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Intelの“デュアルコア”CPUは全部で5種類




●複雑なIntelのデュアルコアCPU群

 Intelは、今後1年以内に少なくとも5種類の“デュアルコア”CPUを投入する見込みだ。IA-32系だけでも4種類。派生品を含めれば、最終的な製品種別はもっと多くなる見込みだ。

 各デュアルコア製品は、構成やコアアーキテクチャ、プロセス技術などがそれぞれ異なる。非常に複雑で把握しにくい状況となっている。

 まず、Intelが用意しているデュアルコアのダイまたはパッケージングは全部で5種類だ。異なるコードネームやブランド名でも実態は同じダイの派生品の場合がある。

IA-64系CPUMontecito(モンテシト)→Itanium系サーバー
NetBurst系90nm、シングルダイ、デュアルFSBSmithfield(スミスフィールド)→IA-32 デスクトップ→Pentium D/Pentium Extreme Edition
NetBurst系90nm、シングルダイ、シングルFSBPaxville(パークスビル)→IA-32 MPサーバー
NetBurst系65nm、デュアルダイ、デュアルFSBPresler(プレスラ)→IA-32 デスクトップ
Dempsey(デンプシ)→IA-32 DPサーバー/ワークステーション
Pentium M系65nm、シングルダイ、シングルFSBYonah(ヨナ)→IA-32 モバイル

 この他、2006年後半にはPaxvilleの65nm版と見られるMPサーバー向けの「Tulsa(タルサ)」も登場する。さらに、その後にはユニファイドアーキテクチャのデュアルコアCPUが続く見込みだ。今回のIDFでは、このうちPaxville以外のシリコンが公開された。

●Prescottより若干小さいSmithfieldのCPUコア

 NetBurst(Pentium 4のマイクロアーキテクチャ)系デュアルコアが3種類もあるのは、Intelが投入を急いだ結果だと見られる。前回レポートした通り、Smithfieldは1個のダイ(半導体本体)に2個のCPUコアを集積しているが、2コアは完全に独立しており、FSBも2つ備える。

 IDFのデュアルコアのセッションでは、Smithfieldのブロックダイアグラムとして、下のような図が示された。見ての通り、単純に2CPUコアがダイ上に並べられているだけとなっている。ダイアグラムを見る限り、Prescottと全く同じで、機能的には同等のようだ。ただし、個々のコアのダイエリア(半導体本体の面積)はPrescottよりやや小さく、トランジスタ数もやや少ない。もっとも、トランジスタ数は数え方によっても変わることがある。

Pentium D Processor Block Diagram

 Smithfieldは、Pentium Dの場合はHyper-Threadingがディセーブル(無効)されるため、並列実行できるスレッド数はコア数と同じ2スレッドとなる。それに対して、同じSmithfieldダイでも、Pentium Extreme Editionの場合はHyper-Threadingがイネーブル(有効)されるため、並列されるスレッド数は4スレッドとなる。「Intel IA-32 CPU Overview」を見てもらえば分かる通り、違いは並列スレッド数だけだ。

 同じNetBurst系デュアルコアCPUでも65nm世代になると、CPUのダイは2個になる。これも前回レポートした通りだ。下が65nmのPreslerのブロックダイアグラムだ。Smithfieldとの違いは、2つのCPUコアが離れて描かれていること。これは、2CPUコアが別ダイであることを示すという。つまり、物理的には2つのCPUダイになるわけだが、システム側から見ればSmithfieldと基本的には変わらない。

PreslerBlock Diagram

 2ダイに分かれているため、個々のダイが小さくなる分歩留まりは上がる。また、ウェハ上のダイの中で同周波数で動作するどのダイとでも組み合わせられるため、周波数歩留まりも上がるという利点があるという。ただし、パッケージングの歩留まりは悪化するはずだ。いずれにせよ、IDFでは、2ダイにした理由は製造上のものであると説明された。

 Preslerでも、Smithfieldと同様にHyper-Threadingイネーブル版とディセーブル版が登場するとしたら、下の「Intel IA-32 CPU Overview」のようになる。DPサーバー向けのDempseyも、Preslerと同構成と見られる。DempseyもHyper-Threadingイネーブルであるため、スレッドの並列度は4となる。デュアルプロセッサ構成なら物理的には4CPUコア、論理的には8スレッドの並列性となる。IntelがHyper-Threadingイネーブルに踏み切ったのは、OSベンダーからOSライセンスはCPUソケット数でカウントするという承諾を得ることができたためと見られる。

 デスクトップ向けのデュアルコアCPU群、SmithfieldやPreslerは、Intelの新チップセット「Intel 955X(Glenwood:グレンウッド)」「Intel 945G(Lakeport:レイクポート)ファミリ」でサポートされる。従来のIntel 915/925系チップセットではサポートされない。これは、マザーボードのデザインのガイドライン「Flexible Motherboard (FMB)」の問題ではなく、IDFでの説明ではIntel 915/925では、CPUはブートしないという。ただし、VRがシャットダウンされるため、ボードやプロセッサにトラブルが生じることはないという。

 SmithfieldやPreslerでは、2個のCPUコアのうちどちらがCore 0で、どちらがCore 1になるか決まっている。ブートはCore 0から行なわれる。デュアルコアCPUのパフォーマンスについても触れられた。性能的にはデュアルプロセッサシステムと近似になるという。

●構成が異なるMPサーバー向けデュアルコア

 MPサーバー向けのNetBurst系デュアルコアでは、SmithfieldやPreslerとは実装が異なってくる。Paxvilleでは、1個のダイに2CPUコアを実装する点はSmithfieldと同じだが、2つのCPUコアはFSBインターフェイスを共有する。つまり、SmithfieldやPreslerはパッケージ内にFSBが2つ存在するが、PaxvilleではFSBは1つだけだ。2つのCPUコアの間での調停をCPUダイ上で行なうための機構を備えていることになる。つまり、Paxvilleは一般的な意味でのデュアルコアCPUの構成だ。2つのL2キャッシュ間でデータを転送するための専用ポートなども備えているかもしれないが、今のところわからない。

PaxvilleProcessor Block Diagram

 IntelがMP向けのPaxvilleだけは共有FSB設計にした理由は、下の図を見ると明確だ。Intel E8500(Twin Castle:ツインキャッスル)チップセットでは、もともと1つのFSB上に2CPUを接続するトポロジーとなっている。デスクトップ向けチップセットやDPワークステーション向け新チップセットが、MCHとCPU間を事実上ポイントツーポイントで接続しているのとは異なる。すでに、FSBに分岐が存在するわけだ。

 すると、その上でCPUパッケージ内でさらに2つのCPUコアへとFSBを分岐させると、FSBの転送レートを下げなくてはならなくなってしまう。そうなると、CPUコア数を増やしてもバスネックで性能が上がらなくなる。そのため、PaxvilleではFSBを共有にしたと見られる。おそらく、PaxvilleではE8500のFSBの667MHzというスペックを維持すると推測される。

 FSBについて少し整理すると次のようになる。

FSB 1067MHzポイントツーポイント接続でシングルFSBの場合の上限
FSB 800MHzポイントツーポイント接続でパッケージ内に2つのFSBがある場合の上限
FSB 667MHz2ソケット/バス接続でパッケージ内に2つのFSBがある場合の上限

 Paxvilleを見ると、IntelがSmithfieldで2コアを単純にくっつけた構成にした理由がよくわかる。PaxvilleはSmithfieldと同じ90nmプロセスだが、投入時期は2006年第1四半期となっている。つまり、IntelがSmithfieldで、Paxvilleと同様の構成を取った場合には、デュアルコアCPUの投入は2006年までずれ込んでしまっていたわけだ。同時期には、65nmプロセスで2ダイのPreslerが登場することを考えると、周回遅れとなってしまうわけだ。

●構成が大きく異なるモバイル向けデュアルコア

 同じIA-32系CPUでも、モバイル系のYonahになるとデュアルコアの構成は異なる。Yonahは1個のダイに2個のCPUコアを載せ、FSBも共有する。さらにそれだけでなく2MBのL2キャッシュも共有すると見られる。その一方で、Hyper-Threadingは実装しない。そのため、スレッド並列性は物理コア数と同じ2スレッドに留まる。

 ちなみに、モバイル系とデスクトップ系のCPUコアが統一されるのは2006年末以降と言われているが、Yonah世代ではデスクトップへの採用も広がる可能性がある。これは、Intelが組織変更を行ない、新たに「Digital Home Group」を設立したためだ。

 Digital Home Groupでは、デスクトップとモバイルの垣根を越えてCPUをプロモートできる態勢となっている。実際、IDFのキーノートスピーチでは、Digital Home Groupを率いるDon MacDonald氏(Vice President & General Manager, Digital Home Group)が、Yonahベースの超省スペース型デスクトップのリファレンスデザインを紹介した。

Intel IA-32 CPU Overview
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【3月4日】【IDF】モビリティ、デジタルホームのコンセプトPCが登場
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0304/idf07.htm
【3月3日】【海外】間に合わせ的なIntelのデュアルコアCPU
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0303/kaigai161.htm

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(2005年3月4日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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