■山田祥平のRe:config.sys■モビリティの潔さ |
パソコンの軽薄短小化は、モビリティという大いなる付加価値をもたらした。もちろん、その結果、処理能力、大画面、使い勝手、拡張性など、失われたものも多かった。その失われたものを奪回すべく軽薄短小化にある程度の妥協がなされているのが、今のノートパソコンのトレンドだ。
●Sonoma経由Napa行き
サンフランシスコのダウンタウンを出発して、ベイブリッジを渡り、インターステーツハイウェイI-80を北へ向かう。途中、Sonomaへの分岐があるが、州道CA-221を北に向かうとNapaバレーに入る。日本でもおなじみの著名ワイナリーが散在するワインカントリーだ。距離にして50mile(80km程度)弱、約2時間のドライブとなる。Sonomaもまた、おなじみのワインカントリーだが、そちらが目的地なら、ベイブリッジを渡らず、ゴールデンゲートブリッジを使い、国道US-101をまっすぐに北上した方が早そうだ。
Napaを目指すといいつつ、ちょっと遠回りをしてSonomaに寄り道するドライブは、そのまま、今、Intelが予定しているノートパソコンのロードマップに当てはまるかもしれない。Sonoma、Napa、双方ともに、モバイルプラットフォームのコードネームだからだ。今年年初に発表されたSonomaに対して、デュアルコアプロセッサのYonah、さらに最適化されたグラフィックス統合チップセットのCalistoga、無線LANモジュールのGolanを付加した上で、2006年に登場するのがNapaだ。
これらの要素から想像する限り、ノートパソコンがさらに軽薄短小化する要素があまり見あたらない。聞くところによれば、モバイルプラットフォームでは、Dothanによる一世代前のCentrinoが、もっともバランスがよかったともいう。しかし、今回のIDF 2005 Springにおけるラウンドテーブルでの談話によれば、バッテリライフに関しては、SonomaよりもNapaの方が期待できるのだそうだ(Rama Shukla氏。Vice President, Intel Mobility Group Co-Director, Mobile Platforms Group Program Office)。
●携帯電話とノートパソコンの役割分担
Intelの上級副社長ショーン・マローニ氏は、IDF 2005 Springの基調講演において、同社が今、ラップトップと電話の交差するところを探さなければならないステージに立っていることに言及した。携帯電話がコンピュータ的なコモディティとして、扱うデータ量は増加する一方で、さらなるパフォーマンスが求められるようになり、数年後はもちろん、現状でも、携帯電話だけでかなりのことができるようになっている。そのことを考えれば、携帯電話の能力は、ノートパソコンと統合する方向に向かうのが自然だというのだ。
そのユーセージモデルとして、デジカメ機能内蔵携帯電話で写真を撮って、それをパソコンのそばに置くとBluetoothで自動的にデータが転送されてパソコンの画面に映し出されたり、ノートパソコン側でEthernetやWi-Fiのインターネットコネクションが切断されると、自動的に傍らの携帯電話がダイヤルアップしてコネクションを確立するといったデモンストレーションがお披露目された。つまり、ノートパソコンと携帯電話が互いの機能を提供しあい補い合うというのが次世代のCentrinoモバイル・テクノロジであり、最終的に、それがNapaによって実現されるらしい。詳しくは、次のIDF(2005年8月)でと、つまるところは今回の基調講演でのデモンストレーションは予告編である。
●モビリティを携帯に譲り渡したノートパソコン
ぼく自身としては、ノートパソコンは、小さなパソコンというよりも、大きな携帯電話というイメージが強いし、そうあってほしい。1999年以降、iモードを使うようになってからは、いわゆるPDAを使わなくなり、出先での作業は携帯電話に依存することが多くなったものの、絶対にノートパソコンは手放せない。できるだけ、デスクトップと同じアプリケーションソフトを使いたいからだ。
だが、ここのところのパソコン各社のラインアップを見てもわかるように、1スピンドルでそれなりにバッテリが持ち、電車の中などでも、使いたいときに気軽にデイパックから取り出し、場合によっては立ったまま使えて、用が済んだらサッとしまえるような魅力的な軽薄短小パソコンは、選択肢がとても少ない。
ごく一般的な消費者にとって、モビリティを重視したノートパソコンは、あまり魅力がなかったということは、かつてのミニノート、サブノートに、話題にはなっても爆発的なヒット製品が出なかったということが証明してしまった。デスクトップリプレイスがもくろまれたノートパソコンは、購入後、一度も家の外に持ち出されたことがないというものも少なくはないだろう。だから、各社ともに、この分野には積極的にはなれないというのは、正しいマーケティングでもある。
また、プラットフォームをIntelに頼る以上、なかなか、メーカー独自の個性を盛り込みにくくもなる。そんな諸事情で、モバイルパワーユーザーにとっては、冬の時代が続いていたわけだ。そして、今回のIDFでは、その時代が、まだしばらく終わりそうにもないことが明確になってしまった。
とはいうものの、これらのプラットホーム用のプロセッサには、例によって、超低電圧版、低電圧版など、数種類のバリエーションが用意されるらしいし、現時点ではアナウンスはないものの、デュアルコア以外のソリューションも用意される可能性を残したニュアンスの発言もあった(Rama Shukla氏)ので、期待がゼロでないことを祈りたい。
●整った環境を生かせる道具がない
ご存じの通り、今、東京では、地下鉄東京メトロのほぼ全駅でワイヤレスインターネットが利用できる。この3月末には都営地下鉄の主要駅、今年度中には、地下鉄全駅でワイヤレスインターネットが使えるようになる。
ぼく自身は、公共交通機関をかなり利用するので、このサービスの展開には、ずいぶん恩恵を受けている。駅のベンチに腰掛ければ、必ずインターネットにつながるという環境は、アクセスポイントが設置されたカフェを探したり、喫茶店のテーブルを陣取ってFOMAで接続するしかなかった、ついこのあいだまでを考えれば、夢のような話だ。
けれども、こうした環境がせっかく整ったのに、それをうまく活用できる道具が欠如しているに近い状態にあるのは悲しい。地下鉄駅が整備され、それに加えて、たとえば、全JRの駅でワイヤレスLANが使えるようになるなど、東京に限っていえば、山手線内がワイヤレスLANで網羅されるのも遠い話ではないだろう。そのころには、それなりのモバイルパソコンが手に入るようになっているのだろうか。寄り道をしている場合じゃないと思う。それともぼくらが性急すぎるのか。日本とアメリカの状況の違いが疎ましい。
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(2005年3月4日)
[Reported by 山田祥平]