●新しいロゴと新しい常識
IntelはCES開幕直前の1月3日に新しい企業CIとブランディング、それに基づく新製品の第1弾を正式に発表したばかり。新年早々から同社のWebサイトは全世界的にデザインを一新しており、すでに気づいた人も多いことだろう。そういう意味では、オッテリーニ社長の基調講演は、最もホットなものだったともいえる。
オッテリーニ社長が基調講演のテーマとして掲げたのは「New Normal」。これまでの常識(Normal)が新しい常識(New Normal)にとって代わられるということであると同時に、ある時Newだったものが次のNormalになる、ということでもある。ポータブルPCの世界1つをとっても、'82年に発表されたCompaq Portableは、持ち運べるというだけで、重量は12kgを超えている上、ネットワーク機能もなければ、バッテリ駆動もできなかった。これが当時では当たり前(Normal)だったわけだ。これを今のNormal、Centrino PC(3年前のNew)と比べれば、その変化は明らかだ。 こうした変化、デジタル革命による変化は、PCの世界のみならず、家電の世界も含めてありとあらゆるところで生じている。しかもこの変化は、すでに起きた分より、これから起こる分の方が多いという。37年ぶりに一新された企業ロゴに添えられたタグライン「さあ、その先へ。(Leap ahead)」は、Intelがこうした変化を先取りする企業であることを示すものであり、プラットフォーム企業となることの意味である。 2003年に登場したCentrinoは、Intelが本格的にプラットフォームとしてのマーケティングを行なった最初のものだが、この登場により全米中にWiFiホットスポットが広まった。もちろん、WiFiそのものはIEEEの標準に基づくものであり、Centrinoが初めて実用化したものではない。 しかし、同じ標準規格に基づいた無線技術であるBluetoothが立ち上げに長い時間を要し、特に最初の4年ほどの間ほとんど利用されることがなかったのは、プラットフォーム統合や、相互接続性の検証といった、WiFiにおいてCentrinoが果たしたような、標準規格以外の部分が足りなかったからではないのか。確かに標準は重要だが、標準だけでは十分ではない。それがプラットフォームを推進し、エコシステムを整備する意味だ。 PCの利用において、マルチタスキングやマルチスレッディングといっても、現時点ではその価値についてあまりピンとこないかもしれない(Normal)。だが、近い将来これが普通(New Normal)になる。その時代にふさわしいのがデュアルコア/マルチコアプロセッサだ。Intelは2005年にデスクトップとサーバ向けにデュアルコアプロセッサとそのプラットフォームをリリースしたが、ノートPC用はまだだった。 2006年1月に発表したCentrino Duoは、モバイル向けとしては初のデュアルコア対応のプラットフォームであり、これまでのCentrinoに比べて最大68%の性能向上、28%の消費電力改善、そして優れたWiFi機能を備えるという。
ちなみにこの68%という数字は、あくまでもSonomaとプリプロダクション版Centrino Duo(Napa)の比較であり、プレスリリース等にある最大70%という数字は、製品版のCentrino Duoによる数字らしい。また、28%という数字はSonomaとの比較であり、初代Centrino(Carmel)との比較ではほぼ同等レベル、ということのようだ(もちろん、これらの数字はみなプラットフォームとしての比較であり、CPU単体での比較ではない)。
言いかえれば、Yonahの正式名称がIntel Core(デュアルコアのDuoだけでなくシングルコア版のSoloも含めて)というより、YonahはIntel Coreブランドを用いる最初のプロセッサコア、という認識の方が正しい。すなわち、年内に発表される見込みの新マイクロアーキテクチャによるプロセッサ(クライアント向けのMeromおよびConroe)も、Intel Coreになる、という理解だ。 すでにIntelのWebサイトではIntel Core Duo Processorが、Intel Pentium Processor Extreme Editionの上位に位置づけられている。現時点において個々の製品による比較をすれば、価格、絶対性能とも、必ずしもこの位置づけとは限らないが、ブランドとしてはそうなる、と考えてよいようだ。 オッテリーニ社長は、Intel Core Duoプロセッサ(デュアルコアのYonah)について、ダイサイズはPentiumの3分の1、性能は100倍という紹介を行なった。と同時に、YonahベースのIntel Coreプロセッサは、軽量小型のモバイルノートPCから、一般的なノートPCはもちろん、エンターテインメントPCのような騒音が問題になるものまで、幅広く使えるものだとした(もちろん中心となるのはノートPCだろうが)。
ゲストとして招かれたDellのマイケル・デル会長が紹介した20インチ液晶ディスプレイを搭載したPCは、ノートPCと省スペースデスクトップPC(それもエンターテインメント色の強い)の中間のようなものである(マイケル・デル会長は、ソニーのストリンガー会長の基調講演にもゲストとして登壇した上、自らのスピーチ、そしてオッテリーニ社長の基調講演と大忙しだった)。 ●Viivは日本市場で受け入れられるか オッテリーニ社長の基調講演において、Centrino Duoと並ぶ柱となったのが、家庭向けPCのブランドである「Viiv」だ。Viivというブランドそのものはすでに発表されていたわけだが、今回Viivを構成するIntel製品の要件、ViivブランドのPCを発売する具体的なベンダのリスト、そしてViiv用のコンテンツを提供する会社が発表された。すなわち、Viivブランドを利用するには、Intel製のデュアルコアプロセッサ(Intel Core Duoに加え、Pentium D Processor、Pentium Processor Extreme Edition)、Intel 945/955/975の各チップセットファミリ、そしてIntel製のEthernetコントローラが必要となる。 特にPentium D Processorについては、これまでPreslerというコード名で呼ばれていた65nmプロセスによるデュアルコアプロセッサが発表されたばかりだ(残念ながら基調講演ではほとんど触れられなかったが)。 PCベンダのリストにはNECや富士通、先頃Intel Capitalの出資を受けたオンキョーをはじめ、日本のメーカーも数多く含まれる。米国では、Windows XP ProfessionalやWindows XP Home Editionと同じ感覚で、BTOのオプションとしてWindows XP Media Center Edition(Viivに必須)を選択できるベンダが少なくないが、わが国ではデジタル放送への対応を含め、必ずしもMedia Center Editionの人気が高いとは言い難い。これがViivの普及にどのような影響を及ぼすのかをCESの基調講演からうかがうことはできない。
が、このサービスをそのまま日本で利用できるとは思わない方が良いだろう。映画の興行権の問題が第一だが、日本語字幕や吹き替えのない映画をそのまま見せられても困る、という事情もある。ただ、ClickStarが日本でのサービス(ローカライズされた形で)を実施する方向で検討しているのは間違いないようだ。 コンテンツは、内容、価格ともに全世界的に均一のものを提供するということが難しい。それだけに、CESの基調講演の内容がそのまま日本にあてはまるとは限らないわけだが、様々な企業がViiv向けにコンテンツを提供しようと考えていることは間違いない。 その中の一部にはViiv専用のものが含まれる見込みだが、その割合はそれほど高くないようだ。WiFiホットスポットがCentrino以外でも利用できるように、これらのオンラインコンテンツの利用に必ずしもViivが必要というわけではない。ただ、Centrinoがそうであったように、Viivであればこうしたオンラインコンテンツの利用が検証されている、ということが強みになるとIntelは考えているのだろう。
オッテリーニ社長の基調講演は、Intelから直前に大きな発表があり、そのお披露目という意味合いが強かったという点で、ほかの講演者とはだいぶ様子が異なっていた。実際、CESの会場には、新ブランドの責任者であるEric Kim副社長(マーケティング担当)をはじめ、副社長クラスの大半が顔を揃えていた。新時代の幕開けをCESという10万人級の展示会イベントで行なうというもくろみは、とりあえず成功したようだ。
□関連記事 (2006年1月9日) [Reported by 元麻布春男]
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