NECのVoToLは、個人的にやりたかったことがほぼ全部できるポータブルメディアプレーヤーとして、大きな期待を持って出荷を待ち望んでいた製品だ。ほぼ1カ月の発売延期の末、ようやく出荷が開始された。ボトルがボツルにならなくて本当によかった。NECから量産機を借りることができたので、その使い勝手を検証してみた。 ●事実上の標準としてのiPod環境とVoToLの出荷開始 現在、ポータブルメディアプレーヤーとして、iPodの圧倒的な地位を否定することはできない。もはや、事実上の標準、いわゆるデファクトスタンダードとして君臨しているといってもかまわないと思う。 手元では、60GB iPod photoを使っているが、96Kbpsでエンコードした曲数が18,000曲を超えたあたりで、残り容量不足に苦しんでいる。動画の再生には興味があるし、ビデオPodCastも充実してきているが、動画を収録する容量を確保できない。最新機種にも食指は動くのだが、ハードディスクの容量が60Gを超える機種が存在しないので、積極的に買い換えるまでにはいたっていない。仕方がないので、ジャズやクラッシックを削除するとか、ベスト盤などで重複する曲を削除するなどしながら、新譜の追加に対応しているといった状況だ。 そんなタイミングで登場したのがVoToLだ。この製品のもっとも大きなセールスポイントは、そのユニークなデザインもさることながら、8MbpsのMPEG-2ファイルをダイレクトに再生できるなど、多彩なメディアフォーマットに対応している点にある。本当なら3月下旬に受注を開始する予定だったが、それが延期され、1カ月後の4月25日に受注開始、翌日から出荷が開始された。 音楽再生にiPodを使っているぼくは、iTunesのデフォルト形式であるAACを使ってCDのデータを蓄積している。ビットレートは96Kbpsだ。アルバムの枚数にして1,500枚程度だが、これをもう一度リッピングする気にはなれない。最初にやるときに、mp3にしておけば、もう少しつぶしがきいたとも思うのだがあとの祭りだ。 一方、ビデオに関しては、ほとんどすべての録画をX Video Stationにまかせている。24時間を網羅する使い方はせず、7~8時半までと、19~25時までの地上波全局、全番組を標準画質4MbpsのMPEG-2 VBRで録画し、見たい番組は専用アプリで見るし、残したい番組に関しては、パソコンにダウンロードするようにしている。 これらの音楽と番組を外に持ち出して移動中に見たい。そのためのメディアプレーヤとして音楽はiPodに依存していた。ビデオに関しては、しばらくの間、パナソニックの携帯電話、P902iを使って見ていたのだが、毎日、録画済みのファイルを3GPP形式に変換してminiSDにファイルをコピーするという手間にめんどうくささを感じるようになっていた。音楽もSDオーディオで楽しめるが、SD-Jukeboxを使わなければ楽曲管理ができず、iTunesとの併用には煩雑さが伴う。 P902iは、Bluetoothにも対応しているので、ワイヤレスヘッドフォンを使って快適にビデオを視聴したり、音楽を聴いたりできるのはいいのだが、調子にのってビデオを見ていると、夕方にはバッテリ切れを起こしてしまう。本当は、携帯電話の予備バッテリを持ち歩けばすむ話なのかもしれないが、頻繁にメールが着信してコンテンツが中断される上、ファイルによっては、最後に見ていた箇所にレジュームするシオリ機能がうまく使えないなどの不便があったため、最近は、音楽はiPod、ビデオはノートパソコンにコピーして持ち出し、電車の中でもノートパソコンを開いて視聴していた。 だが、ノートパソコンを開いてビデオを見ることができる場所とできない場所がある。たとえば、電車を待つ駅のプラットホーム、すわれずにつり革につかまったままの電車内などでノートパソコンを開くのには、ちょっと抵抗がある。結局、1日の移動時間の、ほんの一部分しかビデオを見るために使えず、せっかくコピーしても、見ていないコンテンツたまっていくばかりで、結局は自宅に戻って深夜に見るという状況が続いていた。 ●188gが変えるビデオの視聴スタイル VoToLは、2.7インチのQVGAディスプレイを持つポータブルマルチメディアプレーヤーだ。この液晶サイズは、最新のiPodよりも0.2インチ、携帯電話のP902iより0.3インチ大きい。わずかな差だが、印象的にはけっこう大きく感じる。画質的にもそこそこ満足できるレベルの映像を映し出す。テロップや字幕もクリアでちゃんと読める。音はいい部類に入ると思う。 また、重量は、iPodの30GBタイプが136g、60GBタイプは157gなので、188gのVoToLはほんの少し重い。どちらにせよ、携帯電話は常時ポケットの中なので、その109gはあきらめるしかない。そこに加わるVoToLの188gが、いかにコンテンツ視聴のスタイルを変えてくれるかに期待するわけだ。ちなみに、たまたま手元にあった新書本の重さを量ってみたら140gだった。 気になるバッテリの持ちは、とりあえず、移動中に音楽を聴き、前夜録画した連続ドラマを2本程度見るといった程度なら、バッテリ切れを起こすことはなさそうだ。公称では動画で約4時間、音楽で約8時間となっている。ただ、300回の充電でバッテリ寿命ということなので、1年間使えば、このバッテリ駆動時間は半分になってしまうだろう。そうなったら、修理扱いでバッテリを交換することになるが、コストが問題だ。あと数g重くなっても、気軽にユーザーが交換できるバッテリにした方がよかったのではないだろうか。そうすれば、ヘビーユーザーは予備を持つこともできる。取扱説明書には廃棄時のリサイクルのために、本体を分解して内蔵バッテリを取り外す方法まで図解されているのだが、バッテリがオプションに設定されているわけではない。 ●他ソフトに依存する専用アプリVoToL Link VoToLへのデータ転送は、添付アプリケーションのVoToL Linkを使う。メディアプレーヤーに付属のアプリでありながら、音楽CDのリッピング機能を持たず、既存ファイルの削除や移動などの管理機能も持たない。コンテンツデータの蓄積管理をすべてを既存のソフトに依存するのだ。個人的には、この点をもっとも気に入った。既存環境の変更をユーザーに無理強いしない点はすばらしい。他力本願というのはこのことで、最大限の褒め言葉のつもりだ。 ちなみに、このソフト、手元で普段使っているパソコン環境では起動せず、仕方がなく別のパソコンで稼働させている。出荷直後にアップデートも公開されたが、それを適用してもダメだった。Windowsからはメディアデバイスとして認識されるのだが、ソフトそのものが起動しない。原因は不明だが、これに関しては、今後の対応を待ちたい。 さて、VoToL Linkのウィンドウは3つのペインを持っている。 ・転送ファイル追加ペイン・転送リストペイン ・VoToL情報ペイン の3つで、ウィンドウは、そのうち2つのペインを表示できる。そして、VoToLで扱えるデータとして、Movie、Music、Photo、Textの4種類を切り替えて使うようになっている。 Movieに関しては転送ファイル追加ペインに、SmartVision、AVサーバ、エクスプローラという3つのタブが用意され、それぞれのデータを一覧することができる。基本的な作業の流れとしては、転送ファイル追加ペインで転送したいファイルを見つけて選択し、転送ボタンをクリックすると、転送リストペインに追加され、VoToLへの転送が自動的に始まるようになっている。また、通常のフォルダウィンドウでファイルを見つけ、それを転送リストペインにドロップしてもいい。フォルダからのドロップの場合は、Movie、Music、Photo、Textの種類を気にすることなく、そのとき表示されている転送リストペインにドロップするだけでかまわない。気にする必要がないなら、最初から分ける必要もないと思うのだが、どうも、このあたりのツメが甘いアプリケーションだ。 なお、PanasonicのDVD/HDDレコーダー、DIGAで作成したDVDからVOBファイルを転送してみたところ、VoToLでは、ファイルが壊れている旨のメッセージが表示されて再生はできなかった。その一方で、録画済みテレビ番組のMPEG-2ファイルを元に、ペガシスの「TMPGEnc DVD Author」で作成しMPEG-1 Audio Layer-II(MP2)の音声を記録したDVDもどきのVOBファイルは再生できる。すなわち、コーデックとしてAC3への対応ができていないものと思われる。この点はちょっと残念だ。 転送して再生できるファイルにはサイズ制限があり、4GBが上限となっている。標準録画したテレビ番組なら、2時間番組でも3GB程度なので、特に不便を感じることはない。 気になる転送速度は、ローカルのハードディスクにある1GB程度のMPEGファイルを転送するのに約3分。待てない時間ではないが、ここはもう少しがんばってほしいところだ。理想的には1GB/分をクリアしてほしい。 ●iTunesとの見事な融合とAVサーバー連携の便利さ Musicに関しては、iTunesで音楽ファイルを見つけて、それを転送リストペインにドロップすることができる。これは嬉しい仕様だ。もちろん、フォルダウィンドウで、iTunesの音楽を保存したフォルダを開き、ファイルの実体をドラッグ&ドロップしてもいい。ただし、フォルダそのものを選択してのドロップはできず、ファイルを個々に選択してのドロップとなる。もちろん、複数ファイルを選択して一度にドロップすることはできる。なお、ITMSで購入した著作権保護された曲の転送はできない。Windows Media Playerからのドラッグ&ドロップには対応していないが、そもそもWMP自体が通常のフォルダへのドロップをサポートしていないのだから、これは仕方がないということか。 また、Musicの転送ファイル追加ペインでは、エクスプローラタブを開くと、ファイルの一覧のほかにプレイリストという項目が用意されている。これを開くと、iTunes、Windows Media Playerなど主だったメディアプレーヤーアプリで作成済みのプレイリストが一覧でき、任意のものを転送リストにドロップすることができる。 プレイリストを転送した場合は、その実体となる音楽ファイルも同時に転送されるようになっている。アートワークも転送され、VoToLでの再生時にはジャケットイメージも表示される。ここでも過去のデータを無駄にすることなく活用でき、再作業の必要がないのはうれしい。が、VoToLにおけるプレイリストの再生では、後述するレジューム機能が働かない。これは明らかにバグだ。 Movie、Musicともに、個別にファイルを指定するほか、AVサーバーからの転送も可能だ。AVサーバーはWindows Media Connectなどが稼働するDLNA準拠サーバーパソコンで、そこに蓄積されたビデオファイルを一覧して転送できる。ただ、ソニーのX Video Stationは、リストの中には表示されるのだが、なぜかファイルの一覧が表示されず、転送できない。ネットワーク上にある他のメディアプレーヤーでは正常に再生ができるので、コンテンツを取得できない原因がよくわからない。 AVサーバーのファイル転送は、最初に一時ファイルとしてダウンロードされ、それを転送するという行程になるため、ローカルのハードディスク内にあるファイルを指定した場合に比べて、転送には多少時間がかかる。 AVサーバー内のコンテンツに関しては、「おまかせ転送機能」と呼ばれる機能も用意されている。キーワードなどを指定しておくと、該当するコンテンツが自動的に転送リストに追加されるというものだ。必ず転送したいという番組に関しては、この機能を使って指定しておくと便利だ。 ただ、この転送機能は、該当ファイルを発見し、ダウンロードを始めるタイミングの間が抜けている。具体的にはVoToL Linkの起動時なのだ。したがって、VoToLを接続して認識し、VoToL Linkが起動した時点でダウンロードが始まるため、結局、ダウンロードが終了するのを待たなければ転送が始まらない。どうせなら常駐したアプリが、AVサーバーを監視し、発見した時点でダウンロードしておくようになっているべきではないだろうか。 フォルダの同期機能も用意されている。こちらは、指定したフォルダにあるファイルを自動的に転送するというもので、そのフォルダにファイルを放り込んでおけば、それを見つけて転送をすませておいてくれる。ローカルだけで完結させるならこの機能を使った方が便利だ。ただし、この同期機能は、フォルダ内にファイルが作成された直後に転送しようとする。そのため、テレビ録画ソフトでファイルの保存先をこのフォルダに設定しておくと、番組の録画中、何度も転送にチャレンジし、番組の録画が完了するまで転送に失敗し続け、「サポート範囲外」というログを残し、完了した時点で転送に成功するという点が気になった。 また、デフォルトでは、動画の自動変換機能がオンになっていて、転送前に強制的にWMA形式に変換されるのだが、それでは転送作業に時間がかかりすぎるので、ぼくは、この機能をオフにした。タイマー指定をして前もって変換しておくこともできるが、でかける直前に、この番組とこの番組といった具合に個別にファイルを指定して、その場で転送するような使い方には不向きだ。でかける前のあわただしい時間なのだから、余計なことに時間をとられたくはない。録画したテレビ番組は、最終的にどのプレーヤーで見るのかわからないので、保険の意味でもそこそこの画質が得られる4MbpsのMPEG-2で保存している。このビットレートなら、テレビで見ても、パソコンで見ても大きな不満はない。そのファイルをそのまま持ち出してポータブルメディアプレーヤーで再生できるというのは想像以上に便利だ。 ●課題が残るハードウェア 嬉しい誤算は、規格外を承知で購入したA-DATAの4GB SDメモリーを正常に認識したことだ。秋葉原のショップで、13,900円で購入したこのメモリーカードに、パソコンに接続したリーダーライターを使ってファイルをコピーすれば、2GBのファイルを3分30秒でコピーすることができる。SDメモリーカードにコンテンツを入れておけば、コーヒーショップでの時間つぶしなど、落ち着いた環境にいるときには、VoToLから抜き、携帯しているパソコンに装着して再生することもできるので、活用のバリエーションが広がる。 ただし、仕様上、SDメモリーカード内のコンテンツ再生に関しては、レジューム機能が働かないため、番組の途中で再生を中断した場合、次に再生したときに、さっきまで見ていたところを探す必要がある。シオリ代わりにブックマークをつけることもできない。 レジューム機能に便利さを感じるなら、本体に転送するしかないわけだ。なお、本体にあるコンテンツは、ノートパソコンにVoToLをケーブルで接続すると、通常のハードディスクのようにフォルダ構造の中のファイルとして見えるが、それを直接開くことはできないし、マイコンピュータに表示されたポータブルメディアデバイスとしてのVoToLを開くと、VoToL本体の挙動が不安定になってしまい、接続をやりなおしたり、リセットせざるを得なくなることもある。 VoToLには外部ハードディスクモードが用意されているが、それに切り替えた場合、今度はコンテンツを保存したフォルダが見えなくなってしまう。任意のファイルをコンテンツとしてパソコンで再生することもできれば、新幹線など、比較的長時間落ち着いて座っていられる移動であれば、そういう使い方もありだろう。ケーブルの携帯や接続が億劫で、メモリカードを入れ替えるほどの気軽さはないが、そんな使い方のためにも、ぜひ、USBケーブル1本による充電とデータ転送をサポートしてほしい。 ハードウェアに関しては、キビキビ作動するとはお世辞にもいえない。どちらかといえばモッサリ感がある。たとえば、CMのスキップなども、まっとうに早送りしてピタリと見たいシーンの頭を出すのはたいへんだ。でも、早送りボタンを一度押すと約10秒スキップするので、1分のCMをスキップするためには、5回ほど先打ちしておけば、まず、うまく次の本編の頭が出る。 ボトルのキャップに相当するボトルキャップは、アプリケーションの切り替えにのみ使う。すなわち、Movie、Music、Photo、Text、Setting、Transpeechを順次切り替える。通常使うのは、MovieとMusicだけなので、つい、まわしすぎて、PhotoやTextなどに移行してしまうことがあるが、どのくらい静止させたときに当該アプリを起動するのかを指定できるので、自分の感覚に合わせて設定を変更しておけば、多少は使い勝手がよくなるはずだ。 さて、本体には、「セレクトリング」と呼ばれる上下左右の方向キーが用意され、中央部分が確定のためのOKボタンになっている。また、リングの上に「戻るボタン」、下に「ガイドボタン」がある。 メニューから項目を選ぶ操作は上下キーで行ない、階層を行き来するためには左右キーを使う。たとえば、音楽を聴くにあたって、アルバム-アーティスト-アーティスト名-アルバム名と階層をたどっていくと、最後の階層は曲名になるが、その再生を開始するためには、OKボタンを押さなければならない。ここは右キーでもよかったんじゃないかと思う。小さなアイコンが押せるボタンのインジケートをするのだが、直感的にわかりにくいように感じた。また、曲の再生中は、右キーで次の曲、左キーで前の曲に移動する。ここは、最初の左キーで曲の先頭、もう一度左キーで前の曲というのが自然ではないだろうか。 こうした点を含めて、ユーザーインターフェースに関しては、こなれきれていないという印象が強い。だが、何よりも気になるのは、各種端子の配置だ。たとえば、パワースイッチを右方向に2秒以上押し続けると電源が入り、同様の操作でオフになる。また、スイッチを左方向にロックするとホールド状態になる。ところが、このスイッチの位置にかぶさるようにヘッドフォン端子があるため、パワースイッチが極端に操作しにくいのだ。 また、下部では、DCコネクタとUSBケーブルを接続するためのコネクタが並び、2本のプラグが干渉してしまう。充電しながらの転送では、必ず2本のケーブルが必要になるので、このレイアウトには疑問を感じる。DC供給に関しては、将来的にUSB給電も可能となるそうだが、それでもデータ転送には別のケーブルが必要になる。どちらの端子でも、ケーブルを1本接続するだけで、充電もデータ転送もOKとならない限りは、このレイアウトには無理がある。小型化のために犠牲になっているのかもしれないし、クレードルを使えば気にならないのかもしれないが、実際の使い勝手をきちんと考えたら、絶対にこうしたレイアウトにはならないはずだ。 ●VoToLで始まり、VoToLで終わる1日 使い方としてはこんなイメージになる。 朝起きると、前夜からケーブルを接続したままでVoToLはフル充電になっているはずだ。VoToLリンクを起動したままにしてあれば、同期指定したフォルダのファイルはすでに転送済みだし、おまかせ録画設定したコンテンツがあれば、それをAVサーバーからダウンロードさせる。それとは別に、持ち出したいファイルを探し、転送リストにドロップしていく。この状態で、朝食を食べるなり、シャワーでも浴びているうちに、すべてのコンテンツの転送は終了するはずだ。 でかける準備をすませ、転送が完了していることを確認した上で、VoToLからケーブル類を抜き去る。玄関を出たら、とりあえず、Musicを選び、聞きたい曲の再生を始めよう。そして、それを楽しみながら駅に向かう。 駅に着いたら、音楽を再生中の状態で、ダイレクトにボトルキャップを回し、ホームで電車を待っている間に楽しむビデオの再生を始める。電車が到着して、満員でとてもビデオを見ていられないようであれば、再びボトルキャップを回してMusicに戻すと、さっき切り替えた時点から音楽の再生が始まる。 電車がターミナル駅に着いて、地下鉄に乗り換えるために再びホームに立ったところで、ビデオに切り替えると、やはりさっき中断したところから再生が始まる。そして、最終目的地に着いたところで、いきなり電源スイッチをオフにしてしまう。次に電源スイッチを入れたときには、オフにする直前の状態に復帰する仕組みだ。つまり、電源スイッチはポーズ状態の保持と復帰であり、MovieとMusicは異なるポーズ状態を保持していて、それを切り替えるのがボトルキャップだと考えればいい。 この操作を繰り返しながら1日を過ごし、自宅に戻ったところでVoToLに電源ケーブルをつないで充電を開始、パソコンにつないで、その日、見てしまったコンテンツを削除しておく。VoToL本体にも削除機能はあるが、こちらは削除のマークをつけるだけで、実際に削除が行なわれるのは、VoToL Linkと接続し、新しいコンテンツを転送するタイミングだ。操作性の点では、VoToL Linkから手動でやった方がカンタンだ。 写真に関しては、デジカメで撮影済みのSDメモリーカードを装着すると、一時保存データフォルダに写真をバックアップすることができる。ところが、仕様上、表示ができるのは640×480ピクセルまでのファイルなので、事実上、通常のデジカメ写真の表示は不可能だ。最近のデジカメはほとんどの場合、2.5型以上の液晶ディスプレイを備えているので、表示ができたとしてもあまりアドバンテージはない。ただ、旅行などにでかけるときのストレージャとしては役にたつかもしれない。 画像の転送中は、ディスプレイにそれらしきグラフィックスが表示されるが、何枚中何枚まで転送したのかがわからない。このおしゃれなグラフィックスは、たとえば、本体バッテリの残り容量を示すためにもボトルに水を満たす様子のものが使われるが、今、本当にどのくらいのバッテリ残り容量があるのか、今、充電中なのか、充電は完了しているのか、本体には電源が入っているのか、いないのかがとてもわかりにくい。液晶ディスプレイにはバッテリのインジケータも表示されるのだが、動画を再生しているとき以外、すぐにパワーセーブモードに入って、ディスプレイが消えてしまうので、パッと見ただけでは、電源が入っているのかいないのかがわからないのだ。 さらに、VoToLには、音声機械翻訳機能とトラベル英会話集がついている。日本語の音声での発音を英語に翻訳して発声するというもので、認識率を向上させるための音声登録機能まで搭載された本格的なものだが、都心を移動している限りは、あまり役にたちそうもない。この機能に関しては、もう少し使いこんだ上で判断することにしたい。 ●ファンの期待を裏切らないで進化してほしい こんな具合に、VoToLは、ぼくの既存データ資産、ファイル管理のスタイル、使い慣れたアプリケーションのいっさいを変更することなく、それらを持ち出し、外で気軽に楽しむスタイルを可能にしてくれた。30GBという容量が少ないという不満もあるが、実際には、それほどの量の動画を1日で見ることはできないので、これはよしとする。結局は、最近買ったCDを10枚程度入れておき、ビデオに関しては毎日中身を入れ替えるという使い方に落ち着いた。 いずれにしても、VoToLによって、パソコンを開くには億劫だった細切れの時間も有効に使えるようになった。そのおかげで週に数冊は買っていたコミック誌は買わなくなるわ、文庫本や新書を読まなくなるわで、その点は自分でまずいと思っているのだが、それはVoToLのせいではない。 ただ、ユーザーインターフェースが今ひとつ洗練されていない点や、プレイリスト再生のレジュームができなかったりするなど、十分な検証を経ずに出荷されているように見える点、また、再生中の曲間、切り替えの効果音再生に伴うプチプチといったノイズも気になれば、さらにはVoToL Linkの使い勝手、アプリから本体の電源コントロールなど、そんなはずはないだろうと首をかしげる点がたくさんあり、見切り発車の印象は否めない。ソフトそのものも不安定だし、ソフトの起動終了を繰り返すと、接続状態のはずのVoToLが認識できなくなったり、本体が操作不能になりリセットせざるを得なくなるなど、バグらしき点も散見される。救いはファームウェアやソフトウェアのアップデートで治りそうな部分が多いということで、これらはなんとしてでも修復し、早期に購入したアーリーアダプターの期待を裏切らないようにしてほしい。 それでもVoToLはNECのデジタルガジェットへの新たな展開を期待させる製品として、十分に評価できるものに仕上がっていると思う。願わくは、独自の世界に入り込むのではなく、他力本願の初志を貫徹し、既存のiPodユーザーが併用したくなるような快適な環境を提供し続けてほしい。もう、そこを無視してはビジネスにはなるまい。デファクトスタンダードに準拠することは、決して恥ずかしいことではないし、ユーザーにとっては、その方がメリットが大きいこともあるのだから。かつて、NECの98シリーズをデファクトスタンダードとしてサードパーティ製のソフトが盛り上げたのとは逆に、iTunesというデファクトスタンダードソフトウェアの環境を、サードパーティとしてのNECのハードウェアが盛り上げるようなことがあってもいいんじゃないかなとも思う。 □関連記事
(2006年5月5日)
[Reported by 山田祥平]
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