笠原一輝のユビキタス情報局

AMDが今年後半にHT3対応AM2+プラットフォームを導入




 AMDはCeBITで行なわれた記者会見において、ネイティブクアッドコアのデスクトップPC向けのプロセッサがAgena(アジェナ)というコードネームであるということを明らかにしたが、そのAgenaの概要もおぼろげながら、徐々に明らかになってきた。

 OEMメーカー筋の情報によれば、AMDは2007年後半から2008年にかけて新しい2つのデスクトップPC向けプラットフォームを計画しているという。それがAM2+とAM3と呼ばれるHyper Trasport 3.0に対応した新しいプラットフォームで、AgenaはAM2+対応のプラットフォームになるという。

 ここでは、CeBITで明らかになってきたAMDのデスクトップPC向けプラットフォームに関する最新情報をお伝えしよう。

●2007年後半にAM2+を、2008年にはDDR3に対応したAM3プラットフォームを導入へ

 AMDは記者会見の中で次期デスクトップPC向けプロセッサはAgenaという開発コードネームであることを明らかにした。Agenaはサーバー/ワークステーション向けのクアッドコアCPU“Barcelona”(バルセロナ)のデスクトップPC版となる製品だ。

 OEMメーカー筋の情報によれば、AgenaはAMDが2007年後半に立ち上げを予定しているAM2+プラットフォームに対応しているという。AM2+は現在のSocket AM2の物理ソケットはそのままに、CPUとの接続バスをHyper Transport 3.0(以下HT3)に変更したもので、これまでのAM2プラットフォームに比べるとCPUとの帯域幅が広げられているのが特徴となっている。

 現行のAthlon 64 X2などで利用されているHyper Transport 1.0(以下HT1)との下位互換性も実現されており、HT3をサポートしたAM2+プラットフォームでは、既存のAM2用Athlon 64 X2などがそのまま利用できる。

 Agenaには、Quad FX(4x4)用のエンスージアスト向け製品と、通常のメインストリーム向けの2製品が用意されている。

 さらに2008年にはAM3と呼ばれるさらに新しいプラットフォームが計画されている。AM3では、HT3のクロックが引き上げられ、帯域幅はAM2+の倍になるという。また、メインメモリはDDR2からDDR3へと強化される。ただし、AM3ではCPUソケットが物理的に変更されるので、AM2向けのCPUは利用できない。

【表】AMDのプラットフォーム(AM2+以降は筆者予想)
プラットフォームCPUソケットCPUバスメモリ導入時期
Socket 939Socket 939HT1DDR2004年
AM2Socket AM2HT1DDR22006年
AM2+Socket AM2HT3DDR22007年後半
AM3Socket AM3HT3DDR32008年

Agenaを説明するスライド。AgenaはAM2+に対応する最初の製品となる

●チップセットベンダ各社は2007年の後半に向けてHT3に対応したチップセットをリリース

 AMDプラットフォームをサポートするチップセットベンダ各社は、HT3に対応したチップセットを2007年後半に投入することを計画している。

 CeBITではマザーボードベンダ各社がNVIDIAの「MCP68」を搭載したマザーボードを展示したが、2007年の後半にはHT3に対応した「MCP72」を投入する計画だ。

 またSiSも、次世代の統合型チップセットでHT3をサポートする。SiSによれば、SiSが2007年後半に予定している次世代チップセット「SiS772」において、HT3に対応するという。SiS772は、HT3のほか、DirectX 10に対応した新しいグラフィックスコア「Mirage4」を内蔵する。また、動画の高画質回路である“SiS Advance Real Video”を内蔵しており、従来の世代に比べて高画質で動画の再生を行なえる。

 なお、SiS772のグラフィックスコア非内蔵版として「SiS757」が用意されるが、SiSとしてはバリュー向けの製品にフォーカスし、OEMビジネスを中心に進めていく意向であるので、積極的にチャネル向けに展開していくというわけではなさそうだ。

 なお、SiSはサウスブリッジも強化するプランを持っている。それが2007年の第3四半期に投入される予定の「SiS969」で、USBポートが10ポートに、従来製品では2ポートだったシリアルATAが4ポートに、さらにSATA-300にも対応するなどの強化が行なわれる。

●旧ATIのチップセット部門は、今後はAMD向けだけに集中する

 それでは、今やAMD“純正”チップセットとなった、旧ATIのチップセットは今後どうなるのだろうか?

 ユーザーとして気になるのは、旧ATIがIntel向けに提供していたRS600ことRadeon Xpress 1250などの統合型チップセットが今後どうなるのかだろう。RS600は、日本でもPCベンダの製品に提供されており、Intel向けの統合型チップセットとしては比較的高いGPU性能を持つ製品として人気があったからだ。

AMD チップセット部門 マーケティングディレクターのルーベン・ソラヤ氏

 この点に関してAMD チップセット部門 マーケティングディレクターのルーベン・ソラヤ氏は「顧客が求めれば今後もIntel向けチップセットの出荷やサポートは続けていく、その点に関しては何も問題はない。しかし、我々のロードマップからはすでにIntel向けのチップセットはなくなっているし、今後復活する予定もない」と述べ、今後旧ATIのチップセット事業部としてはAMD向けのチップセットに集中していく方針を明らかにした。ATIがAMDに買収される前までは、ATIのロードマップにはRS700というIntel向けの次世代チップセットがあったのだが、これは完全に消滅したということだ。

 ATIのチップセット事業では、AMDよりもIntelの比率が高かったため、チップセット事業単体で考えれば、Intel向けチップセットの事業を終了するということは大きな影響が出そうだが、「確かにIntel向けチップセットの売り上げが減少していくことは事実だが、その分AMDでもマーケットシェアは増えているので、大きな問題ではない」(ソラヤ氏)とのことだ。

 しかし、AMD向けチップセットでATIのシェアはあまり大きくなかったので、今後シェアが上がっていくようなら、NVIDIA向けのチップセットベンダ、特にNVIDIAは大きな影響を受けそうだ。ある業界関係者は「AMDがAMD 690の価格を思い切った設定にしたため、NVIDIAも対抗せざるを得ない状況になっている。NVIDIAは今後それに対抗するか、AMD向けの比率を下げてIntel向けを増やすなどの対抗策に出るのではないか」と指摘している。いずれにせよ、AMDのATI買収で、AMD向けチップセット市場には変動が起き始めている。

 AMDはすでに次世代チップセットの計画を始めている。ソラヤ氏は具体的なコードネームなどは明らかにしなかったものの、「次世代チップセットではDirectX 10をサポートする。またUVDの機能もチップセットに統合していく。このUVDの機能は他社にない機能といえ、特に日本のOEMベンダに対してアピールできるポイントであると考えている」と述べた。

 OEMメーカー筋の情報によれば、AMDは「RS790」という開発コードネームの次世代製品を計画しており、R600世代のDirectX 10対応GPUを統合し、UVDの機能も搭載するという。また、ソラヤ氏は特に言及しなかったが、OEMメーカー筋の情報では、このRS790もHT3をサポートし、AM2+プラットフォームに対応するという。さらにRS790には、単体版の「RD790」(2x16 PCIe版)、RX790、さらにはローエンド向けとしてDirectX 9に対応したRS740なども用意されているという。

 これにより、2007年の後半にはHT3に対応したチップセットが出そろい、Agenaの登場を待って本格的にAM2+プラットフォームがデビューすることになりそうだ。

●“鶏と卵”の悪循環に入るか、それとも回り始めるか岐路に立つDTX

 最後に、AMDがInternational CESで発表した新しいマザーボード/ケースの規格「DTX」について触れておこう。

 DTXは、以前の記事でも説明したように、現在のATXの仕様をそのまま利用して、スモールフォームファクタのPC用のマザーボードやケースなどの規格を作ろうという取り組みで、AMDがマザーボードベンダやケースベンダに対して採用を呼びかけている。

 今回DTXに関してAMDは、特に大きなアップデートはしていない。アップデートされたことと言えば、DTXのドラフトスペックが2月20日にDTXのWebサイトに公開されたことと、DTXの取り組みに賛同するベンダの名前が明らかにされたぐらいで、それとてあくまで賛同ということであり、決して対応した製品が彼らのブースに展示されたというわけではない。

 前回のInternational CESで、AMDはDTXに対して非常にアグレッシブなプランを立てていると語ったが、今回のCeBITではそれが明らかに後退した印象を持った。AMDでDTXのマーケティングを担当するDaryl Sartain氏は「プロトタイプを2007年の半ばまでに作成したい。AMDがPCを製造しているわけではないので、いつ製品が出てくるとは言えないが、プロトタイプと製品のサンプルは平行して行なわれるため、ベンダによっては2007年の後半に製品を出すことは可能だろう」と述べている。1月の段階では第1四半期中にプロトタイプを、と言っていたので、若干後退した印象を受ける。

 若干スケジュールが遅れている背景には、決してDTXがすべての人に喜んで受けいれられているわけではないという事実がある。確かに、DTXのアプローチは、ATXのインフラがそのまま利用できるため、総論では賛成だという業界関係者は多い。たとえば、マザーボードベンダにとって、DTXのマザーボードを製造するのは非常に簡単だ。DTXはmicroATXから2つのスロットをカットするだけだから、そんなに難しいことではない。Mini DTXに関しても、Mini-ITXのインフラをそのまま利用できるから、こちらも対応は容易だ。あるマザーボードベンダの関係者は「DTXのケースが出そろえば、いつだって作ることはできる」と述べる。

 だが、ケースベンダにとっては、素直に諸手を挙げてDTXに賛成と言えない事情がある。というのも、この場合、ケースベンダだけが追加投資を迫られるからだ。すでに述べたように、マザーボードベンダにとってDTXケースを作るのに、追加コストはあまり必要ない。しかし、ケースベンダは、新たに金型を起こす必要があり、それに対する投資が必要になる。AMDのSartain氏も、「確かにケースベンダからそうした意見が出ていることは事実だ」とケースベンダがそのことに不満を持っていることは認める。ケースベンダにしてみれば、まだDTXマザーボードがないのにDTXのケースに多大な投資はできないというわけだ。だから、マザーボードメーカーもDTXマザーボードの製造に二の足を踏む……そうした“鶏と卵の論理”がまさに発生しているのだ。

 では、どのような解決策があるのだろうか? 実は1つだけある。それはAMD自らが、ケースベンダに出資するか、資金を渡してDTXのケースを作ってもらうことだ。DTXのケースが市場に登場すれば、マザーボードメーカーも喜んでDTXマザーボードを製造するだろう。そうすれば、市場が回り始めてDTXのエコシステムができあがるはずだ。

 実際、IntelもBTXでそうした戦略を採ったことは、業界では知らないものはない。Intelも台湾のODMなどをパートナーに指名し、資金を出してBTXのケースやマザーボードを作ってもらった。それでも、BTXの立ち上げがうまくいったかと言えば、そういえないのは読者の皆さんもご存じの通りだ。

 となると、AMDに同じことをやる気があるのか、それが問題になると言える。AMDのSartain氏は「AMDが実際に資金を出すかどうかはコメントできない。しかし、1つだけ言えることは、AMDはこのDTXにフルコミットメントしているということだ」と、ダイレクトなコメントは避けたものの、そうしたやり方を検討していることを示唆している。

 こうした仕組みは、一度回り始めれば坂を転げるように回っていくモノだ、その最初の一手をAMDがどう打てるのか、言い換えれば、AMDはDTXに“いくら”使う気があるのか、DTXの未来はそれにかかっていると言えるのではないだろうか。

 
AMDブース以外の会場で唯一見つけたDTX関連製品。CHENBROのブースで展示されたのので、モックアップのDTXマザーボードがATXに入っていた。DTXネイティブのケースは展示されなかった AMDが発表したDTXをサポートする企業の一覧

□関連記事
【3月17日】【CeBIT】AMDがR600の概要とクアッドコアOpteronのウェハを公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0317/cebit06.htm
【1月15日】【CES】AMDが小型PC用フォームファクタDTXを提案
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0115/ces15.htm
【1月11日】AMD、省スペースPC向けフォームファクタ「DTX」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0111/amd.htm

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(2007年3月22日)

[Reported by 笠原一輝]


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