●最初はNapaプラットフォームに搭載 Intelの次世代マイクロアーキテクチャCPUのモバイル版「Merom(メロン)」は、2006年第4四半期に投入される。 Meromは、2006年第3四半期に登場する次世代デスクトップCPU「Conroe(コンロー)」と同一アーキテクチャのデュアルコアCPUだ。MeromはもともとIntelのモバイル部門(Mobility Group)で開発されたが、同アーキテクチャの投入はデスクトップ部門(Digital Enterprise Group)の方が1四半期先になる。 1四半期ずれる理由の1つは、モバイルの方がデスクトップより、バリデーションと搭載PCの開発に時間がかかるためだと見られる。OEMにCPUを渡す時期が同じでも、搭載マシンを発表時に揃えようとするなら、モバイルCPUの方が発表が遅くなる。Meromの開発はモバイル部門だが、バリデーションはそれぞれの事業グループで行なっているという。 CPUブランドは、1月に発表したモバイル向けデュアルコアCPU「Yonah(ヨナ)」につけられた「Intel Core」ブランドを継承する。ただし、Coreのあとにつくサブブランド部分はまだわからない。 プラットフォームは、今年1月に発表されたNapa Platformでサポートされる。現行のNapaは、Yonahと「Intel 945系(Calistoga:カリストガ)」「ICH7-M」「Intel PRO/Wireless 3945ABG(Golan:ゴラン)」の組み合わせだ。このうち、YonahがMeromに置き換わる形となる。MeromベースのNapaは、プラットフォームコードネーム的には「Napa 64」あるいは「Napa Refresh」と呼ばれている。しかし、プラットフォームブランドは「Centrino Duo(Napa:ナパ)」を継承すると見られる。 デスクトップのConroeは、Intel 96x系(Broadwater:ブロードウォータ)チップセットと同期して登場する。そのため、デスクトップでは新CPUとともにプラットフォームも一新される。しかし、モバイルでは現行プラットフォームでCPUだけが入れ替わる。 もっとも、2007年の第1四半期には、モバイルプラットフォームも次の「Santa-Rosa(サンタロサ)」へと移る。Santa-Rosaは、Merom/Merom FSB 800と次世代チップセット「Crestline(クレストライン)」、次期無線LANモジュール「Kedron」の組み合わせとなる。こちらが、Meromプラットフォームの本命となる。
●Processor Numberは7000番台 2006年第4四半期に発表されるMeromは、メインストリーム&パフォーマンスクラス、つまり、現在のPentium M/CoreブランドCPUの製品ラインのみの予定だ。2007年のおそらく第1四半期にはCoreブランドのローエンドが追加される。 これらはいずれも通常電圧版で、TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)の低いLV(低電圧)版は2007年前半となる。さらに、2007年前半にはMeromベースのCeleron MブランドCPUも投入される見込みだ。これはシングルコアになると推定される。 2006年に投入されるMeromのSKU(Stock Keeping Unit=商品)は4種類。いずれもデュアルコアと見られる。年内に登場するMeromの周波数やL2キャッシュ量などは以下の通り。
Meromの動作クロックは、Yonahのそれを継承する。Yonahでは2006年後半に、2.33GHz(T2700)が登場する。Meromも最高2.33GHzと、ぴたりとYonahに揃えた周波数で投入される。TDP的には、Meromは34W程度と言われ、Yonahの31Wよりも高く設定されているため、同じ規模のCPUなら周波数を上げることができる。しかし、マイクロアーキテクチャが拡張されたMeromの方がYonahよりもチップの規模は大きいはずで、その分、原理的には電力が増大する。TDP枠の拡大は、アーキテクチャの拡張で相殺されていると見られる。 Processor Numberは、Yonahから導入された“アルファベット+4桁数字”の形式を継承する。 数字の前のアルファベットは、熱設計枠を示すパワークラス(Power Class)で、Tは24~49Wの通常電圧版。MeromはT7000番台と、T2000番台だったYonahから、一気に数字がジャンプアップする。面白いのは、デスクトップのConroeはE6000番台で、Meromの方が1000番上の数字がつけられていること。同じアーキテクチャなのに数字を揃えなかったのは、揃えると混乱を招くと判断したためとみられる。Meromの方を大きな数字にしたのは、モバイルを付加価値と加算したのか、モバイルグループ側で開発したことを考慮したのか。そのあたりはわからない。
Yonahにはシングルコア(片方のコアを無効化したと見られる)の1.66GHz「Core Solo T1300」がある。しかし、Yonahのシングルコアは、Coreブランドでは次第にフェードアウトして行く計画になっている。シングルコアのYonahの代替には、デュアルコアYonahのCore Duo T2300E(1.66GHz)が、今年第3四半期に投入される計画だ。プリフィックス(末尾)の“E”は、仕様を削ったことを示すと推定される。Intelは、最終的にはCoreブランドは全てマルチコアへと持っていこうとしていると見られる。 ●FSBは2007年に800MHzに向上 Meromの標準のL2キャッシュ量は4MB。Yonahと同様に2つのコアの共有キャッシュ構成となっており、Yonahと同等かそれ以上のキャッシュの省電力制御機能を備える。L1キャッシュは各コアがそれぞれ命令キャッシュ32KB、データキャッシュ32KBずつを備える。L1キャッシュの量はYonahと同様だ。 MeromのFSBは、本来は800MHz以上に対応できるように設計されている。しかし、NapaではFSBが667MHzであるため、当初登場するMeromはFSB 667だ。だが、2007年第1四半期に提供される、次のプラットフォーム「Santa-Rosa(サンタロサ)」でFSBは800MHzになり、合わせてMerom FSB 800も登場する見込みだ。 通常電圧版MeromのTDPは34W程度と言われており、Dothanの27WやYonahの31Wよりもさらに増える。ただし、Meromのジャンクション温度(Tj)は摂氏100度の見込みだ。これは、現行のPentium MやCoreと同レベル。デスクトップ用の、ConroeのCPUのパッケージ温度(Tcase)よりずっと高いと言われる。 CPUのジャンクション温度の許容値が高く設定されていると、CPUをより冷却しやすい。モバイル向けでは、高Tjが求められる。また、Meromは、Yonahよりダイが一回り大きいことも、熱設計ではある程度有利に働く。単位面積当たりの電力消費である電力密度(Power Density)が下がるからだ。ただし、本当に制約になるのは、ダイ上のホットスポットで、それについてはまだわからない。 MeromはYonahよりもチップ規模がかなり大きくなっているため、TDPを下げるために駆動電圧をやや下げていると推測される。そのため、MeromはYonahよりも低電圧でより多くの電力を供給する必要がある。電力の増大は約20数%で44A程度に達すると見られる。ただし、デスクトップと比べれば、電力量はずっと少ない。 ●急速に進むYonah/Meromへの移行 Intelは、モバイルCPUを迅速に65nmプロセスのYonah/Merom系に移行させていく計画だ。波としては、まずYonahがDothanを置き換え、さらにMeromがさらにYonahを置き換えて行く。通常電圧版とLV(低電圧)版については、こうしたウォータフォール型の移行が2006年から2007年にかけて進む。ただし、現在のところ、ULV(超低電圧)に当たるMeromベースCPUの予定はない。ULV系は、少なくとも2007年中盤まではYonahのシングルコア版とデュアルコア版が継続される。これは、MeromだとULVの熱設計枠にミートさせることが難しいためだと推定される。 モバイルCPUのデュアルコア化のペースは、デスクトップCPUのそれを上回る。 IntelがOEMに示しているパフォーマンス&メインストリーム系CPU(Pentium&Coreブランド)のデュアルコア化ガイドラインは図のようになっている。左がデスクトップ、右がモバイルだ。デスクトップよりも、デュアルコアの浸透が1フェイズ早く進行するというIntelの見通しだ。そこまでモバイルでデュアルコアが必要かどうかはともかく、Intelとしてはデュアルコアをモバイルで一足先に普及させるという計画でいる。
もう1つの図の左がIntelのモバイルCPU全体の、製品構成比(ミックス)のガイドラインの予想図だ。第2四半期で一気にCoreブランドYonahを浸透させようというIntelの戦略が読み取れる。また、Celeron MもYonahベースへと移行を急ピッチで進める。Celeron系は約30%前後をIntelは想定しており、これは、CPUの移行が進んでも変わらないと見ているようだ。Intelは伝統的に、パフォーマンス&メインストリームCPUが70%、バリューCPUが30%の構成比を維持しようとする。これは、CPUのASP(平均販売価格)を維持して利幅を確保するためには、この構成比が必要だからだ。 モバイルでは65nmプロセスへの移行も急ピッチで進む。下図の右は、プロセス技術毎に分けたチャートだ。これを見ると、モバイルCPUでは65nmへと雪崩を打って移行する様子がわかる。モバイルCPUも、現在の供給量はかなりの割合に達しているため、これはIntelが65nmへの移行にかなり自信を持っていることを示している。 この、Intelの製品構成とデュアルコアの移行を比べると、YonahベースのCoreでも、シングルコア版の出荷量は、それなりの量を予想していることがわかる。Celeron系もあるため、シングルコアはかなりの比率になる。この理由の1つは、Yonahの歩留まり向上もあるだろう。デュアルコアCPUの場合、片方のCPUコア上に欠陥がある場合でも、片コアを生かして動作するように設計できる。その場合は、本来なら捨てなければならない欠陥ダイ(半導体本体)を、製品として救うことができる。 65nmとデュアルコアへの移行を2006年中に急進展させるIntelのモバイルCPUロードマップ。デスクトップ以上に流れは急だ。
□関連記事 (2006年2月10日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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