●法則性があるAMD CPUのダイサイズ Intelに続いてAMDもデュアルコアCPUを正式発表した。 今回発表された内容で面白いのはAMDのデュアルコアCPUのダイサイズ(半導体本体の面積)だ。下がAMD CPUのダイサイズ一覧で、リビジョンが変わるとダイも微妙に変わるため厳密ではないが、大まかにはこうしたトレンドで推移している。これを見る限り、0.13μm以降のラインナップのダイサイズには明確な法則性があることがわかる。
例えば、0.13μmではハイエンドやパフォーマンスPC向けのK8(Opteron、Athlon 64 FX、1MB L2キャッシュ版Athlon 64)のダイは193平方mm、メインストリームPC向けの512KB L2版K8(Newcastle)が145平方mm、バリュー向けのK7が85~101平方mmだった。つまり、大まかに言えば、下のような3~4階層のダイサイズとなっている。
おおまかに言うと、メインストリームはバリューの1.4x倍のダイサイズ、パフォーマンスはメインストリームの1.4倍でバリューの2倍だ。 ダイサイズが2倍になると、1枚のウェハ上に配置できるダイ(半導体本体)の数は半減する。さらに、製造過程でウェハ上に生じる欠陥のために不良ダイが発生する。ダイが大きくなると、1個のダイエリアに欠陥が含まれる可能性が増えるため、良品率(歩留まり)も悪くなる。そのため、ダイ面積が2倍になると、製造できるチップ個数は1/2ではなく、もっと減ってしまう。欠陥率によっては、1/3あるいはそれ以下になることもある。 つまり、この図の一番上のチップと下のチップでは、製造コストが3倍くらい違ってもおかしくないというわけだ。当然AMDとしては、200平方mmのダイはできれば高価格をつけられるサーバー用として売りたい。元々のAMDの計画では、200平方mmクラスのHammer系のダイはサーバー向けで、PCには104平方mmになる予定だった256KB L2のダイを主に投入するはずだった。しかし、PCでの性能競争のために、AMDは200平方mmクラスのダイをPC向けに投入し続けている。 AMDの3~4階層のダイには、製造上の意味がある。CPU Fabを1つしか持たないAMDの限られた製造キャパシティで、需要を満たすだけのCPU個数を製造するには、製品ミックスのうち、小ダイのCPUの比率を高くしなければならない。しかし、ダイの小さなCPUだけにしてしまうと、性能競争には勝てない。そのため、コストは高いが競争用の大型ダイのパフォーマンスCPUと、競争力のある性能をそこそこのコストで提供できる中間サイズのダイのメインストリームCPUと、ともかく低コストにフォーカスしなければならないバリューCPU向けの小ダイの3層が必要になるというわけだ。AMDは、104平方mmのK8を投入する計画だった時点では、0.13μmで全ラインナップをK8系にする予定だった。つまり、100平方mm前後のダイなら、全需要をまかなうだけ製造できることになる。 ●同サイズに並ぶシングルコアとデュアルコア こうしたことを念頭に、90nm世代のラインナップを見ると面白いことがわかる。デュアルコアK8のダイは、2MB L2版が199平方mmで1MB L2版が147平方mm。ちなみに、Athlon 64 X2の4800+と4400+が2MB L2版、4600+と4200+が1MB L2版だ。2MB L2版はサーバー向けも兼用のコアで、最も高コストかつ高パフォーマンスのフラッグシップだ。1MB L2版は147平方mmで、これは0.13μm世代の512KB L2版K8(Newcastle:ニューキャッスル)とほぼ同サイズ。となると、役割も同じで、メインストリームで性能とコストのバランスを取ることになるだろう。 つまり、AMDの90nm版デュアルコアK8は、0.13μm版シングルコアK8と、ダイサイズでは同じ位置を占めることになる。製造キャパシティも今のところは基本的には変わらないので、製造比率も90nmの歩留まりが上がるにつれて、0.13μm版シングルコアK8と同程度になるだろう。AMD CPUの中でのK8の比率は、90nmプロセス版が出始めるまでは20数%程度止まりだった。そうすると、デュアルコアの比率は1/5程度と予想できる。 それに対してシングルコアK8はどうか。シングルコアの90nmプロセスK8のダイサイズは1MB L2版が114平方mm(昨秋のCitigroup Smith Barney Semiconductor Conferenceでのプレゼンに基づく)、512KB L2版が84平方mm(昨秋のAnalyst Dayに基づく)。これは、0.13μm世代のK7コアに匹敵するサイズだ。AMDがK7を打ち止めにして、バリューCPUの全量をK8コアに変えることができるのは、このダイサイズのためだ。 つまり、簡単に言えば0.13μm世代と90nm世代をダイサイズ的に比較すると次のようになる。
0.13μm→90nm では、この先はどうなるのだろう。65nmプロセスを予測すると、デュアルコアK8のダイは、2MB L2版が110平方mm前後、1MB L2版が80数平方mm程度となる。つまり、65nm世代になったら、AMDは、やりたければCPUの全量をデュアルコアにできるわけだ。しかし、大型ダイで高パフォーマンス狙いの200平方mmのダイもないと、バランスが取れなくなってしまう。また、2006年には、Fab36での製造も始まるわけで、AMDは現在のようなきつい製造キャパシティの制約からも解放される。そうすると、今よりも大きなダイの比率を増やしても、製造個数を維持できる。 では、65nm世代で200平方mmと140平方mmのダイとなるのは何だろう。消滅したK9の代わりに開発されていると言われるK10なのか、それともK8系の4コア版か。今のところ内容はわからないが、そのサイズのCPUが登場することだけは間違いないだろう。 ●AMDとIntelで異なるデュアルコアの価格体系 デュアルコアの価格構造も面白い。AMDのCPUは価格階層的に、デュアルコアの方がシングルコアより上位に来る。デュアルコアの価格は500ドル台から最高は1,000ドル前後。シングルコアAthlon 64の価格は、ちょっとオーバーラップするが、基本はこの下の価格階層に並ぶ。 例外はAthlon 64 FXで、これだけはデュアルコアの上位スキューと同じ価格に来る。ともあれ、価格上の位置づけとしては、“デュアルコアはシングルコアよりエライ”というのがAMDのメッセージだ。 それに対してIntelの価格階層は、シングルコアとデュアルコアを完全に並列させる。トップのPentium Extreme Edition 840の価格は999ドルで、従来のPentium 4 Extreme Editionと並ぶ。Pentium Dは840が500ドル台で、Pentium 4 670(600ドル台)とPentium 4 660(400ドル台)の間に挟まる。さらに、830が300ドル台、820が200ドル台とメインストリームPCの価格帯でもデュアルコアが提供される。“デュアルコアとシングルコアはどちらもエライ”というのがIntelのメッセージだ。 これだけを見ると、AMDはデュアルコアのバリューに自信を持っていて、Intelはそれほどではないように見える。理由はどこにあるのかはわからないが、ダイサイズだけから見れば、AMDの価格設定の方が自然だ。
□関連記事 (2005年4月22日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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