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任天堂の「Revolution」はGCの上位互換




●Revolutionの発表から推定できること

 E3(Electronic Entertainment Expo)で発表された3社のゲームコンソールのうち、もっとも概要が漠としているのが任天堂のコードネーム「Revolution」(任天堂だけはブランド名を発表しなかった)だ。しかし、E3での発表から、Revolutionの姿は、ある程度は推定できるようになってきた。

Revolution

 まず、Revolutionのハードウェアを推定するのに、もっとも重要なポイントは、今回明らかにされた筺体のサイズとインターフェイス類だ。

 Revolutionのモックアップの筺体サイズはいわゆる1L(リットル)クラス。今回発表された3つのコンソールの中では、群を抜いて小さい。これは、何を意味するのか。まず、想定されるのは、Revolutionのチップセットが、他の2コンソールほどパワフルな巨大チップではないことだ。また、Revolutionは現行のゲームキューブ(GC)のインターフェイスを全て備えている。このことは、RevolutionのチップセットがGCチップセットのハードウェア上位互換の発展型である可能性を強く示唆している。

 現在わかっている範囲で推定すると、Revolutionの正体はGCハードの発展型+ネットワーク機能+512MBのフラッシュメモリストレージである可能性が見えてくる。

●筺体のサイズがチップの規模の指標

 次世代のゲームコンソールでは、筺体のサイズは、搭載するチップの規模や周波数の指標となる。

 というのも、チップの発熱が5年前とは比べものにならないくらい大きくなっているからだ。同程度のダイサイズ(半導体本体の面積)のチップでも、電力消費が数倍となっている。そのため、チップの規模が大きく周波数が高いと、冷却に余裕を持たせるために、大き目の筐体が必要となる。筺体内の容積が大きいほど、冷却が容易になるからだ。

 もちろん、廃熱技術も5年間で大きく向上したが、チップの電力消費の増大がそれを相殺してしまっている。また、Microsoftは前世代よりも規模がずっと大きなチップを載せ、SCEはCPUの動作周波数を10倍に引き上げと、発熱量が増える要素はさらに増えている。こうした事情から、次世代ゲームコンソール設計の、最大のポイントは熱設計になりつつある。

 そのため、ゲームコンソールの筺体の大きさは、どれだけチップがパワフルかを示す指標となりつつある。原則として、筺体が大きければ、発熱量が大きくパワフルなチップを載せることが可能になる。逆に筐体が小さければ、チップの規模もある程度小さくせざるをえない。

Revolutionを掲げる岩田社長

 現在のRevolutionのモックアップのサイズは、岩田社長が掲げる写真を見てもわかる通り極めて小さい。任天堂のゲームコンソール中、最小サイズになるという。また、空気の流入口は、モックアップの筺体背面には、比較的小さなスロットが見えるだけだ。

 筐体が格段に小さいことから、任天堂Revolutionのチップは、比較的規模が小さいと推定できる。製品デザインはこれとは変わると任天堂は言っているが、モックアップでもチップセットが熱的に入るかどうかの簡単な検証は行なっているだろう。

 任天堂の現行世代GCのチップセットは、トランジスタ数の規模としては他社とほぼ並ぶ。トランジスタ数はCPU「Gekko(ゲッコ)」が2,250万(コアは650万)、メディアプロセッサ「Flipper(フリッパ)」が5,100万(eDRAMを含む)と、どちらもPlayStation 2チップセット(EEが1,350万、GSが4,300万)より多い。チップセットの電力消費が比較的小さく、電源を外に出したために、GCは筐体サイズを小さくできた。

 今回、他の2社はCPUで2億トランジスタ規模、GPUで3億トランジスタ以上のチップセットを載せてくる。Xbox 360では、電源を外に追い出すことで、なんとか熱問題をクリアした。一方、Revolutionは、その筐体を見る限り、他の2社とはかなりチップ規模が異なると推定される。

●GCとの完全ハード互換を示唆するインターフェイス

 Revolutionのインターフェイスは、前面に12/8cm両用のディスクスロットとメモリスロット、背面にUSB 2ポートとAVアウト。そして、縦置状態での上部に開閉するフタがあり、その中にゲームキューブ(GC)のコントローラ4基とメモリ2基のインターフェイスが隠されている。GCのソフトウェアをプレイする時には、これら旧インターフェイスを使う。ちなみに、Revolution自体のコントローラはワイヤレスだ。

 GCタイトルをプレイする時に、Revolutionのコントローラを使わないのは、GCタイトルプレイ時にコントローラやメモリカードをエミュレートしないためと推定される。コントローラの形状や機能が物理的に大きく違うためである可能性もあるが、互換性のためである可能性もかなり高い。だとしたら、RevolutionはGCと完全にハードウェア互換で、おそらく、GCのディスクを入れて起動すると、GCモードになる仕組みだと推定される。その通りなら、いかにも任天堂らしい、堅実な互換性の取り方だ。

 ゲームコンソールを完全にハードウェア互換にする方法は2つある。1つは旧チップセットをそのまま搭載してしまうこと、もうひとつは、旧チップセットの上位互換の拡張チップセットを開発すること。徹底したコスト重視で部品点数を減らすことを重視する任天堂が2系統のチップセットを搭載するとは考えにくい。そのため、Revolutionのチップセットは、GCの上位互換の発展型である可能性が高い。

GC同様チップはIBMとATI製品の組み合わせ

 任天堂の場合、現行世代の上位互換チップを作りやすい。それは、前回と今回で、チップの開発元が同じだからだ。CPUはIBM、メディアプロセッサはATI Technologiesという組み合わせが変わりない。つまり、PowerPC 7xxをPowerPC 9xxへ、RADEON 9xxxをRADEON X8xxへと進化させたのと同様に、互換性を維持しながら機能を拡張しやすい。あるデベロッパは「RevolutionのCPUは、新CPUコアとGCのCPUコアの非対称型のデュアルコアでは」と冗談を言っていたが、ジョークにならないかもしれない。GCのGekkoのCPUコアはCellのSPE(Synergistic Processor Element) 1個とほぼ同じ規模だからだ。

 ちなみに、PowerPCコアを強化するとしたら、その方法も少しは推測できる。GekkoはPowerPC 750をベースに、ゲーム機向けにアーキテクチャを拡張した。単精度浮動小数点演算を2wayで実行できるようにしたほか、ジオメトリデータの圧縮/伸張やデータトランスファを効率化する機能が加えられた。発展させるとしたら、まず、Xbox 360同様にPowerPC 970(G5)ベースのパイプラインを導入して高クロック化し、ベクタ演算ユニットであるVMXを実装するといったあたりだろうか。Xbox 360のCPUコア 1個分に似たものになるかもしれない。

 RevolutionがGCの発展型チップを載せるのではという観測は、少し前から出回っていた。実際、あるゲームコンソール関係者から、そうした観測を聞いたこともある。その時、その関係者は「任天堂の課題は、RevolutionがGCの発展型だったとして、何がGCと違うのか、何が付加価値なのかを打ち出すことだ」と言っていた。

●明快なRevolutionのメッセージ

 Revolutionの実態はまだ不鮮明だが、任天堂のメッセージは明快だ。「任天堂のこれまでの積み重ねをフルに活かすゲーム機がRevolution」というのが、同社がまず言いたいことだろう。すでに伝えられているように、Revolutionは、GCタイトルだけでなく、ファミコン(FC)、スーパーファミコン(SFC)、ニンテンドー64のタイトルをプレイできる。GC以外のタイトルはネットワーク配信で提供する。ソフトウェア資産をフルに活かすことで付加価値をつける戦略だ。

 GC以外のソフトについては、おそらくソフトウェアエミュレータを使うと推定される。エミュレーションがシンプルでパフォーマンスを必要としない旧ハードについては、ソフトウェアで互換を採るのはリーズナブルな解決策だ。ストレージとしては512MBのフラッシュメモリを用意する。ダウンロードコンテンツの保護のために、Revolutionではハードウェアベースのセキュリティも備えるだろう。

 任天堂は、おそらく次世代では、スペック競争の泥沼に捕らわれずに、同社の強みを活かしたプラットフォームを作ることにした。チップ規模が小さければ、パフォーマンスではどうしても見劣りがしてしまう。おそらく、Revolutionのパフォーマンスは、他社と比較すると劇的なものではないだろう。しかし、消費電力を抑え筐体を小さくすることは、家電としては重要な意味がある。ネットワークを使った、旧タイトルによる付加価値の付け方も、戦略的には悪くない。

 Revolutionの最大の課題は、どうやってゲームデベロッパを引き込むかにありそうだ。ユーザーが過去のタイトルばかりダウンロードしてプレイしていると、新作タイトルのビジネスチャンスが減ってしまう。機能拡張が少ないと、新作タイトルの差別化もしにくい。性能差が大きいと、他のプラットフォームと共通のミドルウェアやエンジンも作りにくい。

 新マシンは、デベロッパに「なぜこのプラットフォームで開発するのか」という意義を与える必要がある。GCの場合は「バイオハザード」シリースのように、どうしてもこのプラットフォームで作りたいと惹きつけるだけの魅力があった。それが出せないと、Revolutionは自社タイトルだけのマシンになってしまう可能性がある。もちろん、任天堂の場合は、自社タイトルだけである程度のユーザー数は引っ張れるわけだが。

 おそらく、Revolutionにとって一番望ましいスパイラルは、「過去タイトルをプレイできる→任天堂ゲーム世代がこぞって購入する→プラットフォームが普及する→新タイトルが次々にリリースされる→ユーザーが拡大する」だ。これが確立できるかどうかが、カギとなりそうだ。

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【5月18日】任天堂、「Revolution」の仕様の一部やこの秋発売予定のGBASP互換機「Game Boy Micro」など発表(GAME)
http://www.watch.impress.co.jp/game/docs/20050518/revo.htm
【4月6日】【海外】見えてきた次世代ゲームコンソールの姿
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0406/kaigai168.htm

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(2005年5月24日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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