先月中旬から後半にかけて、AMD(旧ATI)は2種類のGPUを発表した。1つは10月17日に発表された「Radeon X1950 Pro」で、これはハイエンドセグメントの下位モデルにあたる製品だ。もう1つは、10月30日に発表された「Radeon X1650 XT」で、こちらはメインストリームセグメントの最上位モデルという位置付けとなる。同社の製品ラインナップの隙間となっている部分を埋めるだけでなく、新しい接続方式による「Native CrossFire」をサポートする技術的にも興味深い製品となっている ●2本のフレキシブルケーブルを利用するNative CrossFire まずは、Radeon X1950 Proに関して見ていきたい。この製品の位置付けは、現状の同社の製品ラインナップではRadeon X1950 XTXとRadeon X1900 XT 256MBの下位モデルにあたる。これまで、このセグメントはRadeon X1900 GTが1製品で埋めていたわけだが、この製品よりは少し上に位置付けられることになる。対抗となるのはGeForce 7900 GTとされているが、3万円前後で購入可能なことを考えると、価格面では優位に立っているといっていい。 主なスペックは表1にまとめた通り。バーテックスシェーダユニットは同数だが、動作クロック、ピクセルシェーダ/ROPユニットにはっきりした差別化が図られているのが分かる。メモリはGDDR3。価格に敏感なこのセグメントでは、GDDR3の選択は妥当なところだろう。 Radeon X1950 Proにはもう1つ大きな特徴がある。それがプロセスルールだ。Radeon X1950 Proは同社GPUでは初めて80nmプロセスを採用した製品となる。これにより消費電力削減の効果なども期待できる。その結果は後述したい。
【表1】Radeon X1900シリーズスペック比較
今回試用するのは、Radeon X1950 Proのリファレンスボードである(写真1)。上位モデルとは異なり、1スロットで収まるクーラーを搭載(写真2)。このクーラーの仕組みは、ブロアタイプのファンを用いてヒートシンク内に空気を送り込むもので、最近では珍しくない。ちょっと面白いのは、PCI Expressインターフェイスの反対側へ空気を集中して排出する点だ。つまり、ケースに設置した場合は側面カバー方向へ温まった空気が排出されるわけで、カードとカードの間に空気が篭らないための配慮と思われる。
なお、電源端子も1基搭載している。この端子がカード端の中央寄りという、ちょっと変わった位置に配置されているが、これに関しては特に意味はないように思われる。 出力端子はDVI×2とHDTV対応のビデオ出力×1(写真3)。Windows上でCATALYST Control Centerをチェックしてみると、若干メモリクロックが遅いものの、定格に近いといって差し支えないクロックで動作していることも確認できる(画面1)。
次にRadeon X1650 XTだが、この製品はメインストリームの最上位に位置付けられるモデルとなる。AMDにとってこのセグメントは、昨年10月に発表されたRadeon X1600 XTが長く一線で支え、今年9月にようやく上位モデルとなるRadeon X1650 Proを発表した。 しかし、Radeon X1650 Proは、GeForce 7600 GS対抗の製品となっており、その意味では、メインストリーム向けでも少し下に位置付けられる製品だったのである。つまり、今日まで投入されずにおかれていた、3月発表のGeForce 7600 GTに対抗する製品が、ようやく登場したわけで、大きな意味を持つ製品なのである。 そのスペックは表2にまとめている。Radeon X1650 Proは従来のRadeon X1600 XTと同じコアを使っていたが、今回のRadeon X1650 XTはRadeon X1950 Proと同じく80nmプロセスで製造される新コアとなる。 Radeon X1650 XTは、Radeon X1950 Proと比べ、動作クロックは近いが、ピクセルシェーダ/ROPユニットがちょうど3分の2になっており、ここがパフォーマンスの差を生む大きな要因となりそうである。
【表2】Radeon X1600シリーズスペック比較
今回試用するRadeon X1650 XT搭載製品は、ASUSTeKの「EAX1650XT/2DHT/256M/A」である(写真4)。この製品は、ボード自体はリファレンスに準拠しているようだが、クーラーはオリジナルのものが採用されており、リファレンスデザインよりも若干厚みのある仕様となっている。 目立つ点は、メインストリーム向け製品としては初めて電源端子を備えている点だ(写真5)。これまでメインストリーム向け以下のセグメントに向けた製品を使っている人がアップグレードパスとして本製品を検討している場合、電源ユニットにPCI Express用電源端子があるか、事前にチェックしておきたい。
出力端子はこちらもDVI×2とHDTV対応のHDTV出力の構成(写真6)。動作クロックはほぼ定格通りである(画面2)。ちなみに、AMD Overdriveは有効にならなかったので、オーバークロック機能を期待している人は注意されたい。
さて、ここで、Native CrossFireについて触れておきたい。既報の通り、このNative CrossFireは2本のブリッジケーブルを用いて、NVIDIA SLIのようにケース内で2枚のビデオカードを接続する仕組みだ。Radeon X1950 ProとRadeon X1650 XTは両製品とも、このコネクタを有している(写真7~9)。
このケーブルは、SLI用ものものよりピンが多く、幅も広いものとなっている。NVIDIA SLIの場合、初期のころは基板を用いたものが主流で、後にフレキシブルケーブルを用いたものが登場したが、Native CrossFireは現時点ではフレキシブルケーブルを用いたものしか見受けられない(写真10、11)。 コネクタの向きは問わないようで、どちら向きに挿しても動作やパフォーマンスに影響は出なかった。ただし、2本を接続しないとCrossFireを有効にすることはできないので、ブリッジケーブルは必ず2本用意する必要がある。 そこで問題になってくるのが、ケーブルの供給についてだ。すでに両製品とも秋葉原で販売が開始されているが、このケーブルが付属していないパッケージが存在しているのである。AMDの公式見解ではビデオカードパッケージに1本のケーブルが付属し、これを2パッケージ購入すれば、ビデオカード×2枚とブリッジケーブル×2本が揃う、ということになっている。しかし、現実には付属していないパッケージがあり、ケーブルが入手できないという事態が発生している。 また、ASUSTeKでは、中身は同じビデオカードでありながら、パッケージを通常版とCrossFire版に分け、CrossFire版に2本のブリッジケーブルを同梱する、といった手法を採っている(写真12)。この方法はCrossFireを構築しない人にはケーブルが無駄にならないメリットがあるが、全く同じビデオカード2枚でCrossFireを構築できるというNative CrossFireの利点は薄らいでしまう。
いずれにしても、ビデオカード側でケーブルを供給するという方針のようだが、今後、マザーボードのスロットの位置によってはケーブルが届かないという事態が考えられる。現状、CrossFireに対応した製品は、PCI Express x16スロットの間隔は2スロット以下に抑えられていると思うが、3スロットを開けた場合には現在のNative CrossFire用のケーブルは使えなくなってしまう。 つまり、CrossFireに対応したマザーボードは、この制限に捉われて設計の自由度が損なわれてしまう。そのため、3スロット以上の間隔を持たせたマザーボードを出したいメーカーは、ブリッジケーブルを付属して売ることになってしまうだろう。 こういった点から、提供方法という観点では、NVIDIA SLIの「マザーボードにブリッジケーブルを付属する」という方式のほうが良いように感じられる。ただこれは、NVIDIA SLIは、対応チップセットがNVIDIA製に限られるからこそ採れる手法と言える。 というのも、(今後はどうなるか不透明なものの)現時点ではIntel 975XやIntel P965もCrossFireに対応しているが、こうした他社製チップセットを搭載するマザーボード全てに、Native CrossFire用のケーブルを付属してもらうよう働きかけることは現実的に難しいだろう。働きかけるにしても、他社製チップセットの出荷数に合わせてケーブルも用意しなければならなくなる。また、すでにCrossFire対応チップセット搭載マザーを持っている人への対応も困難だ。 つまり、動作するのがAMD製チップセットに限らないというCrossFireの利点を今後も活かしていこうとするならば、ビデオカード側でケーブルを供給するという体制を取らざるを得ないことになる。AMDからは、搭載ビデオカードを供給するディストリビューターに対して、確実にNative CrossFire用ブリッジケーブルが提供されるよう働きかけることを強く望みたい。 ●両製品のパフォーマンスを検証 それでは、ベンチマークテストを実施していきたい。用意した環境と比較対象は表3の通りだ。Radeon X1950 Proの対抗には、上位モデルのRadeon X1950 XTX、Radeon X1900 XTX、および各CrossFire構成と、NVIDIAのGeForce 7900 GT。Radeon X1650 XTの対抗にはGeForce 7600 GTを用意した。使用したビデオカードは写真13~16の通りである。ビデオカードごとにドライババージョンが一部異なるが、これはドライバによって動作するビデオカードに制限があったためである。 なお、今回はCrossFire Xpress 3200をベースとした環境であるため、SLIのテストは行なっていない。また、テストする解像度は従来の1,024×768ドット、1,280×1,024ドット(F.E.A.R.のみ1,280×960ドット)、1,600×1,200ドットに加え、ハイエンド向け製品のみ1,920×1,200ドット環境も実施している。
【表3】テスト環境
では、まずは3DMarkシリーズの結果から見ていきたい。3DMark06(グラフ1~3)、3DMark05(グラフ4)、3DMark03(グラフ5)の各結果である。 3DMark06の結果が一部抜けているが理由は3つあって、1つは上記の通りメインストリーム向けテストで1,920×1,200ドットを省いているため。もう1つが、GeForce 7900/7600ではHDRテストでアンチエイリアスを有効にできないため。そして、もう1つが、Radeon X1950 ProのCrossFire環境で1,920×1,200ドットのアンチエイリアス有効時にテストが完走しなかったためである。最後の理由はおそらくドライバの問題だと思われ、いち早いブラッシュアップに期待したい。 パフォーマンス面だが、まずRadeon X1950 Proに着目してみると、上位のRadeon X1950/X1900 XTXとは大きなパフォーマンス差が現れている。アンチエイリアスや異方性フィルタを適用したときのスコアの落ち込み具合も上位モデルより大きく、明確な性能差があることが分かる。 一方、シングルビデオカードのみの検証とはなるがGeForce 7900 GTとは良い勝負になっている。3DMark06ではHDR/SM3.0テストでの強さがあって、そのほかはほぼ同レベル。3DMark05ではRadeon X1950 Pro、3DMark03ではGeForce 7900 GTが若干有利といったスコアになっている。 このほか、3DMark06のSM2.0や3DMark03の結果が分かりやすいが、アンチエイリアスを適用したときのスコアの落ち込みはRadeonシリーズが大きく、異方性フィルタを適用したときのスコアの落ち込みはGeForceシリーズのほうが大きいという、これまでの関係も、この両製品は受け継いでいる。 また、全般に高負荷でもRadeon X1950 Proのスコアの落ち込みは小さく、このあたりはRadeon X1950シリーズの大きな特徴の1つであるメモリのリングバスが功を奏しているのかも知れない。 他方、Radeon X1650 XTについてだが、こちらはGeForce 7600 GTに対して、若干分が悪い印象を受ける。GeForce 7600 GTを安定して上回れているのは3DMark05のみで、あとは、3DMark06のHDR/SM3.0テストがやや上回る程度。 ただ、後述する実際のゲームを利用したテストでは、もう少し健闘しているのと、CrossFire構成にしたときのパフォーマンス伸びは目を見張るものがある。3DMark06のSM2.0テストの一部では2倍以上のスコアを出しているところがあるほどで、このビデオカードにおけるCrossFireの効果はかなり大きいという印象を受けている。
さて、続いては実際のゲームを利用したベンチマークを実施したい。テストは「Splinter Cell Chaos Theory」(グラフ6、7)、「F.E.A.R.」(グラフ8、9)である。本連載で取り上げているCall of Duty 2については、Radeon X1950 Proでは完走しない条件や異常と思われるスコアが頻発したほか、Radeon X1650 XTでは全環境でエラーが発生して完走しなかった。つまり、本稿の主題2製品でまともに動作しない状況であるため、今回は割愛している。 結果であるが、Radeon X1950 Proはやはり上位モデルとの差が大きい。今回の結果でいえば、確実に解像度一段階分程度の差はある。クオリティはそれほどこだわらないが、一定以上のフレームレート稼ぎたいという人には悪くない選択肢かも知れない。 GeForce 7900 GTとの比較では、解像度が低い状態ではいずれもGeForce 7900 GTが良い結果を見せるが、負荷が高くなるとRadeon X1950 Proが強さを見せている。特にSplinter Cellは分がある印象で、1,280×1,024ドットの60fps程度のラインで逆転を見せているから、実際の利用シーンにおいても意味がありそうだ。 F.E.A.R.では1,600×1,200/1,920×1,200ドットにアンチエイリアスなどを適用した場合に逆転するが、このときのフレームレートはすでに30fpsを切るレベルになってしまっているから、現実的にはGeForce 7900 GTのほうが良い環境でプレイできるといえるだろう。 Radeon X1650 XTは、3DMarkシリーズでは苦戦していたが、こちらではわりと良い結果を見せた。今回テストに用いた両テストにおいて、フィルタを何も適用しない場合こそ劣っているものの、フィルタを適用した場合は、いずれもGeForce 7600 GTを上回る性能を見せている。解像度を1つ下げてアンチエイリアスなどのフィルタで高クオリティ化を目指すスタイルに向いた製品といえそうだ。
最後に80nmプロセス化によって抑制が期待される消費電力である(グラフ10)。アイドル時に大きく消費電力を抑制できる最近のRadeonシリーズの特徴は引き継いでいるが、対GeForce 7シリーズという関係においてピーク消費電力の高さは変わっていない。 ただ、Radeon X1950 ProのCrossFire構成と、Radeon X1950 XTXのシングル利用時のピーク電力がそれほど差がないというのは注目できる点で、このあたりは80nmプロセスが功を奏していると見てもいいかもしれない。
●ようやく対抗馬が出揃ったAMD 以上の通り、結果を見てみると、パフォーマンス面においてはRadeon X1950 Pro対GeForce 7900 GT、Radeon X1650 XT対GeForce 7600 GTといった図式において、いずれも拮抗しており、主に利用するアプリケーションが、どちらのビデオカードにより最適化されているかで選んでいいと思う。 価格面ではRadeon両製品に分がある。これを加味した、コストパフォーマンスの点ではRadeon X1950 ProやRadeon X1650 XTは魅力的な製品だと思う。だが、ワット当たりの性能の点ではGeForce 7900 GTとGeForce 7600 GTにに分がある。 そんなわけで、今回の製品は、どちらが上か下かということよりも、とにかくNVIDIA対抗の製品をAMDが出してきた、というのが非常に大きい意義を持っていると感じている。つまり、ユーザーにとって同等レベルのパフォーマンスの出す両社の製品が出揃ったことで、求めるものの違いに応じて選択の幅が広がったということになる。これは素直に歓迎していいだろう。 □関連記事 (2006年11月24日) [Text by 多和田新也]
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