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Freescale Technology Forum Japan 2005レポート オリジナルRISCコアColdFireの現状9月8日 開催
最後に、Motorola以来のFreescaleオリジナルRISC CPUコアであるColdFireの現状についてまとめておきたい。 EPF2004の中でも触れた通り、FreescaleはColdFireをまだ作り続ける意図を持っており、今回もVoIPハンドセットという形でわざわざ紹介するほどであるが、FreescaleはColdFireをどう考えているのかがある程度見えてきたので、これをご紹介したいと思う。 ●ColdFireの現状のラインナップ 現状ColdFireのポジションは、PowerPCおよびARMの「下」というポジションにある。例えば基調講演で示されたのはこんなロードマップ(写真2)、もう少し詳細なロードマップはこんな感じ(写真3)だ。
1~2chで低価格向け、音声通話オンリーにColdFireのMCF5xxxシリーズを使い、それより上の高機能端末には「i.MX」シリーズを、VoIP対応PBXなどのアグリケータにはPowerQUICCをそれぞれ提供するというのもで、またアグリゲータ用にはCPUでCodecを実装していると負荷が高いので、STARCOREを使ってこれに対応しようというものだ。 では実際にどんな製品ラインナップがあるかをいくつかご紹介したい。ColdFireのラインナップで1番基本的なのは「MCF5207」、「MCF5208」。これは本当にローエンドの構成で、組み込みコントローラ向けといった用途だろう。これの省電力パッケージが「MCF5211」、「MCF5212」、「MCF5213」で、動作周波数を落とし、外部バスも省いた構成。ただCAN(Controller Area Network)などのI/Fを搭載し、オプションでフラッシュメモリを内蔵できるのは、車載向けのコントローラとして最適だろう。だが、このあたりのクラスだとVoIPは「やればできないことはない」だろうが非現実的だ。
VoIP向けの最小構成は「MCF5249」であろう。この製品の場合、120/140MHzの「ColdFire V2」に8KBの命令キャッシュと96KBの共用メモリ(L2キャッシュとしても利用可能)、それにEMAC(乗加算器)を加えた構成に周辺I/Oを搭載したSoCで、この程度でもVoIPハンドセットには十分ということらしい。その兄弟モデルとしてMFC523xシリーズも用意されているが、これはどちらかといえば車載向け製品といった感じだ。 一方、上位には「ColdFire V4e」を搭載したMCF547xシリーズが控えており、さらにそれにCANのI/Fを追加したMCF548xシリーズもあるが、このクラスだとVoIPハンドセットには明らかにオーバースペックな感じだ。性能レンジでも266MHzで410MIPSだから、e300コアの504MIPS@266MHzと大差なく、「i.MX21」に搭載するARM920(1.1MIPS/MHz)の300MIPSを軽く凌駕しており、これは別セグメントに分類されるべきなのだろう。 ちなみにFreescaleはVoIP向けの製品展開をこんな具合(写真10)に考えている。「MCF53XX」はまだ存在しない製品で、Freescaleのロードマップ(写真11)を見ると今年中にリリースされることになっている。一応「MCF5307」という製品については明確に詳細が示されているが、そのほかの派生形は今のところ未公表だ。
今年も第4四半期が目の前に迫っている状況を考えると、現実問題として製品展開が始まるのは来年になるのかもしれない。ちなみにこのロードマップを見ると、“ColdFire V5”の文字が躍っており、まだFreescaleがColdFire V5を諦めていなかったことにちょっと驚くとともに、PowerPCとの住み分けをどうするつもりなのか、非常に気になるところである。 ●IPコアとしてのColdFire ColdFire自体はVoIPというよりはむしろ、汎用のコントローラといった用途が主眼に置かれている。実際ColdFireのラインナップを見てみると、POSやバーコード用プリンタの制御やMotor Control、あるいはVending Machine(自動販売機)などといった用途が並んでいる。かつては68K系のプロセッサで行なっていた、こうした低負荷の処理を今はColdFireでまかなっているという話である。 実際、写真12のようなプレゼンテーションもあるほどで、PDAなど情報家電にはARM、そのほかの組み込みはPowerPCという大きな枠組みがあって、両者のローエンドをColdFireでまかなうと考えるのが1番順当そうだ。この辺りをネットワーキング&コンピューティング・システム・グループ ジェネラル・マネージャーの伊南恒志氏は「やはり68000の時代から長く使っていただいているお客様が、ソフトウェアの互換性があるということで、そのままColdFireを使っていただいているという例は多い」と説明する。
昨今ではこのマーケットはARM7がかなり進出してきているが、そのほかのマイクロコントローラもかなり多く、ColdFire V2はここにちょうど良いソリューションだということだ。「ではColdFire V4やColdFire V5は?」と水を向けると、直接の返答は無かったが「ARMなどは機能が多いマーケットにフォーカスしており、こうした(コントローラ向け)マーケットにはうまくフィットしない」という返事が返ってきた。 これを噛み砕くと、要するに組み込み機器系も次第に高性能化の必要性が出てくる。例えば初期のエンジンコントローラはパラメータも少なく、処理も簡単だったから8bitのマイクロコントローラでも間に合ったが、エンジンの高性能化や低燃費、排気ガスの清浄化などを実現するためには桁違いに細かな制御が必要になる。 このため、最初は粗い2D Mapで済んでいた制御パラメータも、今では4Dや5Dといった具合になっており、かつデータ量も膨れている。しかもこのMapを参照するためのセンサーの数やデータ量も増えているため、最近では32bitコントローラは必須で、しかもかなり高性能なものが要求されるようになってきている。 これはエンジンに限った話ではなく、多くの制御分野で通用する話であり、従って今はARM7で済んでいても、将来を見越すともっとハイパフォーマンスが必要になるのは明白である。こうした用途に向けて、ある程度性能の高い製品を用意しておくことでスケーラブルに性能を上げていけることを示しておくのは悪い案ではない。 もう1つは、搭載するインターフェースや特性での分類だ。写真14を見ると、PowerPCとColdFireの住み分けがよく理解できる。特に-40度~+85度という広い動作範囲がColdFireの特徴として示されている辺りが、ColdFireの特徴を良くあらわしていると言える。比較的温度管理のしやすいところ(例えばダッシュボードの中)はPowerPCでも済むが、温度管理が難しいところ(エンジンルームの中など)には引き続きColdFireを提供していくということで、これは明確な差別化の一例であろう。 それともう1つ用途として考えられるのは、セミカスタムASIC用のCPUコアとしての役割である。今回のFTF Japan 2005では「フリースケールの提案するPowerPCプラットフォームによるSoCソリューション」と題した講演があり、PowerPCコアにカスタムASICを組み合わせたSoCを作る方法についての説明があったのだが、そこで登場したのがこのプレゼンテーション(写真15)。プレゼンテーションではe300/e500コアを使っての組み込み方法が中心だったが、顧客が望めばColdFire(明言はされなかったが、回路規模を考えればColdFire V2であろう)をDualで組み込むといったことも可能である。
実際FreescaleはColdFire V2/V3/V4コア(V5コアもリストに載っているが、これは将来プランと見なすべきだろう)を必要ならハードマクロで提供できるそうで、これはASICを構成する際に非常に有利である。そもそも最近は、ASICにCPUを統合するのが流行である。たとえばAlteraの「Nios」や「Nios II」、Xilinxの「MicroBlaze」や「PicoBlaze」がその代表例であるが、こうしたCPUは設計段階で容易にカスタム回路と融合させることができる反面、実装の際には動作速度や性能、サイズ(というか消費ゲート数)の制約が少なくない。 これに対してハードマクロで提供されるColdFireは、最小のサイズで最大のパフォーマンスを得られるという点でメリットは大きい。実際、写真15のDual Coldfireといった構成が可能なのも、そもそものサイズが小さいからであろう。昨今はASICの開発費用や最小生産数の多さが問題になり、以前ほどASICが選ばれにくくなってきているが、ColdFireのIPコアは、こうした傾向に対するFreescaleの1つの提案とも言えそうだ。 □フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンのホームページ (2005年9月16日) [Reported by 大原雄介]
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