●ULV版をついに投入するAMD AMDは、来年(2007年)の中盤以降に投入するモバイルコアに続いて、2008~2009年には、よりモバイルに最適化したコアを出す予定だ。この“第2世代モバイルコア”では、45nmプロセスへ移行し、設計もモバイルにより最適化することで、さらに進んだ電力効率を得られるようにするという。また、より低電力化したコアで、ノートPCだけでなく、新しい市場へも強力なx86コアを広げようとしている。 AMDは、こうしたモバイルコア拡張路線の第1歩として、まず、2007年には、通常電圧版以外に、ULV(超低電圧)版とLV(低電圧)版を投入する。
「新モバイルコアでは、実際には2つのバージョンが登場する。1つは、通常のモビリティスペース向け(通常電圧版)、もう1つはULV版だ」。「ULV版の投入は、2007年の、もう1つの重要な点だ」とAMDのPhil Hester(フィル・へスター)氏(Senior Vice President & Chief Technology Officer)は語る。 AMDは以前から何度もULV版PC向けCPUの投入を検討してきた。現状ではULV版は、モバイルCPUから、低電圧動作品をスクリーニングするだけなので、投入しようと思えばこれまでも可能ではあった。「ULV版の話は、新プロセッサの度に社内で出ている。Rev. F(Revision F)でもULVが検討された。しかし、正式に製品化するとなるとバリデーションやマーケティングにコストがかかる。コストに見合った市場が取れる見込みがないと踏み切れなかった」とあるAMD関係者は、以前語っていた。 AMDは、ULVを製品として出荷しても、十分な規模に市場が育ってきたと判断したことになる。また、パフォーマンス/消費電力の高いモバイルコアでは、市場競争力も十分にあると考えたようだ。ちなみに、65nmプロセスの最初の世代となるRev. Gでも9~11W TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)のULV版のプランがあった。しかし、現在では、ULVはおそらくモバイルコアからスタートすることになったように見える。
●当面はモバイルコアはデュアルコアのみ 現在のプランでは、AMDはデュアルコア版モバイルコアで、ULV領域までをカバーする。ULV向けにシングルコアは計画していない。「モバイルコアは、現在の計画では、全てデュアルコアだ」(Hester氏)。 これは、ライバルIntelとは戦略が異なる。Intelは、モバイルCPUではデュアルコア版とシングルコア版の2系統のダイ(半導体本体)を投入しつつある。IntelのULV版は、デュアルコアとシングルコアで異なるTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)レンジをカバーする。また、Intelは通常電圧版でも、シングルコアのダイ(半導体本体)を継続する。これはCore 2世代でも同じで、IntelはOEMに対して、65nmのCore 2 Duo(Merom:メロン)のダイサイズ(半導体本体の面積)は148平方mm、シングルコアのMerom-Liteは77平方mmと伝えており、ダイサイズが異なる。 それに対して、AMDのモバイルコアは、現状ではシリコン自体はデュアルコアだけだ。もちろん、実際の製品では、片方のコアを無効にしたバージョンも登場する可能性はあるが、物理的には1種類に留めると推定される。 しかし、これは短期的な戦略で、中期的には異なるプランを持つ。 「モジュラーアプローチなので、我々はシングルコア版も必要とあれば設計できる。私の個人的な考えでは、2008~2009年のタイムフレームに、そうしたコアが登場する可能性があると思う。ただし、シングルコアは、ノートPC向けCPUと併存するカテゴリになるだろう。シングルコア版の潜在的な市場はウルトラモバイルスペース、ノートPCとPDAの中間になると考えている。」(Hester氏) つまり、物理的にコアがシングルのバージョンもAMDは検討している。そして、ノートPC市場向けはデュアルコアで、ノートPCよりもさらに小さなフォームファクタ向けにシングルコアと考えているようだ。また、その時点でのシングルコアは、2007年のモバイルコアとは、また違うコア設計になると見られる。
●2008~2009年に第2世代のモバイルコアを投入 AMDは、2008~2009年のタイムフレームでは、さらにモバイルに最適化したモバイルコアを投入すると6月頭に開催したカンファレンス「Analyst Day」では発表している。 「モバイルコアの先、2008~2009年のタイムフレームには、我々は次のモバイルコア群を開発する見込みだ。これは、さらにモバイルと低消費電力に最適化したものになる。最初のモバイルコアは、モバイルの方向への最適化に最初に踏み込んだもの。将来は、さらにウルトラモバイル市場に向けて、踏み込んで(開発して)行く」(Hester氏) つまり、AMDは2007~2008年に65nm版のモバイルコアをノートPC向けに投入するが、そのすぐ後、2008~2009年にはさらにモバイルに最適化したコアを、45nmプロセスで、ノートPCよりも小さなフォームファクタの市場もターゲットにして投入して行くというわけだ。Analyst Dayのスライドでは、モバイルCPUは2008~2009年に次世代コアとなっている。一方、デスクトップCPUは2008~2009年に「コアアップデイト」であって、新コアとはなっていない。AMDはモバイルコアだけを、連続的に革新するようだ。
「ただし、2008~2009年の(モバイル)コアも、完全に再設計というわけでもない。ビルディングブロックアプローチをさらに進めて、その中に新しいプロセッシングエレメンツを含める。また、これまでとは異なる回路ライブラリを使うことも考えられる。45nmプロセスでは、パフォーマンス/消費電力に向けたライブラリと、低電力に非常に特化して設計されたライブラリになる」 つまり、次々世代モバイルコアでも、一部のモジュールは、次世代モバイルコアのブロックをほぼそのまま再利用するが、特定のモジュールをモバイルにさらに最適化することで、コアのパフォーマンス/消費電力の効率をさらに高めるというわけだ。そして、ブロックの組み合わせにより、デュアルコア以外にシングルコア版を派生させ、それをノートPCよりさらにモバイル性の高いデバイスへと適用して行くというビジョンだと思われる。また、回路ライブラリレベルでも、省電力化を図る。
●Geodeが占めるエリアにもモバイルコアを モバイルコアのプロジェクトは、AMDにとってPCスペースだけでなく、より広汎な市場向けのCPUのプロジェクトでもある。同じコアテクノロジを使って、経済的に、非PC以外の市場向けの製品も派生させようというわけだ。Hester氏は、その戦略を次のように説明する。 「モバイル性の高いデバイスのソフトウェアテクノロジを考えてみよう。時間とともにもっともっと汎用デバイスになっていくと、ソフトウェアスタックの複雑性はどんどん増していく。そうすると、x86のような汎用アーキテクチャを使うことが、顧客に対して大きなバリューとなっていく。 今日、そうしたデバイスは組み込みOSと独自のソフトウェア開発環境を使っており、ソフトウェアスタックの多くはベンダー自身が開発している。彼らは、高度なモバイルデバイスやSTB(セットトップボックス)、DTV(デジタルTV)では、x86とそのソフトウェアスタックが、大きなバリューになると、我々に訴えている。AMDが狙うのは、まさにその市場だ」 AMDは、この市場にK7系CPUコアを「Geode」ファミリで提供している。プロセス技術が進むにつれて、PC向けCPUコアを組み込みに適用して行くのは自然な流れだ。AMDは組み込み系向けのCPUコアも、K7系からK8系へと移行させて行こうとしているのだろうか。 「そうだ。だが、K8という言葉はうまくない。K8という言葉は、人によって異なる意味を持つからだ。だから、K8という言葉は使いたくない。コア自体に対する要求項目という観点から話をしたい。 クリアなのは、ノートPCとPDAの中間の市場が興りつつあり、多くの人がそこでは汎用デバイスが必要だと言っていることだ。完全なWindowsソフトウェアスタックが走る(ことが必要)かどうかでは議論はある。しかし、私の意見としては、十分な(性能と機能の)デバイスがあれば、汎用ソフトウェアスタックも走らせることができる。だから、それだけの機能を、プロセッサに入れ込もうとしている。 私は、x86上のソフトウェア(の多く)をそのまま走らせると言っているわけではない。しかし、新しいモバイルデバイスの多くは、いわゆるWindowsソフトウェアスタックの、ある程度を走らせる必要があり、そのためにレガシーPC互換性を必要とすると、我々は考えている。だから、その要求を満たすように、CPUや周辺チップを設計しようとしている。そして、既存の設計をある程度使うなら、追加のコストは少なくて済む」 新世代のモバイルデバイスでは、汎用的な機能のために、x86上のソフトウェアスタックのある程度を使えるようにする必要がある。そのために、性能と機能を備えたx86 CPUコアが必要になる。だから、現行のGeodeより、アーキテクチャが新しいK8系CPUコアを持つモバイルコアをベースに適用するというわけだ。ただし、それはPCの世界のK8とは意味合いが違い、コアのフィーチャもおそらく多少異なると推測される。もちろん、ブランドがGeodeになる可能性もある。 ここでややこしいのは、AMDがTransmetaとも提携したことだ。AMDは、Transmetaの低消費電力CPU「Efficeon」を、AMDブランドでもたらそうとしている。Efficeonのターゲットは、将来のモバイルコアの目指す市場と、ある程度オーバーラップする。 「我々はチップセットベンダーとも独占的なパートナーシップを結んでいる。業界の誰かが素晴らしいテクノロジを持っていて、それがプラットフォームの開発を助けるなら、AMDはそれを提供する。Transmetaとの関係は、その例だ」 ●モバイルCPUのデュアルソケット化 AMDは、モバイルコアをより小さなフォームファクタへともたらす一方、ノートPCでは、HyperTransportを使った拡張も考えている。ノートPCに、セカンドCPUソケットを搭載、CPUまたはコプロセッサを載せることで機能を拡張するというプランだ。 Analyst DayではAMDのMarty Seyer氏(Senior Vice President, Commercial Segment)が、次のような例を挙げて、モバイルでのマルチソケットを説明している。 「モバイルプラットフォームで2つのプロセッサソケットを備えたら、片方のソケットにセキュリティデバイスを載せることもできる。非常に目覚ましいイノベーションだ」 AMDは、デスクトップCPUでは新ソケット「Socket AM2」でHyperTransportを3リンクまでサポートできるようにした。これは、マルチプロセッサ構成のためもあるが、CPUソケットやHTXスロットにコプロセッサを搭載できるようにするためでもある。コプロセッサで、特定アプリケーションの処理を高速化することで、効率よくシステム性能を上げようとしている。そのため、サーバー&デスクトップでは、マルチHyperTransportリンクのサポートで、CPUやコプロセッサの拡張を容易にして行く戦略だ。 しかし、モバイルでは、当面はその戦略は取らない。HyperTransportも、パッケージレベルでは1リンクに留める。シリコンは実際には複数リンクを実装していると見られるが、有効にはしない。 「現状では、モバイルシステムでマルチプロセッサのサポートは計画していない。現状の(Rev. F向けの)『Socket S1』では、確か1リンクしかサポートしていないはずだ。マルチHyperTransportリンクは、おもにデスクトップとサーバー向けだ。しかし、これは現状でだけの話で、もしセカンドリンクを実装できる新パッケージをモバイルスペースに導入すれば、それ(マルチCPUソケット)も可能になる。実際、我々は取り組んでいる」 つまり、現状ではSocket S1の制約でマルチソケットはサポートしないが、将来的には可能性があるというわけだ。ただし、実装面積やサーマルを考えると、ノートPCでは簡単にはいかない。容積や面積に余裕がある大型のノートPCに限られると推定される。 □関連記事 (2006年6月23日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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