元麻布春男の週刊PCホットライン

「PSP」のビデオ再生機能を試す




 前回は、「ニンテンドーDS」や「ゲームボーイアドバンスSP」をポータブルメディアプレーヤーに変換してしまうSDカードアダプタ、「プレイやん」を取り上げた。が、世の中にはそんな別売オプションのアダプタなど使わなくても、メディアプレーヤー機能を持つ携帯ゲーム機が存在する。言わずと知れたソニーの「PSP」だ。そこで今回は、ポータブルメディアプレーヤーとしてのPSPを見てみることにしたい。

●ポータブルメディアプレーヤーとしてのPSP

 ポータブルメディアプレーヤーとしてのPSPを特徴付けているのは、1.8GBの容量を持つ光ディスクであるUMDと、4.3型の16:9ワイドスクリーンTFT液晶(480×272ドット)だろう。ただし、現時点ではUMDを利用したゲーム以外のコンテンツは、映画や音楽ビデオ等を収録したビデオディスク発売がアナウンスされているものの、まだ入手できない。この4月13日にもUMDのタイトルが発売される見込みだが、価格は2,500円から5,000円というところで、「気軽」かというと微妙なところ。

 特に洋画では低価格なDVDが一般的になっていることを考えると、再生環境が限られている上、画質や音質面でDVDにかなわないUMDタイトルを買うのはかなりの決意が必要だろう(今のところレンタルという話はまだ聞かない)。残念ながら、UMDにはユーザーが書き込めるドライブやメディアのオプションがないため(少なくとも今の時点で)、ポータブルメディアプレーヤーとしてのUMDの活用は、こうしたセルコンテンツに限られる。これを利用しないとPSPはUMDドライブというデッドウエイトを背負ってしまうわけで、記録可能ドライブ/メディアの提供や、セルコンテンツの低価格化、レンタル展開等を期待したいところだ。

 UMDが利用できないとなると、ポータブルメディアプレーヤーとしてのPSPの記録メディアは、メモリースティックDuo/PRO Duoに依存することになる。実際に市場で簡単に買える上限は今のところ512MBまでだが、すでに2GBまで発表はされている(発売は6~7月の予定)。2GBで5万前後と予想される価格さえ我慢できれば、小さなメモリースティックPRO Duoに、UMDより大量のデータを記録することが可能だ。ポータブルメディアプレーヤーとしてのPSPの現実は、このメモリースティックPRO Duoが中心ということになるだろう。

サイズの比較。左からMP3プレーヤー(Rio SU70)、PDA(PEG-TH55)、そしてPSP

 一方、液晶ディスプレイは明るく見やすい立派なもの。携帯機としては解像度も高い。ポータブルメディアプレーヤーにふさわしい表示品質だと思う反面、本体の大型化にも貢献している。この大きさを考えると、PSPを音楽プレーヤーとして利用することは、あまり現実的ではないかもしれない。UMDも液晶も利用しない音楽プレーヤーでは、宝の持ち腐れでもある。活用の中心はビデオプレーヤーということになるハズだ。

 PSPでビデオを再生するにはどうしたらいいのか。記録メディアは、セルコンテンツを買うのでない限り、メモリースティックDuo/PRO Duoしかない。問題は、どのようなフォーマットで、どのようなCODECを使い、どうやってメディアに書き込むか、ということになる。


Image Converter 2は、画面の左側のビンにファイルを登録し、中央の変換設定でターゲットとなるビットレートを選択し、ファイル転送の矢印を押すだけ。右上で指定した転送先ドライブの\MP_ROOT\100MNV01\に変換結果が出力される(メモリリーダを指定することで、直接書き出すことも可能)

 PSPで再生可能なビデオを作成するための純正ツールとして提供されているのは「Image Converter 2 ver. 2.1」だ。ソニーの直販サイトであるソニースタイルからのダウンロード販売で購入可能な「Image Converter 2」(1,500円)は、AVI、MPEG-1/2/4、QuickTime、WMV形式の動画ファイル、「Giga Pocket」(Ver 3.0以上)および「Do VAIO」での録画ファイルをメモリースティックビデオ形式にコンバートするためのツールである。

 ソニードライブのFAQによると、サポートしているビデオビットレートは、96kbps~768kbpsまでの4種で、解像度は320×240ドット(QVGA)もしくは160×112ドット(いずれもアスペクト比4:3)だが、ソニースタイルの関連ソフト情報を見る限り、入力が16:9なら16:9の出力も可能らしい。



【表1:メモリースティックビデオ形式がサポートするビットレートと解像度】
(Image Converter 2がサポートするもの)
ビデオビットレート 解像度 フレームレート 音声ビットレート
768kbps 320×240ドット 30fps 128kbps(ステレオ)
384kbps 320×240ドット 15fps 128kbps(ステレオ)
192kbps 320×240ドット 15fps 64kbps(ステレオ)
96kbps 160×112ドット 15fps 32kbps(モノラル)

 前回取り上げたSD-Videoとの最大の違いは「音」の扱いで、電話並みのSD-Video(8KHzサンプリング、32kbpsモノラルのG.726)に対し、24KHzサンプリングのMPEG-4 AAC(32kbpsモノラルもしくは64kbps/128kbpsステレオ)であるメモリースティックビデオの音質はFMラジオクラスといえるだろう。これは、両者を視聴すればすぐに気づく大きな違いだ。

 PSPで再生可能なビデオで注意しなければならないのは、以前にベガ(プラズマ、液晶、FDトリニトロン)の上位モデルやPDAのCLIE、ソニー・エリクソン製携帯電話でサポートされていたMobileMovie形式と互換性がないことだ。したがって、ベガやCLIEの周辺機器であるメモリースティックビデオレコーダー(PEGA-VR100K)で記録したデータをPSPで再生することはできない。

 実はメモリースティックビデオ形式とMobileMovie形式は、CODECなど中身は極めて類似しており、最大の違いはファイルフォーマットといっても過言ではない(表2)。というより、メモリースティックビデオ形式は、フレームレートが15fpsだった従来のMobileMovie形式に、新たに30fpsで768kbpsのモードを追加し、ファイルフォーマットを変えたもの、と考えられる。言い換えれば、ファイルフォーマットとしてQuickTimeを踏襲していれば、従来のMobileMovieの上位互換にすることは可能だったハズなのに、わざわざファイルフォーマットを変えて互換性を断ち切っているようにも見える。

【表2:メモリースティックビデオ形式とMobileMovie形式の違い】
  ビデオCODEC 音声CODEC ビデオビットレート ファイル(コンテナ)形式 ビデオデータ記録場所 変換ツール
メモリースティックビデオ形式 MPEG-4 MPEG-4 AAC 96kbps~768kbps メモリースティックビデオ \MP_ROOT\100MNV01\ Image Converter 2
MobileMovie形式 MPEG-4 MPEG-4 AAC 64kbps~384kbps Quick Time \MQ_ROOT\100MQV01\ Image Converter 1.x

 なぜ、旧来の自社製ハードウェアとの互換性をわざわざ損ない、既存のユーザーの互換性を奪うようなフォーマット変更を行なったのか。少なくともスペックを見ていても、フォーマットを変更するような技術的必然性は感じられないし、Web等にその説明は何もない。ただ、フォーマットが違うと繰り返し述べられているだけだ。まさか社内抗争の結果でもないだろうし、QuickTimeの開発元であるAppleがiPodにより、ポータブルオーディオ分野でソニー(ウォークマン)の最大のライバルになったこと、くらいしか理由として思いつかない。

 ちなみに、有機ELディスプレイを採用した最後のCLIE、「PEG-VZ90」には「Image Converter 2 for CLIE MP4」というバージョンが添付されており、このツールで作成可能なファイルもメモリースティックビデオ形式と同じ拡張子(.MP4)を持つ。が、Web上のサポートサイトに書かれているのは“クリエ PEG-VZ90では、メモリースティックビデオフォーマット方式の動画を再生できる場合があります”という何ともつれない一言。

 なぜ異なる部門間で協力して互換性のあるフォーマットを確立できないのだろう。音は悪くても、機器間の互換性を尊重しているSD-Videoとは好対照だ。メモリースティックは、いつまでもメモリースティックPROのATRAC3におけるマジックゲート対応ができないことが時折話題に上るが、ビデオの対応に関しても誉められたものではない。

 と、苦言を呈してしまったが、Image Converter 2そのものは、かなり良くできている。少なくともWindowsのアプリケーションとして普通にできており、ちょっとWindows PCを扱ったことのあるユーザーなら、マニュアルを見なくても使えるだろう。変に凝ったユーザーインターフェイスを作るより、普通が1番である。

 このImage Converter 2で、前回と同じデータ(「Link de 録!!」によるMPEG-2ビデオ)を、同じテスト環境(表3)で変換した結果が表4だ。384kbps以下が15fpsというのも効いているが、30fpsの768kbpsも含めて、全般にImage Converter 2の変換速度は優秀だ。画質の点でも、大きく見劣りすることはないし、音質は上述したCODECの違いもあり、ハッキリと上回る。

【表3:テスト環境】
CPU Pentium 4 560 (3.60GHz/1MB L2 Cache)
マザーボード Intel D925XECV2
メモリ DDR2-533 1GB
HDD HDS722580VLSA80
グラフィックス GeForce 6800GT

【表4:Image Converter 2による変換の例】
ビデオビットレート 所要時間 ファイルサイズ
768kbps 7分53秒 120MB
384kbps 5分24秒 68.7MB
192kbps 5分18秒 34.5MB
96kbps 3分40秒 17.3MB

ビットレート96kbpsでの変換結果 同192kbpsでの変換結果
左はビットレート384kbps、右は768kbpsに設定しての変換結果。左上の96kbpsは画像サイズが小さいためアラが目立たないが、実際はかなりブロッキー。右上の192kbpsもテロップの周囲にノイズが目立つ

 PSPで再生可能なファイルを作成するツールとしては、フリーのツールも存在する。たとえば携帯動画変換君は、元々は名前の通り携帯電話向けのMPEG-4変換ツールだったようだが、2004年12月にリリースされたver 0.17からPSP向けの出力をサポートするようになっている。SD-Videoのサポートはまだ実験中ということだが、PSP向けはかなり安定している。使い方はSETUP.EXEを実行して、設定ファイル(ターゲット環境)を切り替え、ドラッグ&ドロップで即変換という、非常にわかりやすいものだ。このシンプルさを好む人も少なくないのではないかと思う。

 正式リリースされたソフトウェアではないため、試験的に計測した結果は割愛する(Image Converter 2に比べると若干時間がかかる傾向にあるようだが)が、開発途中の現時点でも十分実用性がある。標準でPSPのワイド画面(アスペクト比16:9)をサポートしている点も(当然、それに見合ったデータはユーザーが用意しなければならない)含め、将来の完成が楽しみなツールだ。

中央の機種別設定で、好みの設定を指定し、出力先ディレクトリを選択したら、後はファイルをドラッグ&ドロップするだけ。複数ファイルをドロップすれば、バッチで処理される。ある意味、一番わかりやすい この通り、16:9もサポート

●手軽さならプレイやん、ちょっと本格的なPSP、だが

 というわけで、2回連続でポータブルメディアプレーヤーとしてのゲーム機をみてきたが、一言で表せば手軽なプレイやん、ちょっと本格的なPSPというところだ。どちらを選ぶか、と言われると悩むところだが、個人的には最も画質が悪い代わりに、最も携帯性の良いゲームボーイアドバンスSPとプレイやんの組合せを取りたいように思った。この組合せなら軽量コンパクトで、つり革につかまって片手でも利用できる。音楽プレーヤーとして上着のポケットに入れておいても、重量的に苦にならない。

 だが、本当のことを言えば、筆者のチョイスは今でも「CLIE PEG-TH55」だ。バッテリ駆動時間と重量のバランスがとれている上、MP3プレーヤーとしての音質も専用機に匹敵する。動画再生も、実はPSPでできることの大半はImage Converter 1.5との組合せで可能だ(インターネットでは、PSPと同じメモリースティックビデオ形式をPEG-TH55でサポートするためのハックさえ公開されているが、完全にクリーンとはいえないように思うため、紹介は控える)。

 液晶ディスプレイの鮮明度という点ではPSPにかなわないが、動画の縦表示と横表示が切り替えられること、本体が軽量で片手オペレーションが苦にならない点でカバーして余りある。7月の生産完了までに、予備をもう1台買うかどうか検討しているほどで、かえすがえすも残念だ。

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(2005年4月7日)

[Reported by 元麻布春男]


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