富士通から発表された「FMV DESKPOWER LX」シリーズは、液晶を内蔵したいわゆる液晶一体型PC。その最上位モデルとなる「LX90R/D」は地上波デジタルチューナを内蔵したハイエンド製品となっている。 今回の2006年春モデルの特徴と言えるのは、デジタル放送の機能として、コピーワンス番組をDVDへ書き出すことができるムーブ機能を備えていることだ。家電のHDD/DVDレコーダでは当たり前のように備えていた機能だが、ようやくPCでも実現されたことになる。 また、富士通の独自機能として、HDDにコンテンツを残しつつDVDへと書き込める“ダビング”と呼ばれる機能が追加されている。今回のレビューでは、そうしたダビング機能の技術的背景などを含めつつLX90R/Dの魅力に迫っていきたい。なお、レビューにはサンプル機を利用したため、実際の製品とは異なる場合があることをお断りしておく。 ●家電では当たり前の機能だった“ムーブ”をようやくサポート 今回紹介するFMV DESKPOWER LX(LX90R/D、以下本製品)の最大の特徴は、デジタル放送を録画した番組を、CPRMに対応したDVD-RAMに移動する、いわゆるムーブをサポートしていることだ。 現在の日本のデジタル放送用機器には、ARIB(アライブ、社団法人 電波産業会)が定めるデジタル著作権保護の仕組みが採用されており、放送局側が立てるコピーワンス(1回だけ録画可能)、コピーネバー(録画不可)、コピーフリー(録画も、コピーも自由)などのコピー制御フラグにより、機器側の録画が制限される仕組みになっている。現在ほとんどの番組は、コピーワンスのフラグが立てられており、1度だけの録画が可能になっている。これらの規定は、ARIBが定める運用規定により決定されており、日本のTV放送に対応した機器を出すベンダは、このARIBの運用規定を守る必要がある。 ただし、コピーワンスの仕組みの中では、ムーブ(移動)と呼ばれる動作が想定されており、HDDに記録してある元のデータは削除し、HDDの中に記録されている番組を、CPRM(Content Protection for Recordable Media)などのDRMの仕組みが入った光学メディアなどに書き出すことが運用規定で許されている。デジタル放送に対応したDVDレコーダなどの家電系レコーダは、このムーブ機能を標準でサポートしている。 富士通のFMV DESKPOWERシリーズでは、夏モデルからデジタル放送受信機能をサポートしていたものの、夏モデルや冬モデルではムーブの機能は実装されていなかったが、今回より新機能として実装されたのだ。なお、従来のモデルもソフトウェアのアップグレードにより対応が可能となっており、富士通によれば順次対応していく予定であるという。 ●現行の運用規定を解釈し直すことで実現した“ダビング”機能 2006年春モデルのFMV DESKPOWERシリーズでは、ムーブに加えてダビングというモードも搭載されている。このダビングは、予約時にユーザーがダビングを選択しておくと、録画した番組をHDDに残したまま、CPRM対応のDVD-RAMメディアに、SD解像度に変換してコピーすることができるという機能だ。ただし、ダビング予約ができるのは常に1番組だけで、ダビング予約した番組をDVD-RAMに書き出すまで、次のダビング予約はできない。
これは、この“ダビング”という機能が、現行のARIBの運用規定の範囲内で実装されているためだ。つまり、ARIBの運用規定が改善されたからこの機能を実装できたというわけではない。富士通によれば、ARIBの運用規定では、いわゆる録画のコピーワンス規定について、 (1)DVDに直接書き込む という想定がされており、今回ダビングが可能になったのは、3つめのバックアップ記録のストリームを上手く活用したためだ。 ARIBの運用規定におけるバックアップというのは、直接メディアに書き込む指定をしている時に、ユーザーが異なるメディアを入れてしまって録画ができない、ということを救うために作られているもので、ユーザーからは不可視の状態でHDDに保存しておくことができるストリームのことを指しているという。 富士通はこれを応用し、ユーザーがダビングを選んだ場合、DESKPOWERのチューナは、通常の録画とバックアップと2通りのストリームをHDDに記録する。そして、通常のストリームはHDDからの再生用に、バックアップのストリームをメディアの書き出し用にと活用しているという。従って、どちらも1回のみの録画という、コピーワンスの枠ははみ出ていない。 ただし、このバックアップのストリームはHDD上には1つしか存在してはいけないため、前のストリームを消さない限りは、次のバックアップストリームをHDDに記録することができない。このため、ダビング予約は常に1つのみで、録画を終了しダビングが終わらないと次の予約ができない仕様になっているのだ。
富士通 パーソナルビジネス本部ユビキタスクライアント事業部 プロジェクト部長の松村秀一氏は、同社が開催した説明会において「この機能はあくまで現行のARIBの規定を富士通なりに解釈した結果実現したもの。ARIBの運用規定をどのように解釈するかがメーカーの力量になる」と述べ、富士通なりに独自に規定を研究し、ARIBの運用規定の範囲内で十分こうした機能が実現可能と判断したと説明した。 ●ムーブ/ダビングはの書き込み時間は実時間の1.5倍程度 本製品におけるデジタル放送の受信や録画などの各種操作は、リモコンの“デジタル放送”ボタンを押すことで呼び出される「DigitalTVbox」を利用して操作する。DigitalTVboxは本製品に搭載されているデジタル放送受信ボード(地上波デジタル、BSデジタル、110度CSデジタルを受信可能な「PIX-DDTV/P1W」)の製造元であるピクセラ製のソフトウェアで、従来製品でも採用されていたものがバージョンアップされ、ムーブおよびダビングに対応した。 録画する番組のディスクへの書き出しをムーブにするのか、ダビングにするかは番組の予約時に決定する。リモコンの“番組表”を押すか、メニューをたどって表示される番組表(iEPGではなくデジタル放送経由で送られてくるEPG)から予約したい番組を選択すると、予約の詳細設定画面になる。そこで、“メディア書出し”という項目を“移動(ムーブ)”に設定するか、“ダビング”に設定するかで、その番組をダビングするか、あるいはムーブするかを決定できる。 ただし、すでに述べたように、前にダビング予約した番組の録画が終了し、ディスクに書き出すまでは次のダビング予約を入れることができない。その場合には“ダビング予約ができない”と表示されるので、ムーブを選んで予約することになる。 録画した番組をDVDに書き出すには、メニューから“DVD作成”を選択する。なお、本製品は光学ドライブとして、松下電器のDVDスーパーマルチドライブ「SW-9585S」が採用されており、ほとんどすべてのDVDメディアへの書き込みが可能となっているが、DigitalTVboxから書き込むことができるのはCPRMに対応したDVD-RAMだけとなっている。このため、他のメディア(例えばDVD-RWやDVD+RWなど)には書き込むことができないので注意したい。 DVD作成のメニューの中には、“移動用録画番組”と“ダビング”というメニューの2つが表示される。“移動用録画番組”はもちろんムーブのことで、リストから選んでムーブする番組を選択することができる。ムーブ可能な番組はリストの中ではディスクのアイコンで表示される。ダビング予約した番組はムーブできないので、ディスクのアイコンは表示されない。ダビングを選択するとダビングを行なうことができるが、ダビングの場合対象となる番組はその時点では1つしかないので、特にリストなどは表示されない。ダビングにせよ、ムーブにせよ、選択すると画面はWindows UIにおり、ウインドウが表示されて以降の操作は主にマウスで行なうことになる。 なお、デジタル放送では17Mbpsや24Mbpsという非常に高いビットレートなので、そのまま記録した場合、現状のDVDでは短い時間しか録画できないことになってしまう。そこで、本製品ではもう少し低いビットレートのMPEG-2にトランスコードしなおして保存することになる。本製品では、以下の3つのビットレートが用意されている。 ただし、これらのトランスコードは、CPUを利用して行なわれている。このため、トランスコードにそれなりの時間がかかり、ディスクへの書き込み時間は番組の実時間を上回っている。実際、15分の番組をSPモードでDVDーRAMへ書き込んでみたところ、26分かかった。富士通の関係者によれば、目安は実時間の1.5倍程度ということであるので、それなりの時間はかかることは覚悟しておこう。 なお、ムーブやダビング時にCMカットなどの編集作業を行なうことはできない。せっかくメディアにわざわざ残すのだから、よけいなCMなどはカットしたいというニーズはあるはずなのだが、残念ながらできない。PCの場合、CPUの処理能力は高いし、マウスやキーボードという家電にはない編集に適した入力機器もあるのだから、ぜひとも次機種や今後のアップデートなどではサポートしてほしいものだ。
●DLNAガイドラインに対応したMyMedia、WMV再生時の使い勝手が改善 富士通独自の10フィートUIである「MyMedia」もバージョンが2.4へとバージョンアップされた。このバージョン2.4の最大の特徴はDLNAガイドラインに対応し、DLNAの認定ロゴを取得したことだ。 MyMediaは、音楽、静止画、動画などをリモコンを利用して再生するソフトウェアで、リモコンの“MyMedia”ボタンを押すことで起動することができる。MyMediaを利用することで、ローカルにあるコンテンツの他、DLNAガイドラインに対応したホームネットワークに接続された機器に保存してあるコンテンツも再生することが可能になる。 なお、細かいことではあるが、バージョン2.4では、従来のバージョンではできなかったDLNAサーバー上にあるWMVファイルのトリックプレイ(早送りやスキップなど)が可能になっている。WMVはDLNAガイドラインではオプション扱いとなっていることもあり、DLNAガイドラインに対応した機器であっても、WMVの再生はできてもトリックプレイはできないことが多い。これに対して本製品で採用されたMyMediaのバージョン2.4では、早送り/早戻しだけでなく、スキップ/リプレイにも対応しており、使い勝手が非常によい。最近では、録画したTV番組をWMV形式に保存しているユーザーも少なくないと思うので、これは嬉しい改善点と言えるだろう。 アナログ放送の録画は付属ソフト「TVfunStudio」を利用して行なう。TVチューナカードは、ピクセラの「PIX-MPTV/P6W」が採用されている。PIX-MPTV/P6Wは3次元Y/C分離、ゴーストリデューサなどの高画質回路を持ったTVチューナカードで、シングルチューナ構成となっている。なお、本製品はデジタル放送+アナログチューナという構成になっているが、下位モデルの「LX75R」ではアナログのデュアルチューナ構成となっている。デジタル放送は必要ないが、アナログ放送をもっと録りたいというニーズであれば、こちらを選択するという手もあるだろう。
また、本製品にはWindowsを起動しなくてもローカルコンテンツやアナログ放送を再生できる“インスタントMyMedia”と呼ばれる機能が搭載されている。インスタントMyMediaは、OSが起動していない状態で、リモコンのMyMediaボタンを押すことで起動することができる。起動してから数秒で、TVやコンテンツを再生することが可能になるため、ちょっとTVやHDDのコンテンツを見たい、という時には便利だ。 このインスタントMyMediaはWindows XP Embedded上で動作しており、Embeddedとはいえ、同じWindows XPなので、本来であれば電源OFFなどから起動するにはドライバのイニシャライゼーションなどに同じような時間がかかる。しかし、FMV-DESKPOWERシリーズでは、本来のWindowsが終了する際に、ドライバのイニシャライゼーションを行なっている。このため、OSのシャットダウンが終わった後に、数秒動作するというちょっとユニークな仕様になっている。 ●Pentium 4 630とIntel 915GVで十分な性能を実現 ハードウェアのスペックとしても、本製品は十分なものとなっている。CPUはHTテクノロジに対応したPentium 4 630(3GHz)が搭載されており、チップセットはIntel 915GV、DDR2-SDRAM 512MB(256MB×2、デュアルチャネル構成)となっている。Intel 915GVは内蔵グラフィックスのみのチップセットで、GPUは内蔵されているIntel GMA900を利用する。 HDDはWesternDigitalの「WD3000JD」(シリアルATA、7200回転)が採用されており、容量は300GBとなっている。標準構成では、Cドライブ(30GB)+Dドライブ(270GB)という形でパーティションが切られている。光学ドライブは前述の通り松下電器のDVDスーパーマルチドライブであるSW-9585Sが採用されている。DVD±R DLは4倍、DVD±Rは16倍、DVD-RWは6倍、DVD+RWは8倍、DVD-RAMは5倍速で書き込みが可能だ。 液晶ディスプレイは20型ワイドが採用されており、解像度は1,366×768ドットとなっている。輝度はかなり明るめで、ビデオなどの再生時にはTVと同じような感覚で利用することができるが、付属のOffice 2003 Personalのようなオフィスアプリケーションで文章作成などをしていると目に痛いぐらいだ。なお、輝度は液晶の右横にあるロータリースイッチを利用して操作することができるので、PCのディスプレイとして利用する場合にはやや輝度を落として利用するといいだろう。 インターフェイスはすべて、本体前面ではなく、左右に用意されている。これはデザイン上の配慮によるもので、そのおかげで前面は非常にすっきりしたデザインにまとめられているが、前面にUSBポートなどがないため、これらを利用する場合には液晶の裏側に回り込まなければならず、やや面倒だ。見た目を重視するのか、使い勝手を重視するのか難しい問題だが、本製品のターゲットとなるようなユーザーの場合、見た目を重視というユーザーが多いということだろう。 キーボード、マウスは無線方式のワイヤレスになっており、5m離れたところから操作しても問題なく操作できた。キーボードには液晶画面が用意されており、キーボードとマウスの電池残量などを確認することができる。こうしたワイヤレスのキーボードが操作できない場合、電池がないのか、それともPCがフリーズしてしまっているのかすぐには判別できないだけに、すぐ電池残量が確認できることは非常にありがたい。
●液晶TV+ハイビジョン対応HDDレコーダ+ハイエンドPCで27万円はお買い得 以上のように、本製品の最大の特徴はデジタル放送の受信機能で、新たにムーブやダビングなど光学ディスクへの出力をサポートしたことだろう。トランスコードに実時間より時間がかかったり、トランスコード時に編集できないなどの不満はあるものの、これまでできなかったことができるようになったことは評価していいだろう。これで、家電系レコーダでは当たり前にできていたことに追いついたことになり、一歩前進と言える。 また、本製品のような液晶一体型PCがターゲットにしているような20代の単身者というようなユーザーにとって、非常に魅力的な製品に仕上がっている。本製品は20型液晶TV+ハイビジョン対応HDDレコーダ+ハイエンドPC+デジタルメディアサーバーという複数の機能を備えているのに、価格はそれらのすべてを足したよりも安価な27万円(市場想定価格)にとどまっており、お買い得感は高い。 液晶一体型PCにもデジタル放送受信機能が欲しい、と考えていたユーザーであれば本製品はぜひ検討してみたい製品の1つと言えるだろう。 □富士通のホームページ (2005年12月20日) [Reported by 笠原一輝]
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