ノートPCと一口に言っても、「Libretto」や「VAIO type U」のような小型のものから、AV機能を重視した大型のものまで、さまざまな製品が店頭に並んでいる。今回取り上げる富士通の「FMV-BIBLO NX90L/W」は、17型ワイド液晶ディスプレイとTVチューナを搭載した後者に属するノートPCだ。このシリーズは2004年冬に発売され、2005年夏モデルが最初のモデルチェンジということになる。実売価格は34万円前後。
本機の最大の特徴は、TVやビデオの観賞用に最適化された17型ワイド液晶パネル(1,440ドット×900ドット)。従来機(2004年冬モデル)より色再現性を高め、高輝度化を図っている。組み合わせられるTVチューナは、高画質化技術御三家(ゴーストリダクション、3次元Y/C分離、デジタルノイズリダクション)を初めとする高画質化技術を搭載したもの。高画質液晶パネルやLRTC(LCDレスポンス時間補正)技術など、ひっくるめて「Dixelテクノロジー」と呼ばれている。 筐体は、基本的には前モデルを継承したものだが、黒を基調にしたカラーリングになったため、白を基調とした前モデルより小さく見える。が、実際はノートPCとしては最大級の大きさで、横幅は40cmを越え(40.5cm)、重量は4.5kgにも及ぶ。 前作から一番大きく変わったのは、プロセッサがモバイルPentium 4からPentium Mへと変更されたことだ。これに伴い、チップセットもSiS製(SiS655FX)から、Intel製(Intel 915PM)に変更され、Centrinoロゴ(Sonomaプラットフォーム)がついた。 バスアーキテクチャもPCI/AGPからPCI Expressベースとなり、GPUはRADEON 9600からRADEON X600に変更されたほか、ExpressCardスロットも1基用意された。メモリはDDR2のデュアルチャネル対応で、標準の512MBは256MB DIMM 2枚で構成される(最大2GB)。 Sonomaというと、発熱が多いという印象があるかもしれないが、さすがに筐体が大きいせいか、どこかが特に熱くなるということはない。冷却ファンもあるが、TVを見ていて回ったりすることはないし、回転音も甲高いものではなかった。
●Windows版とインスタント版2種類の統合アプリケーション
本機でTVやCD、DVDの視聴アプリケーションとして提供されているのは、「MyMedia」と呼ばれるもので、Windows上で動作するMyMediaと、Embedded Windows XP上で動作するインスタントMyMediaの2種類がある。 シャットダウン状態から本体やリモコンのTVキーやDVDキーを押すことで起動するインスタントMyMediaは、TVの視聴、CD/DVD再生のほか、録画済みのビデオファイルの再生、HDD上の音楽ファイルの再生が可能。Windows XP上のMyMediaに比べ、予約録画不可、タイムシフト不可、オーディオの光デジタル出力不可など、機能が限定されるものの、起動や終了は速い。たとえば朝、出掛けにTVニュースをチェックする、という用途には十分使える。 ちなみに、MyMediaによる予約時間にインスタントMyMediaが起動している場合は、MyMediaによる予約時間が迫っていることを告げるダイアログが表示され、インスタントMyMediaを終了するかどうかを確認する仕様となっている。 Windows XP上で動作するMyMediaは、インスタントMyMediaの機能に加え、G-GUIDEによる番組表(EPG)を用いた予約録画、ビデオファイルの編集とDVD作成などに対応した統合ソフト。 TVの視聴はタイムシフトとライブモードの2つをサポートするが、ライブモードでも1~2秒の遅延がある。おそらくTVチューナモジュールが内蔵するハードウェアエンコーダーによるエンコード処理とHDDへのバッファリングが入っているものと思われる。ただ、そのおかげで、アナログ音声のデジタル出力をサポートしていない内蔵サウンド機能でも、TV音声を光デジタル出力することができる。 ●ユーザーインターフェイスと使用距離 TVの表示モードは、ウィンドウ、フルスクリーン(画面左右に黒帯)、ワイド(画面を左右いっぱいに引き伸ばす)、ズーム(画面の天地をカットして目いっぱいに表示する)の4通り(インスタントMyMediaはフルスクリーンとワイドのみ対応)。 ワイドは均一に引き伸ばすだけで、一般のワイドTVが備えているような、違和感が目立たないよう非線形にストレッチする機能はない。ウィンドウ状態の画質は悪くないと思うが、フルスクリーンやワイドなど拡大表示ではアラが見える。残像感はないものの、動いたりスクロールする物体のエッジはどうしてもジャギーだし、マッハバンドが気になることもある。 こうしたアラが気になる理由の1つには、見る距離が一般のTVに比べて近すぎるせいもあるのだろうと思う。実際、使ってみて一番困ったのは、本機とどれくらいの距離をとればよいかということだった。 PCとして利用する場合、本機との距離は通常のPCの距離、つまりは50cm程度の距離で利用することになるのだが、この場合ディスプレイの輝度が高すぎる。輝度はバックライトを抑えたり、ディスプレイのプロパティを用いてディスプレイドライバ側で調整すれば良いわけだが、PC最適化モードとTV最適化モードをワンタッチ切替などが欲しいところだ。 TVとして利用する場合、輝度からいってももう少し離れるべきなのだろう。が、17型というサイズでは、それほど遠くに離れるわけにもいかない。また、あまり離れすぎると内蔵スピーカーの音量が不足がちになる。おそらくは1.5mくらいが適切だろう。この距離ならアラも目立たないし、音量的にも十分だ。 その一方で、MyMediaのユーザーインターフェイスは、いわゆる10フィートインターフェイスで1.5mの距離で利用するのに最適だとは思えない。また、EPGのデータダウンロードを促すダイアログなどは通常のWindowsのもので、離れて使うことを前提にしたものではない。 しかも、付属のリモコンはマウスエミュレーション機能を持っていないため、ダイアログ操作にはマウスを併用する必要があるのだが、付属のマウスはコードつきのもので、1.5m離れて使うのに使いやすいとは言いがたい。逆に、マウスの使いやすい距離に近づくと、本体ラッチ部の下にある赤外線リモコン受光部が今度は使いにくい。このあたり、もう一工夫必要なのではないだろうか。 だが、使用していると、大型液晶ノートPCならではのメリットにも気づく。TVやビデオを見るのであればディスプレイサイズは大きい方が良いに決まっているし、ここまで大きいともはや持ち運ぼうという気にならないという点では、割り切れて良いかもしれない。 バッテリはリチウムイオン電池ではなくニッケル水素電池で、駆動時間も約1時間(JEITA測定法)。ノートPCとしては短めだが、録画中にブレーカーが飛んでも台無しにならないというのは、本機に限った話ではないが、家電DVDレコーダーにないメリットだろう。 筐体が大きいこともあって、キーボードにテンキーがあるのは前作譲り。テンキーを入れたおかげで、ホームポジションがPCの中央から左に寄ってしまったのは、好き嫌いの分かれるところかもしれないが、このあたりは実際に触ってみることをお勧めする。 大型筐体のメリットがストレートに出ているのは、HDD容量がノートPCとしては最大級の200GBあること。といっても3.5型ドライブを採用したわけではなく、100GBの2.5型ドライブを2台内蔵しているのだ。2台は特にRAIDになっていたりするわけではなく、CドライブとDドライブ、それぞれ1台づつ割り当てられている。200GBあれば、TV録画PCとして、とりあえずの用は足りるハズだ(前作はシングルドライブで100GB)。HDDに録画したビデオは、2層書き込み(DVD+R DL)に対応したDVDスーパーマルチドライブでDVDメディアに書き出すことができる。 総合的に見ると、まだインターフェイス面での練り込みが足りない部分もあるが、個人で使う「DVDレコーダーつき省スペースPC」としては十分なスペックを持っており、これらの機能を気軽に使いたいと考える向きには快適に利用できる1台だろう。
□関連記事 (2005年6月16日) [Reported by 元麻布春男]
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