●好調さを伝えるPC出荷統計
業界団体である社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が発表した2005年1~12月の国内PC出荷統計は、出荷台数では前年比14%増の1,273万8千台、出荷金額は5%増の1兆6,370億円となった。 同協会が統計を開始して以来過去最大の出荷台数を記録。この好調ぶりを受けて、2005年度(2005年4月~2006年3月)通期の国内出荷見通しを、当初見通しから20万台増加となる、前年比8%増の1,270万台とした。 一方、ガートナージャパン データクエストによると、2005年の国内PC市場は、前年比7.4%増の1,415万台。法人市場が前年比5.7%増と堅調な伸びを見せたのに加え、個人市場が9.7%増と2桁近い成長を記録。個人市場は2000年以来、5年ぶりのプラス成長となった。 また、国内調査会社のMM総研の発表では、前年比7.5%増の1,343万台と、3年連続のプラス成長。とくに個人向けルートは、9.2%増の582万台と、2000年に続いて、過去2番目の出荷台数となった。 このように、それぞれの発表数字そのものには若干の差があるが、共通していえるのは、PC業界は好調に推移していることだ。
とくに、それぞれの調査結果で異口同音に語られているように、個人需要の復調ぶりは特筆できるものだといっていいだろう。 ●手放しで喜べない要素も だが、この数字も手放しで喜んではいられないいくつかの要素がある。 1つは、過去最高の出荷台数を記録した、JEITAの統計数字における「数字のマジック」だ。 比較される2004年の実績値は、下期からデルの数字が加算されているのに対して、2005年の統計には、デルの数字が通年で加算されている。いわゆる「アップル・トゥ・アップル」の数字ではなく、2005年の実績には、デルの数字が半年分多く加算されているということになるのだ。 JEITAによると、デルの数字は5~6%減の影響があるとしており、それを差し引いても、台数ベースでは前年実績を上回っている。だが、金額ベースが前年比5.6%増という点から見ると、プラスかマイナスか、というボーダーラインの微妙なところに位置している。公式コメントでは、デルを差し引いたとしても、金額でも前年実績上回っているというが、微妙なライン上にあるのは間違いない。 もう1つは、各社が共通的に発表した個人需要の堅調ぶりだ。2000年以来の好調ぶりとなったのは、それぞれの統計結果からも明らかだ。だが、2005年の場合はイレギュラーな出来事があったことを忘れてはならない。 それは、本来1月に発売されるはずの個人向け春モデルが、12月に発売されたことだ。それも1社ではなく、複数の主要メーカーから発売されたのだから影響が大きい。これまで以上に12月の需要を喚起することができ、それがプラス要素に働いたという点は見逃せない。
2005年を振り返ると、実に4回もの新製品が登場しており、過去に例がないほどの短い製品投入サイクルとなっているのだ。 実際、1月には早くもその反動が出ている。BCNランキングの調べによると、1月に入ってからはPCの販売指数が前年割れで推移しており、その落ち込みぶりも前年同期比2桁減というレベルに達しているのである。本来は、2006年頭にあるべき需要が、1カ月前倒しで12月に加算されたということが裏付けられる。 また、低価格のPCに注目が集まっていることも見逃せない動きだ。なかでも、市場の半分以上を占めるノートPCの大幅な低価格化は、メーカーにとって収益性の悪化に直結している。台数が拡大しているにも関わらず、メーカーが厳しい業績を余儀なくされているのはそこに原因がある。 JEITAの出荷統計では、第3四半期(10~12月)の平均単価は、ノートPCが128,000円。前年同期に比べて21,000円、比率にして14%もダウンしているのだ。また、デスクトップPCも、前年同期比10%のダウンとなる13,000円の下落となった。通常は、年率7~8%の価格下落とされていたことに比べると、2005年はその落ち方がいずれも2桁台と大きくなっているのだ。 この1年を振り返ると部材価格はそこまでの落ち込みは見せていない。しかも、円安に動いている為替の影響を考えれば、むしろ部品の調達価格は上昇傾向にあり、それが最終製品の価格も上昇に転嫁されてもいいはずだ。 それにも関わらず、2桁台の単価下落となっていることは、メーカーがその分を吸収していると考えるのが妥当だ。リストラ効果などによって吸収できている部分もあるだろうが、先頃各社から発表された第3四半期決算を見ても、PC事業で業績悪化に苦しむメーカーが相次いでおり、「利益なき繁忙」へと向かいつつあることがわかる。 こうしたいくつかの要素を見る限り、2005年の大幅な台数の成長という、国内のPC出荷統計の結果にも、業界関係者は手放しでは喜べないというわけだ。 ●2006年も楽観はできない年に
2006年の見通しとして、MM総研は5%増の1,410万台を予想。JEITAも今年3月末までの2005年度通期の見通しを上方修正して見せた。だが、JEITAでは、今年4月後半にも発表する予定の2006年度の通期見通しに関しては、前年割れを視野に入れて検討していることは間違いない。 市場を取り巻く動向や、製品動向、技術トレンドを見ると、今年はプラス成長の1年だと判断するのが適切ともいえる。 デュアルコアや64bit対応などの最新技術を搭載したCPUが、いよいよ本格的な普及段階を迎え始めているのに加えて、今年後半にはMicrosoftのWindows Vistaの投入も控えている。さらに、冬季オリンピック、ワールドベースボールクラシック、ワールドカップというスポーツイヤーの1年であり、テレビチューナー機能を標準搭載しているデスクトップが標準化し、ノートPCにも同様の機能が搭載されはじめたことは、PC産業にとっても、まさに追い風になる。4年前のスポーツイヤーの際には、薄型テレビ陣営にやられたPC業界も、今回は同じような過ちを繰り返すことはないだろう。 こうして見ると、プラス要素は相次いでいるといえそうだ。 だが、なぜメーカー各社は慎重な姿勢を崩さないのか。 それは最悪のシナリオを招きかねない、いくつかの要素が潜んでいるからである。 1つは、Windows Vista発売前の買い控えだ。とくに個人ユーザー向けPCに関しては、Vistaの発売時期がずれ込めば、直接、需要動向に影響を与えかねない。 Microsoftでも、まだ、Windows Vistaに関するマーケティング活動はなにも開始していないという状況だ。いや、むしろマスコミ各誌が「Vista」を取り上げるたびに、眉をひそめる段階にあるといった方がいいかもしれない。それは、早い時期からの露出によって、PCの買い控えを起こさないようにという配慮からである。 各誌がVistaを早い時期から取り上げ、買い控えを引き起こし、それにも関わらず発売が延期されるといような事態に陥るようだと、2006年のPC市場は最悪の結果に陥りかねない。 また、64bit CPUに関しても、対応アプリケーションがどこまで出揃うのかといった点での不安感は拭えない。個人ユーザーにまで64bitの恩恵が広がるようになるにはもう少し時間が必要だろう。同様に、デュアルコアに関しても、一般ユーザーがそのメリットを感じられるようになるまでには、やはり半年以上の猶予は必要だ。仮に、メールだけしか利用しないという一般ユーザーにとっても、デュアルコアは恩恵を与えることができるだけに、業界全体で、デュアルコアの良さを訴えていく活動も、PCの需要喚起のためには必要な取り組みだといえよう。 そして、数字の観点からいえば、JEITAが、2003年のアロシステム、2004年のデルというように、2年に渡って恩恵を受けてきた新規統計参加企業による数字の上乗せも2006年は期待できない。 2005年の新製品の発売時期の前倒しの反動や、2005年の出荷台数の増加によって比較される分母が大きいということも、数字の上ではマイナス要素に働く。 そして、何にも増して、円安に振れている為替の影響によって、PC価格の上昇に動きはじめたトレンドにどう対応するか、昨年後半から各社が陥りはじめたPC事業の収益悪化をいかに克服するかは、メーカー各社にとって、2006年に突きつけられた大きな課題といえる。 実際、1月以降に発売された春モデルは若干の単価上昇という傾向が見られており、需要への影響も懸念される。 2006年の最初のハードルとなる3月の需要期を前に、各社は攻勢をかけはじめているが、早くも厳しい状況に陥っているのは明らかだ。とくに個人市場は厳しさを増しており、前年実績を上回ることができるかが焦点となっている。
PCメーカーにとっては、今年も、楽観できない1年となりそうだ。
□関連記事 (2006年2月27日) [Text by 大河原克行]
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