Pentium Extreme Edition 840(以下Pentium XE 840)について、前編、中編をお届けしたが、今回は比較対象も含めたベンチマーク結果と、その所感をお届けしたい。 ●テスト環境 まず、ベンチマークの対象となるCPUや環境は表に示したとおりだ。Intel製CPUはPentium 4 Extreme Edition 3.73GHz(以下Pentium 4 XE 3.73GHz)に加え、過去のテストでPentium 4 XE 3.73GHzと同等の性能を出したPentium 4 570Jを用意した。この両製品については、Intel 925X環境でもテストを行っている。これによりIntel 955Xの性能も探ってみたい。 本題であるPentium XE 840については、BIOSからHyper-Threadingを有効にした場合と、無効にした場合の2通りを検証している。無効にした場合のテストを行なったのは、今後登場する予定のメインストリーム向けCPU「Pentium D」の3.20GHz動作モデルの性能をイメージしてのものだ。なお、Hyper-Threadingを有効にした場合のテスト結果は、中編でお届けした数値と同じものである。 AMD製CPUはAthlon 64 FX-55とAthlon 64 4000+を用意。Athlon 64 4000+に関しては、PCI Express環境のnForce4 SLIチップセットと組み合わせている。Athlon 64 FX-55はK8T800 Pro搭載マザーとメモリをセットにしたAMD製評価キットを借用したため、ほかとビデオカードが異なる環境となっている。 なお、中編のテスト環境紹介において、メモリ欄に「CL=4」と記したが、これは「CL=5」の誤りである。ここで、お詫びして訂正させていただきたい。
●CPU性能 それでは、順にテスト結果を見ていきたい。まずはCPU性能を測定するために、「Sandra 2005 SR1」の「CPU Arithmetic Benchmark」(グラフ1)と「CPU Multi-Media Benchmark」(グラフ2)を見てみたい。 Pentium XE 840がかなり優れたスコアを出していることが分かるが、Sandraには環境の持てる最大限のポテンシャルを引き出す特性があり、とくにデュアル/マルチCPU環境で数字が跳ね上がる。そのため、その数字をそのまま素直に受け取るのは注意を要するが、このような底力を持ったCPUという見方はできる。 もう少し実践的なCPUテストとして、「PCMark04」の「CPU Test」の結果を見てみたい(グラフ3、4)。グラフ3に示した結果は、2つの処理を同時実行するテスト、グラフ4は単体でテストするものをまとめている。 グラフ3を見ると、さすがにマルチスレッド環境ではPentium XE 840の性能向上が見て取れる。ただ、Hyper-Threadingを無効にした場合のほうが優秀な結果となっている点には注意を要する。ここでは2つのスレッドしか動作しないわけで、Hyper-Thredingを使って4スレッド処理が可能となった状態では、CPU内部でスレッドの受け渡しなどのロスが発生したと考えられる。 一方、グラフ4の結果はHyper-Threadingの有無に関わらず、いまひとつだ。シングルスレッドのアプリケーションの場合、マルチコアの効果はなく、しかもPentium XE 3.73GHz/570Jよりもクロックが低いため、これらのCPUに劣るパフォーマンスとなっている。このベンチマークにかかわらず、シングルスレッドアプリケーションでは、こういった状況は多々発生すると思われる。 唯一、動画エンコードのテストでは他製品と対抗できる性能を出している。ただし、このテストも4スレッドを効果的に使うようになっておらず、Hyper-Thredingを無効にした場合のほうが良い結果が出ている。 このあたりの結果を見るに、一般的アプリケーションがSandraのようなポテンシャルの引き出し方をしていないのは当然としても、4スレッドを効果的に活かせる場面は現時点ではかなり限られるようである。 しかしながら、2スレッド処理を行なえる状況またはアプリケーションでは、Pentium 4 XE 3.73GHz/570Jよりも動作クロックが低いにも関わらず同等以上の性能を見せている。1つのコアのリソースを共有するHyper-Threadingに対するデュアルコアのアドバンテージは小さくないといえる。
●メモリ性能 次にメモリ性能のテストを行ないたい。テストはこれまでの本連載と同様「Sandra 2005 SR1」の「Cache & Memory Benchmark」である。グラフ5に全結果、グラフ6に一部結果の抜粋を記した。 先にSandraの特性を述べたが、メモリ性能についても同様で、CPU内のキャッシュに関してはマルチ/デュアルコアの環境で性能が跳ね上がる。そのため、キャッシュについては、CPU-Zに含まれるlatency測定ツールの結果を参考にしたい(グラフ7)。 この結果を見ると、コアのステッピングが古いPentium 4 570Jはやや遅めであるが、L1/L2ともにPentium 4 XE 3.73GHzと同じである。NetBurstアーキテクチャを踏襲、しかも同じPrescottコアをベースとしているということを含めて考えれば、各コアあたりのキャッシュ速度はシングルコアのPrescottの同クロック(3.20GHz)と同等程度と見ていいだろう。つまり、Sandraの結果の半分程度が各コアのキャッシュ速度と考えられる。 続いて実メモリのアクセス性能を見てみたい。グラフ6に戻り、256MBの項を見ると、Intel 925XEの性能が際立って見えるのが分かる。Intel 955XはDDR2-667、Intel 925XEはDDR2-533であるのは環境紹介の表にも記したとおりで、メモリモジュールのCAS Letancyの差があるとはいえ、Intel 955Xはふがいない結果である。登場直後だけにBIOSが安定性重視の方向に調整されている可能性はあり、今後のチューニングに期待したい。 もう一点気になるのが、Intel 955Xにおいて、Pentium XE 840のメモリアクセスが、同じFSB帯域となるPentium 4 570Jに劣っている点だ。グラフには示していないがCPU-ZのレイテンシテストではPentium 4 570J環境のほうがレイテンシが大きい傾向が出ており、実際のアクセス速度は逆という結果なのである。 可能性として考えられるのが、デュアルコアに伴うFSBの問題だ。前編でSmithfieldコアにFSBの調整機構が組み込まれていない点に触れたが、その影響が出ているのではないだろうか。両方のコアがフルに回った場合のCPU-チップセット間帯域幅は400MHz相当(極論ではあるが)となるわけで、Sandraのように環境のフル性能を引き出そうとするテストが裏目に出た可能性がある。
●アプリケーション性能 ここからは、実際のアプリケーションを使用したベンチマークへと移りたい。テストは、「SYSmark2004」(グラフ8~10)、「Winstone2004」(グラフ11)、「CineBench 2003」(グラフ12)、「TMPGEnc 3.0 XPress」(グラフ13)である。 SYSmark2004の総合結果は、Pentium XE 840がなかなか良いスコアとなっているが、Internet Content CreationとOffice Productivityではガラリと傾向が異なる。 Pentium XE 840は、マルチスレッドアプリケーションが多く、しかもわずかながら同時実行もなされるInternet Content Creationでは優秀な結果を見せ、Hyper-Threading有効の場合がより高いスコアとなる。 逆にオフィス系アプリケーションではPentium 4 XE 3.73GHz/570Jに後塵を拝し、しかもHyper-Threading無効のほうが有効の場合に対して同等以上のスコアである。Office Productivityでも複数アプリケーションによる処理は行なわれるがスレッド数がそれほど多くないのだろう。先のPCMark04のところで紹介した点と同様の理由と考えられる。 続くWinstone 2004については、Pentium XE 840はまったく奮わない結果である。マルチスレッドアプリケーションがまったくないわけではないが、基本的に複数アプリケーションの同時実行がないWinstone 2004らしい結果ともいえる。 ちなみにWinstone 2004でAthlon 64 FX-55がAthlon 64 4000+に劣る結果が出ているが、これはマザーボードの違いが影響していると考えている。とはいえ、このベンチマークでは強さを見せている。 さて、今回から新たに追加したCineBench 2003の結果を見てみると、シングルスレッド動作をさせた場合、Pentium XE/Pentium 4の各製品はクロックの順にスコアが並ぶ。これは当然だろう。また、ここでもAthlon勢が優秀であることを特筆しておきたい。 注目なのはマルチスレッドのテストである。ちなみにAthlon勢は論理CPUも1つのためマルチCPUレンダリングテスト自体が行なえないので空欄となっている。結果を見ると、Pentium XE 840が飛び抜けて優れている。Hyper-Threadingを有効にした場合は4スレッドが同時進行するわけで当然上位のスコアは納得だが、2スレッドとなるHyper-Threading無効時でも優れたスコアを出しているのだ。 Pentium XE 840でHyper-Threadingを無効にした場合と、Pentium 4両製品が同時処理できるスレッド数は2つで同じ。ただしPentium XE 840はクロックが低いにも関わらず、Pentium 4両製品を上回る性能を発揮できている。演算ユニット/キャッシュを別個に持つデュアルコアの真髄を分かりやすく知ることができるテスト結果といえる。 その傾向は同じくマルチスレッド対応アプリケーションのTMPGEnc 3.0 XPressでも見られる。MPEG-1は負荷が小さいためか、4スレッド同時処理の効果は薄いが、2スレッド同時処理でも性能が高い点は同様だ。さらに、MPEG-2では飛び抜けた性能を見せている。このMPEG-2のスコアは、Xeonデュアル環境をテストしたときに迫る勢いがあり、これを物理的には1つのCPUで処理しているというのは驚嘆に値する。 WMV9については、負荷が高めの2パスエンコードのテストという意味合いで追加したのだが、PCMark04のWMVエンコードと傾向はあまり変わらない。やはりHyper-Threadingを無効にした場合のほうが優れた性能を出す。
●3D性能 ベンチマークの最後に、3D性能のテスト結果を紹介しておきたい。「Unreal Tournament 2003」(グラフ14)、「DOOM3」(グラフ15)、「3DMark05」(グラフ16)、「3DMark03」(グラフ17)、「AquaMark3」(グラフ18)、「FINAL FANTASY Official Benchmark 3」(グラフ19)である。 ここのPentium XE 840は、惨憺たる結果で、Pentium 4 XE 3.73GHzはおろか、メインストリーム向けとなるPentium 4 570Jにも劣る結果となっている。3Dゲームではビデオカードに依存する処理が多く、CPU側で行なうべき処理のマルチスレッド化が進んでいないわけで、結果としてクロックの低さが大きく表れてしまった。 マルチスレッド処理が可能である点のメリットして、複数アプリケーションの同時実行の際のパフォーマンスという面もあるのだが、3Dゲームは単体で動かすことが当たり前であることを考えれば、3D性能目的ではPentium XE 840という選択肢はなさそうだ。
●発熱 さて、中編でPentium XE 840の発熱について触れたが、ここでPentium 4 XE 3.73GHz/570Jの両製品との比較を紹介しておきたい(グラフ20)。テスト方法はまったく同一で、使用したエンコード用動画ファイルも同じもののため、処理時間の差が生じている。 各製品のピーク温度はそれぞれ、Pentium XE 840が52.9度、Pentium 4 XE 3.73GHzが47.8度、Pentium 4 570Jが50.3度となっており、Pentium 4両製品と比較して発熱の大きいCPUであることを再確認できる。 ピーク温度については、熱暴走などの事態が起こらない範囲であれば、処理性能の向上によりピーク温度を維持する時間は短くなるが、無処理の状態でも1.5~2度程度高く、やはりCPU/ケース内の冷却に気をつかうCPUといえる。
●アプリケーションに大きく左右されるCPU デュアルコアCPUであるPentium XE 840のベンチマーク結果を従来のシングルコア製品を比較対象にテストしてきたが、マルチスレッド化されたアプリケーションでは文句なしの性能を発揮する。CineBench 2003 CINEMA 4Dはややニッチかもしれないが、エンコードを多様するユーザーは、デュアルコアCPUの登場を歓迎できるだろう。 また、多数のアプリケーションを同時に起動し、かつ各アプリケーションに同時に負荷を与える使い方をするユーザーは、4スレッド同時処理が可能な本製品の効果が享受できるだろう。現状で、そこまでタフな使い方をするとストレスが溜まることにもなるが、言い換えればこれまでの常識に適わない使い方に耐え得るCPUという見方もできる。 しかしながら、Pentium XE 840が必要か、と問われると、対象は絞られる。それはHyper-Threadingを無効にした場合の方が優れた結果を出すテストが少なくないからだ。エンコード性能でもWMVやDivXは、この傾向を見せている。要するに現状のアプリケーションを使う上で、4スレッド同時処理の必要性が少ないわけだ。 今後、Hyper-Threadingを無効にしたPentium Dのほか、AMDからもデュアルコア製品が登場する予定になっている。メインストリーム向けCPUであればPentium XE 840の10万円を超える価格を大きく下回るだろう。多くのユーザーはこれらの登場を待つのが無難な選択といえる。 □関連記事 (2005年4月21日) [Text by 多和田新也]
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