シャープが、AQUOSブランドを冠したパソコンテレビ「インターネットAQUOS」を投入してから4カ月が経過した。 インターネットAQUOSは、同社の液晶TV「AQUOS」の32型および37型に、PCとの連動機能を追加。さらに、セパレート型として開発したPC部とを組み合わせて製品化したTV機能中心型のPCである。 9月5日には、新たに20型液晶AQUOSと組み合わせた新製品を発表。これを9月下旬から市場投入することで、より購入しやすい価格帯での製品を追加。販売に弾みをつける考えだ。
●TV売り場での販売が遅れる この4カ月の取り組みを見る限り、インターネットAQUOSは、シャープが当初想定したほどの実績までは達していないようだ。シャープの国内営業本部長である大塚雅章専務取締役は、「当初の計画に比べると苦戦しているのは事実」と語る。 同社の発表によると、7月末までの3カ月間の累計出荷台数は2万台。当初計画では、月間で25,000台規模の出荷を予定していたのに比べると、出足の鈍さは否めない。 その最大の理由は、TV売り場での苦戦だといえる。 4月に行なった製品発表会見では、「基本的にはTV売り場で販売したい」(大塚専務)としていたものの、2万台の販売実績の6割以上がPC売り場によるもの。TV売り場での扱い量が少なかったことが予定を下回る結果につながっている。 実は、年間30万台という計画は、TV事業としての観点からの数値の算出であり、PC機能を持つ新たな分野の製品としては、異例の出荷計画であった。つまり、この数値はTV売り場での販売が成功してこそ成り立つものだといえる。
TVという観点で見た場合、売り場では、やや価格が高い製品に映る。その価格差が、PC機能やレコーダ機能が付加されていることが理由であると説明しても、インターネットAQUOSそのものの製品コンセプトや利便性が、まだ浸透していない中では、どうしても説明型製品となり、店員も手間がかかる。結果として、店員は、手離れのいい、通常の液晶TVを販売してしまうという傾向が強い。 シャープでは、1,000店舗を超える店舗のTV売り場担当者にインターネットAQUOSの製品説明会を行ない、販売体制を整えたが、TV売り場の店員に、PC機能を説明させて販売させるという構図を完全に作り上げるには、残念ながらまだ時間がかかりそうだ。 もう1つ、TV売り場で苦戦を強いられた理由がある。 それは、TV売り場において、インターネットAQUOSの強みである、インターネットを接続した環境でのデモンストレーションがほとんどできなかったことだ。 PC売り場においては、実際にインターネットに接続しながら操作できる製品展示環境がかなり増加してきたが、量販店のTV売り場にまでインターネット回線を敷いている店舗は、まだ数えるほどしかない。インターネットAQUOSだけのために、TV売り場に回線を敷こうという販売店は残念ながらまだ少ない。その結果、通常の液晶TVとの最大の差別化ポイントをアピールできないまま展示されるという状況に陥っていたのだ。これでは、インターネットAQUOSの良さをTV売り場でアピールすることができない。40万円を越える商品を、最大の特徴となる機能のデモ環境が整わずに、店員の説明だけで売るというのは、やはり至難の業だ。 ●PC売り場では3分の2のシェアを獲得 一方で、PC売り場での人気は上々だ。 全国の量販店のPOSデータを集計しているBCNランキングによると、8月の23型以上の液晶TVを搭載あるいは付属したデスクトップPC分野において、インターネットAQUOSの販売台数シェアでは、なんと55.6%と過半数のシェアを獲得している。さらに、同じカテゴリーで地上デジタルTVチューナ搭載PCに限ってみると、68.3%と、3分の2以上のシェアを獲得しているのだ。 この分野は、富士通の「DESKPOWER TX」シリーズや、NECの「VALUESTAR W」など、PCメーカーが先行していたが、インターネットAQUOSを発売以来、シャープが一気にシェアを拡大している。 「従来のAVセンターPCとしての展開に比べると、販売台数は大幅に異なる」(シャープ情報通信事業本部パーソナル&ホームメディア事業部PC事業推進センター企画グループ 笛田進吾チーフ)と、PC売り場においては、AQUOSブランドが大きな差別化となっている。 PC売り場では、TV売り場とは異なり、インターネットのデモンストレーション環境の整備と、PC機能をきっちり説明できる店員がいる。そこに液晶TVのAQUOSのブランドが加われば、まさに鬼に金棒である。
このようにTV売り場と、PC売り場では、評価がまったく異なる製品となっているのだ。 ●インターネットAQUOSの機能が認知されれば売れるのか? だが、インターネットAQUOSが、TV売り場でまったく受け入れられていないのかというと、そんなことはない。 例えば、量販店のTV売り場で、お得意様を対象にしたイベント型の販売会を実施し、そこで他の液晶TVと混じって展示されていても、きちっと説明をすれば購入される例が少なくないという。 「ある量販店では、月に数台しか売れなかったものが、お得意様を対象にしたイベントにおいては、しっかりと説明をさせていただく体制を作ったところ、期間中だけで数10台ものインターネットAQUOSが販売できた。きちっと伝えれば、必ず売れるという手応えは掴んでいる」と笛田チーフが語る。 その笛田チーフの自信は、こんなデータからも裏付けられる。 インターネットAQUOSを購入したユーザーにアンケートしたところ、インターネット機能を利用していないユーザーは皆無であり、ほとんどのユーザーがその利便性に大きな評価を与え、高い満足度が得られているのである。購入層は30代から50代までが中心となり、リビングにおいて、液晶TV+インターネットという、インターネットAQUOSならではの使い方が始まっているのだ。 まさに、「使って納得」という形の商品だともいえよう。 「パソコンテレビというコンセプトや使い方を浸透させる努力は、まだまだ必要。新たな使い方だけにその浸透には時間がかかると覚悟している。当社の白物家電であるヘルシオも、レンジ機能を搭載するのではなく、水で焼くというコンセプトが世の中に定着するまで、それなりの時間がかかった。新たな提案であるパソコンテレビの浸透も同じこと」と大塚専務取締役は語る。 ●新製品では、コンセプトを伝えやすく シャープは、“パソコンテレビ”の浸透に向けて着実に歩を進めている。 例えば、9月に発売する20型ワイド液晶TVモデルでは、パソコンテレビとしてのコンセプトが伝わりやすい内容を盛り込んだ。 新たにピクチャー・イン・ピクチャー機能を搭載し、TV番組を見ながら、インターネットで提供される関連サイトを1画面で同時に閲覧するといった使い方提案のほか、20型ワイド液晶モデルとしたことで、リビングだけでなく、個人の部屋にも設置したいという要求にも対応できるようにした。 そして、今回の新製品での最大の特徴は、インターネットメニューの進化である。
一見、地味に映る機能強化だが、これまでは、「インターネットの接続」という点に焦点を当てていたメニュー構成を、新製品では「インターネットを使う」ことに焦点を絞り込んだメニュー設定へ変化させた。 例えば、従来のインターネットメニューは、「お好みチャンネル」、「IPテレビ電話」、「OCNスーパーチャンネル」、「TV Bank」というように、機能ごとに選択できるものとなっていた。 だが、新たなインターネットメニューでは、これらのメニューのほかに「調べる」、「楽しむ」、「たずねる・伝える」、「学ぶ」、「ファイナンス」といった目的ごとのメニューを用意している。 「調べる」では、検索ポータルサイトに飛ぶのではなく、辞書や百科事典のサイトに、「楽しむ」ではカラオケやゲームなどの特定サイトに直接リンクした。 また、Yahoo!や楽天との提携によって用意したメニューも、それぞれのトップページに飛ぶのではなく、Yahoo!ならば「Yahoo! ショッピング」、楽天ならば「楽天売れ筋ランキング」というように目的を絞り込んだページにリンクするようにした。 「より具体的な使い方ができるにようにメニューからのリンク先を変更した。医師に相談できるQ&Aサイトである『AskDoctors(アスクドクターズ)』などのように、困ったときのお助けサイトや、語学の勉強ができるメニューも新たに用意した。主婦が昼間の空いた時間を利用して、リビングで手軽にインターネットを楽しんだり、家事や生活に必要なことも検索しやすいように配慮している。リンク先は、100以上だが、それを感覚的な操作で、ストレスなく辿り着けるようにしている」(笛田チーフ)という。 一方、インターネットによるデモンストレーションができないTV売り場においても、インターネット接続が擬似的に体験できるように、デモンストレーション用DVDを用意。ユーザーがネットに接続したような操作感覚を体験できるようにした。 「パソコンテレビ、あるいはインターネットAQUOSの認知度という意味では、この4カ月でようやく入り口に立ったところ。8月には、一部番組枠で、長尺のTV CMを開始し、そうした観点からも認知度浸透を図っている。将来のTVの形は、インターネットAQUOSの形になっていくと確信している。それに向けて、今から地道な努力を続けていく」と笛田チーフは語る。 インターネットAQUOSは、「テレビ」を主語としている製品だけに、今後、PCのような年3回の製品サイクルで新製品を投入することは考えていないという。むしろ、テレビの製品投入サイクルに準拠した形になりそうだ。 今後は、2007年1月以降のWindows Vistaの投入を待ち、同社の液晶テレビ事業で掲げている「37型以上はフルハイビジョン」という戦略に則って、新製品投入が図られることになるだろう。 また、画面サイズについても、今回投入した20型ワイド液晶モデルと、既存の32型液晶モデルとの間を埋めるというよりも、46型などのシャープが液晶テレビ事業で掲げる戦略領域での大型液晶モデルのラインアップ強化の方が現実的になりそうだ。 そして、次世代ディスクであるBlu-ray対応も、今後の検討課題ということになる。 「その先には海外戦略も視野にいれなくてはならない。その際には、Viivにどう対応していくかも重要な検討材料の1つ」(笛田チーフ)として、パソコンテレビを取り巻く市場動向と、同社のテレビ事業の展開を視野に入れながら、インターネットAQUOSの事業を拡大する姿勢を見せる。 インターネットAQUOSを、発売4カ月で評価するのは早急すぎるともいえよう。インターネットAQUOSの挑戦は、まだ始まったばかりである。
□シャープのホームページ (2006年9月11日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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