●鼻息荒いキヤノン、エプソン 年末商戦突入を直前に控え、プリンタメーカー各社から、今年の年末商戦向け新製品が出揃った。 例年、この時期は、プリンタメーカー同士の熾烈な争いが繰り広げられる。量販店店頭でも、プリンタは、最大の目玉商品として位置づけられ、店頭に新製品が一堂に展示されるほか、イメージキャラクターによるPOPや、プリントサンプルが数多く配置される。店頭でも1番にぎやかなコーナーだといえるだろう。 テレビCMでも、この時期になって、プリンタメーカーの広告が一気に増加したことでも、商戦がいよいよ本格化してきたことがわかる。 新製品の会見でも、両社の鼻息は荒い。 2004年に、8年ぶりのトップシェア奪還を果たしたキヤノンは、「年末商戦では50%以上のシェアを獲得し、2年連続年間トップシェアを狙う」(キヤノン販売・芦澤光二常務取締役)とするのに対し、今年は首位奪還を目指す立場となったエプソンは、単月ベースでの集計では、2005年9月までは4月を除いてすべてトップシェアという状況。それを受けて、エプソン販売の真道昌良社長は、「年末商戦では52%のシェア獲得を目指し、年間トップシェアを奪還したい」と意気込む。 2社の目標数字を足しただけでも、シェアの合計は100%を突破。この2社の言い分だけを聞くと、2番手グループの日本ヒューレット・パッカードやレックスマークは、参入余地すら残されていないということになる。 ●複合機に舞台が移る 激しい2社のぶつかり合いが見られる個人向けプリンタ市場において、今年は3つの争いがある。 1つは、複合機を舞台とした争いだ。 昨年は、複合機にひと足早く舵を切ったエプソンと、シングルファンクションプリンタ(SFP)にこだわり、そこでボックス型という斬新なデザインを採用したキヤノンとの間で、戦略が大きく分かれた。いわば、複合機が売れるのか、SFPが売れるのかという点が、シェアを左右する最大の焦点となった。 結果として、販売構成比が約3割弱に留まった複合機に力を注いだエプソンが、複合機では圧倒的シェアを獲得しながらも、インクジェットプリンタ市場全体ではトップシェアから転げ落ちるということになった。 だが、2005年は、完全に争いの舞台が複合機に移行している。
量販店などの販売データを見ると、2005年夏以降、複合機がプリンタ市場の半分以上を占めており、すでに複合機が主戦場へと移行してきていることがわかる。今年の年末商戦では少なくとも約6割が複合機になるというのが関係者に共通した見方だ。 9月まで、エプソンがトップシェアを維持してきたのも、複合機へと需要が移行することに伴い、同社に複合機のラインアップが多かったこと、さらに、年間を通じて、それに伴う販促投資を積極化してきたことが見逃せない。 そのエプソンは、2004年に引き続き、複合機を主軸に据え、9月までの勢いを駆って、リベンジに意欲を見せる。 一方のキヤノンは、2004年は2機種だった複合機のラインアップを、2005年は4機種へと拡大し、複合機を中心とした展開へとシフトした。 まさに、複合機を舞台とした両社のぶつかり合いが始まったのだ。 エプソンは、複合機でリードしている点をアピール。手書き文字合成機能の強化、原稿種選択メニューの追加によるコピー画質の向上、スキャナーおよびコピーを生かした退色復元機能や写真自動切り出し機能など、写真を焼き増し印刷する場合の機能強化も図っている。 さらに、印字ヘッドの走査回数を示すPASS数の削減、ノズルの走査時間の短縮によって実現される写真印刷高速化技術の採用で、従来比約2倍の高速印字を実現してみせた。昨年の最上機である「PM-A900」ではL判写真に41秒かかっていたものが、今年の最上位機「PM-A950」では20秒での印字が可能となっている。
一方、キヤノンは、複合機におけるキーテクノロジーのひとつであるコピー機能においては、ビジネス向け複写機、個人向けコピー機での実績を注入したとして、その優位性を訴える。 「MP950」および「MP800」では、階調と色差のバランスを最適化し、色再現性を向上させる「デュアルマット色変換処理技術」や、低解像度用と高解像度用の2つのCCDを備えた「Dual CCD」などを採用。さらに、写真部分とテキスト部分とを感知して、それぞれに最適化した印刷を可能とする像域分離技術を搭載している。 これによって、裏映りがしている用紙のコピーや、画像と文字が混在した紙をコピーしても、最適なコピーを可能としているのだ。 まさに、複写機メーカーとして長年の実績を持つキヤノンだからこそ実現できた機能だといえよう。 複合機で先行したエプソンが勝つか、実績を持つ複写機技術を投入したキヤノンが勝つか。2005年は2004年とは違う土俵での争いが注目される。 ●コンパクトフォトプリンタでの新たな戦い 2つめのポイントは、写真専用のコンパクトフォトプリンタ市場における戦いだ。 この分野は、2004年4月にエプソンが投入したカラリオミー(「E-100」)によって、市場が形成された分野だといっていいだろう。 エプソンの調べによると、コンパクトフォトプリンタの市場規模は、今年度第3四半期だけで10万台をはるかに突破すると見られており、いまや見逃せない存在になってきた。 「新規需要と、買い増しの双方の掘り起こしが実現されている」(エプソン販売販売推進部・佐伯直幸部長)というように、従来のインクジェットプリンタ市場にプラスαでの需要開拓が見込まれている。
ここ数年、国内インクジェットプリンタ市場は前年割れで推移してきたが、今年度は、久しぶりに前年実績を上回ると見られている。その市場拡大を牽引しているのが、このコンパクトフォトプリンタだといえるだろう。 エプソンでは、今年春に投入した「E-200」を継続しながらも、新たに普及モデルの「E-150」を追加。選択肢を広げて、市場拡大を狙う。 これに対して、キヤノンは、9月に入ってから、これまでは昇華型方式を主軸としていたこの分野に対して、インクジェット方式のコンパクトフォトプリンタ「SELPHY DS810」を追加。SELPHYシリーズのラインアップ強化を図った。従来からインクジェット型のコンパクトフォトプリンタは投入してはいたが、今年の力の入り方はこれまでとは比にならない。 「出足では、昇華型に対して、インクジェット型がやや少ないという出荷比率。だが、年末商戦では、これが半々になると予測している」(キヤノン販売・芦澤常務)という。 9月16日の出荷にあわせて、福澤朗氏を起用したテレビCMを展開。これも影響して、発売後1週間程度は品薄が続いたという状況に、キヤノン販売では新製品の売れ行きに手応えを感じているようだ。 コンパクトフォトプリンタ市場における熾烈な戦いが今年は勃発したといえよう。 ●2社が共同戦線を張る戦いも そして、3つめの争いは、キヤノンとエプソンが共同戦線によって挑む戦いだといえる。 それは、フィルムメーカーが推進する「お店プリント」と、キヤノン、エプソンのプリンタ陣営が提案する「おうちプリント」との戦いだ。 デジカメの急速な普及とともに、プリンタから写真を出力するという使い方が増加している。デジカメの写真を、自宅でプリントするという使い方だ。PCを介さずにプリントが可能なダイレクトプリント機能の搭載なども、こうした需要を捉えたものだといえる。 だが、これに対抗して、強力な対抗プロモーションをかけているのが、フィルムメーカーやDPE店舗だ。とくに、その筆頭ともいえるのが、「カンタン、キレイ、色あせない」のコピーとともに、お店プリントの優位性を訴えている富士写真フイルムである。
キヤノン販売の調査によると、一般的にデジカメユーザーの20~25%とされていたお店プリントの比率が、富士写真フイルムの積極的な広告展開の影響もあって、2005年夏には、一時的に35%にまでその比率が上昇したという。 今年の年末商戦向け新製品のテレビCMで、エプソンが「プリンタまかせで、写真がキレイ」、キヤノンが「デジカメプリントでお悩みの皆様へ、もう迷う事はありません」というコピーを使用しているのも、お店プリントへの対抗を強く意識したものだといえる。 そして、キヤノン、エプソンの2社は、異口同音に、お店プリントにおけるユーザーの誤解を指摘してみせる。 両社が個別に調査をした結果によると、お店プリントを利用しているユーザーの多くが、「キレイ」であることと、「長期保存が可能」であることを選択理由にしているという。裏を返せば、プリンタによるおうちプリントでは、お店でプリントするのに比べて、プリント品質が悪い、長期の保存ができないというイメージがあるということになる。 まさに、富士写真フイルムによる「カンタン、キレイ、色あせない」の広告戦略が功を奏していることがわかるだろう。 これに対して、キヤノン販売の芦澤常務は、「買い換え平均サイクルといわれる3年をベースに考えると、確かにいまから3年前のプリンタでは、2,400dpi、5ピコリットルというレベルであり、しかも耐久性も劣っていたことは認める」と前置きしながらも、「今年の新製品では、1ピコリットル、9,600dpiという世界に類のない高精細化によって、誰もが高品質の写真プリントができる。また、長期保存性でも「ChromaLife 100」という当社の独自技術によって、お店プリントを上回るレベルに到達している」と語る。 一方、エプソンも、「つよインクとエプソン写真用紙によって、エプソンカラーといえる品質を実現。さらに、耐オゾン性で30年以上、耐光性で80年以上を実現した。お店プリントに比べても、品質、長期保存で引けをとらない」と語る。 エプソンが2005年から使用しはじめたエプソンカラーという名称は、いわば、富士写真フイルムのフジカラーに対抗する形で採用したものといえ、これによって、プリンタによる写真画質の高さをアピールする考えだ。 「お店プリントでは、ベースとなる色づくりが肌色を健康的に見せることに絞っている例が多い。そのため全体的に赤みが強い写真となりがち。また、機械を操作するオペレータによっても色が変化する。当社の「オートフォトファイン!EX」によって、誰でもが簡単に、色かぶりや逆光を補正し、理想的な肌の色を実現することができる」(セイコーエプソン)と、お店プリントを強力に牽制する。 実は、キヤノンとエプソンの首脳に取材すると異口同音に返ってくるのが、2005年は、お店プリントへの対抗戦略を重視するという点だ。 事実、2005年の両社の新製品発表会見を見ると、お店プリントの現状や課題、おうちプリントの優位性について、かなりの時間をとって、説明を行なっていた。これまでには例がないことだ。 2005年のプリンタメーカーの最大の焦点は、3つの戦いのなかでも、フィルムメーカーが打ち出す「お店プリント」への対策だといえるのではないだろうか。
□キヤノンのホームページ (2005年10月17日) [Text by 大河原克行]
【PC Watchホームページ】
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