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離島を救うITの前提




 「ブログで離島応援計画」なる地域振興プロジェクトが始まった。マイクロソフトが中心となり、blogを使って、ITエンジニアや一般ユーザーのアイディアを募り、島おこしにチャレンジ、最終的に決まったアイディアは、それぞれ実際に、実施企業の参入を募り、導入まで行なう予定だという。

●島の悩みは何処も同じ

 今回、このプロジェクトに参加するのは、隠岐の島(島根県隠岐の島町)、十島村(トカラ列島:鹿児島県十島)、式根島(東京都新島村)の3島で、期間を定め、順にblogを開設する。島を応援しようとする参加者は、自分のblogからトラックバックしてアイディアを披露するという仕組みになっている。

 発表会には3島の実行委員会代表が上京し、各離島の現状を訴えた。

 隠岐の島町長の町田和久氏は、隠岐が国立公園でありながら、観光が下降線をたどり、多いときでは23万人を超えていた観光客の入れ込みが、現在では14万人台まで下がってきているとし、この流れに歯止めをかけ、1年を通じて集客できるようになりたいという。IT技術者の知恵で情報通信技術を駆使してもらい、住民の生き様を検証しつつ、新たな島起こしを提案してほしいと訴えた。

 また、十島村助役の福満征一郎氏は、自分たちもユビキタス社会の恩恵を受けたいとひとこと。十島村は7つの有人島と1つの無人島で構成される村だが、そのうち2つの島には光ケーブルが乗り上げている。にもかかわらず、村の住民は誰1人としてその光ケーブルを使えない。というのも、そのケーブルは奄美大島、沖縄向けのもので、島には分岐していないからだ。

 式根島観光協会長の清水欣吾氏は、かつて4名が新島から移住してきて以来、人が住むようになり、ちょうど今年が120年目にあたることをアピール、数々の入り江と海水浴場、そして温泉に恵まれた癒しの島を名乗る。だが、20年前には4~5万人訪れていた観光客も、現在は1万人程度となり、これから家族連れ観光客を誘致していくには、島をどうしていけばいいのか悩んでいるとのことだった。

●回線あってのIT

 3島が揃って観光客の誘致を期待しているのは偶然ではないだろう。だからこそ、彼らは強く自然をアピールする。だが、その自然とITが、果たしてうまく融合できるのだろうか。むしろ、離島の都市化というアプローチは考えられないのだろうか。とりあえず、考えられることは非現実的なことも含めて全部考えてみよう。

 モノもヒトも情報も、そのすべてが集中するのが都市である。だが、こと情報に関してはIT技術の発達で、地域格差はなくなりつつある。インターネットショッピングで購入した商品は、翌日、遅くとも翌々日には宅配便で届くし、ましてや、iTunes Storeで購入した楽曲は、クリックした数秒後に楽しめる。もちろん、IP配信されれば、放送だってリアルタイムで楽しめる。遠隔治療も現実的な視野に入ってきている。少なくとも、ブロードバンドがあれば、かなりの僻地であっても、それなりにIT社会の恩恵をこうむれるはずだ。

 でも、十島村に渡る村営フェリーは、週2回の運航だ。前述のように光ケーブルを横目に見ながらブロードバンドもない。こともあろうに、十島村役場は鹿児島市内にあるというのだから驚く。今日クリックした商品が、明日届くということはありえないし、数MBの楽曲のダウンロードも、不安定なアナログ回線ではたいへんだろう。たぶん、加入電話のネットワークにも無線区間があったりして、56kbpsでの接続など、夢の夢に違いない。むしろ、3Gネットワークさえきていれば、携帯電話でつないだ方が速いくらいかもしれないと思って調べてみたら、島内の一部ではNTTドコモのFOMAが利用できるようだ。

 離島は、都市と陸続きではないという点で、大きなハンディを背負っている。陸続きであれば、多少へんぴなところでも、回線の確保はなんとかなりそうだが、海底ケーブルはやはりコストがかかりすぎる。長野の志賀高原は、中継ビルとの距離がありすぎて、ADSLが使えないため、ホテルや旅館がこぞって光回線を導入することを条件に、NTTに対してFTTHの敷設を要求、首をたてにふらせたそうだが、そのおかげで、今は、日本でも有数のブロードバンド高原リゾートとなっている。

 期待できそうなのはWiMAXだが、1台のアンテナでカバーできるのは半径約50kmだ。でも、いくら離島だからといっても、通常の加入電話や携帯電話は使えるわけで、当然そのための中継点はあり、コストのことを考えなければ、1.5Mbpsのディジタルアクセス1500相当の回線くらいは使えるようだ。ということは、島内のどこかにWiMAXのアンテナを設置すれば、島内をカバーするLANは張れるはずだ。ただ、2~11GHzと、かなり高い周波数を使う規格だけに、悪天候時の不通が心配だ。

 どっちにしても、現状で100Mbps程度のブロードバンドインターネットを島の各戸に引き込むのは、コストの点できわめて難しいにちがいない。隠岐の島くらいの距離ならWiMAXでなんとかなりそうな気もするが、こればかりはやってみないとわからない。

 そういう状況で、ITを駆使して何かをするのはたいへんだろう。水道や電気のように、ブロードバンドインターネットはあって当たり前という状況に慣れきってしまった立場では、それがかなわないロケーションでの発想は至難だ。でも、この機会にインターネットにつながらないITの活用案を見いだせれば、それはそれで意義があるのではないだろうか。

●地域をおこすとはどういうことなのか

 もし、各島が求めているのが観光客の誘致であるとすれば、果たして、島を訪れる観光客はインターネットを期待するのかどうか。その点は判断が難しい。TVやラジオがなければ不満だろうし、インターネットもあるにこしたことはないが、それが島を訪れるか訪れないかを決める第一要因にはなるのだろうか。インターネットがあるからこそ、3泊しかできないところを1週間滞在できるという事情も無視するわけにはいかないし、もしかしたらインターネットもTVもラジオも新聞もないなら行くという層もあるかもしれない。

 そもそも、地域をおこすとはどういうことなのか。物見遊山でやってくる観光客が大量にいればそれでいいのだろうか。それによって失われるものもあるわけで、代償として捨てなければならないものを、できるだけ少なくすることを考えなければなるまい。

 地域に暮らす若者の地域外への流出を阻止することは重要課題かもしれない。でも、犠牲になって、やりたいことができないのでは若者がかわいそうだ。先祖代々の土地に住み続けるのは大事なことだし、それを否定するつもりもないが、今回のプロジェクトに参加する離島の側も、なぜ、観光客が少なくなっていったのか、なぜ、ひたすら過疎に向かっているのかという、根本的な問題を考える必要があるだろうし、今回のプロジェクトが単にお祭り的なイベントに終わらせないためにも、新しい未来に向けた自分たちの立ち位置を、きちんとblogで表明していくことを怠らないでほしい。

 都市のまっただ中でも、たとえば、自前の土地で家賃を支払う必要がない店舗が、経営努力を怠ったことで地元の商店街がすたれてしまうようなことが起こっているのだ。都会の人間にとっても、実は、地域おこしは他人ごとではなかったりするわけだ。

□マイクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/
□「ブログで離島応援計画」のホームページ
http://www.microsoft.com/japan/technet/community/events/dream2006/default.mspx

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(2006年10月13日)

[Reported by 山田祥平]


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