元麻布春男の週刊PCホットライン

VistaでMCE対応TVチューナカードを試す




●オーバーレイ表示が共存できないAero

 もうすでに多くの人が知っているように、Windows Vistaではビデオのオーバーレイ表示が推奨されない。全くできないわけではないが、Windows Vistaのトレードマークとも考えられている新UIのAeroとは共存できない。

 どうしてもオーバーレイを利用したいというのであれば、UIをAero Basic(Aeroから透明効果などの3Dグラフィックス要素を抜いた簡略版)やClassicに落とす必要がある。逆に、Aero上でオーバーレイを利用するアプリケーションを起動すると、トレイエリアに警告が表示され、自動的にUIがAero Basicに変更される(32bit版)。オーバーレイアプリケーションを終了させると、UIはまたAeroに復帰する。

 そもそもビデオのオーバーレイ表示というのは、デスクトップ上にOSの描画機構(従来のWindowsにおけるGDI)のあずかり知らぬ領域をもうけ、ここにビデオ信号を流し込むような形で、ビデオの表示を行なう仕組みだ。代表的なオーバーレイアプリケーションの1つが、TVチューナカードに付属する視聴ソフトで、TVを窓表示した状態でPrintScreenキーを押して画面をキャプチャした際、視聴ソフトのTV表示エリアがマゼンタ一色で塗りつぶされていれば、そのカード/視聴ソフトはオーバーレイを利用している(色は必ずしもマゼンタであるとは限らないが、多くがマゼンタを用いているようだ)。

 ビデオアプリケーションがオーバーレイを用いていた理由は、歴史的な経緯、システム負荷の小ささ、といった事情からだと思われる。この種のビデオ表示カードが最初にPCに現れたのはWindows 2.xの頃で、Windows 3.0の時代にかなりポピュラーになった。この当時のグラフィックチップは、単なる(アクセラレーション機能のない)VGAチップであり、ビデオを処理する能力はなかった。また、当時のCPUに、ソフトウェアでビデオ処理する能力を期待するすべもなく、現実的な解は拡張カード側で生成したビデオをPCのデスクトップと合成し、ディスプレイに送り込むことくらいだった。

 実際、古いTVチューナカードでは、ビデオカードの出力(アナログRGB出力)をTVチューナカードに取り込み、TVチューナカード側で合成して、PCディスプレイで表示することも行われていた。この時、PCディスプレイのどこに、どの大きさでビデオ画像を合成するかを示すために、クロマキー合成のような手法が使われ、ビデオ表示ウィンドウの中が特定の色で塗りつぶされることとなった。

 今のビデオオーバーレイは、この合成処理をデジタル化したような仕組みであり、システムの負荷が小さいというメリットがある。また、TVチューナカードという周辺機器を製品として売ることを考えた時、本体CPUやグラフィックチップ、OSによる制約が少ない(市場が大きく見込める)という利点もある。

 このビデオオーバーレイがWindows VistaのAeroで認められなくなったのは、ディスプレイサーフェイスに、ビデオ表示のための「穴」を開けることが許されなくなったからだ。従来のWindowsでは、PCのディスプレイはUIやデスクトップアプリケーションの描画を行うGDIと、GPUによるアクセラレーションを活用し3Dグラフィックス等を描画するDirectXの2本立てで管理されていた。DirectXアプリケーションの主力はフルスクリーン表示のゲームであり、GDIとDirectXは、必ずしも両立する必要はなかったし、両立させた場合に性能のペナルティが生じても許容された。ところがAeroでは、UIにも全面的にDirect3Dが活用されるため、GDIで穴を開ける、という行為(ビデオオーバーレイ)ができなくなる。

 さらにWindows Vistaでは、コンテンツホルダーの要請により、コンテンツを保護する仕組みが導入される。この観点からも、ディスプレイサーフェイスは、OSにより適切に管理される必要があり、そこに穴を開けることは望ましくない。

●Aeroと親和性が高いDXVA

 ビデオオーバーレイに代わってVistaのビデオ表示として推奨されるのがDXVA(DirectX Video Acceleration)だ。この名前からも想像できるように、DirectXに対応したGPUの機能を使ってビデオのレンダリングを行なおうというもので、言うまでもなくDirect3Dで実現されるAeroとの親和性は高い。DXVAでは、GPUに実装されたビデオ表示を高画質化するための機能や、CODEC処理をアクセラレートする機能を、標準的に利用するためのドライバインターフェイスも提供される(従来のビデオオーバーレイでは、TV視聴ソフトが個別のGPUに対応しなければならなかった)。

 一方で、DXVAの機能や性能はGPUやCPU(GPUに機能が欠けていた場合はCPU処理にフォールバックする)に依存する。ビデオ表示の画質も、GPUやCPUに依存することになる。ビデオオーバーレイを採用してきた既存のTVチューナカードは、GPUとの間に「相性」問題はあっても、うまく動作すれば基本的にビデオの画質はGPUのグレードに依存しなかった(GPUは穴を開けているだけだから)。が、DXVAではそうはいかない。

 もともとDXVAが登場したのは、Windows Media Center Edition(MCE)の開発と無縁ではないと考えられている。MCEは、PCシステム全体で機能するものであり、TVチューナとグラフィックスカード、CPU等のトータルで、実現される。ビデオの画質もシステムトータルで考える話だ。

 しかし、これはTVチューナカードという周辺機器製品を売る側には、あまりよろしくない話である。自分たちが売る製品の動作が、すでにユーザーが所有するPCにインストールされているグラフィックスカードに依存するからだ。最悪、グラフィックスカードがDXVA対応でなかったりすると、利用のためにグラフィックスカードの買い換えをお願いしなければならなくなる。そういうこともあって、現在でも市場に出回っているTVチューナカードの多くは、ディスプレイ表示にビデオオーバーレイを採用している。こうした基本事情に、わが国固有のデジタル放送の事情もからんで、PCのTV表示機構と、Windows Vistaへの移行は、大変ややこしい状況になっている。

●Vistaで利用できるTVチューナカードとは

 と、前置きが長くなったがWindows VistaでTVを見るのにどうすれば良いか、という話だ。地デジやBSデジといった、著作権保護の絡むTV放送については、現状では単体のTVチューナカード製品は売られていない(ワンセグを除く)から、これはPCベンダの対応待ちということになる。ワンセグチューナについては、Vistaのアップグレードインストールの際、アップグレード後動作しなくなるアプリケーションとして警告が表示される。これもベンダの対応を待つよりないだろう。

 となると残るのは、地上波アナログ放送だ。すでに述べた通り、これを見るためのTVチューナカード選びには2つのアプローチが考えられる。1つはAeroをあきらめてオーバーレイのカードをなんとか使う方法、もう1つはAeroと共存可能なTVチューナカードを使う方法である。

 上述したように、オーバーレイカードは、うまくいけばUIがAero Basicに落ちるものの動作する。が、この種の製品は、Vistaにこのような制約があることを前提に作られたわけではない。ある場合は、うまく動作するものの、別の場合はAero Basicでもうまく動かない、という状況のようだ。Aeroとの共存(ソフトウェアアップデートによるDXVA対応)まではともかく、Aero Basicでの安定動作までのドライバサポートは欲しいところだ。

 Aeroのデスクトップで動作するTV視聴環境を構築する一番良い方法は、Aeroと共存可能なTVチューナカード、すなわちDXVA対応の製品を利用することだ。が、DXVA対応とうたったTVチューナカードを見かけることはほとんどない。そう、この種の製品は違うラベルで売られている。“Windows XP MCE対応のTVチューナカード”というラベルである。MCE対応のTVチューナカード製品のすべてがVistaでそのまま利用できるとは限らないが、ドライバアップデートでVistaに対応し、Aeroと共存できる可能性は高い。

 この種の製品で、Vistaでも使えそうなものはないかと探していた10月下旬、AKIBA PC Hotline!が目にとまった。これによると、MCE専用のTVチューナカードであるHauppauge!の「WinTV-PVR 500」が、1万円を切る価格で安売りになっている。

 Hauppauge!は、この業界ではかなり古い会社で、筆者もWindows 3.x対応のアナログオーバーレイ方式のTVチューナカードを購入したことがある。上述したグラフィックスカードの出力を取り込むTVチューナカードは、まさにこの会社の製品である。そのHauppauge!の製品の総発売元が台湾のブルウィルになった経緯について筆者は知らないが、わが国では過去にいろんな代理店から発売になっている。ともあれ、このジャンルにおいて米国でとてもポピュラーなブランドであることは間違いない。

 WinTV-PVR 500は、地上波アナログTVチューナとハードウェアMPEG-2エンコーダ(Conexant CX23416)を2組搭載したデュアルチューナカードだ。加えてFMラジオのチューナ1基も搭載する。製品の最大の特徴は、アプリケーションを全面的にMCEに依存していることで、TVを見るにもラジオを聞くにも、MCEが不可欠であることだ(米国ではWinTV-PVR 500をWindows XP Pro/Homeで利用可能なサードパーティ製アプリケーションが売られているが、日本への対応は不明)。

 付属するソフトウェアは、基本的にMCEで利用するためのドライバのみ。例外はMCE向けのPowerDVD 5がバンドルされていることだが、Windows VistaではMedia Center機能を利用可能なHome Premium Edition以上はMPEG 2デコーダが標準搭載されているため、そのままMedia Centerを使ってDVDの再生ができるから、特にDVD再生ソフトは必要ではない。

WinTV-PVR 500。2つあるアンテナコネクタは上がFM用、下がTV用 搭載されているハードウェアMPEG-2エンコーダチップはConexant製 Media CenterであればAeroと共存した上でTV視聴ができる

 筆者が最初にWinTV-PVR 500をインストールしたのはWindows VistaがRC2の頃だったが、この時点においてすでに、Windows Vistaは標準でWinTV-PVR 500をサポートしていた。つまり、Home Premium以上のVistaが動作するマシンにWinTV-PVR 500をインストールすると、自動的にビルトインドライバの組み込みが行なわれ、Media Centerで利用することが可能になった。このPlug and Play体験は一足先にMSDNやTechNetで配布が始まった、Windows VistaのRTM版でも変わらない。とにかくスロットに挿せば使える。これは嬉しい驚きであった。

 とりあえずRTM版のWindows Vista Ultimateがインストールされたマシン(スペックは表1参照)でWinTV-PVR 500を利用してみているが、VistaのMedia Centerでサポートされている機能は、ほぼ利用できるようだ。デュアルチューナによる裏番組録画、2チャンネル同時録画ももちろん可能である。唯一、うまく動かなかったのはFMラジオの自動選局機能だが、マニュアル選局すればラジオを聴くこと自体は問題ない。

【表1】テストシステム
CPUPentium 4 560(1MB L2/HT)
MotherboardIntel D975XBX
Memory2GB DDR2-533
ビデオカードAMD Radeon X800 XT
HDDDeskstar T7K500 500GB

 アナログ放送の画質は、非常に多くのことに左右されるが、幸い筆者宅はほとんどマルチパス(ゴースト)のない受信環境であり、ゴーストリダクション機能を必要としていない。この機能を持たないWinTV-PVR 500に比較的適した環境である。それを前提にした上で、Radeon X800 XTとの組み合わせにおいて、画質的な不満はほとんどない。むしろ、フルスクリーン表示時の画質では、一般的なオーバーレイ方式のTVチューナカードより良好に感じる。

 もしWinTV-PVR 500に問題があるとすれば、Media Centerの使い勝手をどう評価するか、という点だろう。Media Centerのユーザーインターフェイスは、リビングの大画面を前提にした10フィートインターフェイスと呼ばれるものだ。ディスプレイから離れて、対応リモコンで操作する分には問題ないのかもしれないが、通常のPC用途で目前のディスプレイで利用するにはそれほど便利なインターフェイスではない。特に筆者のように、TVをウィンドウ表示するユーザーにとって、Media Centerは最適とは言い難い。

 日本にはデジタル放送への対応の問題もあり、Windows Vista時代のTVチューナカード製品がどうなるのか先を予測しにくい。できれば、一般的なPC用途に適したインターフェイスを備えたDXVA互換の視聴ソフトをバンドルしたTVチューナカード製品を利用したいところだが、そうした製品が登場するかどうかも分からない。それを考えると、Vistaでそのまま使えるWinTV-PVR 500は、よほどゴーストのひどい環境でない限り、かなり手堅い選択だろう。

□関連記事
【10月21日】ブルウィル WinTV-PVR 500を特価販売中(AKIBA)
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20061021/price.html
【2005年10月27日】【笠原】Windows Vistaにみる“メディアセンター”の可能性
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1027/ubiq130.htm

バックナンバー

(2006年12月4日)

[Reported by 元麻布春男]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.