NECのWeb直販サイト「NEC Direct」が、2006年2月に、サービス開始から2年を迎えた。 2004年2月に、NEC Directの前身となる「121@store」から名称を変更。同時に、PC事業を担当する子会社のNECパーソナルプロダクツから、NEC本社部門へと事業移管。社内での位置付けを大きく変化させた形で事業を推進する体制を整えたのだ。 実際、本社直轄部門となったことで、この2年の間に、NEC Directは大きく変化してきた。いや、121@store時代とは比べものにならないほど、ダイナミックな動きをしてきたと言っていい。 ●水冷PCを限定販売
中でも、最もわかりやすいのが、スリムタワー型の水冷PCをNEC Direct限定で販売するといった取り組みだろう。 先頃、2005年8月から9月にかけて発売した「VALUESTAR GタイプC」などの水冷PCに、一定の条件下において、異音が発生する不具合およびPCIスロットが一部拡張カードで動作しないという不具合が発生したものの、NEC Directにおける水冷PCの人気ぶりは相変わらずだ。 同社によると、NEC Directで取り扱うデスクトップPCのうち、なんと39%が水冷PCだという。量販店店頭における水冷PCの比率がわずか2%であることと比較すると、NEC Directにおける水冷PCの比率が極めて高いことがわかる。 NEC Direct事業の推進役であるNECのパーソナルソリューション事業部 那須俊彦事業部長は、「近い将来的には、デスクトップPCの5割程度にまで水冷PCの販売比率を引き上げ、NEC Direct=水冷PCというイメージを作り上げたい」と語る。 こうしたNEC Directオリジナルモデルのラインアップに積極的に取り組むようになったのも、NEC Directが本社直轄部門へと移行してからだ。 水冷PC以外にも、ハイパフォーマンスノートPCや、スマートモバイルPCといった領域でオリジナルモデルをラインアップ。また、量販店で取り扱う標準モデルのカラーバリエーションをNEC Directオリジナルモデルとして取り扱う、ということも増えてきた。 さらに、3月中旬からは、携帯型マルチメディアプレーヤーの「VoToL(ヴォトル)」を、NEC Directの限定で販売。「感度の高いユーザーが集まるNEC Directに販売を限定することで、まずはこれまでに例がない新たな製品に対する反応を見てみたい。それによって、販売ルートの拡大や、次期製品の開発へとつなげていきたい」(NECパーソナルプロダクツ)と語る。
●他社ブランドの取り扱いにも注力 NEC Directが変わったのは、こうした限定製品の取り扱いが増加しただけではない。NECブランド以外の製品取り扱いを積極化した点が見逃せない。 かつての121@storeの名称の方が、NECということがわかりにくく他社製品を取り扱いやすかったとも言えるが、実体は逆だ。NEC Directという「NEC」の冠を付けてからの方が、他社製品の取り扱い量が増加している。 現在、周辺機器という領域における取り扱い製品数は約1,800種類。中には、アップルのiPodや、パイオニアのプラズマTV、松下電器のLUMIX、BOSEのスピーカー、オンキヨーのデジタルオーディオプロセッサーなどもある。さらに、タニタが発売しているPC対応の体組成計といった健康関連製品にまで取り扱いの幅を広げているのだ。 「周辺機器群の売り上げ比率は15%程度。将来は、これを半分程度にまで引き上げたい」と那須事業部長は語る。 同社では、2008年度にNEC Direct全体で1,000億円の事業規模を目指している。現在、約200億円の事業規模であることを考えると、それが大きな目標であることがわかる。実はその目標を達成するためのスプリングボードとなるのが、周辺機器事業の拡大だといっていいのだ。 ●リピーター獲得の手段に そして、NEC Directの変化の中で見逃せない取り組みの1つが、単にPCや周辺機器を販売するためのサイトだけには留めていないということだ。 もともとNECのPCは、リピーターの比率が低いという弱点があった。 初心者や入門者には強く、これらのユーザー層はNECを指名買いするが、次にPCを購入する際には他社のPCに移行してしまうというケースが多かったのだ。 その背景には、いくつかの要素がある。 2台目以降のPCは、より低価格のPCを購入したいというユーザーや、自分が欲しいと思う仕様に合わせて製品を構成したい、あるいは、よりAV機能に特化したPCを購入したいというユーザーは、NECを購入するよりも、デルやソニーを選択する例が多かったのだ。 また、かつては、NECのPCサポート窓口は、なかなか電話がつながらないという声もあっただけに、それを嫌って、デルなどのサポート評価の高いメーカーの製品へと移行するケースもあった。 だが、ここ数年、NECはリピーター層獲得に力を注ぎはじめ、その戦略的取り組みとして、サポート体制を強化するとともに、NEC Directの活用を模索してきた。 サポート体制強化では、電話をつながりやすくしたり、24時間対応などの体制の充実によって、すでにその成果が出始め、とあるユーザーサポート調査では、2年連続総合No.1を獲得しているほどだ。 一方、NEC Directの戦略的活用としては、ユーザーの要求仕様に合わせた製品を提供できる体制を確立したのはもとより、水冷PCのようなパワーユーザーが飛びつくような製品を、NEC Directで積極的に取り扱い始めたことなどが挙げられる。 中級者以上が約7割というデータからも、パワーユーザーがNEC DirectでPC購入し始めていることは明らかであり、さらに、リピーターの購入も増加しつつあるという。 「NECユーザーを対象に調査を行なうと、次はデルにするという声が多かった。まずは、デルへの流出を食い止めるのがNEC Directの役割だった」(那須事業部長)と振り返る。 NECの片山徹執行役員専務も、「次もNEC製PCを購入したいというユーザーは、数年前には3割程度だったものが、現在では6割程度にまで上昇している」と語るが、NEC Directによるパワーユーザー層の獲得、リピーターの獲得といった施策が功を奏しているのは、この数字を見れば証明されるといえるだろう。 ●NECユーザー向けのサービスメニューを強化 そして、同社が、NEC Directを販売サイトだけに位置付けていないという事実は、サービスそのものを同サイトを通じて販売している点からもわかる。 NEC Directでは、「PCの購入直後」、「PC活用」、「PC購入検討」という3つのフェーズから、サービスメニューの強化を図っている。 初期セットアップや買い換え時のデータ移行作業などを、直接ユーザーのもとに出向いて行なう「出張設定サービス」、標準保証を3年間に延長する「メーカー保証サービス」、ウイルス対策ソフトをダウンロードできる「セキュリティサービス」、最新OSへのアップグレードを行なう「OSアップグレードサービス」など、2005年の1年間でサービスメニューを一気に拡大してきている。そして、メニュー拡大は今後も継続することになるという。 さらに見逃せないのが、これらのサービスは、NEC DirectでPCを購入したユーザーだけでなく、量販店店頭などでNEC製PCを購入したユーザーも利用できるようになっている点だ。 量販店で販売されているNEC製PCにも、NEC Directの各種サービスを受けやすくするためのソフトを同梱しており、それを利用すれば、簡単な操作でNEC Directからサービスを購入できる。実際、店頭でNEC製PCを購入して、ウイルス対策ソフトはNEC Directの「セキュリティサービス」から購入するというユーザーも増えているという。 その「セキュリティサービス」に関しても、従来からのマカフィーとの提携関係を強化。これまでの1年契約版のダウンロード販売に加え、2年契約版、3年契約版の商品を国内で初めて販売する。 PCを買い替えた場合でもサービス残期間は引き継がれることから、NEC製PCからNEC製PCへの乗り換えを定着させるという点でも効果を発揮しそうだ。 NEC Directは、今後の事業拡大戦略において、PCの販売だけに特化するつもりはない。 PC以外の周辺機器や、PC購入後にすべてのNECユーザーが利用できる幅広いサービスメニューによって、事業を拡大するスタンスを明確に打ち出している。その点では、他社の直販サイトとは異なるといってもよさそうだ。 那須事業部長は、「最終的なゴールは、総合ショッピングサイト」というが、この2年で、その地盤づくりができたといえそうだ。
□関連記事 (2006年3月20日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
|
|