山田祥平のRe:config.sys【特別編】

NEC「VersaPro UltraLite」開発者インタビュー




 企業向けモバイルノートPC「VersaPro UltraLite」(バーサプロ ウルトラライト)からほぼ1年。大きく進化を遂げた新UltraLiteが発表された。前回はチップセットにあえて一世代前のIntel 855GMEを使うことで、省電力を目指した先代に対して、今回は、Core Duo U2400 + Intel 945GMS Expressを搭載。その構成も、Windows Vista時代を見据えてアグレッシブだ。

「VersaPro UltraLite」 山形県・米沢市にあるNECパーソナル事業所

 そこで、山形県・米沢市のNECパーソナルプロダクツPC事業本部 開発生産事業部 モバイル商品開発部を訪ね、この製品の開発に携わった先進商品開発マネージャー伊藤泰久氏(設計開発責任者)、梅津隆広氏(構造設計担当)、大浦弘之(マザーボード等担当)、企業PC事業部商品企画部の迫芳和氏、日本電気ビジネスPC事業部マーケティンググループ久代智氏らに話を聞いてきた。


―まずは、今回の新製品のコンセプトをお聞かせください。

企業PC事業部 商品企画部 主任 迫芳和氏

迫 先代のUltraLiteから1年が経ちました。先代は、おかげさまでお客さまの評判もよく、後継機を作ることができました。コンセプトは以前と同様に、軽くて丈夫、バッテリで長く使えるモバイルPCです。何よりも、バッテリ駆動時間を優先したことは、営業部隊や販売店の方々から非常によい評価をいただくことができました。それに手応えを感じ、今回は、軽さ、丈夫さ、長さを損なわなず、コンセプトはそのままに、今後を見据えて性能を強化し、そしてより軽くを目指しました。パワーをあげてもなお、これまでのコンセプトを維持するのは、かなり大変だったと思いますが、技術陣ががんばってくれました。

 先代はIntel 915チップセットが最新で、各社のモバイルPCが、それを採用している中で、あえてIntel 855GMEを使うという判断をしました。ただ、そのことで性能が劣るというような声は聞こえてきませんでした。でも、今回は、プラスアルファを狙い、Core Duo搭載によるさらなる性能向上を狙っています。

―マグネシウム合金のボンネット構造は、以前と同様ですか。

梅津 はい、前回と同様に0.5mm厚のマグネシウム合金を使っています。ただ、先代は強度的な面を確保するために、肉を厚くしているような部分もありましたし、信頼性を優先するために、余分な肉付けをしている部分もありました。そういうことでかさんでいる重量アップをそぎ落とすようにしてシェイプアップをしていきました。その結果、ボンネット構造は3列になりました。こうしたデザインの変更は、重量にかなり影響を与えてくるものなんです。

迫 前回はどちらかというと頑丈そうなイメージを醸し出そうとしていましたが、今回は、柔らかく知的なイメージを狙っています。女性も含めて受け入れられるようなものにしたかったのです。

PC事業本部 開発生産事業部 モバイル商品開発部 主任 梅津隆広氏 PC事業本部 開発生産事業部 モバイル商品開発部 先進商品開発マネージャー 伊藤泰久氏 ボンネット構造は3列に変更

伊藤 先代でかなり極限まで軽量化を突き詰めましたから、それ以上のものを作るのはけっこう大変でした。たとえば、本体の液晶部分の両脇にネジが見えますよね。これは、みっともないと言われることもあるのですが、あえて見えるようになっています。マスキングなどで、隠すこともできるんですが、それをやっただけで、重量は数グラム増えてしまいます。だから、設計コンセプトとして、ネジを見せるんだと割り切りました。もちろん、化粧ネジを使うなど、見かけの工夫は施していますけれど。

迫 とにかく、丸みを感じられるような筐体デザインをお願いしたのですが、その結果、ちょっと分厚く感じられるかもしれません。でも、先代は角張ったところがカバンからの出し入れのときにひっかかるという意見もいただいていました。それを受けて、底面後部の脚なども、いろいろ工夫してなめらかにしています。


本体底面後部の足が改良され、カバンからの出し入れでよりスムーズになった 天板のボンネットは角度を工夫して肉付けを削りつつ強度を保った ビジネスPC事業部 マーケティンググループ グループマネージャー 久代智氏

梅津 実は、マグネシウム合金の場合、形になるまでが大変なんです。メーカーと一緒に図面を睨みながら作業を進めてきました。とにかく、最初は話にならないくらい形になりませんでした。

伊藤 今回は微調整を含めて、6回金型を作り直しました。

梅津 微妙に形状を調整しながら金型を作っていくんです。一発目のサンプル機用の部品取りは大変です。マグネシウム合金だと変更も大変ですから、そのあたりが設計段階で気を遣うところです。もし、樹脂を使っていたら、そんなことはなかったはずです。

 設計のポイントとしては、先代には、光ディスクドライブ(ODD)を搭載モデルがありませんでしたから、その固定方法から周囲のクリアランスまでを新たに考えました。

 今回、本当は、ドライブそのものをもっと軽く作るように要請していたのです。ドライブの素材を変更してやってもらったんですが、がんばっても5gしか軽くなりませんでした。にもかかわらず、コストが跳ね上がってしまうことで、あきらめざるを得ませんでした。

久代 ニーズ的にはODDが要請されるんです。営業部隊もそう主張します。ODD搭載モデルがないと他社と競争にならないといわれ、必須としました。つまり、急遽、ねじこんで技術陣にお願いした要素です。

迫 先代開発当時のトレンドは、企業向けモバイルは1スピンドルが主流でした。でも、先代を投入した直後、売って歩いてもらう中で挙がってきたのが、2スピンドルが欲しいという要望でした。今のトレンドも1スピンドルモデルの割合が少し多いかなというところですが、期待としては1スピンドルと2スピンドルが同じくらいになってほしいですね。実際、個人事業者やSOHOなどのニーズを考えると今後は、売っていくためにはODD搭載がより必要になるに違いないという判断です。

●基盤回路や液晶にも一苦労

―設計的に先代から大きく変わった点を教えてください。

大浦 今回の装置は、消費電力を抑えることを目的に、LEDバックライトを採用したことが大きいですね。FL(蛍光灯)を使った場合に比べると、これでバッテリ駆動時間が30分くらい延ばせます。ただし、FL用のインバータがなくなったことによって、LEDを駆動する電源回路が本体側で必要になります。そのためにいろいろ探し回ったのですが、基板の面積が少なくて機能的にも優れたドライバICがなかなか見つかりませんでした。サンプルを取り寄せていろいろ評価するのですが、欲しかったものがなかったんです。

PC事業本部 開発生産事業部 モバイル商品開発部 主任 大浦弘之氏 新たに採用したLEDバックライトの液晶

 今回採用したのは11直4パラ配列のLEDです。この場合、トータル44個のLEDを使っているのですが、その44個を1個で駆動できるICを探し続けていました。もちろん、従来のICを2個使えばできます。あるいは、ワンラインごとに1個のICで駆動しようという話もありました。でも、基板上には、それを実装できるスペースがありません。ほんとに余ったスペースだけでやりたかったので、それらのプランは不可能です。結局、できたてほやほやのICが、ギリギリのタイミングであがってきました。執念が通じたんでしょうね。その中から使えるものを選びました。他社製品のLEDバックライトは10直のものが多いようですが、それを11直にするとLEDが増え、同じ電流で明るい結果が得られます。だからこそ、11直にはこだわりました。

 熱設計に関しては、基本的なベース回路は、もともとCore Solo搭載の予定で進めていました。でも、これが途中でCore Duo搭載を目指すこととなり倍の熱設計が求めれることになりました。とはいえ、重量を増やすわけにはいきません。重量を増やさずに熱を逃がす工夫が必要になりました。

梅津 シミュレーションは当然やったのですが、前回のままでは当然Core Duoは入りません。そこで、ファンを厚み方向で寸法を増やし、それで風量を上げました。前回は、フィンもヒートパイプもなかったんですが、今回は、両方装備しています。

マザーボードの表面 マザーボードの背面
ヒートパイプとフィンを搭載した冷却機構。ノースブリッジの熱も放熱している 厚みのあるファンを採用

―ファンレスは考えなかったのでしょうか。

梅津 できることはできるんですが、そこまで無理をすると、使用中に本体が持つ熱などで、NECの規制を通らなくなってしまいます。それに、温度が上がってプロセッサのスロットリングが発生し、性能が落ちるのでは意味がありません。

迫 モバイルでも、絶対に性能は落としたくないわけですよ。この製品では、まず、スロットリングは起こらないはずです。

―各社は充電を80%等で停止するバッテリのエコノミーモード搭載に熱心なようですが。

迫 それに関しては、バッテリメーカーと組んで、実際にテストをやってみました。新品時に対して50%まで能力が落ちた時点で寿命といっているのですが、実際にセルを繋いだバッテリパックにした場合、優位性がほとんど消えてしまうんです。もちろん、純粋な電池の特性では、寿命は伸びますが、あまり気にしないでもいいレベルだと判断しました。本来、モバイルはバッテリで長く使えなければ意味がないんじゃないでしょうか。考え方としてはそういう方向です。

大浦 バッテリそのものは、放電終止電圧2.5Vの2,900mAhのものです。今回はそれを2直2パラで使っています。したがって、2.5Vの最低電圧までは使えていません。それでも、この新しい電池を使ったのは、DC/DC変換時のロスと効率を比較検討した結果、高い電圧から低い電圧を作るときのロスよりも、効率の方をとるのがベターだという判断からです。

―1.8インチモデルと、2.5インチモデルの両方が用意されるようですが、HDDに関してはどうでしょうか。

迫 1.8インチは堅牢だという評価があるようですが、2.5インチでもきちっと丈夫なものを作れているはずです。ただ、1.8インチを使ったモデルが先代にあったので、継続性などを考えてモデルは用意しました。

梅津 落下衝撃試験などもきちんとクリアしています。ショックアブソーバーはもちろん、脚の二重構造化などによって、HDDに加わる衝撃は先代の6~7割の値を実現しています。同じ衝撃が加わっても、HDDに加わる衝撃は3~4割少なくなっているわけです。

迫 もちろん、センサーは3Dです。ガタガタという衝撃を確実に検知するようになっています。

伊藤 いずれにしても、先代は、耐衝撃の点ではほとんどクレームがなかった装置でしたからね。いわば優等生的存在です。だからこそ、それを超える装置を作るのは大変でした。

久代 とはいうものの、1.8インチHDD搭載モデルに関しては、モバイルだからパフォーマンスを抑えるということへの不満はあったようです。HDDも1.8インチだと実用的な読み書き速度が落ちてしまいますから。

迫 保守セクションの部門から言われたのですが、HDDは必ず壊れるものであって、その障害時の便宜性を考えてほしいとのことでした。先代は、HDD交換時に本体をバラす必要があり、HDDの交換に手間がかかっていましたが、今回は、パームレストをはずすだけで交換できるようにしてあります。地味ですが、このあたりも、評価してもらえるとうれしいですね。

製品に採用される1.8インチHDD。ショックアブソーバーを装備 パームレスト部にHDDを移動し、保守の交換を容易にした

―指紋センサーはスライドパッドの左側に移動しましたが、これには理由があるのでしょうか。

梅津 指紋センサーの位置に関してはかなり議論しました。構造的には左にしか入らないんです。だから、なるべくスライドパッド寄りにもってきました。もっとも、もっと左側に寄せることも別の事情があって無理だったのですが。

迫 キータイプのときに邪魔にならない位置で、違和感をなくすような工夫をしています。右利きの人でも左利きの人でも、これで大丈夫だと思います。

久代 先代は、半分くらいが指紋センサー搭載モデルでしたから、ニーズは確実にあるようですね。さらに、FeliCa内蔵の需要も増えています。NECができるソリューションは、できる限り揃えていき、あらゆるお客さまのニーズに応えたいと考えています。セキュリティ確保は、いろいろな方法で、なるべく啓蒙していきたいですね。指紋を登録するのは抵抗のあるお客さまもいらっしゃいますから、そういう場合はFeliCaなら安心とラインアップを揃えていきます。


 優等生的存在だった先代のUltraLiteに対して、今回の製品は、ちょっとしたマイナーバージョンアップにしか見えないかもしれない。だが、同じ筐体で2スピンドルモデルを用意したり、最新のプロセッサ、チップセットに対応させるなど、実際に使ったときの印象は大幅に向上している。それでいて、重量はわずかとはいえ軽くなり、バッテリ駆動時間も維持できている。

 インタビュー中、言外に感じたのは、軽量化設計に関して、NECの技術陣にはまだまだ余裕があるという点だ。コストさえ気にしなければ、さらに軽いモバイルノートができるという自信が、言葉の端々に感じられるのだ。台湾のODMに頼らない米沢発の装置として、先代のUltraLiteはNEC直系の系譜を持つ製品だ。その後継機が背負わされる期待は半端なものではない。だからこそ、冒険は許されないのかもしれない。

□NECのホームページ
http://www.nec.co.jp/
□製品情報
http://www.express.nec.co.jp/products/versapro/ultralite/
□関連記事
【12月4日】NEC、重量970gのCore Duo搭載1スピンドルノート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/1204/nec.htm

バックナンバー

(2006年12月5日)

[Reported by 山田祥平]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp ご質問に対して、個別にご回答はいたしません

Copyright (c) 2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.