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VIERAになりたいVistaと、VistaになりたいVIERA




 パナソニックがプラズマTV「ビエラ」(VIERA)の新機種を発表した。今度のビエラのコンセプトは「見るだけのTVから使うTVへ」なのだそうだ。このことは、リビングルームの一等地の争奪戦に、どのような影響を与えるのだろうか。

●TVの高機能化はPC化なのか

 今度のビエラはGUIを持った。といっても、メニュー表示が刷新され、よりビジュアル的になっただけで、できることを並べた「メニュー」という点では従来同様だ。携帯電話に慣れきったユーザー層を考えれば、これはこれで仕方がなかろう。それに、3D表示のようなリッチなGUIは、TVでは荷が重い。

 そして、デジカメやハイビジョンムービーカメラから取り出したSDカードをスロットに装着すると、メニューが表示され、その内容を大画面で楽しめる。スロットはもちろんSDHC対応だ。余談だが、ここで、SDオーディオがサポートされていない時点で、同社のSDオーディオに対する取り組みの勢いが想像できるというものだ。

 さて、Windows PCでは、自動再生機能が用意され、スロットにメモリカードなどを装着し、それを検知すると、メニューが表示され、これからやりたいことを指定できる。たとえば、デジカメから取り出したSDカードなら、撮影済みの画像に対して、取り込みや、Windowsフォトギャラリーやメディアセンターを使った表示、フォルダとして開くといったアクションを指定できる。

 つまり、今回のビエラの刷新は、PCでは当然のようにできていたことが、TVでもできるようになっただけのことだ。今のTVではブラウザでインターネットも楽しめるし、一部の機種では録画もできる。ビエラの場合はビエラリンクでレコーダのディーガ(DIGA)を接続すれば、電源コントロールなどを含めて録画予約や再生などの操作ができるようになっている。接続もHDMIケーブル1本だけですむ。そして、GUIの操作は、らくらくリモコン1つでできるのだ。

●大型化が進む薄型TVのトレンド

 パナソニックによれば、TVの大型化トレンドは進む一方で、50型ワイド超のTVを購入したユーザーの満足度は、それ未満のサイズのTVを購入したユーザーのそれを圧倒的に上回るのだそうだ。リビングルームに大きなディスプレイを設置した結果、ある程度の距離を保っていた家族がリビングに戻ってくるリユニオン現象さえ起こっているという。

 一方、PC用のディスプレイは、今のところ、大きいものでも、たかだか37型ワイド程度。パナソニックにいわせれば、買ってはみたものの、小さくて不満を感じるサイズを超えられていない。もし、PCをTVとしても機能させたいのであれば、もっと大きなディスプレイを用意しなければ満足感を得られないということだ。

 基本的にPCは1人で使うものだ。パーソナルという冠がつく以上、そうでなくてはならない。それに対して、TVは親子や夫婦といった複数人で見ることが想定されている。たとえ、1人で見るにしても、見る人が頻繁に入れ替わる。つまるところは、パーソナライズは向いていないということだ。

 ところが、PCは大勢で使われることまでを視野に入れながら、かつてのTVではできなかったことを付加価値として、いろいろと具現化してきた。音楽再生から始まり、写真の表示、TVやDVDの視聴しかり、録画しかり、さらには、電話の機能まで取り込んでいる。

 そんな状況下で、パナソニックは、見るTVから使うTVへの転身を提唱したわけだ。「使う」というのは「操作」するということであり、ほとんど受け身でよかったTVの視聴に、ユーザーの積極性を要求し、インタラクティブなアクションを求めるということだ。そのアクションの結果、今までのTVでは得られなかった楽しみが得られる。

●PCにつながるTVを考える

 これまでのTVは追われる立場にあった。そして、懸命にTVに追いつこうとしていたPCはTVをほぼキャッチアップした。そこで立場が逆転し、今度は、TVがPCを追いかける番だ。そうはいっても、TVがCore 2 Duoのような高性能プロセッサを搭載し、2GBのメインメモリと1TBのHDDを内蔵、Windows Vistaが稼働し、各種のアプリケーションが動くようになるというのは考えにくい。

 つまり、TVはPCになれないし、ならない。コストの点、想定ユーセージモデルの点、ライフタイムの違いなど、理由はたくさんあるが、PCで扱う情報が、きわめてパーソナルなものが多い以上、背後に誰かの視線を感じながら、そうした情報は扱いたくない。でも、PCがディスプレイ装置としてのTVをうまく活用できるのなら、話は違ってくる。

 これまでのTVはPCがつながることをあまり考えてこなかったけれど、フルハイビジョン化したTVに、積極的にPCをつなぐスタイルが定着すれば、PCのユーセージモデルは大きく変化するだろう。ちょうど、HDDレコーダをTVにつないで使う感覚だ。TV側も、無駄に高機能化する必要もなく、SDカードのコンテンツを再生したり、ネットワーク経由でビデオコンテンツを見られる程度の装備ですむ。

 その一方で、PC側ではTVにつながることを想定した準備が必要だ。HDMI出力の装備はもちろん、たとえば、Windows Media Centerは、マルチディスプレイを想定したGUIを持つべきだろう。ノートPCの画面でコンテンツを選び、TVの大画面をセカンドディスプレイとして使って再生するわけだ。本当は、PCとTVの接続こそワイヤレスになってほしい。セカンダリディスプレイとサウンド出力をストリーム配信して、TVがそれを再生すればできそうなものだがどうだろうか。

 ケーブル接続であっても、現在のMedia Centerは、プライマリディスプレイでしかフルスクリーン表示ができないし、フルスクリーン状態では、その外にマウスポインタを出せず、セカンダリディスプレイが実質的に使えない。ここに手を入れるべきだろう。そうすれば、コンパクトのノートPCが、Media Centerのインテリジェントなリモコンになる。

 無理に使いにくい10フィートGUIで操作しなくても、2フィートGUIでPCのパフォーマンスを生かしたコンテンツ選びができるのだ。シリーズドラマの第2回目を見終わったら「このドラマを見た人は、こんなドラマも見ています」と第3回目を推薦してくれたり、メタデータを参照して、ローカル、インターネットを問わず、今まで見ていたドラマの主役タレントが出演していたり、同じ監督の映画コンテンツを探し出してリストアップするような振る舞いをさせるためには、PCの強力な処理能力が必要だ。というか、すでに、そうなっていないことのほうに、PCの怠惰を感じる。それに、PCだったら、コンテンツが、MPEGだろうがWMAだろうが、QuickTimeだろうが、Flashだろうが、何でもOKなのだからこわいものはない。

 独身ビジネスマンが、自室で翌日のプレゼンに備えてスライドを手直しする場合も、大画面でWebを参照しながら、ノートPCのPowerPointで最終修正を加えるといった使い方もありだろう。事務作業にはマルチディスプレイが便利だ。

 50型ワイド超のディスプレイがすでに部屋にあって、自由にPCをつないで使えることを前提とすれば、PCそのものの専用ディスプレイには、10型程度のスクエア画面で十分だと考えるようになるかもしれない。

 今、デスクトップPCの多くは、ディスプレイ同梱で売られている。特に、量販店舗で売られるPCのほとんどはそうだ。また、ディスプレイ一体型のPCも少なくない。だが、今後は、このトレンドを衰退させるべきだろう。買い換え、買い増しのフェイズに入っていくこれからの時代はなおさらだ。そして、薄型大画面TVの普及にも拍車がかかる。だからこそ、PCベンダーは、家庭には50型ワイド超のディスプレイがすでにあるということを想定した商品構成を考えるべきだ。

 TVはPCになれないし、なるべきでもない。そして、PCはTVになれないし、なるべきでもない。各種のデバイスが自在につながるTVのコネクティビティ、そしてPCのさらなるパーソナル化による、リビングでの共存こそが、今後のテーマだとぼくは思う。

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【4月10日】松下、“ヒューマンビエラ”でTV需要「第5の波」へ(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070410/pana4.htm
【1月12日】【山田】家電にいちばん近いPC
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0112/config141.htm

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(2007年4月13日)

[Reported by 山田祥平]


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