大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

NECインフロンティア東北工場見学記
~国内生産の強みを生かす情報通信機器の生産拠点





●東北、タイに自社工場

 NECインフロンティア株式会社は、7月8日、報道関係者および一部アナリストなどを対象に、同社の主力工場である「NECインフロンティア東北」を公開した。

NECインフロンティア 木内和宣社長

 NECインフロンティアは、'18年に設立以来、87年の歴史を持つ会社。NECの通信機器、情報端末の開発、製造、販売を行なっており、'59年には第1号の黒電話を当時の電電公社に納入、'74年にはサービスステーション向けPOS端末を製品化するなどの実績を持つ。

 2004年度の売上高は1,148億円。生産拠点としては、今回紹介する東北のほかに、タイに拠点を設置。一部製品に関しては中国で生産委託を行なっている。基本的な考え方は、国内向け製品は東北で、全世界に出荷する製品はタイおよび中国で生産する体制だといっていいだろう。

 NECインフロンティアの木内和宣社長は、「NECは、ソリューションビジネスに大きく舵を切っているが、ソリューションを構成するのはやはりモノである。NECインフロンティアは、モノづくりで勝てる製品を世界に向けて投入していく」と語る。

●AIR EDGE対応カード、コンビニ向けPOSなどを生産

 同社の中核的生産拠点であるNECインフロンティア東北は、NECインフロンティアのPOS端末や国内向けのNECブランドおよびOEM向けの通信機器、情報機器を生産する拠点。 

 東北新幹線が開通した'81年に東北日通工として設立。2001年にはNECとの事業統合によりNECインフロンティア東北に社名変更。2004年度の売上高は223億円。そのうち、キーテレフォン「PX3000BA」シリーズやIP対応電話システム「Aspire」シリーズやNTT向けのビジネスフォンなどが中心となるi-Communication事業が約30%、コンビニ向けPOS、ガソリンスタンド向けPOS、ビジネスハンディターミナル、ウィルコムの「AIR EDGE」向けのカード端末、PDAの「Pocket@i」などのi-Appliance事業が約70%を占めている。

これだけ多くの企業にPOS端末が出荷されている ローソン向けのPOS端末。そのほか国内外向けのコンビニPOSも生産 Edyの決済端末機
ガソリンスタンド向けのPOS端末 スーパーマーケット向けPOS端末 Aspireシリーズをはじめとする各種電話機

 東北新幹線の白石蔵王駅から徒歩10分程度の位置に、66,000平方メートルの敷地面積を誇る同工場は、24,000平方メートルの工場棟を配置。正社員で391人、協力会社を含めて約550人の社員が勤務している。平均年齢は40歳、平均勤続年数は16年、地元採用の社員が9割以上を占めるという地元密着型の企業である。

東北新幹線白石蔵王駅から徒歩10分程度の距離にある。新幹線のホームからも見ることができる NECインフロンティア東北の外観

 同工場の大きな特徴は、多品種少量生産の体制をとっていることだ。

 同工場が、2004年度下期に生産した機種数は1,040機種。その数は、2001年に比較しても、約2倍に増加しており、多品種化が進展している傾向にある。また、このうち半期で1万台以上を生産しているのは、わずか5機種。100台以上で500機種、100台未満が540機種と、少量生産品目がほとんどであることがわかるだろう。

 もう1つ、同社の特徴としてNECグループ内で唯一、モールド成形ラインを有している生産拠点であるという点だ。金型そのもの製作については、外部に委託しているが、最大450トンの成型機をはじめ、8台の成型機を保有することで、主要装置のカバーや電話機のカバー、電話機などに利用されるボタンなどを生産している。

モールド成形ライン。これが最大の450トンの成型機(左)。その横には金型(右)が数多く並んでいた

NECインフロンティア東北 山本昌社長

 「NECインフロンティアは過去18年に渡る成形技術の蓄積を持つ。これによって、多品種少量生産へも柔軟に対応するほか、リードタイムの短縮、所要変動への対応、成型品に関わる梱包や郵送、棚卸しなど物流費の削減、外注費の削減、付加価値の蓄積などのメリットがある」(NECインフロンティア東北 山本昌社長)という。

 工場内には基板生産ラインを有しており、プラスチック成形および高密度実装品の内製化率は、2003年度上期の53%から、現在は76%まで上昇。2005年度下期は90%にまで高める計画だ。

 さらに多品種少量生産対応と流通体制の効率化の1つの手段として、同工場が取り組んでいるのが、ユーザーごとに異なるアプリケーションソフトウェアを工場で組み込んで出荷する仕組みだ。

 従来は、共通のハードウェアを同工場で生産し、それを別会社に配送し、そこでアプリケーションソフトをインストールしたり、ユーザーの納入現場で対応するということを行なっていた。

 だが、同工場内にアプリケーションソフトのインストールラインを設置。同工場からの出荷段階で顧客ごとに異なるアプリケーションをインストール済みの状態とした。これは、NECグループのPC工場でもまだ実現されていない仕組みだという。

 「物流費の削減、現地作業時間の短縮、システム全体の品質保証、個装箱の削減といったメリットがある。これによって、設置までのリードタイムを3日間短縮している。当社ではこれを『プリ現』という言葉で表現し、年間1億件のインストールを目指す」(NECインフロンティア東北 木下正美製造本部長)という。

NECインフロンティア東北 木下正美取締役 NECグループとしては最初となる「プリ現」ライン。設置までのリードタイムを3日間削減した

●トヨタ生産方式で生産効率を改善

 同工場では、トヨタ式生産方式を導入し、2カ月に1回の割合で、コンサルタントを招き、工場内の改革を進めている。

 2003年度第4四半期からは、具体的な経営指標を設定しており、すでにその成果が表れている。

 例えば、2003年度には損益分岐点が月20億円であったものを、現在は月15億円へと約25%改善し、黒字体質としたほか、先に触れたモールド成形やSMTラインを活用した高密度実装を内製化とするなど、基本的な考え方を「内製化」とすることで、外部流出費用の削減に大幅な貢献をもたらした。また、直接作業人員の比率を2003年上期には44%だったものを、2005年下期には70%に拡大。間接人員の削減、間接人員の直接化、派遣社員の削減などの効果をもたらしている。

 さらに、棚卸し資産も、2003年度上期末には29日あったものが、2004年度下期には17日へと削減、2005年度下期末には10日以下へと削減する計画だ。多品種少量生産の体制だけに、どうしても部品点数は増加傾向にある。棚卸し資産の大幅に圧縮は、同工場にとって大きなメリットを生み出すことになる。

 納期回答の24時間以内での実施、回答納期遵守率100%もほぼ達成されたほか、外部倉庫レス化の実現によって年間2億4,000万円の削減効果を発揮したという。

 「POS商品に関しては、顧客への直送化を実施。さらに、これまで4社あった外注を1社にまで削減してきたが、これも今年度上期末にはすべて工場内に取り込む」(山本社長)という。

部品などの入庫口。トヨタ生産方式を採用する前は、部品が溢れかえっていたというが、今は空きスペースが目立つ。2002年度には1日90便が出入りしていたが、これが今は18便となっている 入庫した部品はバーコードで管理。端末には、同社のPocket@iが使われている 冬場は部品が結露するため、工場内の温湿度が常にチェックされている
工場内は「かんばん」方式が基本となっている 工場内にはさまざまな手作り装置がある。これは梱包箱組立機「ポコちゃん」。1個あたり30秒の時間短縮を実現
基本的には本体、キーボード、プリンタ、ディスプレイなどがバラバラで生産され、最後にこれをユーザーの要求にあわせて組み合わせる形となる
完成品のエージングエリア。ここにも「まわ~るPOS夫くん」の名称で独自の装置を用意。1周すると生産ラインに戻る仕組み 出荷口。多品種少量生産のため、大小さまざまな製品が出荷口に並ぶ

●国内生産への回帰を実践

 今年度から同工場で取り組んでいるのが、タイで生産していた国内向けビジネスフォン「Aspire」シリーズの国内最終アセンブリの開始だ。

 海外生産シフトが進むなか、国内生産への回帰の事例としても注目すべきポイントだといえよう。

 基本仕様の部分は、同社がタイに置くNECインフロンティアタイで生産し、NECインフロンティア東北に輸送。ユーザーの要求仕様にあわせた形で最終アセンブリし、これを10月からはユーザーのもとに直送する仕組みとする。

 「最終アセンブリを国内生産へとシフトしたことで、在庫削減、即納体制の実現が可能になったほか、タイでの生産に比べて約3%のコストダウンが可能となっている」(山本社長)という。

 多品種少量生産という同工場ならではの特性に対応するための知恵が随所に散りばめられた工場だといえる。そして、国内生産のメリットを生かせる部分は生かすという意識が強いことも同工場の特徴だといえるだろう。

成形された電話機のカバーなど。これらをすべて内製しているタイから取り込んだAspireのアセンブリライン。タイの5人に対して、3人で生産。「応受援(おうじゅえん)」と呼ばれる隣の人の作業の遅れを隣の人がカバーする独自の方式も採用
工場内には同じ生産品目を担当しているタイ工場の社員の顔写真を張り出し、競争意欲を煽っている。また、中央の社員は、トヨタ用語で「みずすまし」と呼ばれる部品の供給係。同工場では「プロコン」と呼称し、同商標を登録中 部品ストア。多品種少量生産のため、部品点数は必然的に多くなる。この削減が大きな鍵

□NECインフロンティアのホームページ
http://www.necinfrontia.co.jp/

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(2005年7月12日)

[Text by 大河原克行]


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