山田祥平のRe:config.sys

ファイルを束ねるクリップが欲しい




 ファイルシステムは、パソコンでの作業で作成したり参照したファイルをストレージに蓄えるための役割を果たす。そこから目的のファイルを探し出しやすくするために、ぼくらはフォルダによる分類を励行してきた。ただ、この整理方法には限界がある。1つのファイルが複数のプロジェクトに分類されることが起こりうるからだ。

●Mac OS Xが提供するスマートの概念

 フォルダ分類は、Mac OS Xに実装された検索システム、「Spotlight」によって提供されているスマートフォルダによって大きな革新を得ることができた。物理的にファイルを隔離してしまう従来のフォルダとは異なり、検索条件を設定したフォルダを作成し、そのフォルダを開いた時点でのフォルダ内容をダイナミックに生成する。同様の仕組みは、Windows XPの検索機能でも検索条件の保存機能として実装されているし、「Windowsデスクトップサーチ」などでも同様のことができるようになっている。

 Mac OS Xにおける「スマート」の概念は、同OSで稼働するあらゆるアプリケーションに見つけることができる。

 たとえば、iTunesにおいては、「スマートプレイリスト」がそうだ。ここ1週間の間に追加した曲リストとか、取り込んだもののまだ1度も再生したことがない曲リストといったプレイリストが簡単に作れる。

 また、iPhotoでのスマートフォルダは、「スマートアルバム」という名前で提供される。こちらは、ライブラリ内にその時点で保存された写真の中から、日付やカメラの機種名などを条件に、ダイナミックにアルバムを生成する。だから、ある旅行に持参した複数台のカメラによる写真を便宜的に異なるフォルダに保存しておいても、スマートアルバムを使えば、フォルダの論理枠を超えて時系列に並べてみたりすることができるのだ。

 Windows用のアプリケーションでは、Adobeの「Photoshop Elements」に実装された「写真整理モード」が同様の機能を持っている。この写真整理モードは単体なら、多少機能が限定されるが、「Photoshop Album mini」として、フリーで入手することもできるし、Photoshop Elementsは1カ月の体験版も用意されている。このソフトでは、取り込んだ写真を、フォルダやファイル名などにかかわらず、時系列に平面的に並べ、それぞれの写真に名札をつけることで、ファイルを分類していく。1枚の写真に対して複数の名札をつけることもできるので、フォルダ分類のように、ファイルとフォルダが1対1で紐付けされることもない。

●オブジェクトをグルーピングするスタック

 1つのファイルを複数のフォルダに所属させたいという要求をかなえるために、エイリアスやショートカットという機能が生まれた。ファイルの実体は1つでも、複数のフォルダから、その実体を参照できるわけだ。タンスでいえば、夏物の引き出しと、冬物の引き出しのどちらを開けても同じTシャツを取り出せるようなものだ。

 もし、開いたファイルを編集しても、編集されるのはファイルの実体なので、それを参照しているどのエイリアスやショートカットを開いても、編集が反映された内容を確認することができる。

 GUIが提供されていないために、あまりポピュラーではないが、WindowsのファイルシステムNTFSには、ハードリンクも実装されている。ハードリンクは、1つのファイルの実体に対して複数の名前をつけられるというもので、最後のリンクが削除されるまで、ファイルの実体がファイルシステム上に存在し続ける。この機能をうまく使えば、1つのファイルの実体を、異なるフォルダからファイルそのものとして参照できるようになる。

 とまあ、ファイルシステムにおけるフォルダとファイルは、人間が過去の経験で培った整理ノウハウから大きく逸脱することなく、さらに、そこに付加価値を与えたものとして提供されている。だが、日常的に実作業ではやれているのに、パソコンではなかなかうまくいかないこともある。

 たとえば、旅行から戻ってきて100枚のデジカメ写真が手元に残ったとしよう。フォルダで整理する場合、当然、それらの写真は「2006志賀高原スキー」といったフォルダに格納することになるだろう。写真の中には、ゲレンデで撮影したもの、アフタースキーの宴会中のもの、往復のクルマの中で撮ったものなど、いろいろな写真が混在している。これらは、新たにフォルダを作って分類するまでもないが、なんとなく区分けしておきたいと思うかもしれない。

 印画紙にプリントされた写真であれば、トランプを繰るように、ササッと分類しておける。Windowsのフォルダウィンドウでも、自動整列をオフにしておけば、詳細表示や一覧表示以外では、ウィンドウ内に自在にアイコンを配置することができる。また、グループ表示をオンにしておけば、名前や種類、更新日時などで自動的に分類されてファイルの一覧を見ることができる。でも、あのトランプを繰るようなエレガントさがない。

 グルーピングの機能を一歩進めたのが、スタックという考え方だ。

 スタック機能を実装したアプリケーションとしては、先にあげたAdobeのPhotoshop Elementsの写真整理モードがある。スタックを使えば、複数の写真を束ねておいておけるのだ。ただ、写真をスタックにしてしまうと、それを解除するまでは、先頭に指定された1枚の写真として扱われ、スタック内の個々の写真につけられた名札が無視されてしまう。つまり、スタック内の写真は、あらゆる検索から無視されてしまうわけだ。

●検索で見つからないスタック内のオブジェクト

 最近、使ってみて、かなり気に入ったアプリケーションに、Mac OS X用の「Aperture」がある。写真の取り込みからセレクト、RAWデータの現像までを一気に済ませることができるワンストップソリューションで、Appleでは、このソフトを「オールインワンポストプロダクションツール」と呼んでいる。デジカメWatchでも、レビューされているので、機能の詳細はそちらをごらんいただくとして、このソフトにもスタック機能が実装されている。

 感動的なのはオートスタック機能だ。これは、0秒から1分までの間の時間を指定し、その時間内の写真を自動的にスタックとして束ねてくれるというものだ。たとえば、15秒の間に20カットの写真を連写したとすれば、それは露出をばらしたブラケットなどの同一カットである可能性が高い。だから、スタックとして束ねておけば、その中からあとでOKカットを選び出せばいい。写真のセレクトという実作業にはかなり魅力的な機能だとは思う。

 ただ、困ったことに、やっぱり、スタック内の写真が、Apperture内の検索フィルタにひっかからないのだ。ただし、スマートアルバムは、さすがにスマートというだけある。ちゃんと“Ignore Stacks Grouping”というオプションが用意されていて、これをチェックしておけば、スタックを無視して、指定した写真をダイナミックにひとまとめにする。検索フィルタにもこのオプションを用意すればいいだけの話なのに、ちょっと不思議な仕様だ。

 ちなみに、スマートアルバム内では、写真をスタックにまとめることができない。スマートアルバムが、一種のスマートフォルダであり、仮想スタックであると考えれば、スタックの入れ子ができない仕様の元で、これは仕方がないことかもしれないが、ちょっとチグハグ感が残る。

 Apertureでは、写真データを自前のライブラリにインポートする際に実データをコピーするしかないのだが、そのファイルはSpotlightの検索対象外だ。つまり、スタック化してしまった写真は、Aperture内でスマートアルバムを作らない限り見つけることができなくなってしまう。同一カットの一連の写真をまとめるためにはこの仕様で不便はなさそうだが、写真の内容に応じたスタックを作るという用途には向いていない。

●ゆるやかなグルーピングをかなえてほしい

 フォルダに分類するほどではなく、同じフォルダ内で平面的に、ゆるやかなシバリでファイルを区分けしたい。その要求に明確に応えてくれるソリューションは、まだ、見つからない。でも、今後、人間が生み出す情報は、ますますデジタル化されていく。その情報がストレージ内に落ちたとたん、何十万個、何百万個という膨大な数のファイルの中に紛れ込み、2度と見つけられなくなってしまうのではまずい。同じ実体が、タンスの複数の引き出しから参照できるというのがスマートフォルダで実現できたのだ。スタックの考え方も、まだ洗練されていくに違いない。

 メタデータで機械的に論理分類するのではなく、人間の意図でゆるやかに曖昧にオブジェクトをグルーピングするというのは、実生活では特に意識することなく、誰もがやっていることだ。本棚の書籍、棚のCD、机の上の書類の山。みんなそうだ。たとえば、PowerPointなど、ベクトル図形が編集できるソフトにはオブジェクトのグルーピング機能が用意されている。重ね合わせの上下関係も自在だ。そのオブジェクトがファイルとなったとたん、今のファイルシステムではエレガントにグルーピングできない。ファイルを束ねてスタック化しクリップで留めておくようなイメージ。次世代のファイルシステムには是非実装してほしい機能だ。

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【2005年10月20日】米Apple、プロ向け写真整理ソフト「Aperture」(DC)
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【2005年9月28日】アドビ、顔検出機能などを搭載した「Photoshop Elements 4.0」(DC)
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(2006年2月17日)

[Reported by 山田祥平]


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