8月29日、Intelはモバイル向けCore 2 Duoプロセッサ(Merom)の価格を公表した。製品発表そのものはデスクトップPC向けのCore 2 Duoプロセッサ(Conroe)と同時に7月27日に行なっていたものの、価格は明らかにされていなかった。また、データシートなどの公式資料も未公表のままだった。 この価格発表と同時にデータシートが公開されたほか、さまざまなPCベンダから搭載ノートPCの発表が行なわれている。また、華々しいアナウンスはなかったものの、Yonahコアを用いたデュアルコアの超低電圧版プロセッサ(Intel Core Duo U2500)も、ほぼ同時にリリースされたようだ。 新しいIntel Coreマイクロアーキテクチャを採用したプロセッサとして、DPサーバー向けのWoodcrest、デスクトップPC向けのConroeに続き、最後に登場することになったモバイルPC向けのMeromだが、3つのセグメントで最も優先順位が低かったのは間違いないだろう。NetBurstマイクロアーキテクチャからの切り替えを急ぐ必要があったサーバーとデスクトップPCに対して、モバイルPC向けにはBanias以来、Intelの言う「モバイルアーキテクチャ」を採用した消費電力の低いプロセッサを提供してきたからだ。 ●過去のモバイル向けCPUと比較 それは確かに間違いないことなのだが、果たしてMeromは本当に消費電力の低いプロセッサなのだろうか。表は、消費電力が問題が深刻化したMobile Pentium 4 M以降のモバイルPC向けプロセッサの動作クロック、動作電圧、消費電力などをまとめたものだ。これを見ると、MeromのTDPがMobile Pentium 4プロセッサMのTDPに相当することが分かる。通常電圧版だけを抜き出してグラフにすると、その傾向は明らかだ。
【表】モバイルPC向けCPU比較
* 一部プロセッサでは高クロックモード時のTypical値が提供されていないため、この場合は便宜上MinとMaxの単純平均を採った
なお、このグラフにはMobile Pentium 4を含めていないが、それはこのプロセッサが特殊なものだから。デスクノート(デスクトップPC向けプロセッサを用いた大型ノート)対策として、デスクトップPC向けのプロセッサにSpeedStepやDeeper Sleepといった省電力機能だけを有効にしたプロセッサがMobile Pentium 4(末尾Mなし)だった。この時点でIntelは、NetBurstマイクロアーキテクチャで、Mobile Pentium 4 Mと同等の熱設計で、性能的にアップグレードしたプロセッサを提供することをあきらめたのだろう。 さて話をグラフに戻すと、Baniasでガクッと下がり、FSB 400MHzのDothanで底を打った後、TDPは再び増加傾向に転じる。そしてついにMeromでMobile Pentium 4 Mにほぼ追いついてしまった。もちろん、Banias以降、TDPが上昇するだけでなく、同時に性能も向上している。Intelは、性能向上により処理に要する時間が短縮される(アイドルの時間が増える)ため、バッテリ駆動時間は変わらない(あるいは若干延びる)とも言っている。 たとえこれが正しかろうと、TDPが大きくなる以上、ヒートシンクや冷却ファンの大型化は避けられず、ノートPCの小型化/薄型化にはどうしても不利になる。同じ筐体、ヒートシンクなら、ファンの回転数を増してしのぐしかない。おそらくIntelは、事前にノートPCベンダに対して、MeromのTDPについて告知していただろうから、それに従って熱設計を行なっていれば良いハズだが、熱設計的に問題ないことと、ユーザーの体感的に問題ないことが一致するとは限らない。誰しも膝の上やキーボードが必要以上に暖かいノートPCは避けたいものだ。 ●Meromが抱える2つの不安 IntelはCoreマイクロアーキテクチャの導入に際し、エネルギー効率に優れたコンピューティングを強調した。それに偽りはないのだろうが、やはり性能を上げていく、というビジネスモデルを変えられないこともまた事実のようだ。モバイル専用だったYonahまでと異なり、今回はデスクトップPCやサーバ用のプロセッサをも置き換える必要があり、ある程度性能の引き上げに力点を置くことは避けられなかったのかもしれない。 デスクトップPCやサーバにとって、ConroeやWoodcrestは大幅にTDPを削減した、低消費電力のプロセッサといって間違いないが、モバイルPCにとってのMeromに同じことは当てはまらない。ましてやTDPがMobile Pentium 4 Mに匹敵するようになっては、危険な領域に近づきつつあるようだ。まだMeromの低電圧版や超低電圧版は発表されていないが、Core Duo(Yonah)の超低電圧版のTDPが9Wであることを考えると、超低電圧版でも二桁に乗る公算が高い。これはかつての低電圧版並の数字だ。NetBurstマイクロアーキテクチャのモバイルプロセッサでは、ついに低電圧版や超低電圧版がリリースできなかったことを考えると、ちょっと不安になってくる。 もう1つ不安を感じるのは、供給体制だ。デスクトップPC向けのCore 2 Duoプロセッサ、特に4MBのL2キャッシュを内蔵したE6600とE6700が発売直後に品薄になったのは記憶に新しい。これは解消されたものの、現時点で大手PCベンダにおけるCore 2 Duo採用率は決して高いとはいえない。もちろん、これにはWindows Vistaの不透明なスケジュール(Vistaのリリース前に、フルモデルチェンジはあまりしたくない)など、他の要素も十分考えられるのだが、プロセッサのリリーススケジュールを前倒ししたことの影響も感じられる。 プロセッサ以上に品不足が言われているのが、965シリーズのチップセットだ。2005年、Intelはチップセットの供給不足を起こし、純正マザーボードにサードパーティ製チップセットを採用する、という事態を招いた。その反省に基づき、965チップセットに関しては300mmウェハを用いた90nmプロセスで製造し、万全の供給体制を目指す、ということだったのだが、潤沢に供給されている感じではない。 ただ、現在高速動作のDRAM、特にDDR2-667以上のDDR2 SDRAMも不足しており、メモリ価格が上昇するだけでなく、入手性そのものが悪化している。DDR2-667クラスのDRAMに、PC用途以外の需要があるとは考えにくいのだが、身の回りでそれほどPCが売れているようにも思えない。かといってIntelとDRAMベンダの両方が同時に製造上の問題に直面したり、需要予測を誤るというのも不自然だ。市場調査等の充実した先進国以外で、PCの需要が急増しているのかもしれないが、ホリデーシーズン(冬商戦)までに解消しないと、大きな問題になるかもしれない。
□関連記事 (2006年9月1日) [Reported by 元麻布春男]
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