ロジクールから今年の新作マウスが登場した。昨年はレーザー光線を用い、平滑性の高い場所でのトラッキング性能を大幅に向上させたMX1000をリリースしたロジクールだが、今年はゲーマー向けにハードウェア/ソフトウェアの両面を最適化したGシリーズを投入する。 “ゲーマー向け”とわざわざ断わっているのは、トラッキング性能の面では圧倒的な性能を有しているものの、機能面ではMX1000などの一般用途向けマウスよりもシンプルにまとめているためだ。ただし、ソフトウェア改良の一部分に関しては、Gシリーズの方が(一般向けとして)使いやすい面もある。 実はこのGシリーズ、5月に米国ロサンゼルスで行われたE3でプレス向けにコンセプトや一部の仕様が公開されていたものである。当地で行なわれた米ロジテック・ワールドプロダクトマーケティング担当副社長のアシーシュ・アローラ(Ashish Arora)氏の話を交えながら、新しいGシリーズの実際の使用感などをレポートしたい。 ●新シリーズ、性能向上のポイント 製品に関してはすでに発表済みだが、今回発表されたGシリーズには「G3 Optical Mouse」、「G5 Laser Mouse」、「G7 Laser Cordless Mouse」の3機種がある。このうちG3は、今年のCeBITで発表されていた1,600dpiのLED光源トラッキングエンジン搭載のゲーマー用マウスMX518の名称を変更し、最新のマウスドライバを添付したものだ(日本では未発売)。
一方、G5とG7は新開発のトラッキングエンジンを搭載。前者はワイヤード、後者はワイヤレス仕様である。 この2機種に搭載されているトラッキングエンジンは、MX1000で開発されたレーザー光線を用いた900画素の高精度センサーだ。ただしトラッキング精度は最大2,000dpiにまで高められている上、データフォーマットを16bit、差分をPCに送信するレポート数は毎秒500回にまで高められている。 と、こう書くと“その数字は少しおかしいのでは? ”と思う人もいるかもしれない。 Windowsの場合、USBのマウスクラスドライバは毎秒125レポートで、X方向、Y方向への移動差分を送るデータフォーマットも8bit。一部、ゲーマー用マウスでレポート数を増やしているものもあるが、毎秒500レポートはおそらく最速だろう。 G5およびG7が16bit毎秒500レポートを実現できたのは、Windows標準のUSBマウスクラスドライバを利用せず、ロジクールが独自に開発したカーネルドライバを用いているからだ。このドライバはモノリシック構造になっており、レイテンシも僅かながら高速化されているようだ。 データフォーマットが16bitになっているのは、トラッキング精度の向上やゲーム用途ならではの急峻な動きに対し、差分のトラッキングカウント数が8bitではオーバーフローするケースがあるからだ。加えて最終的な移動距離はマウスドライバのセッティングから演算されるため、そこでの変換時に発生する量子化誤差を減らし、より移動誤差を小さくすることもできる。これらレポート回数やデータフォーマットの変更により、ケーブルを通る情報量が大幅に増加する。このためG5、G7はUSBのフルスピードモード(12Mbps)で接続される。 ただし通常のUSBマウスドライバも利用することは可能だ。ロジクールのドライバとユーティリティのセット(SetPoint)をインストールせずにPCに接続すると、通常通り、HIDドライバが検索され、マウスとして利用できる。ただし、その場合のレポート数は毎秒125回で、データフォーマットも8bitとなる。 また、すべてのGシリーズ製品にはdpi切り替え機能があり、高速移動を望む場合と細かな操作を行なう場合で、トラックキング精度を3段階に切り替えることができる。2,000dpiのG5、G7の場合、2,000、800、400(いずれもdpi)がプリセットされており、SetPoint内の設定を変更することで、最高2,000dpiで任意のトラッキング精度を設定可能。マウスフット(足として貼られている滑りをよくするシート)に、摩耗が少なく滑りやすいテフロンが使われており、激しい操作に備えてフットのサイズも極端に大きい。 アローラ氏は「ロジクールは2年ほど前からゲーム機向け周辺機器市場に参入しているが、今回の製品はその流れを象徴する製品。ゲーマーが自在にFPS(一人称視点シューティング)を楽しむため、性能を追求。北米の著名なプロゲーマーからのアドバイスを取り入れて完成させたもの」と話す。 ●ゲーマーの望む要素をすべて詰め込んだ MX510の流れを汲むデザインを採用しているG3は別として、G5、G7を見て最初に思うのが“なぜデザインが1世代古いマウスに似ているのか? ”という点。次に“なぜボタン数が減っているのか? ”という声も出てくるだろう。 これは「既存ユーザーがあまりにもMX500シリーズの形状に慣れすぎたため。特にゲーマーはさまざまな持ち方でマウスをホールドし、激しく動かす。慣れた形状で使いたいというニーズが大きかったため、Gシリーズでは旧デザインをモチーフに小変更を加えたデザインにした」(アローラ氏)ためだ。 ボタン数に関しても、とっさの動作にボタンを押し間違えるなどのトラブルを防ぐため、あえてボタン数を減らしているという。配置されたボタンは通常の左/右ボタン、ホイールボタン、ホイールチルトボタン、それにdpi値切り替え用ボタン2個、親指で操作するバックボタン1個。MX1000などに配置されているアプリケーション切り替えボタンはなく、親指ボタンも1個減らされている(各ボタンは他機能に割り当てることもできる)。 「これまでも、800dpiの精度やワイヤレス機能など、一般ユーザーからのニーズで進化した部分はあったが、そうしたユーザーからは性能の面で現在以上のマウスが欲しいという声はなかった。しかしゲーマーは特殊。彼らは究極の性能を求める。そこで提供できるテクノロジを徹底的に詰め込んで、プロゲーマーのコミュニティに提供し、彼らが欲しいと思う機能すべてを詰め込んだのがGシリーズだ。解像度、マウス移動速度に対する追随性、センサー感度の切り替え、滑りの滑らかさ、初動のレスポンス、それに激しい使い方に対する耐久性だ」 「加えて意のままに操るためのチューニングも重要。自転車乗りが自分の能力や体型に合わせてギアやフレームを微調整するように、マウスにもカスタマイズ性を持たせた。またゲームごとに最適な設定で動作するように、アプリケーションごとに設定を自動切り替えする機能も盛り込んでいる」とアローラ氏は話す。 たとえばGシリーズ用のSetPointにはdpi値変更の設定機能があるが、ここでdpi設定を50dpi単位で細かくチューニングできるほか、デフォルト3段階のところを最大5段階まで好みのdpi値を設定、切り替えが可能になる。さらに上下/左右のdpi値を個別に設定することも可能だ。これはマルチディスプレイで左右に長い視野の3Dゲーム画面で素早い操作を行なうために必要な機能だという。 ●ウェイトカスタマイズ機能が特徴。マニアックな仕上がりのG5
さて各製品の仕上がりについて話を進めたい。ただし、筆者自身は熱狂的なFPSファンではない。ゲーマー向けの評価はGAME Watchに譲るとして、ここでは一般的なPCユーザーから見たGシリーズについてレビューしてみる。 Gシリーズ共通の変更点についてはすでに述べた通りだが、ワイヤードでPCに接続するG5ならではの特徴が3点ある。 1つは布で覆われたマウスケーブル。ワイヤードのマウスはコードの被覆が硬化してマウス移動時のフィーリングが悪化したり、あるいは断線するといったトラブルで故障する事があるが、本機は組紐のような編み目の布被覆になっており、硬化の心配がない。質感的にもなかなか良いものだ。 また機能的なものではないが、塗装が剥げ金属が腐食したように見える筐体表面のテクスチャは、手作業で3回の塗装を行なっているもので、すべてのマウスが微妙に異なる模様になっているという。さらに指で挟み込む左右部分の素材は、手のあたりが柔らかく、なおかつ細かな凹凸で手にまとわりつきにくい特殊な加工が施されていた。この両加工は、ワイヤレスモデルとなるG7には採用されていないG5だけの処理となる。 これだけでもかなりマニアックな製品という印象だが、極めつけはウェイト調整機能があることだ。G7では脱着可能なリチウムイオンバッテリとなっている部分に、ウェイトカートリッジが仕込まれており、ここに4.5gあるいは1.7gのウェイトを最大8個まで装着することができる。 このときにウェイトを詰める位置や重さ、あるいは数を変える事で、全体の重さや前後・左右のバランスを好みに仕上げることが可能というわけだ。マウス自身の重さはウェイトカートリッジ含め150g。4.5gウェイトを取り付けた最大重量時で186gだ。
さて、実際に使ってみるとその違いは結構微妙なものだった。左右バランスについてはハッキリと違いを感じることができるが、前後のバランスに関しては調整での差が出にくい。指の腹でマウスをつまんだ位置が(ウェイトを入れない状態での)マウスの重心よりも前になるため、そのまま持ち上げるとマウスのお尻がやや重くなる。 そこで重めのウェイトを前側に入れてみたが、ウェイトカートリッジのセンターが重心位置よりやや手前にあるため、前のめりの重心やつまんだ時にバランスが取れる状態に持ち込む事ができなかった。 もちろん、人によってマウスをつまむ時の位置は微妙に異なるため、絶対的な評価とは言えないが、もう少し前後バランスに対する調整幅が広いとベストだろう。ただしコンセプトそのものは実に面白い。実際の機能性よりも、物欲を刺激するという面で大成功だろう。メカニカルな印象の外観も含めて、実に楽しい製品ではある。 ●2.4GHz帯を用いた高速ワイヤレス通信のG7
一方、ワイヤレスモデルのG7は、無線でありながらG5と同じUSBフルスピードモードを用いた16bit毎秒500レポート、2,000dpi精度の新エンジンの性能を活かせる製品。ロジクールはこの性能を無線で出すために、PS2用の無線コントローラに使っている2.4GHz帯を用いた広帯域の双方向通信プロトコルを利用している。 ゲーム用コントローラに使われている事からもわかるとおり、このワイヤレス通信技術は通信距離、レイテンシ、通信速度などの面でUSBフルスピードモードの速度に匹敵する。2.4GHz帯のワイヤレス接続技術にはZigBeeがあるが、この製品に使われているのはロジクール製品独自のプロトコルとの事だ。見通し10メートルの通信距離は、ゲーム以外にリビングに設置するPCなどでも便利だろう。ちなみに同じ2.4GHz帯でも無線LANやBluetoothとはやや離れた帯域を使っているため、それらとの干渉で通信が阻害されることはない。 G5との違いはメタリックのツヤあり塗装となっている点および、ウェイトカートリッジによる重量バランスの調整が行なえない事。ウェイトカートリッジの位置にはリチウムイオンバッテリが取り付けられる。 そのバッテリは標準で2個が付属しており交換して利用するためだ。使用していない方のバッテリをレシーバホルダー兼用充電器の充電ステーションで充電しておき、バッテリの残りが少なくなってきたら、任意のタイミングでバッテリを取り替える。 バッテリ持続時間は通常使用で4.5日、ゲーム使用時に2.5日のスペック(連続使用の場合は約7時間)だ。ゲーム使用時に短くなっているのは、ゲーム使用時を自動検出し、ゲームが動作しているときに省電力モードに入らない設定になっているためだ。省電力モードからの復帰で、わずかながら時間がかかる(通常利用時に感じることはまずない)事を嫌ったもので、これもまたゲーマーからの要望によって設定されたものだ。 充電ステーションによる充電はUSB給電により行なわれる。USBポートの給電能力が100mAの場合は10時間、500mAの場合は2時間で充電が完了する。パワードHubを用いているなら、バッテリ切れで困ることはない。 またG5との外装の違いは“触感”の違いにもなっている。G5がツヤ消し系の細かな凹凸のある表面仕上げなのに対して、G7はツヤありのテカテカだ。また重さに関してはG7の方が軽く、バッテリ抜きの本体が115g、バッテリパックが18gで、合計133g。これはウェイトを搭載しない状態のG5よりも軽い。
●ゲーマー以外のユーザーにも恩恵はある? さて、実際に両製品を使ってみたが、2,000dpiの精度に関しては今のところ恩恵を感じる場面はほとんどない。通常のWindows操作ならば800dpiでも十分だ。将来、Longhornの時代になって超高解像度のディスプレイ表示が現実的なものになってくれば、2,000dpiの精度も活きてくるかもしれない。 ドライバの移動速度を最低にしておき、SetPointを使ってdpiの調整で移動速度をコントロールすれば、わずかながらマウスの移動が滑らかになる。筆者の場合、マウス移動速度を最も遅くし、dpi値を1,600dpiにした時が使いやすかった。 さらに2,000dpi、1,600dpi、1,200dpiと比較的細かい幅でdpi値の切り替えを設定しておき、アプリケーションごとにdpi値を変化させると、移動精度をほとんど落とさないままにマウスの移動速度をボタン1つで変化させられる。ふだんは2,000dpiで軽快に操作し、細かなボタン操作が多い場合に1,600dpi、グラフィックソフトなどで微妙なポインティングを行ないたい場合には1,200dpiに切り替えるといった使い方が考えられる。 使い始める前までは、そのような使い方はかえって混乱すると思っていたが、実際にやってみると手元で素早く切り替えが可能なため、さほど混乱することなく使いこなすことができている。 ただし、追従性に関してもMX1000との違いを感じる場面はない。もちろん、スペック上の移動差分を報告する回数は毎秒125回から500回へと4倍に向上しているのだが、体感できるほどの差ではないと言える(ゲームではもちろん異なるのだろう)。 一方、G5とG7に使われているテフロン製マウスフットに関しては非常によい印象を持った。従来のフットより明らかに滑りがよくなっており、ざらついた仕上げの机上で直接動かしても、ゴリッとした感覚がほとんどなく、実にスムーズな移動感だ。 またSetPointのアプリケーションごとにボタン機能を変更する機能も便利。ブラウザなら左右チルトを進むと戻るに、Officeなどでは左右スクロール(デフォルト)にと、自動切り替えが行なわれる。設定はフォーカスしているアプリケーションに応じて切り替わるため、使用中に設定の切り替えをユーザーが意識する必要はない。 この機能はハードウェアに依存しておらず、ソフトウェアで実現しているものだけに、是非MXシリーズでも実現して欲しいところだが、現時点ではGシリーズのみでしか有効にならないのが残念だ。 ゲーマーではないユーザーとしては、従来のトップモデルであるMX1000との位置付けの違いが気になるところだが、ロジクール側でも通常の利用範囲において、MX1000とG5/G7のトラッキング性能の違いを体感することはないと考えているようだ。あくまでもGシリーズは、ゲームにおける性能を追求したものであり、一般向けの多機能マウスはMX1000がトップモデルという位置付けに変化はない。 ただ、上記のようにアプリケーションごとのカスタマイズと設定の自動切り替え、またdpi値の切り替えなどはGシリーズだけで得られる魅力だ。またG7の充電システムおよびACアダプタレスという簡便性は、MX1000よりも明らかに便利なものに違いない。 ゲーマー向けにはマニアックなハードウェア構成を採るG5がオススメだが、ワイヤレスマウスが欲しいという一般ユーザーにとっても、(ボタン数の違いを考えなければ)、通信距離やドライバの機能、バッテリ充電の便利さといった面でMX1000よりもG7の方がが優れる。両者の価格はロジクールからのダイレクト販売で約1,500円ほどG7の方が高価。MX1000からG7への買い換えの必要性は感じないが、これから高性能なワイヤレスマウスを購入したいという人には実に悩ましい選択だ。 □関連記事 (2005年8月11日) [Text by 本田雅一]
【PC Watchホームページ】
|
|