Sun Microsystems(以下Sun)は2005年9月、「Sun Ultra 20 Workstation」(以下Ultra20 WS)を発表、10月上旬から発売を開始した。 このUltra20 WSがこれまでの同社の製品と異なるのは、Windows系OSを正式にサポートしたことである。元々SunはSolarisのx86対応製品を早くからリリースしており、かつx86ベースのSunもリリースしてきたが、当然ながらこれらのハードウェアでサポートされるOSはSolarisのみであった。ところがUltra20 WSや、同時に発表された「Sun Fire X2100/X4100/X4200 Server」はSolarisに加え、 ・Red Hat Enterprise Linux の動作をサポートするようになった。つまり、ある意味普通のPCと同じ構成を取った製品である。 「そうは言ってもSunのワークステーションなんてどこで買うんだ?」なんて話は当然あるわけだが、秋葉原のぷらっとホームでは実際にこれを取り扱っている。しかも今年12月29日までの限定モデルながら、10万円を切る価格(99,800円)で購入できるという、太っ腹なキャンペーンが今まさに行なわれている最中である。 そんな事もあって、我が家にSunからそのUltra20 WSが先日届いた。暫く好きに使ってよいということで、この後色々レポートしていきたいと思うが、まずは「Ultra20 WSってどうよ?」というレポートをお届けしたい。 ●Sunとの思い出 いきなり本題を離れて恐縮だが、ちょっとだけ筆者の昔話をしたい。筆者が最初にSunと係わったのは、確か2社目に転職したとき。VMEBusのボードをSunの上で動かすというので、当時三番町にあったSunの地下のポーティングセンターを使わせてもらい、Sun-4/370(SPARCstation 370)というマシンの上でドライバの開発やら動作確認やらをやっていた記憶がある。 その後、開発ターゲットがSPARCstationやSPARCstation 2に移り、今度はSBus(という拡張バスがあったのだ。昔)と取っ組み合いをした。当時のことだからウィンドウマネージャはOpenWindowsと呼ばれるもので(これがまた重くて、SPARCstation 1上では動くというよりものたくってるという感じだった)、大体OSもまだBSDベースのSun OS 4であった。 その後転職して、今度はSunのプラットフォーム上でのミドルウェア開発が仕事になり、ターゲットはSPARCStation 2からSPARCStation 5/10/20とかに変わったが、OSはSunOS 4.1.xとかいうレベルで、ウィンドウマネージャはOpenWindowsだったりMotifだったり、といった具合。 この頃になると、性能のやや劣るSPARCstation 1やSPARCstatuon IPCなどは中古で出回り始めたのだが、メモリカードが特殊(普通のSIMMは使えない)、OSが個人で手が出ないほど高い(ちなみにLinuxはまだKernel Version 0.2とか0.3の時代である。SPARCへの移植が行なわれるのは、もっとずっと後の話だ)などという現実的な問題もあって、「Sunはあくまで仕事で使うマシン」というのが、筆者の意識の中では強かった。 そうこうしているうちに、Sun OS 5という名前が「Solaris」に変わり、今度はSun OSからSolarisへのポーティング(Sun OS 5はSystem V系だったから、BSDなSun OS 4とは結構互換性が低かった)作業がちょいちょい出てくるようになったあたりで、またも転職した結果、Sunとの係わり合いは突如終わりとなる。その頃にはSolaris for x86はあったはずで、だから使おうと思えば使えたのだが、何しろBSDな人だった筆者にはSolarisはあまり馴染めず、また開発ツールの欠如(OS付属のccはANSI非互換な奴で、まともなSun Cは結構高かった。gccは当時Solaris用には存在しない)もあって手を出さずじまいだった。 Solarisはその後2.1→2.2と進化する途中で急にバージョンがSolaris 6とか7とかに大きく増えていってしまい、いよいよ筆者には無縁という感じが強くなっていたが、そうはいっても何かLinuxが全盛となりつつ昨今の中、Solarisを維持しつづけるSunにある種の共感を覚えていたのは、多分昔7年近くSun OSにどっぷり浸かっていたという経歴から来るノスタルジーのようなものかもしれない。 そんなわけで、Ultra20 WSを試してみないかという打診を編集部から受けて、一も二も無く受けてしまったのは、やっぱりノスタルジーのなせる技なのかもしれない、とか思う。従って、以下のレポートは個人的な思い入れが多少強くなっている事をあらかじめお断りしておく。 ●シルバーベースの筐体 さて、届いた箱はかなり大きめ。中には本体とキーボード/マウス/電源とCD-ROM/マニュアルといった、わりとごく一般的な構成である。筐体カラーは、蛍光灯の下で見ると単なるシルバーであるが、太陽の下に引っ張り出してみると、どちらかといえば渋めなカラーリングセンスになっている(画面01)。 本体はつや消しシルバー塗装で、過度にぎらつく事も無い。前面メッシュの裏が黒塗装など、光学ドライブに黒を選んでいるあたりはセンスの良さが光る。側面はというと、御覧の通りSunのロゴがでっかく入ったもの。長らくSunのマシンと付き合ってきた筆者からすれば全然OKである。というよりも、「うん、やっぱりSunのマシンはこーじゃないとな」という満足すら味あわせてくれるものだった。 ついでに言えばフロントパネルのメッシュ部に入るSunのロゴも、同社のもっと高価なWSやサーバーと同じクオリティを想像させる。このあたりのデザインは、やはりハイエンド製品を作ってきたメーカーらしい「そつのない」ところだ。背面は一転して割と無骨というかあっさりしたものだし(画面03)、部品の配置はPCそのものである。とはいえ、スロットに細かくバスの種類が記載されていたり、シリアルナンバーが目立つところに記載されるといった配慮は、やはりちょっと普通のPCとは異なる。 本体サイズは200×470×435mm(幅×奥行き×高さ)、重量は20kgとなっている。鉄製フレームということで、アルミ筐体の軽さとは無縁だが、過度に重いわけではない(とはいえ、本体が小さ目な事もあり凝縮感は感じる)。
●PCと似ていながらも、異なる内部 蓋を開けるといきなり内部配置やパーツ交換の手順が記載されているあたりが、やはりPCメーカーでは考えられない丁寧さだ。不慣れなフィールドエンジニア(一般にメーカーのフィールドエンジニアは、上位機種の交換には慣れているが、こうしたローエンドクライアントには案外不慣れな事が多い)でも間違いなくパーツ交換ができるようにという配慮である。内部配置はPCのそれだが(画面05)、よく見るとやっぱり色々違う部分がある。斜め上から見ると、まずCPUファンに長大なファンネルがついているのがわかる(画面06)。理由として考えられるのは (1) ビデオカードからの熱い空気を避けて、前面からの冷たい空気を取り込みたい というあたり。(3)はちょっと疑わしいが、何の理由もなくこんな構造にするはずもない。1番ありえそうなのは(1)だろう。 ちなみにCPUクーラーはこれで一体型になっており(画面07)、銅製のヒートプレートとヒートシンクにアルミのフィンと8cmファンを組み合わせたタイプ。意外なほどに重量は軽いが、縦置きの場合あまり重いとCPUとの密着度が減りやすく、却って逆効果な事がある。むしろ軽量なクーラーを高いテンションで取り付けたほうが密着度が上がり、冷却効率を高める役に立つという判断だろう。 ちなみに搭載されているのは2.6GHz駆動のOpteron152(画面08)。Ultra20 WSはOpteron 144(1.8GHz)/148(2.2GHz)/152(2.6GHz)の3つが用意されており、今回は最上位の152が搭載されたものが来ている。12月23日現在でのOpteron 152の平均価格は98,000円前後である。で、最上位製品の場合、組み合わせられるメモリはPC3200 Unbuffered ECC 1GB×2(画面09)でMicronのものだった(画面10)。
さて、マザーボードは何だろう? という話になるが、CPUソケットの右脇にシリアルを書いたシールが貼られている(画面11)ので剥がしてみたところ、製品名が出現した(画面12)。製品はTYANの「Tomcat K8E」という事になるが、製品ページに示されたStandard Modelで無い事は明白だ。Ultra20 WSの場合 ・Gigabit Ethernet×1 という構成だが、これに該当するStandard Modelは存在しないからだ。従ってTomcat K8Eをベースにした専用モデルという事がわかる。
次はドライブ類である。画面05で、CPUの右脇にあるのがHDDのドライブベイ、その上に光学ドライブのドライブベイが置かれる形である。HDDはRAIDを想像させるブラケットに搭載され(画面13)、これをドライブベイ(画面14)に装着する形だ。Workstationという事もありHot Swapなどには対応していないようだが、それは問題にはならないだろう。 むしろ問題は、このブラケットが単体では入手できなさそうなこと。コンポーネントリストを見ても、HDDに付属する形でしかOption Numberが振られておらず、後から2台目を増設する場合にはHDDごと買うしかなさそうである。ちなみに借用したUltra20 WSにはSeagateのBarracuda 7200.8 SATA 250GBが搭載されていた(画面15)。 一方、光学ドライブは、普通にATAPI接続のDVDスーパーマルチドライブを搭載する(画面16)。こちらは特にドライブレールも何もなく、そのままである。工夫はドライブベイ側にあり、穴の位置を合わせて金具を押し込むだけで固定されるという仕組みだ(画面17)。先のドライブレールもそうだが、このあたりは交換を迅速に行なう事で作業を減らすというメーカーの意思を強く感じる部分だ。ちなみに搭載されていたドライブはパナソニック四国エレクトロニクス(旧松下寿電子)のSW-9585-Cだった(画面18)。 ビデオカードだが、Solarisを動かす「だけ」ならマザーボードにオンボードのATI Rage XLで問題ないが、一応グラフィック分野のワークステーションとしての用途を考慮してか、NVIDIAのQuadro FX 1400が搭載されている(画面19)。SLIコネクタが目を引くが、TYAN Tomcat K8EはnForce4 Ultra搭載という事でSLIは利用できないのがちょっと残念だ。 電源はというと、ACBEL POLYTECHの400W(画面20)が搭載されている。あまり日本では知名度が高くないが、製品の永久保証を謳っており、OEMに多く利用されているメーカーである。 主な構成パーツは以上だが、ちょっとケースや内部配線にも目を向けておきたい。PC用のケースの場合、「蓋がきっちり閉まる」と「蓋が閉め難い」はほぼ同義語である。要するに隙間が無いようにきっちり設計されたケースは、開け閉めの際のマージンがほとんどないからという話で、特に新品のケースだとさっぱり蓋が開かずに苦労した、なんて経験を持つ人は多いと思う。 ところがUltra20 WSのケースではこうした事が一切ない。その理由はメタルテープである。要するにケースの蓋の部分は大きめのマージンが取ってあるが、そこに金属を繊維状に織り込んだテープが張られており、これがうまくクッションとなってテンションを掛けるために蓋を閉じるとしっかり閉まるという仕組みだ。画面17でドライブロックの緑のつまみの上に張られているのがそれである。本来の目的は蓋とケース本体を電気的に銅通させる事でシールド効果を高めるもので、サーバーなどではいたるところに多用されるが、コストの問題か、PC向けでは使われているのをまず見た事がない。 だが、Ultra20 WSは(PCではあるものの)サーバー向けの発想で作られているためか、メタルテープを普通に使っており、これが密閉性と開け閉めの容易さを両立させている。またケース内部のほとんどの個所が面取りされており、不用意に手を切ってしまったりする危険性は少ない。配線類の取り回しも考えられており、汎用パーツを使って構成されているとは思えないほどすっきりしている(画面21)。 個人的な感想としては、このケースを入手するためだけでも、Ultra20 WSを購入する意味があると思うほどに良く出来たケースである。当然ATXの仕様に準拠しているから、中身を別のATXマザーボードに入れ替える事も可能である。拡張性に凄く優れた、というわけではないが、これまで筆者が見てきた中ではトップクラスの使いやすいものだと思う。
●Sunキーボード&マウス わざわざこれを別に分けるか? とか言われそうだが、これも思い入れがあるのでちょっとご紹介したい。Sunにはさまざまなキーボードがあり、筆者がSPARCStation 2などで使って来たのは「Sun Type4 Keyboard」と呼ばれるものである。角型の物凄くごついもので、何がいやってメカニカルキーでないのにキーストロークが異様に重いというあたりが結構使いにくさを感じていた。 しかもこれに組み合わせる3ボタンマウスが一応光学マウスなのだが、専用のマウスパッドを使わないと移動を認識してくれないというもので、わりと苦労した覚えがある。ただその一方、キーのレイアウトはATの101キーなどより使いやすいもので、指はそれに慣れてしまった。 今回Ultra20 WSに付属してきたのは、Sun Type6英語キーボードである。キー配列自体はほぼType 4に同じ(ファンクションキー周りはだいぶ変わったが、これはType 5で変更になったもの)である(画面22)。やはりESCやCrtlはこの位置でないと使いにくい(画面23)、というのが筆者の率直な感想である。 ところで本題はその右側、縦に並んだ10個のキーである。このスペシャルキーはSunに特有なものである。特に左上のStopキーは、SPARCを搭載したSunで非常に多用する。Sunの場合、PCで言うBIOS SetupにあたるものとしてOpen Boot Menuと呼ばれるものがある。このOpen Boot Menuに入るためにはSTOP-A(StopキーとAキーを押す)の入力が必要で、ほかにSTOP-D(診断モード)やSTOP-N(NVRAM初期化。CMOSクリアにあたる操作)、STOP-F(対話形式でForceのインタプリタを起動する)などの操作が行なえた。 また、普通にSun OSなりSolarisが動いてる途中でStopキーを押すと、いきなりシステムモニタまで落とせるといった使い方もできる。普通に使う分にはまず用はないが、デバイスドライバの開発の途中などではしばしば利用される機能である。これがちゃんと用意されているあたりがSunのマシンらしい、としみじみ思ったりする。 ちなみに付属のマウスは普通の光学式3ボタンマウス(中央ボタンはスクロールダイアル)であった(画面24)。 ●とりあえずBIOS Setup さて、電源を投入するとまずはSunのロゴが全画面表示される(画面25)。ここでSTOP-Aを押すと……何も起きない。STOP-Aだけではなく、そのほかのキー操作も全て無効である。こちらのページには、USBキーボード接続の場合のキー操作が示されているが、全て動作しなかった。
結論から言うと、普通にPCのBIOSが搭載されている関係で、STOPキーなどは全く動作しない。そこで、F2キー(Delキーは無効にされていた)を押すと、あっさりBIOS Setupに入った。実のところ、Ultra20 WSには絶対OpenBoot PROMが搭載されていると(根拠もなく)信じきっていたのでちょっとショックである。ただそれだとWindowsを走らせるのは大変だし、そもそもFlash MemoryにROMイメージが全部載り切らない可能性がある上、Solaris for x86シリーズは伝統的にOpenBoot PROMなしでSolarisを立ち上げていたわけだから、搭載されていないのが当たり前である。 気を取り直してメニューを見てみると、タイトル以外は通常のBIOSメニューそのものである。Standard Setup(画面27)やAdvanced BIOS Features(画面28)には変わった個所はなし。ちょっと面白いのはAdvanced Chipset Features(画面29)の“Product Information”で、製品のシリアルなども一気に確認できること。これはおそらくオンサイトサービスを行なうフィールドエンジニア向けの機能であろう。ところで同じページに並ぶDRAM Configurationを覗くと、なぜかAutoでPC3200 CL2.5(画面31)になっている。SPDの記載を確認してみたいところだ。 Hardware Monitorなどは特に違いはなく(画面32)、このあたりは普通のPCユーザーならば簡単に理解できるだろう。
●今回はここまで さていよいよBoot……というとこんな画面(画面33)になるが、ここからは次回のお楽しみということで、今回はここまで。性能などに関しては、このあと順に確認していきたいが、Ultra20 WSがどんな構成のハードウェアかということは概ねおわかりいただけたと思う。 ちなみにこのモデルはハイエンド構成で、ぷらっとホームだと357,000円となっている。まぁ大半はOpteron 152とQuadro FX 1400の値段という感じだから高いのも仕方ないかという感じであり、ここまでのスペックが要らない人はもっと下のモデルで十分だと思う(最初に紹介した99,800円のモデルはOpteron 144/PC3200 ECC 256MB×2/80GB HDD/オンボードグラフィックという構成である)。 だが、このスペックで10万円というのは、そう悪いものではない。世の中には最近3万円をきるサーバーとかがあるが(で、実は筆者も1台買ったのだが)、明らかに造りが違う。特にケースの作りは絶賛物で、これだけ単体で買えないかと思うほどだ。「ちょっと気の利いたPCを欲しい」と思っている人は、検討してみる価値があると思う。 余談ながら、このUltra20 WSをウチのバカ猫も大層気に入ったようだ(画面34)。撮影に先立ってあれこれ用意している間、一時的に隣室に置いておいたのだが、気がついたらちょこんと座っていて、どきやしない。そんなわけで、「猫のお立ち台になるPC」を探している奇特な方にもお勧めする。
【12月27日 追記】 読者の方から、・Solaris 1.xもあった ・Solaris 1.xについてたK&R CCはまともだった という2点のご指摘をいただいた。そーいやそうだった、というか。ちょっと補足しておくと、Sun OS 4に続くものとしてSun OS 5になるはずだったのがSolaris 2.0という名前になることが決まった「後で」、従来のSun OS 4.1.x+OpenWindows 2.xの環境をSolaris 1.xと呼ぶことになったわけで、そういう意味では上の文章はやや不正確。上で書いたSolarisはSolaris 2.xの事とご理解いただきたい。というか、筆者を含む私の周囲では“Solaris”=Solaris 2.0以降という認識であって、1.xの事はやはり“Sun OS”と呼ぶのが普通であった。 それとcc。標準のccはK&R準拠で安定してはいたのだが、ここで言うK&Rは初版、つまりANSI Cの事は知らない(K&Rも第2版以降はANSI Cに対応になった)ために、ANSI Cで追加されたさまざまな拡張(特に型宣言のチェックなど)に非対応だった。悪いことに当時は、プログラムの品質を上げるために、ANSI Cの型宣言チェックをちゃんと実施すべしという風潮が一般的で、なのでK&Rベースのccではそもそも納品が出来ないといった状況だった。ライブラリ類が次第にANSI Cに対応となっていっており、ccだとこれのマージがうまくいかなかった、といった事情もある。そんなわけで上の表現になったとご理解頂きたい。 ちなみにK&RとANSIの違いに馴染みの無い方は、このあたり(http://docs.sun.com/source/806-4836/compat.html)を御覧いただくと多少雰囲気がつかめるのではないかと思う。
□サン・マイクロシステムズのホームページ (2005年12月26日) [Reported by 大原雄介]
【PC Watchホームページ】
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