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Broadwaterを前面に押し立てたIntelの狙い




●チップセットを強調するCOMPUTEXでのIntel

COMPUTEXの発表会で説明するIntelのAnand Chandrasekher氏(Senior Vice President, General Manager, Sales and Marketing Group)

 台湾で開催されたコンピュータショウ「COMPUTEX」でのIntelは、チップセットを強く前面に押し出した。「Intel 965 Express(Broadwater:ブロードウォータ)」をアナウンス、発表イベントでは、チップセット市場で強さを取り戻すことを強調した。まるで、チップセットこそIntelの生きる道とでもいわんがばかりの勢いだった。

 なぜIntelが、今回のBroadwaterでは、チップセットをそこまで強調するのか。それには2つの理由がある。1つは、チップセットこそが、Intelが2005年、PCで市場シェアを落とした“戦犯”だったからだ。もう1つは、IntelがチップセットをCPUと並ぶ軸として膨大なリソースを割り当てつつあるからだ。つまり、Intelのチップセット部門は、名誉回復を図る必要があり、また、Intel全体としてチップセットに注力しつつある。

 そのため、COMPUTEXでは、新チップセットを力強く打ち出したというわけだ。

 Intelは2005年後半に、PCとサーバー市場で大きくシェアを落とした。Intelが落としたシェアはそっくりAMDに食われ、それが最近のAMDの強気の源となっている。PC市場ではAMDシェアは約20%に達し、Intelを脅かしている。

 Intelは4月に開いた「Spring Analyst Meeting」で、なぜ市場シェアを落としたのかの説明を行なっている。Intelでセールス&マーケティングを担当するAnand Chandrasekher氏(Senior Vice President, General Manager, Sales and Marketing Group)の、その時の説明スライドが下だ。

MSS:Where Did We Lose and Why?
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 Intelがシェアを失ったのは3つのエリア。チャネル、コンシューマ(リテール)、サーバーだ。

 このうちサーバーについては、IntelはAMDに対して競争力のあるロードマップを打ち出せなかったことが敗因だと説明した。しかし、他の2市場についてはチップセットの供給不足が主因にあると、IntelはAnalyst Meetingで説明している。まず、チャネルマーケットについては、2005年前半はCPU不足が問題だったが、後半はチップセットとマザーボードの不足が大きく響いたと言う。コンシューマ市場でも、やはりチップセットの不足がシェアを低下させた。

●チップセットの供給不足とPremiumロゴ問題でつまづく

 チップセットがどれくらい不足したかは、下のチャートに示されている。

 スライドの中の左の図が2005年のチップセットのプロファイルで、いちばん左側の紫色の柱は、Intelが予想した2005年のチップセット需要だ。それに対して、実際の需要は同じく左の図の黄色の柱。つまり、PC市場の堅調で、予想をはるかに上回る需要があったことになる。そして、左の図の水色の柱がIntelが実際に供給できたチップセットの量。簡単に言えば全然足りなかったわけだ。

Regaining MSS:Chipset Supply
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 マザーボードも同様だ。下のスライドの左側が2005年。黄色の柱が需要で、水色の柱がIntelの供給量。これも、話にならないくらい不足してしまったことがよくわかる。

Regaining MSS:Intel Motherboard Supply
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 Analyst MeetingのWebcastでは、Chandrasekher氏が、チャネルはIntelのマザーボードに依存しているため、影響が大きかったと説明している。その結果、Intelは、ATI Technologiesチップセットのマザーボードを急きょ投入するなど、対策を打った。Intelが、他社製チップセットを載せたマザーボードを出したのは、初めてのことだった。

 このほか、Intelチップセットのパフォーマンス問題も市場に影を落とした。Microsoftは、Windows Vistaの導入に当たって、スキューを分けて、上位スキューに“Premium”ロゴを与えるプログラムを始める。ところが、Intelのグラフィックス統合チップセット「Intel 945G」がVistaのPremiumロゴをパスしない可能性がある、という観測が流れた。

 その時点ではWindows Vistaは2006年秋冬の登場予定だったため、Vista Premiumへのアップグレードが可能かどうかが、PC設計上の重要なポイントになりつつあった。そのため、PCベンダーが一時、Intelの統合グラフィックスを採用していいものかどうか、悩む一幕があった。この問題は、IntelとMicrosoftの協議で解決へ向かったわけだが、Intelの統合グラフィックスが、Vistaの3Dグラフィックスインターフェイスに十分な性能かどうかは疑問が残ってしまった。

 こうしたわけで、2005年後半のIntelチップセットはさまざまな面でガタガタの状態にあった。そこで、巻き返しを急いで始めた。

 その結果が、まずチップセット供給の立て直しだ。上のチップセットの供給のスライドでは、右が2006年の計画を示している。一目瞭然のように、需要予測を示す黄色の柱を、供給計画の水色の柱が上回っている。マザーボードの図も同じだ。つまり、Intelはチップセット製造をかなり強化して、不足が再発しないように構えるというわけだ。

●コストを犠牲にして拡張したBroadwater

 性能面、機能面でも強化を行なう。元からIntelは、Broadwater世代でチップセットを大幅に強化する計画だった。Broadwaterにどれくらい力が入っているかは、下のスライドが明確に示している。

Chipset Unit Costs
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 スライドが示すのはチップセットのコスト。緑がIntelチップセットの平均コスト、黄色がBroadwaterのコストを示している。これを見るとBroadwaterのコストが飛び抜けて高く、現在のチップセットのコストの2倍以上なのがよくわかる。Analyst Meetingの説明では、Broadwaterのコストは製造Fabでのラーニングカーブ(学習曲線)が上昇し、歩留まりが向上するとともに下がるという。

 しかし、それでもBroadwaterは高コストなので、Broadwaterの比率が高まるにつれて、チップセットの平均コストがどんどん上がる。Broadwater系が下まで浸透する2007年末には、チップセットの平均コストは今よりかなり上がってしまう。つまり、Broadwaterは、これまでよりコストをかけても機能を強化したチップセットということだ。

 Intelチップセットには、一定のサイクルと法則がある。ノースブリッジチップ(MCH)の過去3~4年のセオリーはこうだ。

○プロセス技術はCPUプロセスの1世代遅れ
○プロセス技術を2年毎に刷新
○トランジスタ数を2年毎に約2倍
○内部アーキテクチャを2年に1度刷新
 翌年に拡張アーキテクチャ版を投入
○ダイサイズ(半導体本体の面積)は100平方mm以下でほぼ一定

●2年毎のプロセス技術の刷新でアーキテクチャも刷新

 プロセス技術については、Intelは、先端FabでまずCPUを製造し、CPUが次のプロセスに移行すると、空いた製造キャパシティを使ってチップセットを製造する。CPUが90nmの間は、チップセットは130nm。だから過去2世代のIntel 91x系(Grantsdale:グランツデール)やIntel 94x系(Lakeport:レイクポート)は130nmプロセスでの製造だった。

 チップセット製造のこのパターンは、下のIntelのプロセス移行のスライドを見るとよくわかる。先端プロセスは、CPUの製造が次のプロセスへと移行すると、いったん製造規模が縮小する。しかし、その直後に、再び製造規模が上がる。これは、チップセットの製造をスタートしているからだ。Intelがチップセットを本格化した180nm以降は、この傾向が見事に顕著になっている。

Intel's Technology & Manufacturing Pipeline
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 プロセス技術を1世代進めると、同程度のサイズのダイに2倍のトランジスタを載せられるようになる。例えば、Intel 86x系(Springdale:スプリングデール)世代ではトランジスタ数は2,000万を下回っていた、それがアーキテクチャを刷新したGrantsdaleでは3,700万ほどになり、Lakeportではさらに若干上がったと見られる。

 トランジスタ数が2倍になれば、チップセットの内部アーキテクチャもそれに見合った拡張が可能となる。だから、Intelは内部アーキテクチャを、プロセスの変わり目で刷新する。つまり、アーキテクチャの抜本的な刷新は、2年サイクルとなる。前回の節目はGrantsdaleで、ここでPCI Express、DDR2、DirectX 9グラフィックスを一気に導入した。ダイサイズはSpringdaleとほぼ同程度で、一気に機能を拡張できたのは、130nmプロセスへと移行したからだ。

 当時は、Grantsdaleで一気に全てを刷新するのは冒険に見えた。しかし、プロセスの移行を考えると論理的で、また大幅なアーキテクチャ革新を2年に1度に留めることを考えても論理的な移行だ。新アーキテクチャの翌年は、Grantsdale→Lakeportのパターンのように、小幅なアーキテクチャ拡張を行なう。

●チップセットを大型化して機能を強化するBroadwater

 そして、今回のBroadwaterは2年毎のアーキテクチャ革新の節目となる。過去2世代は、130nmプロセスだったのが、Broadwaterから90nmプロセスになり、内部アーキテクチャは刷新される。しかし、前回のSpringdale→Grantsdaleの時とは異なり、今回は同程度のダイに留めるのではく、ダイサイズ自体も大きくしている。Analyst Meetingでも、チップセットの平均ダイサイズが大きくなることが言及されていた。実際、Broadwaterでは、110平方mm程度のサイズになっているように見える。

 ちなみに、Broadwaterでは、トランジスタ数は前世代の2倍よりさらに増えたと言われている。ダイが増えたとすると、2.x倍の増加も当然となる。トランジスタ数は公表されていないが、おそらく、8,000万を超えると推定される。

 つまり、Broadwaterはダイを増やしてトランジスタ数を従来のセオリー以上に増やし、機能を一気に拡張したチップセットということになる。ちなみに、上のセオリーは、じつは過去の3世代のもので、その前のIntel 84x系(Brookdale:ブルックデール)までは、Intelチップセットは、より小さかった。90平方mm以上へと一気に増えたのはSpringdaleで、これは、デュアルチャネルメモリ化などでダイ上で面積を取るメモリIOパッドが増えたことなどが影響していると見られる。

 簡単に言うと、IntelはSpringdaleで1回ジャンプをし、それからしばらくフラットな枠内で機能を拡張していたのが、Broadwaterで再びジャンプをしたことになる。チップセットを、より大きく、より機能を強化する節目が、Broadwaterでまたやってきたわけだ。

 こうして見ると、Broadwater発表でのIntelの狙いがよくわかる。Broadwaterでリセットすることで、Intelチップセットへの供給と性能での不安を払拭し、CPUシェアの回復を助けようというわけだ。しかし、Broadwaterの意味はそれだけではない。次回も引き続き紹介しよう。

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(2006年6月12日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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