元麻布春男の週刊PCホットライン

続・コピープロテクションCDが招く災い




●Sony BMGが声明を公開

 不思議なほど我が国では話題にならないが、海外ではSony BMGのrootkit問題は沈静化する兆しを見せない。Sony BMGは、問題のコピープロテクション技術であるXCPを採用したCDを一時的に製造中止にする旨をWebサイトで発表した。

 しかし、この声明は問題の本質に対する回答になっているのだろうか。参考までに、以下にこの声明の筆者による拙訳を掲載しておく。

 当社はXCPソフトウェアがインストールされたコンピューターに影響を及ぼすおそれがあるコンピューターウイルスが登場していることを憂慮しております。XCPソフトウェアは、Sony BMGのコンテンツ保護されたタイトルの一部に採用されたものです。この潜在的な障害は、コンピューターベースではない、通常のCDおよびDVDプレーヤーには影響を与えません。

 こうした状況に鑑みSony BMGは、存在すると言われるコンピューターウイルスへの対策として、すべての主要なアンチウイルス会社と消費者に対し、速やかにパッチの提供を行なうことにしました。このパッチは、起こりうるソフトウェアの問題を修正するとともに、当該のCDのパーソナルコンピューター上での再生を継続することができるようにするものです。このパッチはhttp://cp.sonybmg.com/xcp/からダウンロードすることが可能です。また本日からこのリンクをSony BMGレーベルとコーポレートのサイトに追加しました。当社は、この件によって生じるすべての問題についてお詫びいたします。

 当社は、当社および当社所属アーチストの知的財産権を守る重要なツールとして、コンテンツ保護技術を支持しています。しかしながら、予防措置としてSony BMGは、一時的にXCP技術を採用したCDの製造を停止します。同時に、消費者の使いやすさとセキュリティを両立させるという当社の目標を確実に達成し続けられるよう、当社のコンテンツ保護イニシアチブについて、あらゆる角度から再検証する考えです。当社のコンテンツ保護イニシアチブに関するさらなる情報は、 http://cp.sonybmg.com/xcp/でご覧になれます。(以上)

 この声明には、いろいろと言いたいことがあるが、ここでは主要なものに絞って指摘してみたいと思う。

 まず、XCPソフトウェアが、通常のCDおよびDVDプレーヤーには影響を与えないという点だが、確かにこれは正しい。だが、Sony BMGのWebサイトを訪問し、この声明を読む人の多くは通常のCDプレーヤーのユーザーではないだろう。まさか、親会社(少なくとも半分の)であるソニーが、PCと組み合わせて利用するネットワークウォークマンを発売していることを知らないわけでもあるまい。PCに悪影響を及ぼす可能性があるということは、ネットワークウォークマンのユーザーに迷惑をかける可能性があるということでもあると、分かっているのだろうか。

 次に提供されるパッチだが、あくまでもXCPを改変するだけのものであると明言されている。言い換えれば、このパッチはXCPを取り除くものではない。Sony BMGのWebサイトには11月15日付で、現在アンインストールツールについて準備中であり、現在は配布していないことが明記されている(http://cp.sonybmg.com/xcp/english/uninstall.html)。

 最後の段落では、Sony BMGおよび所属アーチストの権利を守るために、コンテンツ保護技術が必要であることを訴えている。

 しかし、そのためにユーザーのPCにアンインストール不可能(少なくとも現時点で)なソフトウェア、それもセキュリティ上の障害を引き起こす可能性のあるものをインストールしてよい理屈にはならない。自分たちの権利を守りたいのであれば、他者の権利をまず尊重すべきだろう。これでは、大量破壊兵器を製造する「可能性」を根拠に、他国へ実際に武力侵攻するのと大差ない。少なくとも、音楽という文化事業を行なう会社にふさわしくないのは明らかである。

●ソニーは手をこまねいていていいのか

 もう1つ疑問に感じることは、この問題に関して、ソニー本社から何の発表もなされていないことだ。確かにSony BMGは、ソニーとBertelsmann AGの折半出資による合弁会社であり、ソニーにだけ人事権や指揮権があるわけではない。

 しかし、問題がソニーブランド全体に波及しようとしているのに、何のアナウンスもないというのは、なぜなのだろうか。この鈍感さ、レスポンスの遅さは、コンシューマーカンパニーとは思えない。ブランド価値を守りたいのであれば、迅速に行動する必要があると思う。

 なお、MicrosoftはXCPに対して、自社の「悪意のあるソフトウェアの削除ツール」による検知・削除を可能にする方針をセキュリティ担当者のブログの形で明らかにしている。つまり、XCPとその配布者は、Windowsワールド公認のお尋ね者となる可能性が高い。実際に、そのような事態が起きる前に、ソニーとSony BMGがやるべきことは多い。


【11月16日20時追記】

 日本時間11月16日の午後時点において、Sony BMGトップページにリンクの貼られた声明がアップデートされた。これも拙訳を示しておきたい。

http://blog.sonymusic.com/sonybmg/archives/111505.html

お客様へ

 Sony BMG製の一部CDに採用されている、XCPコンテンツ保護ソフトウェアに関する最近の報道にはお気づきのことかと存じます。このソフトウェアは、サードパーティであるFirst4Internetによって当社に提供されています。現在、このソフトウェアを内蔵するCDを使用することで生じるセキュリティ問題について議論が集中しています。

 当社は、XCPソフトウェアを含んだCDに関する消費者のみなさまと同様の懸念により、XCPソフトウェアを採用したCDを、コピープロテクションを持たない同タイトルのCDへ交換するプログラムを実施することとしました。また、販売パートナーに対して、店頭ならびに在庫分として残るすべてのXCDソフトウェア採用CDの回収を依頼しました。この交換・回収プログラムの詳細について、間もなく発表する予定です。

 当社は、こうした措置によりお客様に生じるいかなるご不便について申し訳ないと思うとともに、この状況を正す所存です。また、これらのCDにより引き起こされる問題は、コンピューター上での再生時にのみ生じるものであり、通常のCDプレイヤーやDVDプレイヤーでは生じないものであることを今一度強調しておきたいと存じます。

 今回の新しいイニシアチブは、当社が先週実施したXCPソフトウェア採用CDの一時製造停止を含む、既定方針に沿うものです。さらに、セキュリティに対する懸念を解消するため、主要なソフトウェア会社ならびにアンチウイルスソフト会社に、次のリンク( http://cp.sonybmg.com/xcp/english/updates.html )からダウンロードできるものと同じソフトウェアアップデートを提供しました。間もなく、すでにXCPソフトウェアがインストールされてしまったコンピューターから、それを簡単かつ安全にアンインストールする手順についてもご案内できる見込みです。

 当社にとって消費者のみなさまの経験こそが最優先事項であり、当社所属アーチストの音楽をより広範な聴取者のみなさまにお届けすることが当社の使命でもあります。今後とも、お客様ならびに消費者の皆様の音楽を聴きたいという欲求により柔軟に応えられるよう、新しい方式も含め検討していく所存です。(以上)

 11月15日付けの日付が入れられた新しい声明では、表現が改められると同時に、XCPを用いたCDの回収と、コンテンツ保護技術のない通常のCDへ交換する方針が明らかにされている。

 全般に、権利者側の主張を繰り返していた前の声明に対し、消費者を意識したものに改められた。問題のCDの回収と交換が打ち出されたことで、今回の騒動は収束する方向へ向かうと思われるが、すでに起された集団訴訟の結果、海外へ輸出されてしまった分(わが国に並行輸入されたものを含む)への対処など、まだ不透明な部分も多く残っている。

□SONY BMGのホームページ(英文)
http://www.sonybmg.com/
□XCPに対する声明(英文)
http://blog.sonymusic.com/sonybmg/archives/xcp.html
□Uninstallに関する説明(英文)
http://cp.sonybmg.com/xcp/english/uninstall.html
□関連記事
【11月15日】【元麻布】コピープロテクションCDが招く災い
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1115/hot393.htm
【11月14日】米Microsoft、SONY BMGのDRM技術について削除ツールで対応を表明 (INTERNET)
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2005/11/14/9837.html

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(2005年11月16日)

[Reported by 元麻布春男]


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