どんな製品であっても、それを作った人の顔が向こう側に見えるというのはいいものだ。こめられた丹精や愛情が手に取るようにわかれば、商品の売れ行きにも少なからず影響を与えるだろう。どうせなら、そういう製品を購入したいと思う。 ●Xビデオステーションの後日談 「私、設計さんから殺されます……」 ソニーのバイオパブリシティ担当者から連絡があった。先週、ここで取り上げたXビデオステーションの件だ。どうも、ぼくが手元で評価した個体が、量産試作機より、もっと前の試作機であることが判明したらしいのだ。 ただ、ぼくは、この製品のおもしろさを十分に理解できたつもりで、すでに、ソニースタイルで8チューナ/500GBモデルの購入の手続きをとっていた。量産試作機はすぐに届いたが、それを追うようにして、製品が発送されてきた。こうして、期せずして、試作機、量産試作機、製品という3世代の製品が手元に揃った。 もっとも気になっていた背面ファンの騒音は、製品版では見事に抑制されていた。ファンコントロールもうまく働いているようだ。騒音の感じ方は人それぞれだし、室温や負荷などによってそのレベルは変わるだろうが、常時稼働させていても、これなら許容範囲内だと感じる人も多いはずだ。 とはいうものの、いくら静かになったからといって、個人的にはこれを枕元に置いて寝るのは平気かというとやっぱりためらってしまう。 一方、添付ソフトであるXVプレーヤーの早送りに関することで、その不安定さに言及したが、こちらは、仕様としては右方向キーで15秒スキップ、左方向キーで7秒戻しとなっているそうだ。ということは、番組の合間に入る15秒CM4本は右方向キーを4回叩けばきちんとスキップできるはず。でもこれはうまくいかない。まだ不安定だ。でも、きっとそのうちバージョンアップで仕様通りになることを期待したい。 どうしてもうまくいかなかったインターネット越しの視聴に関しては、ルータ搭載のPPTPにWindows XP標準のVPNで接続した場合にはうまくいかないが、SoftEther VPN 2.0ならうまく稼働するようになった。環境は変更していないので、これは、きっとファームウェアの不具合によるものだったのだろう。 こうなると、同じ放送局を低ビットレートと高ビットレートで同時に録画したいという欲求が高まる。試してみたところ、東京都内の多くのホットスポットでは、4MbpsVBRをSoftEther経由で再生するのは難しかった。なめらかに再生できるホットスポットもあるので純粋に確保できる帯域幅だけの問題だと思われる。でも、1.25Mbpsなら、かなり劣悪な環境でもなんとかなる。もしかしたら海外からでも大丈夫じゃないかと期待は膨らむ。自宅では高ビットレートの映像を楽しみ、出先では低ビットレートの画像でガマンするという使い方をしたいのだ。前回の時点ではどうしてもうまくいかなかったのだが、これに関してはかなりトリッキーな回避策を教えてもらった。 Xビデオステーションでは、初期導入時およびHDDのフォーマット後に各チューナと放送局をペアリングしておくようになっている。8チューナ版なら1~8のチューナに順に放送局を割り当てていくのだが、このとき、同時録画したい放送局を割り当てからはずしておく。そして、ダミーとして、録画する必要のない放送局を割り当てておくのだ。こうしておくと、パターン録画の設定時にそのチューナにペアリングされた放送局以外を指定することができるようになる。 つまり、ポイントは2種類のビットレートで録画したい放送局はチューナとペアリングしてはいけないということだ。タイムマシンビューでの録画済み番組の表示に多少の矛盾が生じるが、録画リストには二重に出てくるので問題はない。こうした点に目をつぶれば目的は達成できる。さすがにこんな技は作った人でないと思いつかないだろう。 Xビデオステーションの向こう側には、それを作った人の顔がちゃんと見える。実際に使っていることが感じられる。寝室に1週間置いてみたときの家族の反応を反映したかもしれない。民放の番組を立て続けに何本も見るときの使い勝手を仕様に盛り込んだかもしれない。限りあるHDDの容量をいかにうまく使うかを工夫したかもしれない。こうしたことが、きちんと考えられていることが伝わってくる。 ●美しいことと使いやすいこと iPod Photoを初めて手にしたときに感心したのは、画面の美しさよりも視認性を優先している点だ。普通なら、Photoを楽しむ機能を搭載したのだから、より美しく画像を見せられるようにするはずだ。ところがiPodは、アウトドアでの視認性を優先していた。この発想は、実際に、デジタルオーディオプレーヤーを携帯し、炎天下で使ってみた人でなければ持てないと思う。朝日の降り注ぐ街路をジョギングしながら使ってみた人でなければわからないだろう。 液晶デバイスの特性上、屋外での視認性を高めることは、店頭での見栄えを考えたらデメリットにもなるくらいだ。でも、日がさんさんと照りつけるアウトドアで、写真を見たり見せたり、大量の曲からお気に入りの一曲を見つけたり、登録したプレイリストを探し出せなければ意味がない。 最新iPodが先日発売されたばかりだが、動画に対応しても、そのポリシーは当たり前のように守られている。iPod Photoほどではないが、明るいところでもかなりきちんと見えるのだ。 このあたりの物創りポリシーに関しては、たとえば、松下のD-Snap Audioなどと比べてみるとおもしろい。 今年の春に同社から発売された「SV-SD 100V」を初めて手にとって見たとき、なんておしゃれな製品だと思った。化粧直しにも使えそうなミラー仕上げと、キャラメルを思わせるスクエアなデザインは、とても魅力的に感じられたものだ。 ところが使ってみるとものすごい違和感を感じる。たとえば、この製品には左側にボリューム「+」と「-」の2ボタン、右側に「前へ」、「再生/ストップ」、「次」の3ボタンが装備されている。ボリュームを上げるために親指で+ボタンを押そうとすると、正面から本体をつまむようになる。そうすると、どうしても人差し指が「次」ボタンにかかってしまう。押しボタンなので、どこかに支点がなければ押せないのだが、そのときに誤操作させてしまう可能性が高いのだ。 しかも、ハーフミラーに浮かび映えるせっかくのおしゃれな3色有機ELディスプレイの表示は、直射日光が降り注ぐ屋外ではまったく見えない。5分もさわっていればわかる操作性の難点が、そのまま製品になってしまうというところが問題だ。 残念ながら、この思想は新製品の「SV-750V」でも受け継がれてしまった。音楽を外に持ち出すための機器が、どうしてこうした発想で作られてしまうのだろうか。ぼくには、D-snap Audioを設計したり企画したりしている人たちが、自分たちの製品で音楽を楽しんでいる顔がどうしても見えてこない。 ●顔が見える、メッセージが聞こえる 作り手の顔が見える製品と、見えない製品。どちらかを選ぶとしたら、ぼくは確実に前者を選ぶ。もしかしたら、その顔はぼく自身の勘違いかもしれない。作り手は、買い手が想像もしていなかったような顔、考え方をしていることだってあるだろう。でも、想像ができることそのものが楽しいし、そこに製品のメッセージ性を感じる。そして、作り手が想像もしなかったような使われ方が生まれるかもしれない。このギャップが新たな文化を創る可能性もある。 今日は、アラン・ケイの講演を聴いてきた。日本HPが協賛するプロジェクト「HPスーパーサイエンスキッズ」の名誉委員長として、その基調講演でのスピーチだ。初めて間近で見たアラン・ケイは、ステージの演台でパソコンを操作しながらプレゼンテーションを行なった。その手元にあったのは、大きな声では言えないが、HPのパソコンではなく、松下のLet'snoteだったのにはちょっと驚いた。周知の事実かもしれないが、ぼくは知らなかった。松下のハード設計チームの開発者なら嬉しくないはずがない。なんといっても、DynaBookの提唱者が実際に使っているのだ。ケイ氏は、Let'snoteの向こう側に、その作り手の顔をどんなふうに見ているのだろうか。 □関連記事
(2005年11月4日)
[Reported by 山田祥平]
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