ホビイストによる小型二足歩行ロボット格闘技大会「ROBO-ONE」を主催するROBO-ONE委員会は19日、お台場のパナソニックセンターにて開催された「第9回ROBO-ONE」決勝戦の中で「第1回ROBO-ONE宇宙大会」の2010年開催を目指すと正式に発表した。 ROBO-ONE宇宙大会とは、安価な民生品で構成された衛星とロボットを高度400km~600kmの極軌道に打ち上げ、地上からコントロールして、格闘競技を行なうもの。小型の二足ロボットを内蔵した「ROBO-ONE衛星」を基地とし、そこから命綱付きでロボットを放出、格闘する計画。 「ROBO-ONE衛星」本体は50×50×50cm以下、50kg以下を想定。放出されるロボットの大きさは10×10×10cmに収まるもので、重量は2kg以下とされている。打ち上げ時にはコンパクトに収まってなければならないが、宇宙空間に放出された後は変形しても良い。CPUや電源はROBO-ONE衛星内に置く予定。 現時点では、ROBO-ONE衛星は、海外(ロシア)のロケットを使って、ピギーバック衛星として打ち上げることを想定している。「ピギーバック衛星」とはロケットで衛星を打ち上げるときの余剰能力を使って打ち上げる衛星のこと。大型衛星に相乗りして打ち上げるため、投入軌道は限定されるものの、比較的低コストで打ち上げることができる。 最近では大学生の手による10cm四方の小型衛星「Cube-Sat(キューブサット)」(後述)や、昨年8月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた50×50×50cm、質量72kgの小型科学衛星「れいめい」などがピギーバックで打ち上げられている。 高度400km~600kmの極軌道への打ち上げを想定しており、打ち上げ費用は1億円~2億円の見込み。戦いは衛星が日本上空を通過する10分間程度の間に行なう。優勝賞金は1,000万円程度。必要な資金は現時点では民間から調達する予定だという。
発表会では、ROBO-ONE委員会代表の西村輝一氏が「これまでにも宇宙大会の話を何度かしてきたが、みんな信用しないので『本気度』を示すためにイメージ映像を作ってみた」と述べ、ROBO-ONE宇宙大会のプロモーション用アニメーションが上映された。 アニメの内容は、ロケット打ち上げの実写や宇宙空間での衛星のCG等を取り混ぜて、宇宙にROBO-ONE衛星を打ち上げ、そこからリングに相当するポールと、ロボットが射出され、スラスターを噴射しながら格闘を行なう様子を描いたもの。CGで宇宙を飛び交う姿が描かれたロボットはROBO-ONEの上位ロボットの2つ、「メタリックファイター」と「ダイナマイザー」。 制作したのはロボットアニメなどの制作で知られる株式会社サンライズ。宇宙に浮かぶ地球を背景にアニメロボットのような動きを見せるCGのROBO-ONEロボット2体の様子に、会場のロボットファンたちは大爆笑。大いに沸いた。 サンライズの井上幸一氏は、「実際の宇宙空間では、アニメのようにロボットが素早く動くとグルグル回ってしまうことになる。だが、そこは敢えて無視した」と語り、今回の映像があくまでイメージ、エンターテイメントであることを強調しつつ、このような夢が実現して欲しいと語った。 会場では「宇宙空間なのになぜ二足歩行なのか」という質問もあがったが、ROBO-ONE宇宙大会で事務局を務める有限会社リヴィールラボラトリ代表の田中泰生氏は「アニメ『機動戦士ガンダム』のなかで『足なんて飾りです。えらい人にはそれがわからんのです』という台詞があるように、我々にも西村委員長の考えていることは分かりません」と冗談を飛ばした。
●「宇宙大会」は、どれだけ現実的なのか 10年前であれば、アマチュアによる二足歩行ロボット大会そのものが実現不可能だと言われていたはずだ。ROBO-ONEは、かつての不可能を可能にしたイベントだと言える。だが、それにしても「宇宙大会」はあまりに荒唐無稽に感じられる。会場の多くの参加者たちからも、笑顔ではあったが、半信半疑の表情は消えなかった。
一方、今回の記者会見には、これまでのROBO-ONE関係者だけではなく、東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻の中須賀真一教授も出席した。中須賀教授らの研究室では、超小型の衛星プロジェクトを行なっている。 その1つが「CubeSat」だ。CubeSatとは1辺が10cm四方の小さなサイコロ型の衛星である。東大ではCube-Satを2000年~2001年にかけて開発し、2003年6月に打ち上げることに成功した。2005年10月には、新しい衛星も打ち上げた。ホームページでは、衛星が実際に撮影した地球の画像を見ることができる。 現在、中須賀研究室では、その成果を活かし、16×16×20cmとやや大きくした地球観測衛星の開発を目指す「PRISMプロジェクト」が進行中だ。 もともとCubeSatとは、'99年に学生の教育用プロジェクトとしてスタンフォード大のTwiggs教授が提唱したもの。企画や設計、実際の製作そのほかも全て学生が行ない、安価な民生用部品を使い、ダウンリンクにはアマチュア無線周波帯を使う。学生は実際に衛星を開発する一連の過程を全て実体験で学ぶことができ、同時に民生用部品を使って、従来にないほど安価で短期間の衛星開発を実現することを目指す。 世界各国の大学研究室がこの計画に賛同しており、日本では東大のほか、東京工業大学や日本大学などがCube-Satの開発を行なっている。 「大学・高専学生による手作り衛星やロケットなどの実践的な宇宙工学活動を支援することを目的とするNPO」であるUNISECという団体もあり、学生の活動を支援している。一方JAXAでも、近年、産学官連携サイトを立ち上げるなど、これまでとは違った宇宙開発のありようを模索していることが分かる。 プレスに配布された宇宙大会資料によると、ROBO-ONE衛星は、上述のJAXAによる「れいめい」クラスの衛星内に、さらに小さな、CubeSatクラスの衛星(ロボット)を内蔵したものとして想定されていることが分かる。 中須賀教授は、まずサンライズ製作のアニメについて「宇宙関係者が作ったなら、あの10倍くらいゆっくり動くものにしてしまう」とエンターテイメント性を評価した。 もっとも1年前、最初に西村ROBO-ONE実行委員長に会ったときは「何を言っているのかと思った(笑)」という。だが「よく考えれば、宇宙開発がそもそも無理なことをやっている」と思ったそうだ。しかし「宇宙に機械を打ち上げてコントロールすることも、最初は誰も考えなかった世界だった。それを実現してきたのが宇宙開発の歴史そのものでもある。ロボットも、やってみたらもしかしたらできるかもしれない」と思ったのだという。 「ほとんどが秋葉原で買ってきた部品」で作ったというCubeSat開発についても「東大の良いところは秋葉原まで自転車で行けるところ」と実際の様子を簡単に紹介しつつ、「『そんなものできないでしょう』と言われるようなものも、実際にやってみて初めて『そんなことできるんだ』と言われる。だから、とにかくどんな形でもトライしてみよう。私もROBO-ONEの人の熱い思いを宇宙に繋げていけるように技術面からサポートしていきたい」と語った。 中須賀教授は宇宙大会技術評価委員会の委員長を務める予定だという。会見後の取材でも中須賀教授は「イメージアニメのようにはいかないが、実現性は十分にある。切り分け方次第だ」と語った。 中須賀教授によれば、宇宙にモノを持っていくときの地上との違いの大きな点は、3つある。1つ目は真空。塗料のような液体に近い成分が抜けていく。また、モーターの軸と軸受けの焼き付きが起こる。ただしこの点については、真空中でも動作するモーターがあるので解決可能だとも述べた。 2番目は放射線。半導体が放射線にやられてしまい、0と1のビットが反転したり、あるいは熱暴走したりするので、放射線に強い半導体を使う必要がある。だが宇宙環境に強い半導体もこれまでの経験からある程度分かっている。 3つ目が熱環境だ。たとえばアルミは実際には放熱しにくいので、直射日光があたると、一挙に150度にもなるのだという。一方、地球の裏側に回って影に入ると、あっという間に低温になってしまい、バッテリが動かなくなる。実際の宇宙で動作する機械を作るためには、それなりの工夫が必要だ。 また、会見では特に述べられなかったが、地上での運用管制も重要である。そのための体制づくりを続けながら、「ROBO-ONEスペシャル」や「ROBO-ONE on PC」などを通して数秒遅れの映像を見ながら操作する技術や、自由落下状態での機体制御技術などを磨いていくという。 西村代表は、今回の発表について、現時点では「思いとイメージが先行している」とし、具体的な計画というよりはむしろ「我々の思いを伝えているもの」と認めながらも、「宇宙とロボットのビジネスを身近に感じてもらいたい。冗談ではなく、本気なんです」と語った。 □ROBO-ONEのホームページ (2006年3月20日) [Reported by 森山和道]
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