に、ボード価格が150ドルから300ドル以下までのレンジがあり、最上位にウルトラハイエンドがある。我々は、現在、3種類のシリコンでこれらをカバーしている」(Orton氏)

 市場は、極めて低コストなGPUチップが求められるバリュー市場から、価格は高くてもパフォーマンスだけが求められるウルトラハイエンド市場まで大きく広がっている。ところが、AMDとNVIDIA両社のGPUチップ自体は、3種類しかない。3種類のGPUチップで4市場をカバーしている構造だ。

 例えば、現状のATIのラインナップでは、RV630チップがメインストリームからミッドレンジの市場の下半分までをカバーしている。そして、ミッドレンジ市場の上半分は、通常、ハイエンドGPUから派生した機能縮小版が占める。この構造はNVIDIAもほぼ同様だ。

AMD GPUの世代交代推定図
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●GPUのダイサイズにぽっかり空いたミッシングパーツ

 3種類のGPUチップは、それぞれグラフィックスエンジンやメモリインターフェイスの構成が異なり、その結果、ダイサイズ(半導体本体の面積)が大きく異なる。半導体チップのコストを左右する最大の要因はダイサイズだ。AMDは製造コストが大きく異なる3種類のチップを製造している。DirectX 8世代GPUまでは2種類のシリコンだったのが、3種類に増えた。Orton氏は次のように説明する。

 「2000年頃、我々のGPUは2種類のダイ(半導体本体)だった。オリジナルの「Radeon(R100:後にRadeon 7200)」と「Radeon 7000(RV100:最初はRadeon VE)」だ。この時点では、ダイサイズは上のチップ(R100)が10mm角をちょっと出た程度、下のチップ(RV100)が8.7mm角程度だった。それがDirectX 8世代では12mm角になり、Radeon 9700(R300)では14mm角になった。

 ハイエンドのシリコンは段々と大型化し続けてきた。しかし、ローレベルでは依然として小さくとどめる必要がある。現在の製品のダイサイズを見ると、我々はハイエンドに新製品があり、下に2つの新製品がある。しかし、ハイエンドとミッドレンジの間は(ダイサイズが開いてしまったため)ミッシングパートがある。我々は、ここの製品が本当は必要だ」

 旧ATIは、DirectX 9世代からハイエンドにさらに大型のGPUチップを加えた。これによって、GPUのダイは3層の構造となった。このうち、バリューセグメントのGPUは100平方mm程度で推移しており、その上のミッドレンジGPUも140~160平方mmレベルで過去数年は推移している。それに対して、ハイエンドGPUのダイは、200平方mm台から、300平方mm台、ついには現在の400平方mm台へと巨大化していった。そのため、ハイエンドGPUとその下のGPUでは、ダイサイズが3倍も開くという状況になっている。Orton氏が指摘している、ミッシングパーツというのは、そのハイエンドGPUとミッドレンジGPUの間、200平方mm台のダイサイズを指している。

GPU Die Size & Process Technology
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 AMDが、このクラスのGPUをミッシングパーツと呼び、投入の意欲を見せていることの意味は大きい。それは、R700世代以降は、ハイエンドGPUの姿が一変する可能性を示しているからだ。R700世代からのAMDのハイエンドGPUは、200平方mm程度のGPUを複数搭載したマルチチップ構成となる可能性が高い。もしそうなら、GPU間のインターコネクト技術なども新たに開発している可能性がある。

 なぜ、AMDは、再び200平方mm台のGPUに目を向け、マルチチップ構成まで視野に入れ始めたのか。そこには、物理的にそうせざるをえない理由がある。

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【5月15日】【海外】ラディカルなAMDの「Radeon HD 2000」アーキテクチャ
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【2004年8月26日】【海外】GeForce 6600登場で見えてきたGPU業界のトレンド
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(2007年7月5日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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