●より軽く、より丈夫になったVersaPro UltraLite NECが2005年12月に発表した「VersaPro UltraLite」は、1スピンドルのモバイルノートPCとして、軽量性、堅牢性、バッテリ駆動時間のバランスのとれた製品であった。 小型/軽量を実現するために、NECトーキンが開発した新コンデンザ「プロードライザ」をプロセッサの電源に投入し、基板面積の縮小を図るなど、デバイスレベルから設計を見直し、Pentium M 1.2GHz搭載モバイルノートとして1kgを切る重量と、150kgfの耐荷重、約6.5時間のバッテリ駆動時間を実現している。 これが評価された証に、ビジネスPC向けのノートPCブランドである「VersaPro」シリーズに加え、「LaVie G タイプJ」としてコンシューマ向けの直販モデルも用意された。そして、何より1年後に後継モデルが登場したことが、このシリーズの成功を物語っている。
12月4日に発表されたVersaPro UltraLiteの新モデルは、従来通り1スピンドルの「タイプVC」と、DVDスーパーマルチドライブを内蔵した2スピンドルの「タイプVM」の2機種で構成される。筐体は主要パーツを共用しながらも、若干異なっており、シングルスピンドルモデルの方が薄い。最厚部の厚みはそれほど変わらないものの、最薄部の厚みがシングルスピンドルモデルは明らかに薄くなっている。 1スピンドル、2スピンドルともCPUのグレード違いにより2モデルが用意され、計2機種4モデルというのが新製品のラインナップだ。そして、上位グレードのCPUとして、デュアルコアプロセッサ(超低電圧版Core Duo U2400)が用意されることが、新VersaProの最大のセールスポイントとなっている(オンボードの実装メモリも、Celron搭載の下位モデルの2倍となる512MB)。 搭載するHDDなどのオプションにより重量は変動するが、いずれのモデルとも、デュアルコアプロセッサを搭載した1スピンドル機、2スピンドル機として世界最軽量を誇っている。今回は、Core Duo搭載の1スピンドル機(VersaPro UltraLite タイプVC)のβ機を短期間ではあるが試用できたので、その紹介をしようと思う。 製品化前のVersaPro UltraLite タイプVCは、簡素な茶色の段ボール箱で届けられたが、箱を持った瞬間、その軽さに気づく。試作品のため、本体とACアダプタ以外の付属品が添付されないこともあるが、本体が軽いことは間違いない。早速、箱から取り出して机に置いてみると、結構、大きく感じる。 そんなはずはと思い、手元にあった2005年モデル(LaVie G Type J)を取り出してみると、実際の本体サイズはほとんど変わらない。どうやら2005年モデルのシルバーから変更されたボディ色(濃いメタリックブルー)が、本機を大きく見せている原因のようだ。色そのものは好感がもてるものだと思うが、大きく見えるという点では損をするのではないかと心配される。 タイプVCの重量は、1.8インチHDDを用いた最軽量構成を選ぶと1kgを切る(970g)。1.8インチHDDは、軽量で衝撃に強いものの、現状では性能が低い。それを踏まえてVeraPro UltraLiteでは、1.8インチHDDだけでなく、性能と容量で有利な2.5インチHDDも選択可能となっている。2005年モデルでは2.5インチHDDと指紋センサーが排他選択(指紋センサーを利用する場合は2.5インチドライブが利用できず、自動的に1.8インチHDDとなる)だったが、今回の2006年モデルでは2.5インチHDDでも指紋センサーを搭載することが可能だ(指紋センサーの代わりにFeliCaポートを搭載することも可能)。
今回試用した試作機も、2.5インチHDD(Travelstar 5K160)と、指紋センサーを搭載していた(残念ながら認証のためのソフトウェアが添付されておらず、この機能を確認することはできなかったが)。この構成での重量は1,023g(筆者による試作機の実測値)。この重量には4セルの標準バッテリ(バッテリ駆動時間は7時間)が含まれる。最終製品の重量は変動する可能性があるが、現時点においてデュアルコアプロセッサを搭載したノートPCとして最軽量であることは間違いないだろう。
2006年モデルに採用されているCore Duoプロセッサは、超低電圧版でもTDPが9Wに達する。2005年モデルに採用されていたPentium M 753(超低電圧版Yonah)のTDPが5Wだったことを考えると、ピーク時に2倍近い電力を消費することになる。そのプロセッサをほぼ同じ筐体におさめつつ軽量化し、同等以上のバッテリ駆動時間を実現したのが2006年モデルというわけだ。
プロセッサの消費電力が増大した部分は、ほかの部分で補うよりない。2006年モデルでは、HDDなどに省エネ部材を選定したほか、液晶のバックライトにLEDバックライトを採用するなど、低消費電力デバイスを採用している(そのせいか、若干2005年モデルより色味が青くなったように感じた)。またバッテリセルも、セルあたり2,900mAhの最新電池(従来は2,600mAh)を用いるなど、システム全体で省電力化とバッテリ駆動時間延長の努力を行なっている。また、2005年モデルには用意されていなかった大容量バッテリも用意され、最大で14.5時間の駆動ができる。 こうした努力を重ねて、2005年モデルと同等の筐体サイズと重量、同等のバッテリ駆動時間を実現した上で、プロセッサのデュアルコア化を実現したわけだが、その狙いは当然、高性能の実現にある。それは重量面で不利な2.5インチHDDを採用可能にした点にも現れている。 ●ベンチマーク結果 そこで、この試作機でどの程度の性能が得られるのか、PCMark05を用いてテストしてみた。参考のため、2005年モデル(LaVie G Type J)に加え、筆者の手持ちのノートPCを比較に用いた。中には、本機と同じクラスではないものも含まれているが、あくまでも参考、という意味であえて表に並べてみた。予想通り、デュアルコア化によるCPUスコアの向上は顕著で、ちょっと前の通常電圧版プロセッサ(Pentium M)や、デスクトップ置き換え用プロセッサ(Athlon 64 3000+)に匹敵する性能となっている。また、スピンドル回転数5,400rpmのシリアルATA2.5インチドライブの性能は抜きんでており、他とは比べようもない。 グラフィック性能は、デスクトップPCに慣れた目からは物足りなく見えるが、軽量モバイルノートでは、PCMark05のスコアを出せるだけでも上出来かもしれない(N/Aになっている3機種は、PCMark05のGraphicsテストを実行するのに必要なDirectX 9クラスの水準に達していない)。2005年モデルはバッテリ駆動時間を優先し、あえてすでに旧モデルとなっていた855GMEを採用したのに対し、2006年モデルは現時点で最新の945GMSを採用した成果がうかがえる。 こうしてモバイル軽量ノートの枠ギリギリまで高性能化を果たそうとした最大の理由は、間もなくリリースされるWindows Vistaであろう。5年ぶりにリリースされる新バージョンであるWindows Vistaは、かなり「重たい」OSとなっている。これまで動作クロックの上積みが少なく性能も抑えられてきた超低電圧版版プロセッサの世界で、デュアルコア化されたCore Duoは、性能面で大きなジャンプが期待できる製品だ。 現状での私見だが、Windows Vistaをそれなりに快適に利用するには、PCMark05で2,500前後のCPUスコアと3,000前後のHDDスコアがベースラインだと感じているのだが、デュアルコアのVersaPro UltraLiteならこの水準をクリアできるだろう。UIのAeroについてはまた別の話だが、このクラスでAeroが動く可能性があるだけでも現状では上出来かもしれない(Aeroでバッテリ駆動時間が短くなるくらいなら、Aero Basicで良いというユーザーもいるだろうが)。
【表】モデル比較
性能以外で本機のウリとなりそうなのは、前モデルから継承したキーボードだ。縦横ともに17.55mmのキーピッチを持つキーボードは、正方形のキートップで、比較的ゆったりとしたストローク感を持つ。キーボードパネル底面の支持感もあり、タイピング時にたわむ感触がない点も好ましい。このあたり、重量と剛性の兼ね合いが常に問題になる部分だが、剛性が犠牲にされていない印象だ。 一方、ビジネスPCとして不可欠なセキュリティ機能だが、指紋認証やFeliCaによる個人認証機能、TPM 1.2チップを用いた暗号化、USBメモリを含むリムーバブルデバイスによるデータ持ち出しを制限、許可したデバイスへの書き込みのみを可能にする「Device Protector」ソフトなど充実している。Windows XP Professionalの機能である暗号化ファイルシステム(EFS)をサポートするウィザードも添付されている。天面全体で150kgの加重に耐えるほか、パームレスト、キーボード、ボディのすべてで25kgの点加圧に耐える堅牢性、衝撃吸収ゴムに加え、加速度センサーを用いたHDD保護など、日常的な利用におけるアクシデントへの対策も施されている。 ビジネス向けのノートPCという性格上、本機にはコンシューマモデルほど豊富なI/O機能は用意されていない。余計なものはついていない方が好まれるからだ。したがってBluetooth、IEEE 1394などは、前モデル同様装備されていないが、PCカードスロットとは別にSDスロットが用意されたのは企業ユーザーにも歓迎されるのではないだろうか。 VersaPro UltraLiteは、軽量ボディにWindows Vista時代に対応可能な性能と、ビジネスPCに求められるセキュリティと堅牢性を兼ね備えているPCと言えそうだ。あえて足りないものを挙げれば、ビジネスバックにスッキリとおさまる薄型のボディ、ということになるだろうか。前モデルに比べて丸みを増やし、バッグに収まりやすく配慮しているというが、決して薄いとは言えない。次期モデルでは、現在の性能と堅牢性を維持した上で、薄さも追求して欲しいと思う。 □NECのホームページ (2006年12月7日) [Reported by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
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