●「モバイル」ノートでも使われないバッテリ しばしばノートPCは「モバイルPC」などとも呼ばれることがある。モバイルとは「機動力のある」とか、「動かせる」といった意味で、必ずしもパッテリ駆動を意味するものではない。 が、トランスポータブルという用語が、単に持ち運べるだけで、移動中には使えない(バッテリ駆動できない)ものを指すことと対比して、モバイルという形容詞はバッテリ駆動できるものを指すことが多い。中でもモバイルノートという風に使われた場合、特に可搬性の高い、軽量でバッテリ駆動に特化したノートPCを指すことが一般的だ。 ところが、モバイルという用語がノートPCの代名詞として使われるくらい一般的であるにもかかわらず、実際にバッテリ駆動されるノートPCは全体のごく一部である。以前、電力消費のピークをずらすために、ノートPCが備えているバッテリを活用しようではないか、という日本IBM(当時)の活動を紹介したことがあるが、そんなアイデアも出てくるほど、バッテリは活用されない資産なのだろう。 ●企業向けに多い1スピンドルノート
バッテリが使われないということは、バッテリ駆動時間に配慮したモバイルノートの市場はそれほど大きくない、ということでもある。実際、その需要の大部分は企業の一括導入、それも外にPCを持ち出す必要のある営業職社員の多い企業でまかなわれているようだ。 先日発表されたばかりの「VersaPro UltraLite」、「LaVie J」の発売元であるNECに販売比率をたずねたところ、企業とコンシューマーの割合は、9:1、あるいは10:0と言っても良いほどらしい。 これは特に同社で最もモビリティの高いノートPCが、LaVie Jシリーズに代表される1スピンドル機で占められていることと無関係ではあるまい。現在1スピンドルのモバイルノートPCは、Panasonicの「Let'snote」シリーズ(TおよびR)やLenovo(旧IBM)の「ThinkPad X4x」シリーズ、あるいは東芝の「dynabook SS」シリーズやDellの「Latitude X1」などで、やはり企業向けの色彩が強い。
たとえモバイル志向の強いノートPCであっても、コンシューマー向けには2スピンドル機が多くなっている。その代表格はソニーの「VAIO type T」シリーズ、富士通の「LOOX T」シリーズ、Let'snote Wシリーズというところで、企業向けにLatitude X1をラインナップするDellも、個人/SOHO向けブランドである「Inspiron」シリーズには2スピンドル機(「Inspiron 700m/710m」)を用意しているほどだ。
●企業向けと個人向けで用途は異なる ソフトウェアやデータを入手するメディアとして、CDやDVDといったパッケージの占める割合が減少し、代わりにネットワークの比重が高まっていても、個人が利用するノートPCでは、音楽CDやDVD Videoなどパッケージコンテンツを無視できない、ということなのだろう。特にLet'snoteのT4(1スピンドル)とW4(2スピンドル)のように、2スピンドル機の方が軽量(T4に標準バッテリを組み合わせた場合。もちろん、その代償としてT4の方がバッテリ駆動時間は長いが)といった状況まで出てきては、なおさらコンシューマー向けのPCから光学ドライブを取り除く理由はなくなる。売るほうにしても、2スピンドル機の方がサポートも楽なハズだ。 では逆に、なぜ企業向けのモバイルPCは今でも1スピンドルが主流なのか。おそらく、管理の都合上、余計なもの(光学ドライブ)がついていて欲しくないのだろうし、余計なものが追加される(ユーザーが勝手にアプリケーション等をインストールする)ことも望まないからだろう。さらに個人情報保護法の施行以来、企業はデータの持ち出しに非常に神経質になっている。上に挙げた1スピンドル機で1.8インチドライブが多く使われているのも、大容量のドライブが要らないということの裏返しにほかならない。 大量のデータを持ち運び可能なノートPCに蓄積されるのはリスクでしかなく、大量のデータを持ち運ばないのであれば20GBの1.8インチドライブでも十分だ。余計なデータは入れない、貯めない、持ち出さない、という考え方である。すでに企業によっては、ノートPCを持ち出す際は申請が必要で、申請が認められると、標準状態のHDDイメージでリフレッシュされたPC(つまり個人情報等が蓄積されていないPC)が貸与されるところも出てきているようだ。このような使い方をするのであれば、むしろHDD容量が小さい方が使いやすい。
さて、どうしてこのような話を延々としてきたかというと、上述したNECのVersaPro UltraLite/LaVie Jが、まさにこのような目的に最適化された製品のように感じられたからだ。一般の個人ユーザーは、LaVie Jとして接することになるこのマシンだが、個人向けのコンシューマー機としてみると不満が多い。 たとえば拡張性だが、スロットはPCカードスロットが1つだけで、デジタルカメラのデータを迅速に取り入れるためのメモリカードスロットはない。汎用PANインターフェイスとしてようやく普及し始めてきたBluetoothや、DVカメラを接続するためのIEEE 1394インターフェイスもない。 有線ネットワークも、Gigabit EthernetからEthernetにダウングレードされてしまった。軽量(最軽量構成時で996g)でそれなりにバッテリが持つ(1.8インチドライブが標準となるVersaPro UltraLiteで7時間駆動)という点が魅力的であるものの、量販店の店頭で輝くための「華」に欠ける(それとは別に、このクラスとしてはキーボードも悪くないが)。おそらくバッテリ駆動時間を意識してのことだろうが、チップセット(Intel 855GME)も最新ではない。 これらの不満も、企業が外回りをする社員に持たせるPC、という観点から見れば、ほとんど取るに足らないものであることが分かる。逆に、USBキーの頻繁な抜き差しを考慮し、通常の2倍の挿抜回数(1万回)を保証した右側面のUSBポート、2.5インチドライブとは排他搭載となる(1.8インチドライブ搭載時のみ利用できる)指紋認証センサーなど、企業向けのノートPCとしてアピールできる仕様(特にセキュリティ関係)を多く備えている。 無線LANのON/OFFを行なう専用のハードウェアスイッチが欲しいとも思うが、企業の日常用途であれば必要とまでは言えないだろう。天板の耐荷重150kgなど、あまりにLet'snoteを意識している点(これも華に欠ける印象を与える理由の1つだ)が気になるが、企業が持ち運び用に導入するPCとしては悪くない。むしろ、かなり良い部類ではないかと思う。 ●転用ではなく、個人向けのブラッシュアップを 問題は、これをそのまま量販店で、LaVie Jとして販売することだ。企業内個人など、ビジネス向けのノートPCを量販店で買わなければならない個人もいるには違いないが、かなりニッチな市場である(だからこそ、上の10:0などという数字が出てくるわけだが)。せっかく量販店に出すのだから、もう少し個人ユーザーにアピールできるようなブラッシュアップができなかったのだろうかと思う。 このVersaPro UltraLite/LaVie Jで、日本電気が軽量でありながらバッテリ駆動時間が長いという、モバイルノートPCにとって最も基本となる技術を持ち合わせていることはよく分かった。できればこの技術をベースに、コンシューマー向けにアレンジした、2スピンドル機を開発してもらえないものだろうか。光学ドライブを内蔵して1.2kg、6時間駆動くらいはできそうに思える。これではLet'snote W4に勝てないので、もう一捻り必要なのだろうが、使いやすいキーボードと必要になればファンを回す割り切り(回らないに越したことはないが、それによってキーボードが熱くなるくらいなら、本機のように回った方が良いと思う)で、対抗できるようにも思う。もちろんその時は、SDカードスロットとBluetoothも忘れないで欲しい。
□関連記事 (2005年12月28日) [Reported by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
|
|