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IDF Japan 2005基調講演レポート プラットフォームを中心としたビジネス展開
会期:4月7日~8日 IDF Japan初日に当たる4月6日に行なわれた基調講演では、インテルが持つ短期~長期に渡ってのビジョンが語られた。米サンフランシスコで3月に開催されたIDF Spring 2005で語られたように、1月の組織変更以後、同社の将来はプラットフォームを中心としたビジネス展開を進めていくことが改めてアピールされた。 ●プラットフォームは多くの要素が集まる出会いの場
基調講演冒頭、インテル代表取締役・共同社長の吉田和正氏が壇上に登り、今回のIDF Japanの概要が紹介された。キーワードに挙げられたのは「プラットフォームの未来」と「拡大するビジネスチャンス」だ。 Intelが1月に行なった組織変更により、これまでのチップ単位のビジネス展開から、プラットフォーム単位での展開へと変更したのは、3月のIDFレポートなどでもご存知のことと思う。吉田氏は今回、同社が考えるプラットフォームについて、「たくさんの要素が1つの場所に集まること。つまり、プラットフォームとは出会いの場所である」と定義付けている。 そして、多様化するエンドユーザーのニーズに応えるために登場した新たな技術が出会う場所として、オープンなプラットフォームの存在が重要であるとしている。 ●イノベーションこそ業界を推進するエンジン
7日の基調講演に登壇した米Intelのエグゼクティブは3名。最初に行なわれたのが「インテルのビジョン」と名付けられた、Intel副社長兼デジタル・エンタープライズ事業本部長のアビ・タルウォーカー氏による講演だ。タルウォーカー氏は役職からも分かるとおりエンタープライズ部門の責任者であるが、今回のIDF Japanではインテル全体の将来の見通しについて述べている。 IDFで行なわれる冒頭の基調講演では「革新(イノベーション)」という言葉が幾度となく使われてきたが今回も同様である。同氏は「イノベーションこそエンジンである」とし、ここまで一貫性ある形で新しいアイデア・コンセプト・価値観をエンドユーザーに提供してきた業界は稀で、それが研究開発の成果だという。そして、今後も他の業界に遅れを取らないよう、イノベーションを推進させるために3つの要素を挙げた。 1つが革新の基盤となるシリコンである。もちろん、その根底にあるものはムーアの法則で、今年登場するデュアルコアのMontecitoまで40年継続している。さらに今後もプロセスの微細化は進み、2011年に予定されている四世代先の22nmプロセスまでは間違いなく続くとしている。さらに、現在の技術ベースで5nmプロセスまではいけると考えているという。さらに、2月に発表されたシリコンレーザーにより光学式通信が実現できる環境が整ったように、新たな機能をシリコンに持たせることも今後の重要なプランとして挙げている。 続いての要素がプラットフォームのビルディングブロックである。シリコンの進化をエンドユーザーのメリットとして活かすためには、現在・未来の問題点も含めたニーズを捉え、それに応えるプラットフォームを用意することで、総合的なマーケティングを行なっていくとしている。 その例がモバイルプラットフォームのCentrinoである。Centrinoではモバイル利用するユーザーが求める機能を検討し、ワイヤレス接続性・長寿命のバッテリ・薄型軽量化・パフォーマンスといった点を明確にし、それをプラットフォーム上に実現したのである。さらにマーケティングに3億ドル近くを投資したり、ワイヤレスコンピューティングを普及させるためのインフラ整備へも投資を行なってきたが、こうしたエンドユーザーにフォーカスした展開を、プラットフォームをキーにして推進していくとしている。そのために行なったのが1月の組織改変で、これはエンドユーザーの枠組みに応じてプラットフォーム別に事業を分けたわけだ。 また、エンドユーザーの経験が高まるにつれ要求も高くなるので、「*Ts」に代表される技術革新も必要としている。また、パフォーマンスも各世代ごとに上昇させていかなければならないが、熱や消費電力は上昇させてはならない。こうした点をカバーするのが、マルチコア技術であったり、仮想化技術である。これがビルディングブロックの中核をなすことになるわけだ。 ここでデュアルコアプラットフォームのコンセプトモデルとして、2006年登場のBridgeCreekプラットフォームやAverillプラットフォームのPC。さらには、ビジネスデザイン研究所が発売している「ハローキティロボ」を紹介。ハローキティロボにはPentium Mが搭載されており、本体に触れると発声するなどのギミックをデモし、革新的な技術の1つとして挙げた。
さらに新たなビジネスサービスのチャンスとして、ワイヤレスコンピューティングについても触れ、同社の講演ではおなじみのWiMAXによるデジタルスカイ・デジタルシティの実現についても触れられた。日本の東京を例に、半径100mがやっとのWi-Fiに対し、半径50kmを実現できるWiMAXでは神奈川県藤沢市まで到達できるという。このWiMAXのトライアルは現在、世界50カ所以上で実施されているとのことだ。 さて、イノベーションを推進する3つ目の要素は、イノベーションを喚起するという点で、子供や社員に対してなど「教育」の重要性をアピールしている。インテルでは、理数系教育や、PCの使い方を子供に教えるクラブハウス、教師にPC教育を行なうための知識を身に付けさせるプログラムを実施するなど、年間1億ドルを投資しているという。 また、政府との対話の重要性も掲げている。政府の対応ひとつで促進にもなり、逆に足枷にもなるからだ。また、大学や基礎研究機関への積極的な関わりも重要なテーマとして取り上げられている。 ●すべての家庭にデジタルホームを
2人目の登壇者は、今年からデジタルホーム事業本部副社長兼デジタルホーム事業本部長に抜擢されたドナルド・マクドナルド氏である。「デジタルホーム」と名付けられたその講演内容は、3月のIDF Spring 2005における内容とほぼ同一である。 その根幹にあるのは「世界中の16億世帯すべての家庭にデジタルホームを提供する」というテーマである。TVという究極のコモディティは売上が減少する時期もあったが、カラーテレビの導入やHDTV・デジタルTVの導入により売上を回復させる刺激があった。デジタルホームにおいても、こうした刺激を与えることで大規模なビジネスチャンスがあるわけだ。 そして、標準化を進めなければならない分野であることを強調し、その例として挙げられたのが、コンテンツ保護技術の「DTCP/IP」であり、デジタル機器の相互接続性を定めた「DLNA」である。マイクロソフトとの協力や、DLNA参加企業の増加により、プロテクトされたコンテンツを家庭内で楽しめる環境作りが進んでいることをアピールしている。 また、こうしたデジタルホームの実現に向けた、携帯機器・コンシューマエレクロトニクス・PCの各分野におけるプラットフォームも改めて紹介されたほか、デュアルコア製品のデモンストレーションも実施された。デモの内容についても米IDFと同様で、Pentium XE搭載PCでHDコンテンツの再生とゲームの配信を同時に行ない、デジタルメディアアダプタを介して家庭内の別のPCで受信したゲームを楽しむといったものである。
同氏の講演の最後は、オンラインコンテンツ市場の拡大について述べている。オンラインコンテンツの市場は2008年には110億ドルの規模へと発展し、現在はアダルトコンテンツのほうが大きな市場であるものの、今年から来年にかけてメジャーコンテンツがアダルトコンテンツを上回る市場になると予測している。 その1つの例として、吉本興業におけるコンテンツ配信が紹介された。吉本興業ではすでに「Fandango!」というコンテンツ配信サービスを行なっているが、これはPCの前に座ってマウスを使って視聴する形態のものである。しかし、リビングなどで楽しめるようにと、吉本興業のグループ企業などが出資して、先月、コンテンツ配信ビジネスを行なうBellrockが立ち上げられた会社だ。ここでの配信はCyberLinkのPowerCinemaからアクセスが可能な仕組みになっており、10フィートGUIによるリモコン操作を実現している。また、ここではHDクオリティの動画配信もなされているほか、ローカルのHDD側にストアすることで好きな時間に楽しめるようになっている。このサービスは年内に提供できるよう開発が進んでいるという。
●2015年のプラットフォームを想像する
初日基調講演の最後に登場したのは、インテル・シニア・フェロー兼コーポレート・テクノロジ統括本部長のジャスティン・ラトナー氏で、「研究開発」をテーマに講演を行なった。 同氏はまず、コンセプトを実現するプロセスについて述べた。製品のチームは2年先を見ており、その前の段階、つまりコンセプトからプロダクトへ展開するのには4~5年。さらに、プロセッサなどに搭載される技術の開発には3~4年はかかる。合わせると、約10年先を見つめていなければならないわけだ。 そこからスタートしたのが、2015年のプラットフォームやユーセージモデルの想像である。この1つがナチュラル・システムである。これは機器との対話を人間と同様に自然に行なえるシステムで、例えば人間はミスをおかす不完全なものであるが、コンピュータ側がそれを認識してコミュニケーションが取れるユーザーインターフェイスの必要性を述べている。 例えば、家庭においてもセンサーを使って健康管理を行ない必要としている医療を受けられるようになるなど、生活の質の向上にも貢献できる。またビジネスの場においては時間や文化、言語の壁を超えるシステムが作られるかも知れない。さらにアプリケーションの分野では、新しいアプリケーションを自動的に構築してくれるということもあり得るし、人間の脳と同様に予測ができるコンピューティング技術もできるなど、同社のラボでは、こうした将来のプラットフォームが常に想像されているという。 ここで紹介されたのが、現在Intel Labで開発中の「Ruby」と呼ばれるコンセプトデバイスだ。このコンセプトは、単にポケットに入るほどのコンパクトさを持つだけでなく、様々な形状や使い方を研究する材料になっている。このサイズでWindows XPを動作させられるし、無線LAN機能やサウンド機能も内蔵している。ただし、現時点では熱が問題で今後の課題も残しているそうだ。 また、携帯電話内蔵デジカメ等で撮影した低解像度の動画を、高解像度へ変換する「スーパーレゾリューション技術」も紹介されている。ちなみに処理時間は1コマ1分。10秒の動画で5時間ほどかかるそうで、PCの処理能力の必要性もまとめてアピールされている。 さて、この講演の大きなテーマである10年先を見通したプラットフォームのビジョンについて、3つの要素を取り上げて説明が行なわれた。1つが「並列処理」であり、高速化のためのアプローチとして現在進行中のデュアルコア、マルチコアに続いて、メニーコアへと進化していくことになる。ちなみに、コアの数はゆるやかに上昇していく予定としているが、10年後にはひょっとしたら百の単位のコアが乗るかも知れないとしている。
さらに、そのメニーコア化されたプロセッサ上の性能を引き出すためにはマルチスレッド化されたアプリケーションが必須であり課題であるが、その開発のために「ドメイン固有の並列プログラミング」が紹介された。これは、限定した分野に特化するプログミング言語で、例として示された「シャングリラ・システム」では、パケット処理を複数のコアで処理し、負荷に応じて各コアの動作を動的に切り替えていくデモが実施された。 続いて、データ処理におけるボトルネックとして、メモリの帯域幅の問題が挙げられた。これの対応として、3次元的にウエハやダイをスタッキングすることで、インターコネクトの距離を短縮でき、これによりバンド幅を広げるアプローチが検討されている。 最後に同氏は2月に発表されたシリコンレーザーに触れた。これは連続波のレーザーをシリコン上で発生させる世界初の技術で、この光とエレクトロニクスの融合としてシリコン・フォトニクスという言葉をアピールしている。このシリコン・フォトニクスは、例えばチップ間やデバイスとのインターコネクト、医療用レーザーなどで利用される可能性があり、将来性の高さを強くアピールしている。 □IDF Japan 2005のホームページ (2005年4月8日) [Reported by 多和田新也]
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