IBMのPC事業部が中国のLenovoに売却されたことは大きなニュースとなった。IBMのPCの中でも、特に評価が高いのがノートPCの「ThinkPadシリーズ」である。ただし、Lenovo売却後も、ThinkPadブランドはそのまま継続されるほか、開発部隊もそのまま移管されたので、ThinkPadらしさが失われる心配はなさそうだ。 今回は、レノボ・ジャパンから登場したコンバーチブル型Tablet PC「ThinkPad X41 Tablet」を試用する機会を得たので、早速レビューしていきたい。 ●512MBのメモリをオンボードで実装 ThinkPad X41 Tabletは、その名称からもわかるように、PCとしての基本仕様は、2005年4月に発表されたThinkPad X41とほぼ同じである。しかし、ThinkPad X41 Tabletは、液晶パネルを回転させて、キーボードの上に重ねることが可能なコンバーチブル型Tablet PCであり、筐体は一から新しく設計されたものとなっている。 CPUとして低電圧版Pentium M 758(1.5GHz)を、チップセットとして統合型チップセットのIntel 915GMを採用する。512MBのPC2-4200メモリを標準実装している。メモリはオンボードに実装されているので、SO-DIMMスロットが空いていることも評価できる。1GBのSO-DIMMを装着することで、最大1.5GBまでメモリを増設可能だ。 HDDは、1.8インチの40GBだが、試用機には60GBのHDDが搭載されていた。この1.8インチHDDは、コネクタが短辺に用意されているPCカード型とは異なり、長辺にコネクタが用意されていることが特徴だ。 ThinkPad X41 Tabletのサイズは274×266×29~32mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は1.88kg(スタイラス含む)である。ThinkPad X41 Tabletは、コンバーチブル型Tablet PCであり、通常のノートPCと同じ使い方の「ノートブック・モード」と、液晶パネルを180度回転させて、キーボードの上に重ねて使う「タブレット・モード」の2通りの使い方が可能だ。 ほかにも「ピクチャーフレーム・モード」や「ブック・モード」と呼ばれる形態もあるが、基本となるのは、ノートブック・モードとタブレット・モードだ。タブレット・モードで片手で持ってもう一方の手でスタイラス操作をするには、重量的にやや厳しいが、筐体の作りはしっかりしており、剛性感は高い。 なお、製造および販売はレノボからとなったが、IBM ThinkPadブランドは継続されているので、ThinkPadロゴもそのまま使われている。
ThinkPad X41 Tabletは、スタイラスで操作が可能なTablet PCであり、電磁誘導式のスタイラスが採用されている。スタイラスは、本体の左側面に収納でき、頭を指で押すことで飛び出してくる仕組みだ。 液晶パネルには、170度の視野角を誇る12.1型Super Wide Viewing Angle TFT液晶パネル(XGA)を採用。パネル表面には、アンチグレア処理とアンチリフレクション処理が行なわれており、外光の映り込みを抑えている。
●双方向からスキャンが可能な指紋センサーを搭載 液晶パネルの右下部分(ノート・ブックモード時)に指紋センサーを搭載していることもポイントだ。通常のノートPCであるThinkPad X41でも指紋センサーが搭載されていたが、ThinkPad X41 Tabletの指紋センサーは、左右どちらからでもスキャンできることが特徴だ。タブレット・モードに切り替えても、違和感なく指紋のスキャンが可能である。 指紋によって、パスワード入力の代わりを行なったり、ロックをかけることができるので、パスワード漏洩などの不安が軽減される。指紋認証ユーティリティとしては、独自の「IBM指紋認証ユーティリティ」がプリインストールされている。
●伝統の7列フルサイズキーボードとTrackPointを採用 ThinkPadシリーズは、従来からキーボードやポインティングデバイスにこだわりを持っていることで有名だ。ThinkPad X41 Tabletでも、伝統の7列フルサイズキーボードが採用されており、快適にタイピングが可能だ。 ファンクションキーは4つごとに隙間が空いており、ミスタイプもしにくい。また、キーボードの上部には、Access IBMボタンや音量調整ボタンが用意されている。 ポインティングデバイスには、こちらもThinkPadシリーズではお馴染みのスティック型デバイス「TrackPoint」が採用されている。ThinkPad X41 Tabletで採用されているTrackPointは、拡張版TrackPointと呼ばれるもので、左右のクリックボタン以外に、スクロール操作などに利用できるセンターボタンが用意されている。ホームポジションに手を置いたままポインティング操作が可能であり、操作性も高い。特に、以前からThinkPadシリーズを使っている人なら、違和感なく使えるだろう。 また、タブレット・モードでの利便性を高めるために、液晶パネル側にもカーソル上下ボタンやEnter/ESCボタン、タブレット・ショートカット・メニュー・ボタン、画面ローテーションボタンなど、合計9個のボタンが用意されている。タブレット・ショートカット・メニュー・ボタンを押すと、ショートカット・メニューが表示されるので便利だ。 USB 2.0×2、Gigabit Ethernet、モデム、外部ディスプレイ、PCカードスロット、SDメモリーカードスロット、サウンド入出力など一通りのインターフェイスを装備している。 USB 2.0ポートの数がもう少し欲しかったところだが、オプションのThinkPad X4ドックを装着することで、USB 2.0やPS/2、シリアル、パラレルなどのポートが追加される。 また、ThinkPad X4ドックには、ウルトラ・ベイ・スリムが用意されており、ウルトラ・ベイ・スリム対応デバイスのDVDスーパーマルチドライブやCD-R/RW/DVDコンボドライブなどを装着して利用することもできる。 PCカードスロットのフタが、ダミーカード方式ではなく、内側に倒れ込む構造になっている点や、Ethernetやモデムなどのポートにカバーが付いていない点(カバーはなくしやすい)なども、モバイルでの利用をよく考えて設計されているといえる。
●衝撃からHDDを守る「ハードディスク・アクティブプロテクション・システム」 加速度センサーを搭載し、衝撃を感知するとHDDの磁気ヘッドを退避させることで、HDDのデータを守る「ハードディスク・アクティブプロテクション・システム」を搭載していることも評価したい。東芝のdynabookなどでも同様の機構を搭載しているが、ハードディスク・アクティブプロテクション・システムは、電車・自動車内などで頻繁にHDDが停止するのを防ぐといった詳細な設定が可能なことが特徴だ。 また、バックアップ&リカバリーツールの「IBM Rescue and Recovery」や、複数のネットワーク設定を登録しておき、ワンタッチで切り替えが可能な「IBM Access Connections」といった実用的なオリジナルユーティリティがプリインストールされていることも嬉しい。
バッテリは、14.4V、4.5Ahの8セル仕様で、最大約6.3時間駆動が可能だ。バッテリ駆動時間についても、合格点を付けられるだろう。液晶回転用のヒンジと共存するために、バッテリの形状には工夫が凝らされている。さらにオプションの拡張バッテリパックを併用することで、最大約9時間の長時間駆動が可能になる。ACアダプタもコンパクトで、携帯性は高い。
●使いやすい専用ケースも登場 また、レノボから発売されている、ThinkPad X41 Tablet専用キャリングケース(ダイレクト価格で5,040円)も試用することができたので、こちらもあわせて紹介しよう。このケースも専用だけあって、なかなかよく考えられており、ケースに入れたまま、スタイラスや液晶パネルの周りのボタン操作が可能なように設計されている。ショルダーストラップやアームストラップも付属しているので、持ち運びにも便利だ(アームストラップで腕に固定して、片手で長時間持つのは、重量的にやや厳しいが)。
●Tablet PCとしての完成度は高い 参考のために、いくつかベンチマークテストを行なってみた。ベンチマークプログラムとしては、BAPCoのSYSmark 2002、Futuremarkの3DMark2001 SEおよび3DMark03、id softwareのQuake III Arenaを利用した。なお、MobileMark 2002は正常に動作しなかったので、省略している。 結果は下の表にまとめたとおりである。比較対照用にLet'snote T4やLet'snote R3、LaVie RX LR700/CD、VAIO type S VGN-S70B、VAIO type T VGN-T70Bの結果も掲載してある。なお、前述したように、今回の試用機には60GB HDDが搭載されていたが、国内で発売されるThinkPad X41 TabletのHDDは40GBなので、ベンチマークの結果はあくまで参考程度にして欲しい。 PCの総合的なパフォーマンスを計測するSYSmark 2002のスコアは、比較的優秀である。Let'snote T4に比べて、Office Productivityが低いのは、1.8インチHDDを採用しているためであろう。3D描画性能を計測する3DMark2001 SEや3DMark03、Quake III Areinaなどの結果も、統合チップセットとしては優秀な結果である。さすがに、最新の3Dゲームを快適に遊ぶには力不足であるが、製品の性格を考えれば不満はないだろう。 【ThinkPad X41 Tabletのベンチマーク結果】
ThinkPad X41 Tabletは、ThinkPadシリーズの名に恥じない完成度の高いTablet PCである。レノボの直販サイトのダイレクト価格は261,450円であり、機能や品質を考えれば、決して高すぎるということはない(もちろん、1スピンドルマシンであるし、コストパフォーマンスが優秀というほどではないが)。 しかし、一般のコンシューマが、Tablet PCをどうしても必要とする場面はあまり多くないのが現状だ。基本的には、業務用途をターゲットにしたマシンであり、営業マンが持ち歩いて、販促ツールなどに使うのに適した製品であろう。もちろん、OneNoteなどのスタイラスを活かせるアプリケーションをフルに活用したいのなら、個人ユーザーでも、ThinkPad X41 Tabletを購入するという選択肢はあり得る。 □関連記事 (2005年7月21日) [Reported by 石井英男]
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