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IRPSレポート

次世代フラッシュメモリの信頼性をSamsungが確認

会期:3月26日~30日(現地時間)

会場:米San Jose McEnery Convention Center



 2006年のIRPS(International Reliability Physics Symposium)が3月30日(現地時間)夕方、無事閉幕した。2006年のIRPSレポートも今回をもって完了としたい。メモリメーカーによる注目の講演と、中日(なかび)の夜に開催されたポスターセッションの様子をお届けする。

●X線検査でDRAMのリーク電流が増大

 DRAM関連では、新しい不良モードの講演が目を引いた。DRAM大手ベンダーのMicron Technologyが、X線検査によってDRAMのリーク電流が増大することを指摘したのだ(講演番号3C.5)。

 DRAMは最近、はんだボールをパッケージの底に並べた、BGAタイプのパッケージに封止することが多くなっている。BGAパッケージでは、はんだボールがきちんと接続されているかどうかを、外観検査で見極めることが難しい。このため、X線透過撮影によって接続状態を検査するようになってきた。

 DRAMでは、メモリセル付属のキャパシタ(セルキャパシタ)に電荷を蓄えることによってデータを書き込む。ただしセルキャパシタが電荷を保持していられる時間はあまり長くなく、データを定期的に再書き込み(リフレッシュ)する必要がある。セルキャパシタでのリーク電流が少なければリフレッシュの間隔は伸び、リーク電流が多ければリフレッシュの間隔は短くなる。

 Micron Technologyは、DRAMにX線を照射したときに、X線の照射量(ドーズ量)を増やしていくとリフレッシュ間隔が短くなっていくことを実験で確かめた。実験対象のDRAMは0.11μm技術で製造した512MbitのDDR SDRAMである。32個のサンプルを1グループとし、合計6グループに対して実験を行なった。

 リフレッシュの劣化が生じるX線照射量は特に大量というわけではなく、検査時の照射量とあまり変わらないという。例えば平均で395msだったリフレッシュ間隔が、175radsのX線照射によって平均260msに短くなった。製造ばらつきによる標準偏差(3σ)を考慮すると、一部のDRAMはテスト時に不良となる可能性が高い。

 なお摂氏150度、48時間の高温ベーキング処理によってリフレッシュ性能は回復し、正常値に戻る。ただし高温ベーキングは手間がかかるので、実用的ではない。実際にはX線検査装置にコリメータを導入して照射量を管理し、リークの発生を防ぐことが現実的だとMicronは講演で述べていた。

●次世代NANDフラッシュで高い信頼性を示す

 フラッシュメモリ関連では、フラッシュメモリ大手ベンダーのSamsung Electronicsが発表した、次世代メモリセル構造の講演に対する評価が高かった(講演番号5D.3)。試作した次世代メモリセルが高い信頼性を備えていること、具体的には10年以上のデータ保持時間があることを示して見せたからだ。

 トランジスタ構造にはFinFET(フィンFET)技術、データの蓄積にはMONOS(metal-oxide-nitride-oxide-silicon)技術を利用した。FinFET技術とは、MOS FETのチャネル部がフィンのように垂直な板状の構造をしたトランジスタ技術である。フラッシュメモリに限らず、将来のMOS FET構造の候補として研究開発が進められている。FinFETは、同じ微細加工技術で製造した従来のMOS FETに比べ、短チャネル効果(トランジスタのしきい電圧が低下してリーク電流が増えてしまう効果)が生じにくい、大きな電流を取りだせるといった利点を備える。

 一方、MONOS技術は、ゲートをMONOS(金属/酸化膜/窒化膜/酸化膜/シリコン)構造としたフラッシュメモリ用トランジスタ技術である。酸化膜/窒化膜/酸化膜(トンネル酸化膜)構造に存在している捕獲準位(電子あるいは正孔といった電荷の運び手=キャリア)に電子あるいは正孔を注入し、電荷を蓄積/保持する。製品のNAND型フラッシュメモリには現在、MONOS技術ではなく、フローティングゲート技術が使われている。フローティングゲート技術は、フローティング(浮遊)ゲートの上に制御ゲートを重ねた2層構造のゲート電極を備えたトランジスタを使う。制御ゲートに高電圧を印加することで基板から電荷(電子あるいは正孔)をフローティングゲートに注入し、電荷を保持する。

 ただしフラッシュメモリにおける将来のの微細化を想定したときには、フローティングゲート技術よりもMONOS技術の方が有利だとされている。フローティングゲート技術では制御ゲートとフローティングゲートの容量結合を利用しているので、ゲート長を微細化しづらい(微細化すると容量が減少する)、隣接ゲート間の容量結合が大きくなって動作を阻害する、ゲートの空乏化が動作性能を低下させる、といった問題を抱えているからだ。そこで微細化に伴う課題が少ないと考えられるMONOS技術にSamsungは着目し、技術開発を重ねてきた。例えば2005年12月に開催された国際学会「IEDM(International Electron Device Meeting)」では、MONOS技術で4GbitのNAND型フラッシュメモリを試作した結果を発表している。

 今回Samsungが試作したのは、MONOSの一種である、SONOS(silicon-oxide-nitride-oxide-silicon)と呼ぶ構造のゲートを備えたメモリセルである。フィンの高さは100nm、チャネル部の厚みは12.5nm、ゲート幅/長は160nm/100nm。

 試作したメモリセルでデータの書き込みと消去を実施したところ、しきい電圧の変化は4.75Vと十分大きかった。温度加速試験と電界加速試験を併用して推定した室温での寿命は10年、温度加速試験のみによる推定寿命は35年だった。このことから、電界(印加電圧)によるデータ(蓄積電荷)損失がSONOS構造では主流であると結論付けている。

●コンピュータ博物館を貸し切りにしたポスターセッション

ポスターセッションの会場風景

 さて、ポスターセッションの話題である。研究概要を記した10枚前後のポスターをパネルに貼っておき、研究者がパネルの前で参加者の質問に直接答えるというセッションで、口頭の講演がない。来場者にとっては同時に数多くの研究成果をチェックできるというメリットがある。発表者には、技術講演に比べると論文作成や講演原稿作成の手間が少ないので、手軽に発表できる点がうれしい(なお隠れたメリットとして、英会話が苦手でも発表できるという気安さがある)。

 今回のIRPSでは、66件のポスター発表があった。エルピーダメモリが3月30日(日本時間)にニュースリリースを出した、DRAM欠陥修復技術に関する成果もポスターセッションで発表された(講演番号MY03)。

 IRPSのポスターセッションで興味深かったのは、レセプション(歓迎会)を兼ねていたことと、会場を別に移して開催されたことだ。シリコンバレーのMontain Viewにあるコンピュータ歴史博物館(Computer History Museum)を貸し切りにしてセッションを開催したのである。これはかなり好評だったようだ。なおComputer History Museumに関しては、本田雅一氏が詳しいレポートを書かれている。本田氏のレポートの通り、Computer History Museumにはコンピュータの歴史を彩ったさまざまな「計算機」の実物がここには展示されていた。参加者の多くはポスターセッションを一通り見終わると、Computer History Museumの展示に見入っていた。

ポスターセッション兼レセプションの案内板。参加者は技術講演の会場であるSan Jose McEnery Convention Centerの入口で専用の大型バスに乗り込み、20分ほどかけてポスターセッションの会場へ移動した。バスは午後6時~7時に出発すると掲示してある Computer History Museumでは、「Innovations 101: A Celebration of Silicon Valley Companies and Pioneers」と題した特別展示が催されていた。写真はコンピュータの入力デバイスとしてお馴染みのマウス。Douglas Engelbart氏が1964年に発明した 同じく「Innovations 101: A Celebration of Silicon Valley Companies and Pioneers」から。PDA「PalmPilot」の試作基板

 なお、次回のIRPSは2007年4月15日~19日に米国アリゾナ州フェニックスのPhenix Convention Centerで開催される予定である。

□国際信頼性物理シンポジウム(IRPS)のホームページ(英文)
http://www.irps.org/
□国際信頼性シンポジウム(IRPS) 2006レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/link/irps.htm
□関連記事
【2005年3月2日】【本田】Computer History Museumに見る小型化の歴史(その1)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0302/mobile278.htm

(2006年4月6日)

[Reported by 福田昭]

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