テクニカルトラックでは、Intelの関係者や関連する業界の企業などからスピーカーを招き、技術的な詳細が説明されている。初日となる本日は、「デジタルホーム・トラック」、「デスクトップ・プラットフォーム・トラック」、「ソフトウェア開発トラック」、「通信インフラストラクチャ & ワイヤレス・トラック」、「モバイル・コンピューティング・トラック」、「通信インフラストラクチャ & エンベデッド・トラック」という6つが行なわれた。このうち、筆者もいくつかの技術トラックに出てみたが、パッと見で最もお客が入ってそうなセッションが「デジタルホーム・トラック」だった。
日本の業界関係者にも熱い注目を浴びるIntelのデジタルホームだが、米Intel本社でデジタルホーム関連のビジネスを推進するデジタルホーム事業本部のジェネラルマネージャであるドナルド・マクドナルド副社長が今回のIDF Japanにおいて基調講演を行なうために来日している。基調講演の模様はレポートに譲るが、マクドナルド氏は多数の記者会見にも参加し、伝道師のようにIntelのデジタルホームビジョンを記者団や観衆に語りかけた。 ●接続機器が増えるごとに指数関数的に増大するネットワークの価値
メトカーフの法則とは、Ethernetを開発したボブ・メトカーフ氏が提唱した法則で、「ネットワークの価値はノード数の2乗に比例する」というもので、平たく言えば、そのネットワークに接続されている機器が増えれば増えるほど、そのネットワークの重要性が加速的に高まっていくというものだ。 マクドナルド氏がここでいう“ネットワーク”をそのままデジタルホームに置き換えてみるとよい。というのも、そもそもデジタルホームのインフラは、家庭内に構築されたIPプロトコルであり、そこに、PCも、家電も、果ては医療機器も、家庭内にあるデジタル機器すべてを接続するというのがその基本的な考え方になるからだ。だから、デジタルホームに対応した機器が増えれば増えるほど、利便性が向上していく、ということをマクドナルド氏は言いたいわけだ。 もっともIntelが当面目指しているデジタルホームの定義は、筆者のより広義な定義にくらべると微妙に狭まっているようだ。記者会見で、Intelのデジタルホームの定義とはと問われたマクドナルド氏は「Intelのデジタルホームの定義はシンプルだ。まず家庭内に構築されたIPネットワーク、そしてPC、最後にブロードバンドの3点がセットになったものだと考えて欲しい」とのべ、そこにPCが必須であるということが、一般的なデジタルホームのビジョンとは異なっている。
「各社はそれぞれ自社のデジタルホームのビジョンを持っている。家電ベンダの人は家電を中心に語るだろうし、我々はPCが中心にくる。しかし、それはそれでいいのだ。大事なことは、標準規格に沿って作り相互接続性を実現することだ、最終的にはユーザーが決めればよい」と述べ、Intelや業界のベンダが協力して行なっているDLNA(Digital Living Network Alliance)やDTCP-IP(Digital Transmission Contents Protection over IP)などの標準化作業の重要性を強調した。 ●East Forkに口をつぐむIntel幹部 “メトカーフの法則”に関しては、筆者ももっともだと思うのだが、問題はどうやったらそのネットワーク(この場合は家庭内のIPネットワーク)に接続可能な機器を増やしていけるかだろう。実際、今回の記者会見でも「デジタルホームのビジョンはもっともだと思うが、同じ話しを聞き飽きた」という記者から厳しい質問がマクドナルド氏に突きつけられていた。 確かに、Intelは昨年から盛んにデジタルホームのビジョンを語ってきた。その甲斐もあって、DLNAガイドラインに対応したDMA(Digital Media Adaptor)はリリースされたし、日本のコンシューマPCのほとんどはDLNAガイドライン対応となった。今後は、家電ベンダの方からDLNAガイドラインに対応した製品が徐々にでてくることになるだろう。 だが、それが目に見えるほどの勢いになっているかと言えば、残念ながらそうではないことも事実だ。マクドナルド氏のいうように、デジタルホームにメトカーフの法則が適用されるようになるには、ある程度の数を強制的にでも増やしていかなければならない。 「Centrinoモバイル・テクノロジ(CMT)の例を見て欲しい」とマクドナルド氏は述べる。すでに何度も紹介しているが、以前マクドナルド氏は、当時のモバイルプラットフォームグループに'90年代の終わりから2003年までマーケティングディレクターを務めていた。それは、IntelがBaniasを開発し、それに併せてCMTのブランドキャンペーンを推し進めた時期と一致している。まさにマクドナルド氏は、そのプログラムを担当していた当事者なのだ。 問題は、そのマーケティングキャンペーンの中身だ。マクドナルド氏には、すでに手の内に“武器”があるのだが、さまざまな事情で詳しいことが言えないという金縛り状態にある。以前、何度か取り上げた開発コードネームEast Fork(イーストフォーク)でよばれるデジタルホーム市場の立ち上げプログラムがそれだ。 OEMメーカーなどから開発コードネームなどが漏れ伝わってきているが、この件に関してIntelは驚くほど口が堅い。実際、East Forkの元々の計画では、第3四半期には立ち上げるはずだったので、3月に米国で行なわれたIDF USや、今回のIDF Japanあたりで大々的に発表されても良さそうなのだが、実際には発表されなかった。 なぜ、IntelはEast Forkを口にしないのだろうか。その背景には、Intelの中で、East Forkの詳細が詰め切れていないという事情がありそうだ。といっても、大枠は基本的には以前筆者がお伝えした通りで、大きな変更はない。ただし、East Forkの詳細は徐々に変わっていっているという。例えば、Windows XP Media Center Editionの扱いがある。当初、IntelはEast ForkにおいてWindows XP MCEはオプション扱いだった。ところが、1月には奨励に変わり、さらに今週にはIntelはOEMメーカーに対して、Windows XP Media Center Editionに関する取り扱いが若干変更し、より重視する姿勢を示していると情報筋は伝えている。 MicrosoftはWindows XP MCEの今年のリリースとして開発コードネーム“エメラルド”を開発してきたが、エメラルドはWindows XP MCE 2006としてはリリースされず、パッチのアップデートとしてエンドユーザーに提供されるという形になると情報筋は伝えている。従って、Windows XP MCE 2005(+エメラルドの要素)が従来のEast Forkの計画よりも重い位置づけを与えられることになる。 こうした変更は未だに続けられているため、発表できる状況ではない、というのが真相だと筆者は考えている。ただ、その情報筋は、East Forkのブランドなどの発表は、今四半期(第2四半期)に予定されていると伝えており、いずれにせよ、今四半期中にはなんらかの形として明らかにされそうだ。 ●デジタルホーム向けキャンペーンはCentrinoを上回る規模になるとマクドナルド氏 そうした状況下において、Intelのデジタルホームビジョンを語らなければならないマクドナルド氏が、なんとなく歯切れの悪い答弁に終始してしまうのも無理はない。 しかし、そうした中でも、マクドナルド氏は、“East Fork”というコードネームこそ口にしなかったものの、“デジタルホーム普及促進プログラム”とよばれるスライドを提示し、その中で、デジタルホームの普及促進に向かってどのようなことを行なうのかを公開した。次のような内容だ。
・大規模なエンドユーザー向けキャンペーン ・世界規模でのキャンペーン:特に特定の8カ国を重視 ・13のOEMベンダ ・50のデジタルホーム向けアプリケーションとサービス ・20の家電/ネットワークベンダによる製品供給 ・認証と認知プログラムの実地 ちなみに、この数字などは、実際にIntelがOEMベンダに対してEast Forkの概要を説明する際にも利用されている数字だ。つまり、実際にはEast Forkそのものを説明していると言ってもよい。 なお、「このプログラムはCMTよりも大規模なものになるのか」という筆者の質問に対して、マクドナルド氏は「もちろん、現時点では具体的な額などの詳細を申し上げることはできない。ただ、CMTとの比較という意味では、CMTよりも大きなものになるでしょう。世界市場におけるデスクトップPCの規模はモバイルPCの3倍以上だ。従って、デスクトップPC向けのキャンペーンがモバイルPCのそれを下回るという理由は見あたらない」とのべ、デジタルホーム向けのキャンペーンプログラムがCMTのそれよりも大規模なものとなるだろうという見解を明らかにした。 ●吉本興業の関連会社が10フィートUIを利用したコンテンツ配信システムを開発 なお、マクドナルド氏の基調講演そのものは、3月に米国で行なわれたIDF USにおけるそれとほぼ同じ内容で、IDF USの基調講演を見た筆者にとっては特に印象的なものではなかった。 ただ、マクドナルド氏の基調講演の最後に行なわれたデモは、非常に印象的だったので、ここで紹介しておきたい。マクドナルド氏が紹介したのは、大阪の芸能プロダクション、吉本興業の関連会社が開発している、10フィートUIを利用したコンテンツ配信のプログラムおよびサービスだ。CyberLinkの10フィートUIである「PowerCinema」にかぶせる形での提供で、ユーザーはサービスをリモコンですべて操作することができる。このサービスは現在開発中で、来年のサービスインをめどに開発が進められているという。 IntelのEast Forkの鍵を握るのは、IntelがEntertainment PC(ePC)と呼んでいる、リビング向けのPCソリューションだが、ePCがユーザーに受けいれられるためには、こうしたブロードバンドコンテンツサービスというのは、必須条件だ(この点は、以前の記事でも指摘した)。そうしたソリューションを、今後どれだけそろえられるかが重要になってくるだけに、意味があるデモだったと言えるだろう。
□IDF Japan 2005のホームページ http://www.intel.co.jp/jp/idf/ □関連記事 IDF Japan 2005レポートリンク集 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/link/idfj.htm 【1月21日】【笠原】PCベンダの賛同が得られない“East Fork” http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0121/ubiq94.htm (2005年4月8日) [Reported by 笠原一輝]
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