●Unified-Shader型のGPUコアを載せたXenon
ATIのR5xx系GPUの最大の特徴は、このコラムで「WGF(Windows Graphics Foundation)2.0世代」として説明してきた次世代GPUアーキテクチャの基本構造を先取りしていることだ。つまり、Shaderは統一されたアーキテクチャのUnified-Shaderアレイとなっており、グローバルスケジューラが各Shaderにタスクを割り当てる。そのため、R5xx/Xenonは、柔軟なShader構成の最適化とShaderパフォーマンスのバランシングが可能となる。 Xenon GPUのShaderの演算ユニット個数は48個。通常のShaderは4wayのSIMD(Single Instruction, Multiple Data)型の演算ユニットなので、これはShaderを12個分搭載していることになる。Microsoftがわざわざ“48個”という言い方をしているのは、これらの演算器は4wayのSIMDだけでなく、1ユニット単位でのスカラ演算やMIMD(Multiple Instruction, Multiple Data)型演算も可能になっているためだと思われる。 Shader個数から言えば、ちょうどミッドレンジのGPUクラス(Pixel Shaderが8個)相当だ。「えっ、ハイエンドGPUじゃないの?」と疑問に思うかもしれないが、これには理由がある。現在のハイエンドGPUは、パフォーマンス要求に対応するために、コストをあまり考えずに300平方mmクラスの巨大ダイ(半導体本体)にしてしまっている。しかし、コスト制約が強いゲームコンソールの場合、このクラスのチップは載せにくい。 GPUベンダーは、ハイエンドGPUでは次々世代ではデュアルダイにまで向かうつもりで、ゲームコンソール向けGPUコアとは隔離しつつある。せいぜい200平方mmクラスと考えるとミッドレンジクラスのGPUコアとなる。今のミッドレンジGPUが、5年前のハイエンドGPUクラスのダイサイズ(=コスト)だと考えればわかりやすい。 また、ゲームコンソールのGPUは、外付けDRAMだけでは足りないメモリ帯域を補うために、組み込みDRAM(eDRAM)を使う。XenonのGPUも10MB(80Mbit)のeDRAMを搭載しており、eDRAMスペースのためにロジック回路に割けるスペースがある程度削られる。そのため、次世代ゲームコンソールに乗るGPUは、次世代のPC向けハイエンドGPUよりも小さな構成とならざるをえない。これは、PC向けハイエンドと同等かそれ以上の性能を載せることができた現行Xboxとは事情が大きく異なる。 Shaderの演算性能は48Gops/sec。これも計算上ピッタリ合っている。48個の演算ユニットが、1サイクルに積和算で2オペレーションが可能で、500MHzで動作すると、「48units×2ops×500MHz=48Gops/sec」となる。また、原理的にはShader構成の柔軟化により、実効性能は従来アーキテクチャより上がる。ポリゴン性能は500Mpolygons/sec、ピクセルフィルレートは16Gsamples/sec。GPUの詳細や性能などについては、E3でのブリーフィングの後に、またレポートしたい。
●広帯域のeDRAMとGDDR3メモリの組み合わせ XenonのGPUは、すでに述べたようにeDRAMを搭載している。eDRAMの容量は10MBで、メモリ帯域は256GB/secと非常に広い。eDRAMの利点は、オンチップ配線であるためインターフェイス幅を広くとって、メモリ帯域を広げられる点だ。eDRAMインターフェイスがGPUコアと同クロックで動作しているとしたら、eDRAMのインターフェイス幅は4,096bitということになる。 PS3のメディアプロセッサもeDRAMを搭載していると言われる。現行世代では、PS2とGC(GAMECUBE)もeDRAMを載せている。興味深いのはXenonのeDRAMの使い方で、PS2やGC、PS3などはフレームバッファをeDRAM上に確保しているが、Xenonでは違った使い方をすると言われている。 eDRAMを採用していることは、Xenon GPUのFabが日本にある可能性が高いことを意味している。高速かつ高密度のeDRAM技術は、日本の半導体メーカーのお家芸だからだ。とはいえ、ソニーや東芝で作ることはさすがにありえないだろう。想定されるのはNECなどeDRAMに強くファウンドリをやっている半導体ベンダーだ。NECは、GCが搭載するeDRAM型メディアプロセッサ「Flipper」の製造も行なっている。 メインメモリはGDDR3で512MB、メモリ帯域は22.4GB/sec。メモリ帯域はハイエンドGPUと比べると狭いが、その不利はeDRAMで補っている。GDDR3はインターフェイスのベースクロック700MHzのDDR駆動で、転送レートは1.4Gbit/sec。逆算するとメモリインターフェイス幅は128bitということになる。700MHz×2(ダブルデータレート)×128bit=22.4GB/secというわけだ。 メモリ搭載量は512MB。Xenon出荷時に、経済的なDRAMの容量世代は512Mbitなので、DRAMチップ個数は8個ということになる。そうすると、DRAMチップの構成はx16ピンの計算になる。1Gbit DRAMはbit単価からすると、まだ使えないはずだ。 従来、ゲームコンソールの場合はメモリ帯域を最大に取れるようにするため、インターフェイス幅の広いチップを使う。例えば、現行Xboxはx32のDDRメモリを400Mbpsで駆動している。そのため、128bitインターフェイスならx32で4チップ構成で256MBが、従来のセオリーに合ったメモリ構成となる。しかし、実際にはXenonはx16の8個構成を取った。その分、メモリコストは上がるわけで、コスト面では不利となる。Microsoftは、コスト上の不利を承知でメモリ量を増やした、その理由は、ソフトウェア開発の容易性を考えたためと推測される。 もっとも、この構成の場合には利点がある。それは、数年後にDRAM容量が上がったら、DRAMチップを1Gbit品に切り替えて、インターフェイス幅をx32にするという手があるからだ。同じメモリ帯域とメモリ量で、DRAMチップ個数を半分にしてコスト削減を図ることができる。つまり、イニシャルコストは上がるが、数年後には1Gbit品が512Mbit品よりbit単価が下がるため、価格削減時にはコストも圧縮できるというわけだ。 じつは、複数ソースを確保しようとすると、ゲームコンソールに採用できる高速メモリの選択肢は多くはない。事実上、GDDR3とXDR DRAMに限られると言ってもいい。DDR2を使う手もあるが、その場合にはインターフェイス幅を256bitにしなければならず難しい。XDR DRAMは、PS3が採用することが決まっている。 GDDR3は、よく次世代メインメモリのDDR3のグラフィックス版だと間違えられるがそうではない。DDR2から発展したグラフィックス向けのDRAM仕様で、JEDEC(米国の電子工業会EIAの下部組織で、半導体の標準化団体)で標準化されている。 これまでのグラフィックス向けDDR系DRAMは、いずれもメインメモリ用DDRからの派生で、標準規格がなく、ベンダーによって若干仕様が異なっていた。それに対してGDDR3はJEDECで標準化されているため、規格上は複数ベンダーから互換性のある製品を入手できる。そのため、長期にわたって大量に出荷するゲームコンソールに採用しても、不安が少ない。GDDR2よりもGDDR3の方が適しているわけだ。 メインメモリは、CPUとGPUで共有するUMA型アーキテクチャを採る。ゲームコンソールの場合には、できる限りムダを省かなければならないため、メインメモリとビデオメモリでの重複を避けられるUMA型が望ましい。
●排熱を考えた筐体デザイン 光学ドライブはDVDで、PS3のような次世代光ディスクドライブは載せない。これは至極当然の話だ。普及期前の次世代ドライブは高コストで、供給メーカーが限られ、採用リスクが大きすぎる。ソニーグループのように自社でドライブと規格を推進しているのでない限り、まだ1~2年は採用が難しい。ただし、将来的にXenonもドライブをアップグレードする可能性はあるかもしれない。 また、Microsoftで現在Xenonのアーキテクチャに責任を持っているJ Allard氏(Corporate Vice President, Chie XNA Architect)は、Microsoftの中でも生粋のネットワーク畑の人材だ。Xenonでも、ネットワーク経由のゲームダウンロードなどを打ち出しており、ネットワークがメディアというコンセプトが強い。 筐体デザインは旧Xboxよりもスリムになった。PCで言えばSFF(Small Form Factor)タイプの筐体で、それ故に、SFF PCと同様の排熱の問題を抱えるはずだ。 ハードウェア的に見ると、次世代ゲームコンソールの最大の問題は“熱”だと推測される。メインのチップセットの発熱量は、XenonもPS3も相当なレベルに達しているはずだ。これは、半導体チップの単位面積当たりの消費電力が増えて発熱量が増大しているからだ。そのため、チップの熱問題で、SCEもMicrosoftも苦しんでいると伝えられている。 ゲームコンソールの場合、この熱の問題はPCよりもクリティカルだ。PCよりも筐体サイズが小さく、リビングに置くためにノイズを抑える必要があり、家電としてEMIも抑える必要がある。排熱のために、筐体サイズと音とEMIはトレードオフの関係にある。 筐体サイズを抑えると、エアフローを確保するためにファンの高速化が必要になりノイズが増える。エアフローのためにエアインテークを増やすと、EMIが問題になることが多い。この問題を低コストに解決するのは、かなり難しい。もちろん、チップの動作周波数を抑えてしまえば、発熱は減るのだが、それでは元も子もない。
Xenonのボックスは両側面が曲面になっており、上部と下部が幅広になっている。これは合理的なデザインで、こうしておけば、ラックで左右に何か配置されても、空気が取り入れられなくなる可能性が低い。AVラックで横置きにされた場合には、上面と下面から吸気するが、底面側に小さな突起があり、底面側からの取り入れも阻害されないようになっている。曲線を描いているため、上面に何か積まれても、空気取り入れがじゃまされにくい。前回のXboxと比べると、より排熱を考えたデザインになっているように見える。 通常、小型筐体で排熱に困った場合、設計者が考える最終手段は、電源の外付けだ。現在のXboxやPS2は電源は内蔵しているが、GCやノートPCのように外に出すことも考えられる。発熱源の1つである電源を外に出せば、排熱しなければならない熱量は減り、筐体内の容積は実質的に増えるため、一気に問題は解決する。Xenonの場合はモックを見た限りだと内蔵に見えるが、まだ正確にはわからない。家電の場合、電源を外に出すと、これもまた製品信頼性の問題が発生するため、難しいのも確かだ。
今回明らかにされたブランド名は“Xbox 360”だった。これは今年初め頃にネットで流れた情報が正しかったことを示している。通常、大メーカーの正式ブランド名は漏れにくい。ガチガチのNDA(機密保持契約)で縛られているからで、断片的なスペックはともかく、ブランド名のようにそのものズバリの情報は滅多に流れない。それが容易にリークした理由はわからないが、よほど間が抜けたミスがあったのかもしれない。
□関連記事 (2005年5月16日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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