2月に「(やや後ろ向きな)バッテリ持続時間重視のノートPC選び」という記事を書いたところ、多くの反響をメールで頂いた。Intelの915GM系チップセットを使った製品で、各社が省電力化にかなり苦戦しているというコラムだった。 実際、その後に出てきた製品を見ればバッテリ持続時間の面でSonomaプラットフォーム(Intelは無線LANカードまでを含めてSonomaとしているため、実際にはSonomaではない製品もあるが、ここでは通りの良い“Sonoma”で統一したい)が不利な事は明らかだろう。 なぜSonomaで各社が苦戦しているのかは、追って取材をベースにした記事の中で詳しく紹介していくつもりだが、PCに負荷がかかっていない、つまり本来ならほとんど電力を消費しないシチュエーションでの消費電力が大きい事(CPUのリークだけでなくチップセットも)が、一般的な使い方におけるバッテリ持続時間を短くしている。 これに対抗し、持ち歩く機会の多いノートPCのベンダーは、メインボードレベルでの消費電力増加を抑え込むため、さまざまな努力を製品に盛り込もうとしており、Sonomaによるヘビーモバイラーの被害は最小限に抑えられるかもしれない。このあたりは追々、明らかになっていくだろう。 一方、2月の記事でも述べたようにODM調達のノートPCに関しては、さほど大きなバッテリ駆動時間の短縮は見られない。むしろトータルの性能を考えれば、バッテリ駆動が主の用途でも従来のプラットフォームよりも良いと思えるほどだ。 これはIntelがPCベンダーに対して提供するプラットフォーム技術が改善されてきているからだろう。Sonomaへの移行は、バッテリ駆動時間延長にフォーカスした一部ベンダーにとってはマイナス面が大きかったが、プラットフォーム全体では前進している。 この恩恵を一番多く受けているのが、モバイルPCをODMで調達しているPCベンダーではないだろうか。 ●世界的なB5モバイル機ニーズの拡大 意外に思うかもしれないが、12.1型XGA液晶パネルを搭載したB5ファイルサイズのモバイルPCは、2003年3月の初代Pentium M登場以降、世界的なニーズが高まってきているという。特に北米ではモバイル機といっても14.1型クラスが主流で、それよりも小さいサイズは売れないというのが定説だった。 ところがIBMによると国別で見た場合のXシリーズのシェアで、日本は徐々に数字を落としてきているのだという。言い換えれば、日本以外の地域でXシリーズを納品する案件が増えているということだ。 詳しい市場分析はここでは行なわないが、バッテリ持続時間やワイヤレスネットワークなどの要素が充実したことで社員にPCを携帯させる企業が増えたということだろう。企業向けが主のIBMでこうした現象が起きているということは、同じく企業向けモデルにB5ファイルモバイル機を持つデルやHPでも同じ事が起きていると考えられる。 では日本におけるB5ファイルサイズの市場が小さくなり、相対的に割合が減っているのか? というとそうでもない。むしろマイナス成長の中で、B5ファイルサイズクラスのノートPCは出荷が伸びているというのだから、ノートPC全体から見た割合はまだ少ないとはいえ、B5モバイル機が少しづつでも伸びている事で12.1型クラスのノートPC市場に対するPCベンダー側の注目も上がっている。
こうした流れを端的に表しているのは、先日発表されたデルの「Latitude X1」だ。3セルバッテリ時の値とはいえ1.14kgの軽量ボディを実現。Bluetooth 2.0やSDカードスロット、1,280×768ピクセルのワイド型12.1型液晶パネルなどのスペックを持つ反面、思い切ってPCカードスロットを削りCFスロットに置き換えている点など、なかなか大胆な構成だ。 大容量の6セルバッテリ搭載時には、後ろに3セル分が出っ張る形になるが、Sonomaベースでのこのサイズ、それに使いやすそうな液晶パネルの解像度などに魅力を感じた読者も多いのではないだろうか。 これまでもLatitude X300の例はあったが、やや作りの粗い面もあり、日本メーカーとの差を感じたものだが、今回の製品は力が入っている。ユーザーからのニーズがきちんとフィードバックとして反映させ、担当者がモバイル機として作り込まなければ、ここまでまとまりの良い製品にはならないだろう。X1は日本だけでなく北米を含むワールドワイドで販売される。 ●難しいODMベンダーの使いこなし デル自身はLatitude X1をODM生産で調達しているかどうか明らかにはしていないが、過去を振り返ってデル製ノートPCを見る限り、いずれかのODMベンダーから調達していると考えられる。 ODMとは指定したスペックや基本デザイン、要求に合わせ、細かな部分の設計などを含む製品設計のツメと生産を引き受けるビジネス形態(あるいは企業)の事だ。「なんだ、それなら要求スペックを出せば、どこでも作ってくれるのだろう。カンタンじゃないか」と思うかもしれないが、実際にはそう甘いものではない。 確かに生産ベンダーが設計したPCの銘板を変えたり、液晶パネル天板や全体の配色、ボタンの形を変える程度、つまりOEMの範疇ならば、品質管理の難しさはともかくとして、カンタンと言えるのかもしれない。 しかし、やりたいことのレベルにもよるそうだが、ODMで思ったような製品を生産ベンダーに作らせるには、かなりの粘り強い話し合いや協力体制が必要だという。特にモバイルPCの場合、ちょっとした重さやサイズでユーザーからの印象が大きく変化する。大まかな仕様やデザインを指定するだけでは済まない。 また小型化した場合に熱が籠もりにくいよう空気の流路を確保したり、消費電力を下げるといった部分になると、ノウハウの蓄積が足りないODMベンダーが多い。 そこでたとえばNECの場合、かなりの部分を日本でデザインし、ODMベンダーのサポートを行なうことで、生産コストを下げながら、自社の要求レベルやデザインコンセプトに見合う製品をラインナップしている。ヒットモデルになったLaVie Nや、現在ダイレクト販売専用モデルとして用意しているLaVie G model Jなどのクオリティを見ると、海外への生産委託とは思いにくいほどよくできている。
一言でODMと言っても、発注元のメーカーが持つ技術やノウハウ、モチベーションは製品へと大きく反映され、それが差別化要因になっている面もある。Latitude X1の場合も、同様の努力があったことは想像に難くない。日本で設計された以外のSonomaベースモバイルPCの中で、LaVie G タイプJやLatitude X1が目立つのは、ODMベンダーをうまく使いこなしているからだろう。Latitude X1には、モバイルPCに対する“デルの本気”が見える。 また、小型化や省電力化といった面に目を向けると、Intelがモバイル製品のプラットフォームをチップの組み合わせで提供するだけでなく、熱設計や省電力化のノウハウなどを提供している事も大きい。省電力化では消費電力の低い液晶パネル技術の開発を支援したり、高効率の電源部品を標準化したりといった活動もしている。 そうしたIntelのサポートによって、台湾、中国、韓国などで設計されているモバイルPCの実力が底上げされてきたとは言えるだろう。Intelの活動による成果は、徐々にODMベンダーに浸透しているため、むしろSonoma世代の方が小型化や省電力の面で進んでいるように見えるほどだ。 ●底上げで実力差は縮まる? たとえばNECのLaVie G タイプJの場合、Intel 855GMを使っていた前モデルは4セルバッテリで約4.5時間だったのが、新モデルでは6セルバッテリで約5.4時間のスペック。バッテリ容量あたりの駆動時間は短くなっているものの、BaniasからDothanに変わってリーク電流が増えていることやIntel 915GMの消費電力の大きさなどを考えれば、かなり健闘しているとも言える。またセル数が増えているにも関わらず、本体重量は変化していない。 Latitude X1は同等の前モデルが存在しないが、デルの独自手法による測定では6セルの大容量バッテリで5~6.5時間程度のバッテリ駆動時間とのこと。LaVie G タイプJとほぼ同じと考えて良さそうだ。 6セルバッテリで5時間ちょっと。おそらくこのあたりがSonomaプラットフォームにおける超低電圧版Pentium M採用機の標準的なバッテリ駆動時間と言える。省電力設計を徹底した、たとえばLet's NOTE Lightシリーズと比較すると短いが、一昨年の春に初代Pentium Mがローンチした頃からすればODMベンダーの作るモバイルPCのバッテリ持続時間は延びており、小型化に関しても進んでいる。 Intelが意図するモバイルプラットフォーム全体の底上げは成功していると言えよう。価格最優先ならば、こうした製品を選ぶ方が満足度は高いかもしれない。 では省電力性、軽量性、操作感などを国内設計のSonomaベースモバイルPCと比べると、その差は縮まっているのだろうか? 実はここで挙げた2製品と競合するSonomaベースの製品で、日本で設計されたものはまだ発表されていない。14.1型クラスならば存在するが、液晶パネルサイズが異なり、ディスクリートのグラフィックスを搭載するなどの違いがあるため単純には比較できない。 これはおそらく独自のノウハウや設計要素などを盛り込んでいるため、発表や製品の出荷時期がODM製品とは違うからだと考えられる。果たしてODM調達のモバイルPCと、バッテリや軽量化で前を行く製品たちの差は縮まっているのだろうか? 漏れ伝えるところでは、Sonomaの消費電力増大やODM製品の品質底上げに対し、工夫し尽くしたと言いつつ、まだまだ技術者として抵抗しようと試みていると聞く。その答えはさほど遠くない時期に出るだろう。 □関連記事 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0210/mobile277.htm (2005年4月13日) [Text by 本田雅一]
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