そこが知りたい家電の新技術


シャープ 冷蔵庫
「愛情ホット庫搭載 冷蔵庫 SJ-HVシリーズ」
~温かい料理も“保存”する冷蔵庫

SJ-HVシリーズ

発売中

オープンプライス

このコーナーは、メカ好きなPCユーザーの目で、生活家電について取材し、その技術の面白さを探る企画です。(編集部)




シャープ 電化システム事業本部 冷蔵システム事業部 商品企画部長の阪本実雄氏

 シャープが2005年3月に発売した冷蔵庫は、まさに“目のつけどころがシャープ”だった。

 冷やすだけが当たり前だと思われていた冷蔵庫に、料理を保温できる多目的室を設けたのである。「切替室」と呼ばれる部屋を設け、冷蔵または冷凍温度を切り替えていろいろな用途に使えるようにしようという試みは、前からあった。

 しかしそれは、“冷”蔵庫という言葉通り、「冷やし具合」が調節できるものに過ぎなかった。こうした常識を覆して生まれた「愛情ホット庫」は、2005年モデルで「料理が温かい」とされる55度の保温機能を備え、そして2006年モデルでは、「汁物も温かく感じる」という60度の保温も可能になった。

 愛情ホット庫により、これまで、ラップをかけて冷蔵庫で保存し、食べるときに電子レンジで温めていたのが、作ってそのまま入れておけば、温かいままですぐに食べられるようになった。

 「保温できる冷蔵庫」と聞いたときには、単に冷蔵庫にヒーターの入った箱をつけただけのものと思っていた。しかし、実際に取材してみると、それは間違いであることがわかった。

 この愛情ホット庫は、-17度から60度まで、さまざまな温度を設定して、冷凍庫から保温庫にまでなる「フリールーム」だったのである。のちに詳しく説明するが、他の部分と独立しているためにさまざまな使い方ができる。

 日常的に使っている冷蔵庫の、冷凍室と冷蔵室の違いぐらいはわかるが、それが何度なのかはあまりなじみがないだろうと思われる。ここで簡単に一般的な名称と温度を挙げておこう。なお、名称や温度は、メーカーにより多少の違いがある。

   ・冷凍     -15~-18度
   ・ソフト冷凍  -7~-8度
   ・チルド    0~2度
   ・冷蔵     3~5度
   ・野菜保管   8度

●冷蔵庫とは食品の保存場所

圧力グラフ
SJ-HV46K

 「愛情ホット庫」の取材で、まず、最初に出てきたのが、エビの天ぷらだ。たとえば、夕食にエビの天ぷらを揚げた。ところが、家族の1人が夕食に間に合わず、揚げたてが食べられない。普通は、これを冷蔵庫に入れて、あとで電子レンジで温める。

 経験した方ならわかると思うが、天ぷらのようなものを電子レンジで加熱するには、少々テクニックが必要とされる。たとえば、加熱用の紙シートのようなものに包まないと、衣がべたべたしてしまい、とても天ぷらとは思えないシロモノになってしまう。

 しかし、愛情ホット庫を使えば、温かいまま、これを保存しておくことができる。電気代が心配かもしれないが、4時間程度なら、冷蔵庫に入れて、あとで電子レンジで加熱するのとほとんど違いがないという。

 さらに、保温であれば、取り出しても、入れたときとほとんど変わりががない。スーパーの総菜売り場では、ときどき、白熱電球を入れたガラスケースに総菜類が入っているが、あれが保温庫である。まあ、あのような状態で保存されていると思えばいい。

 シャープ 電化システム事業本部 冷蔵システム事業部 商品企画部長の阪本実雄氏は、「冷蔵庫とは、食品を冷やすものですが、これをもっと広く考えると、食品を保存するためのものです。だとしたら、温かいものをどうやっておいしさを保ったまま保存できるかを考えたのがこの商品です」という。つまり、この冷蔵庫は、冷たいものだけでなく、温かいものも保存できる「食品保存」のための装置なのだ。

冷蔵したのち、電子レンジで加熱したエビの天ぷら(左)と、愛情ホット庫で保温したもの(右)。保温したものは、買ってきたときそのままの感じを保っている
【動画】冷凍庫に保存されていたミンチ肉(左)と、愛情ホット庫でサックリ解凍をしたもの(右)。冷凍庫にあったものは、表面まで氷がついており、中も固く包丁で切ることはできなかった(WMV, 左:7.71MB、右:5.57MB)

●どんな構造になっているのか?

 まず、冷蔵庫の基本的な仕組みについて説明しておこう。通常の冷蔵庫は、冷媒と呼ばれる物質の気化熱を使って冷却を行なう。気化した冷媒をコンプレッサで圧縮すると沸点が上がり、液体になりやすくなる。また、このとき気体の温度は上昇する。

 この冷媒気体を、コンデンサ(凝縮器。放熱器とも。いわゆるヒートシンク)と呼ばれる部分で放熱させ、温度を下げて液化させる。高圧状態で液体になった冷媒は、圧力が下がると、今度は沸点が下がり冷媒は気化する。このとき、周囲の熱を気化熱として吸収する。これを行なうのが冷却器(エバポレータ、蒸発器ともいう)である。

 冷蔵庫は、この原理を使って、冷却を行なっている。こうした冷却装置を蒸気圧縮型と呼ぶ。ほかには、ペルチェ素子を使ったものや、吸収型と呼ばれる業務用冷蔵庫などで使われる方式がある。

 さて、最近の冷蔵庫には、冷凍や冷蔵、野菜室など複数の領域に別れているため、空気を冷やして循環させることで、それぞれの領域を冷やすような構造になっている。これを間冷式(冷気強制循環方式)と呼ぶ。循環する空気の量などを変えることで、複数の温度状態を作り出しているのである。

 また、場合によっては、冷凍室などが個別の冷却器を持つ場合もある。このあたりはメーカーによって異なるようだ。シャープの場合、冷蔵室奥にあるアルミのパネルを空気で冷却して庫内の温度を下げている。このようにすると食品に風が当たらず、乾燥が防げるそうだ。

 かつての冷蔵庫では、放熱のためのコンデンサ部分が背面にあった。冷蔵庫の後ろに黒い網のようなものがあったことを覚えている方もいらっしゃるだろう。あれが放熱のためのコンデンサである。これが背面にあったために、冷蔵庫は奥行きが長くなり、さらに壁から少し離して設置しなければならなかった。

 しかし、最近では、コンデンサ自体が小さくなり、底部に収納されているため、奥行きが短くなり、壁により近づけることができるようになった。また、冷蔵庫の表面が結露しないように側面なども放熱パイプが埋め込んである。ただ、省エネを考えると放熱効率を上げたほうがよく、可能なら後ろや左右を空けて設置するほうがいいようだ。

製造ラインからわざわざ持ってきていただいた背面パネル この部分が愛情ホット庫の奥に配置される部分
冷蔵庫内にある空気を循環させるファン。なんだかPC用のものによく似ている 冷やした空気を循環させるための通り道

●「愛情ホット庫」は徹底的な断熱構造の独立部屋

冷蔵庫を製造しているシャープの八尾事業所

 さて、「愛情ホット庫」だが、前述のように、ここは-17度から60度までの温度に設定できる。「温める」部屋がある以上、「冷やす」だけのほかの部屋とは、大きく構造を変えなければいけない。

 そのため、60度や55度に設定しても、ほかの部屋に熱が伝わらないように、分厚い断熱材で囲まれた部屋になっている。容積は機種によって違うが20~23Lぐらいだ。

 パッキンも、熱を逃がさないように密閉性の高いものを利用している。もちろん普通の冷蔵庫も断熱材で覆われているが、さらに徹底的な断熱対策が施されているわけだ。

 愛情ホット庫への冷却された空気は、冷蔵室などとは別経路を通るようになっており、加熱時には、その経路をダンパーで塞ぎ、空気が循環しないように遮断する。

 また、愛情ホット庫を通常の冷蔵室のように使ったときに、特ににおいの強いものや、においがついては困るものを分けて入れることができるように、空気の循環経路には、冷蔵室などとは別に脱臭用の触媒が設置されている。

 加熱は、ヒーターで行なう。ただし、このヒーターは、防爆型の二重ガラス管ヒーターになっている。最近の冷蔵庫ではフロンを利用することができないため、冷媒としてイソブタンというノンフロン物質が使われている。

 これは、可燃性であるため、万一の場合のことを考え、冷蔵庫では二重ガラス管ヒーターが使われているわけだ。ヒーターを二重のガラス管の中に入れることで、表面温度を下げ、万一、可燃性の冷媒などが漏れて接触したとしても引火しないように配慮されている。

保温時のパネル。残り時間が分単位で表示できる 愛情ホット庫を取り巻く分厚い壁。断熱材が入っている 愛情ホット庫。内部は、引き出しと網棚になっている。写真は、SH-HV42Kのもの
二重ガラス管ヒーター。愛情ホット庫では保温用に使われているが、通常の冷蔵庫でも冷却器の霜取り用に利用されている 写真では撮影のため、ドアを開けっ放しにしていたことにより、若干温度が下がっているが、庫内では55度で保温されている 冷蔵庫の一般的な構造。匡体の内側は断熱材でおおわれている。冷却器の下に二重ガラス管ヒーターが配置されている

●温めるだけでもなく、保冷するだけでもない、さまざまな用途

近年流行の、フレンチドアタイプ

 こうしてできた愛情ホット庫だが、冷凍庫や冷蔵庫といった従来の冷蔵庫と同じ機能を持たせ、さらに解凍機能や「あら熱とり」、そして保温までをカバーするようにできている。

 「あら熱とり」は、聞き慣れない人もいるかもしれないが、簡単にいえば、熱い食品をさますこと。このあら熱とり機能は、愛情ホット庫が冷蔵庫の他の部分とは熱的に独立していることを利用し、高温のものを入れ、冷却することであら熱とりの時間を短縮するものだ。

 できたばかりの熱い食品をすぐに冷蔵しようとすると、庫内の温度が上がってしまう。そうなると、電気代もかかるし、保管してある他の食品にも影響が及ぶ。冷たい料理を作るときなど、料理本には「あら熱をとってから冷蔵庫で冷やす」とよく書いてある。普通は、冷蔵庫の外にしばらく置いて熱を冷ますしかない。しかし、これには時間が必要となる。

 このあら熱とり機能は、特に子供のお弁当を作るお母さんに好評だとか。というのは、できたてのご飯をお弁当箱に入れた、そのままフタをしてしまうと、雑菌が繁殖して、ご飯が傷んでしまうからだ。

 このため、普通は、お弁当箱に詰めた後、しばらくフタを開けたままにしてあら熱をとる。これに時間がかかるため、子供のお弁当のために早起きしているお母さんは少なくないという。この愛情ホット庫があれば、早起きしなくてもいいのである。

 解凍機能もある。この機能は、「サックリ解凍機能」と呼ばれていて、完全に解凍するのではなく、冷凍状態にあったものに温風を当てつつ大部分が凍ったまま中心分を-8度程度(ソフト冷凍)にするもの。この状態だと、大部分は凍ったままだが、包丁で切ることができる程度には柔らかくなっている。また、完全に解凍されたわけではないので、再度冷凍して品質を損なうことなく保存することも可能である。

 また、この愛情ホット庫には、コンピュータでいうフェイルセーフの考え方も取り込まれている。たとえば、保温したまま、あるいは解凍したまま、入れたのを忘れてしまうことはよくあることだ。

 このような場合、愛情ホット庫では、一定時間が経過すると、自動的に冷蔵(3~5度)やチルド(0~2度)といったモードに切り替わり、食品が傷むのを防ぐようになっている。前述の保温の場合には、ユーザーが設定した保温時間(最大8時間)を過ぎたら冷蔵になり、解凍の場合は、チルド温度帯で保存を続ける。

 そのほか、ワインの保存など、さまざまな用途に利用できる愛情ホット庫だが、ユーザーは開発者の想定しない用途にも使っているという。

 たとえば、一定温度での保温を利用した調理(とろ火で煮込むようなもの)、食器などを温めるといったことに使うユーザーもいるという。食器を温めておくと、料理が冷めず、おいしさが違う。ハンバーグを作るときにお皿を温めておくと、食べるときの気分も違う。だが、普通だと、食器をお湯に通してフキンで拭くぐらいしか方法がない。夕食など多くの食器を使う場合にはかなり面倒な作業だが、愛情ホット庫に入れておけば簡単に温めることができる。

 冷蔵庫というと単に冷やすだけで、なんだかあまりハイテクな感じがないが、取材してみると、いろいろな技術や研究が使われていることがわかる。たとえば、ドアヒンジ1つにしてもいろいろと工夫がなされているし、静音技術や低消費電力化も行なわれている。いままで冷蔵庫を選ぶのは女房任せだったが、次回は少し研究してみることにしよう、そう感じた取材であった。

□シャープ株式会社のホームページ
http://www.sharp.co.jp/
□ニュースリリース(SJ-HV42K)
http://www.sharp.co.jp/corporate/news/051017-a.html
□ニュースリリース(SJ-HV46K/HV50K)
http://www.sharp.co.jp/corporate/news/060120-a.html
□製品情報
http://www.sharp.co.jp/aijo-hotto-ko/


 「この製品の新機能、どういう仕組みになってるんだろう?」というものについて、メーカーに取材し、“技術のキモ”をお伝えします。取り上げて欲しい生活家電がありましたら、編集部までメールを送って下さい。

→ kaden-watch@impress.co.jp ←

バックナンバー

(2006年7月24日)

[Reported by 塩田紳二]

【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp
お問い合わせに対して、個別にご回答はいたしません。

Copyright (c)2006 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.