槻ノ木隆のPC実験室

異色のPentium Mマザー「DFI 852GME-MGF」




 このところ、Pentium M関連の製品ばかり回ってくるような気がするが、逆にそれだけマーケットが盛り上がりつつあると言えるのかもしれない。今回取り上げる「DFI 852GME-MGF」も、昨年末にまず少量が流通を始め、今年に入ってからは順調に流れつつある。

●PCI-Xを搭載したmicroATX

 外見は、典型的なmicroATXサイズのマザーボードだ(写真01)。ただ本製品の構成は、元々はモバイルPentium 4用に用意されたIntel 852GMEに、サーバー向けのIntel 6300ESB(Hance Rapids)を組み合わせた独特の構成で、この結果通常のPCIバスの他に64bit/66MHz(133MHz?)のPCI-Xバスが1本用意されている。

 CPUの周りは、低消費電力のPentium M向けとあってか、電源回路も整理されている(写真02)。852GMEの上には、LVDSインターフェース用らしき空きパターンが見える。6300ESBには背の高いヒートシンクが取り付けられ、その横には2ポートのシリアルATAが用意されている(写真03)。オンボードデバイスは控えめであるが、それでもGigabit EthernetコントローラとしてRealtekのRTL8110S-32が、IEEE 1394コントローラとしてVIA TechnologiesのVT6307がそれぞれ搭載されている(写真04)。

 バックパネルは比較的整然としており、他のmicroATXマザーと比べてもそれほど奇異なものはない(写真05)。S/PDIF出力はマザーボード上にピンヘッドが用意されているが、ブラケットは付属していない。汎用的なピンレイアウトなので、他のマザーボード用のものでも利用できそうだ。

 同梱されるCPUクーラーは、ファンが低回転型なのか、騒音はほとんど気にならないレベルだ(写真06)。マザーボード裏に取り付けるベース部に、上からネジ止めする方法でとりつけるタイプ。ネジにはスプリングが挟んであり、これで適切なリテンションを与えるようだ。

【写真01】PCI-Xスロットを2本のPCIスロットではさむ格好になっている。論理的には、2本のPCIスロットとPCI-Xスロットは異なるバスIDが与えられており、一番左のPCIスロットはPCI-Xスロットの下を潜って真ん中のPCIスロットに接続されているようだ 【写真02】852GMEの上に見える空きパターンは、LVDSインターフェース用のものらしい 【写真03】シリアルATAの接続はちょっと窮屈。6300ESBのヒートシンクの背丈が意外にあるので、手が入りにくい
【写真04】RTL8110S-32の横にあるのはAC'97 CodecのRealtek ALC650である。それにしても、せっかく64bitバスがあるのだから、出来ればRTL8110S-64にして欲しかったが、配線の取り回しが困難になるため避けたのかもしれない 【写真05】S/PDIF出力は無理にバックパネルに用意せず、ボード上にピンヘッドが用意されている。これを出力するブラケットは同梱されていないが、汎用的なピンレイアウトなので、他のマザーボード用のものでも利用できそうだ 【写真06】マザーボード裏に取り付けるベース部(写真右下)に、上からネジ止めする方法。ネジにスプリングが挟んであり、これで適切なリテンションを与えるようだ

 さて、本製品のパッケージを見ると、「FSB 533MTps」なる謎の表記がある(写真07、08)。おそらくはIntelがFSB 533MHz対応のPentium Mをリリースする前にFSB 533MHzと公言するわけにもいかず、結果としてTransfer per secondという単位にしたのだと思う。実際、FSB 533MHzのPentium Mが発売されている現在では、同社の製品表記も普通に“400/533MHz system bus”となっており、Tpsの文字はどこにもない。少々判りにくいというか、誤解を招きそうな表現ではあるが、むしろ誤解してほしいという苦肉の策である。

 それでは本当にFSB 533MHzに対応しているのかというと、これが怪しい。FSBはBIOS SetupのFrequency/Voltage Control画面で設定できるが、CPU Clock自体は100MHz~250MHzまで任意の数字を入力すると、VCOが設定可能な一番近い数字になるというシステムで、133MHzの設定は普通に可能だ。問題はメモリクロックである。選択肢は8種類あるのだが(写真09)、どうみてもFSB 400MHzしか考えてないように見えるのである。

【写真07】どう見ても533MHzと誤解しそうな書き方 【写真08】こちらも同様。パッケージ担当のデザイナーは苦労したのではなかろうか? 【写真09】表1、表2はFSB:メモリクロックで示しているが、こちらはメモリクロック:FSBの順。ちなみに「下の3つがFSB 533MHz用ではないのか?」と聞かれそうだが、これを選択するとメモリクロックがDDR442に設定される。明らかに内部の設定がおかしい

 表1にまとめてみたが、FSB 400MHz(ベースクロック 100MHz)の場合、1:1ならばデータクロックは200MHzでDDR200、3:4ならDDR266、3:5ならDDR333となるわけで、計算は合う。ところが533MHzの場合、表1の下側に示す通り倍率は4:3/1:1/4:5にならないと、正しくメモリクロックを設定できない。にもかかわらずそんな項目がないことは一目瞭然である。つまり、倍率設定がFSB 533MHzをサポートしていない事になる。

【写真10】RAM Frequencyが177MHz(DDR355)になっていることに注目

 ではこのまま533MHzで使ったらどうなるか? というのが表2である。1:1の場合はDDR266、3:4だとDDR355、3:5ではDDR444動作になってしまう。実際今回はウェイトを入れようが何しようが、3:5の環境でDDR400では動作しなかった(これだけスピードが違えば当然とも言える)。そんなわけで、DDR266を使うか、DDR400メモリを使ってDDR355動作をさせるかという選択になる(写真10)。



【表1:ベースクロックとメモリクロック】
FSB 倍率設定 ベースクロック メモリクロック
400MHz(100MHz) 1:1 100MHz DDR200
3:4 133MHz DDR266
3:5 166MHz DDR333
533MHz(133MHz) 4:3 100MHz DDR200
1:1(4:4) 133MHz DDR266
4:5 166MHz DDR333

【表2:FSB 533MHz駆動でのクロックの変化】
FSB ベースクロック メモリクロック
533MHz(133MHz) 1:1 133MHz DDR266
3:5 221MHz DDR442

 写真09に戻ると、周波数の設定以外に“Low GFX”という表記があるのが判る。実はIntel 852GMEで内蔵グラフィックを使う場合、Display CoreとRender Core(両者の違いが明確に記載されていないが、Display Coreは2D描画とディスプレイ出力、Render Coreは3Dレンダリングををそれぞれ指すようだ)の動作クロックを変化させることが可能だ。Display Coreは133/200/250/266MHz、Render Coreは100/133/166/200/250/266MHzの動作クロックが用意され、LowとHighという2種類の動作モード、及びFSBとメモリクロックの設定にあわせて周波数が変わるようになっている。

 Low GFXというのはこの場合Render Coreの動作周波数を落とすというもので、これにより3D性能は下がるが消費電力も下がるというわけで、3D性能が不要な場合はLow GFXモードを使うことが選べる(表3)。Display Coreの周波数はこれによる影響を受けないので、Low GFXにしてもメモリ帯域の負荷が軽くなるというわけではないのが残念である。

【表3:Display CoreとRender Coreの変化】
FSB データクロック Display Core Render Core
Low High
400MHz 266MHz 200MHz 133MHz 200MHz
400MHz 200MHz 200MHz 100MHz 200MHz
400MHz 200MHz 133MHz 100MHz 133MHz
400MHz 266MHz 266MHz 133MHz 266MHz
533MHz 266MHz 200MHz 133MHz 266MHz
533MHz 266MHz 266MHz 133MHz 266MHz
533MHz 333MHz 266MHz 166MHz 266MHz
533MHz 333MHz 250MHz 166MHz 250MHz

 写真10を見直すと、“Stability Tests”なる項目まである。BIOSにはMemTest86+とCPUTest86+の2種類のベンチマークが内蔵されており、これをEnabledにしてブートすると、これらのテストが起動されてバーンインテストが実施できる。

 ところでサウスブリッジにICH4-Mではなく6300ESBを使うことからも推察できるように、Enhanced SpeedStepに関しては本製品では考慮されていない。Enhanced SpeedStepを使わなくても十分に省電力であるのは間違いないわけだし、PCI-Xバスが用意されている事からもわかる通り、むしろ省スペースサーバーがターゲットである以上、動作周波数が勝手に落ちて、処理性能が低くなるのは困るということだろう。実際、添付のCDにはSppedStepに関するものは一切ないし(写真11)、動作クロックも負荷や電源設定とは無関係に一定だった(写真12)。余談ながら、今回利用したPentium M 760(2GHz動作)は、前回Sonomaベアボーンで利用したものと同じCPU(770とES品の740は既に返却してしまったので確認できず)だが、写真12を見るとNX bitがEnableになっている事が判る。やはり前回の2種類のベアボーンは、BIOSがNX bitに対応していなかったようだ。

【写真11】インストーラーの画面は判りやすい 【写真12】System BusのOriginalが400MHzになっている事からも判る通り、チップセット本来の533MHzの設定は使われておらず、400MHzのままオーバークロック動作させている事がここからも伺える。SpeedStepがEnabledになっているのはCPUIDを見ているからであろう
追記:CrystalCPUID作者のひよひよ氏より、『Crystal CPUID 4.2.2.234 ではFSB533 Pentium M には対応しておりません。』というご指摘を頂きました。写真12のOriginalの項目が400MHz FSBになっているのは、Crystal CPUIDの問題と思われるとの事です。ちなみに最新バージョンでは対応されているそうです

●性能面はまぁまぁ

 それでは、まず性能を確認してみることにしよう。CPUは上述の通りPentium M 760(2GHz@FSB 533MHz)を使っての動作となる。ただ、前回のベアボーンとはやや構成が異なるため、直接的な比較は難しい。直近でのPentium Mデスクトップといえば、ここで試したAOpenのXC Cube EZ855ということになる。ただこの時はPentium M 1.70GHz@400MHzでの動作で、HDDも低発熱を狙ってMaxtor MaxLine II 250GB(5A250J0)を使っているので、今回とは環境が合わないが、そのあたりはご容赦いただきたい。

 テスト環境は表4に示す通りである。内蔵グラフィックはDirectX 7準拠とは言え、H/W T&Lを持たない分見劣りが激しいので、RADEON 9600XTを搭載した場合も測定した。

【表4:テスト環境】
CPU PentiumM 760(Dothan)
マザーボード DFI 852GME-MGF
BIOS 12/10/2004-i852-W83627HF-6A69ZD47C-00
Driver Intel Inf Driver 6.2.1.1001
Memory PC3200 CL3 512MB×1
Video ATI RADEON 9600XT 128MB 内蔵グラフィック(Intel Extreme Graphics2)
Driver CATALYST Windows XP 4.12 6.14.10.3865
HDD Seagate Barracuda 7200.7 80GB (ST380011A)
NFTSフォーマット
OS Windows XP Profesiional 英語版+SP1a
DirectX 9.0c

 まずは基本的な性能ということで、Sandra 2005のCPU Arithmetic BenchmarkとCPU Multi-Media Benchmarkの結果を表5に示す。このテストはほとんどCPUの動作クロックで決まるから、マザーボード側で変な事をしていなければ基本的に性能差は無いはずである。結果は、ほぼすべてのテスト結果が誤差の範囲に収まっており、この点で問題は無いと言える。

【表5:Sandra 2005 CPU Arithmetic Benchmark / CPU Multi-Media Benchmark】
  DDR266
(Low GFX)
IEG2
DDR266
IEG2
DDR355
(Low GFX)
IEG2
DDR355
IEG2
DDR266
RADEON
9600XT
DDR355
RADEON
9600XT
Dhrystone
ALU
MIPS 8214 8211 8213 8163 8213 8212
Whetstone
FPU
MFLOPS 2765 2765 2732 2765 2765 2766
Whetstone
iSSE2
MFLOPS 3566 3568 3548 3568 3567 3568
Integer x4
iSSE
it/sec 19096 19098 19099 19100 19098 19100
Float x4
iSSE2
it/sec 21102 21105 21105 21161 21097 21106

 表6に、Memory Bandwidth Benchmarkの結果とCache & Memory BenchmarkのCombined Index及び256MB Blocksの結果を示す。こちらはメモリ性能が露骨に効いてくるテストなので、メモリ設定による影響が当然あるわけだが、結果を見ると単にそれだけではなく、Render Coreの速度設定が影響している事が見て取れる。

【表6:Sandra 2005 Memory Bandwidth Benchmark / Cache & Memory Benchmark】
  DDR266
(Low GFX)
IEG2
DDR266
IEG2
DDR355
(Low GFX)
IEG2
DDR355
IEG2
DDR266
RADEON
9600XT
DDR355
RADEON
9600XT
RAM Bandwidth Int MB/sec 1565 1792 2186 2445 2026 2699
RAM Bandwidth Float MB/sec 1566 1794 2187 2450 2026 2701
Combined Index MB/sec 3990 4458 4435 4872 4702 5067
256MB Blocks MB/sec 725 926 923 1134 1046 1235

 この結果は明らかにおかしい。先に表3で示した内容は、実際にはIntel 855GMEのHPLLCC(HPLL Clock Control)Registerという設定レジスタで操作を行なうのだが、表3からも判る通りメモリクロックに影響があるのはおかしい。それにこのテストは2Dで動作するから、そもそもIntel 855GMEのRender Coreが動作するはずもなく、その意味でも影響はないはずである。そうなると考えられる可能性は

 ・852GME-MGFのBIOSが、Low GFX動作時にはメモリのレイテンシを大目に入れている、あるいはメモリクロックを下げるなどしている
 ・実はIntel 852GMEは(Spec Sheetには記載されていないが)Low GFX設定時は省電力設定を行なうために動作が遅くなる

 のどちらかであろう。いずれにせよ、これだけメモリアクセス性能に違いがあると、当然システム性能にも影響が出ないはずがない。今回の構成で省電力を考えてもあまり意味がないので、とりあえずLow GFXの設定は選ばないというのが正しいアプローチであろう。

 ここからは、AOpen XC Cube EZ855のテストを行なった時の結果も併せて紹介する。Pentium M 735をXC Cube EZ855で1.7GHz@400MHzで動作させた結果、およびAOpenのAX4SG-ULにPentium 4 2.80E GHzを組み合わせた結果である。テスト環境などは以前の記事をご覧頂きたい。

 さてPCMarkであるが、Overallで見るとやはりRADEON 9600XT+Pentium M 760の構成が有力である。CPU ScoreやMemory Scoreに関しては、動作クロック&デュアルチャネルの強みを生かしてPentium 4 2.80E GHzの構成が最速になっているが、さすがに動作クロックが2GHzともなるとPentium Mの性能も侮れない。

 とはいっても、やはりIEG2(Intel Extreme Graphics 2)を使うとメモリ帯域を食われてしまう事もあってか、それほど性能は芳しくない。またIEG2自体にそれほどグラフィック性能が無いためもあって、描画が多くなると性能が下がる傾向が明確に見えている。

【表7:PCMark04】
  DDR266
(Low GFX)
IEG2
DDR266
IEG2
DDR355
(Low GFX)
IEG2
DDR355
IEG2
DDR266
RADEON
9600XT
DDR355
RADEON
9600XT
EZ855+
Pentium M
735
AX4SG-UL+
Pentium 4
2.80E GHz
PCMark PCMark Score 3112 3234 3262 3334 4031 4065 3529 4303
CPU 3877 3886 3917 3918 3920 3944 3340 4245
Memory 2342 2525 2823 3029 2733 3166 2755 4748
Graphics 446 595 629 737 2808 2817 2818 2875
HDD 3505 3539 3515 3531 3526 3541 3345 3371

 こうした傾向がどの程度実アプリケーションに反映するのか? という事でSYSMark2004を実施した結果が表8である。ご覧のように2Dアプリケーションに関して言えば、Pentium M 2GHzは十分Pentium 4 2.80E GHzと互角以上の性能を出していることが判る。

 もちろんIEG2がメモリ帯域を消費することによる性能低下は間違いなく見て取れるのだが、それでも大きく性能を落とさないのは、2MBに増量されたL2キャッシュの威力なのかもしれない。2GHzまで動作クロックを引き上げると、通常の利用には全く支障ないことがこの結果から判る。

【表8:SYSMark2004】
  DDR266
(Low GFX)
IEG2
DDR266
IEG2
DDR355
(Low GFX)
IEG2
DDR355
IEG2
DDR266
RADEON
9600XT
DDR355
RADEON
9600XT
EZ855+
Pentium M
735
AX4SG-UL+
Pentium 4
2.80E
GHz
Overall SYSMark Rating 146 150 150 154 157 160 142 154
Internet Content Creation 172 174 175 174 179 181 158 176
Office Productivity 124 129 129 136 137 142 127 134

 では3Dはどうか? ということだが、最近のベンチマークはIEG2では実行できない(FFXI Bench3ですら動かない)。そこでちょっと古めであるが、3DMark2001 SEの結果を実施してみた。結果は表9の通りで、使い物にならないレベル、ということが再確認できるに留まった。3D性能を期待してはいけないということだろう。

【表9:3DMark2001SE】
  DDR266
(Low GFX)
IEG2
DDR266
IEG2
DDR355
(Low GFX)
IEG2
DDR355
IEG2
DDR266
RADEON
9600XT
DDR355
RADEON
9600XT
DDR266
RADEON
9600XT
DDR355
RADEON
9600XT
S/W S/W H/W
1024×768
ドット
3DMark Score 1593 2021 2113 2552 6816 7158 12633 12847

 RADEON 9600XTの装着を前提に、主要な3Dベンチマークの結果を表10にまとめた。最近のゲームベンチの場合、ビデオカードの性能が影響する部分も多く、ここがRADEON 9600XT固定だとおのずから数値が似かよる(3DMark03/05やUnreal Tournament 2003のFlyby)ケースも多いのだが、それでもCPU性能に影響する場合も少なくない。たとえばDoom3やFar CryではPentium 4が優勢だが、Unreal TournamentやFFXI Official Benchmark 3ではPentium M系が優勢であるなど、アプリケーションによって得手不得手が次第に明確になってくる。

 非常に大雑把に言えば、FPUを多用するアプリケーションはPentium Mが優勢、FPUをあまり使わない、もしくはSSE/SSE2を多用するアプリケーションはPentium 4が優勢ということで、総じてPentium M 760はPentium 4 2.80E GHzと同等以上の性能を出しているし、852GME-MGFは良くこれを支えていると言えるだろう。さすがにDDR266動作ではやや見劣りするが、DDR400メモリを使ってのDDR355動作は、十分実用的である。

【表10:3D GameBench】
  DDR266
RADEON
9600XT
DDR355
RADEON
9600XT
EZ855+
Pentium M
735
AX4SG-UL+
Pentium 4
2.80E GHz
3DMark03 3DMarks 4014 4031 4012 4016
3DMark05 3DMarks 1361 1400 1385 1549
Doom 3 fps 19.2 19.8 18.6 30.1
Half-Life 2 fps 30.4 32.0 30.0 29.7
Far Cry fps 21.5 22.4 23.4 31.8
Unreal Tournament 2003 flyby fps 185.3 185.7 183.7 178.1
botmatch fps 95.7 99.4 86.3 74.1
Unreal Tournament 2004 botmatch overall fps 122.6 124.9 118.3 109.8
dm-rankin fps 161.9 162.4 162.1 163.1
as-convoy fps 80.6 84.7 74.9 63.7
br-colossus fps 125.4 127.5 118.0 102.8
FFXI Official Bench3 Low 6334 6459 5986 6044
High 4153 4237 3952 3899

●PCI-Xの実力

 通常使用であれば割と使えるという事が判った852GME-MGFであるが、もう1つ確かめておきたい事がある。それは、PCI-Xバスはどこまで実用的か? という話だ。

 本来PCI-Xは64bit幅で、データクロックには66/133MHzが用意されている。これがPCI-X 66ないしPCI-X 133という転送モード(PCI-X Specification 1.0で定義されたもの)であるが、最近のPCI-X Specification 2.0ではデータをDDR/QDR転送させるモードも用意されており、それぞれPCI-X 266/533と呼ばれている。ちなみにPCI-X 133での転送速度は1.06GB/sec、PCI-X 533では4.3GB/secに達するほどだ。また正式な規格ではないが、多くのマザーボードでは100MHzのデータクロックも用意されている。

 で、6300ESBはどのPCI-Xの規格に準拠しているか? という話だが、同製品のSpecificationの先頭にはPCI-X Busが66MHz動作するように書かれており、ここだけ読むとPCI-X 66準拠に思われる。ただ、ちょっと怪しいのはそもそもこの文章が

“Support PCI-X Rev 2.2 Specification at 66 MHz”

となっている事である。というのはPCI-X Specificationの最新のものは2.0bで、2.2なんていうSpec自体が無いことと、次の行には

“Support PCI Rev 2.2 Specification at 33 MHz”

とかあることで、どうみてもコピー&ペーストに失敗したかのように見えるからだ。加えて言えば、PCI-Xの動作設定を行うレジスタの1つであるPX_SSTS(PCI-X Secondary Status)の中には“133MHz Capable”なるbitが用意されており、133MHz動作はしないと言い切れないからだ。「する」とも言い切れないのはこのレジスタがRead Onlyな事で、つまり後からアプリケーションなどで設定できるわけではないことである。一番考えられるのは、製品の出荷時に66MHz動作しかしない6300ESBと133MHz動作する6300ESBがあることだろうが、今回試用した製品がどちらかは判断がつかない(そんなわけで冒頭には「66MHz(133MHz?)」と記載したのだが)。

 ちなみにPCI-X 66での転送速度は528MB/sec、PCI-X 133での転送速度は1.06GB/secに達しており、サーバー用途以外こんな帯域は使い切れないかのように思える。それに852GMEとは266MB/secの帯域しかないHubLink 1.5で接続されているから、現実問題としてはこの266MB/secが上限ということになる。ただ、ここまで使い切らなくても既存のPCIバス(最大133MB/sec)で溢れる様なケースがあれば、PCI-Xバスの意味があるというものである。

【追記】PCI-Xに関する記述を改訂いたしました。ご指摘をいただいた読者の方にお礼を申し上げます。

 身近な範囲でこうしたケースを考えると、最初に思いつくのがRAIDである。Gigabit Ethernetもスペック上は最大250MB/secに達するから帯域が不足しそうに思えるが、実際にここまで帯域を使うためにはネットワークの設定(特にパケットサイズ)をかなりチューニングする必要があり、また自分だけではなく相手側もこれだけの転送速度を出せなければならない。現実問題として転送速度が100MB/secを超えることは珍しく、通常は50MB/sec程度だから、あまりこれによるメリットは無いことになる。

 これに対しRAID、特にRAID 0ではかなり帯域を消費するため、今回のテストにはうってつけである。今回用意したのは、SeagateのBarracuda 7200.7 120GB シリアルATA(ST3120827AS)である。1プラッタ60GBの製品であるためピーク性能はそれほど高くないが、NCQ(Native Command Queuing)の威力で実効性能はかなり高めである。

 さてこれを1台だけ6300ESBのシリアルATAポートに接続した場合、及び2台を接続してRAID 0を組んだ場合状態でHDBench Ver3.30を実施した結果が表11である。欲しいのはあくまでピーク性能なので、シーケンシャルアクセスがメインということでHDBenchを選んだわけだが、倍とは言わないまでもそれに近い数字が出ている事が判る。特にRAID 0の場合110MB/secあたりまで数字が伸びている事が判り、そろそろPCIバスの限界に近い性能であるが、幸い6300ESBのシリアルATAコントローラは内部でHubLinkに接続されており、帯域的には十分である。

【表11:3D HDBench】
  Read Write Copy
6300ESB (1台) MB/sec 57.8 56.3 5.9
6300ESB RAID0 (2台) MB/sec 110.4 5116.9 566.4

 そこでもう少し詳細にデータを見てみたいと思う。写真13と14はVerisignのWinbench99 Ver2.0に含まれるDisk Inspection Testの結果である。これを見るとグラフの格好は全く同じで、数字もきっちり倍になっており、少なくともこの時点ではボトルネックにはなっていない事が判る。

 では、PCIバスを使えばどうか? ということで、玄人志向のSATARAID4P-PCIを投入してみた。この製品はSilicon ImageのSil3114を搭載したシリアルATA RAIDカードである。まずはこのSATARAID4P-PCIに2台接続しての結果だが、Readに関してはほぼ同等である(表12上側)。Write/Copyはやや遅いが、これはバスの帯域がネックになっているというよりも、レイテンシの増加によりオーバーヘッドが増えたか、あるいはSil3114のWriteの処理が遅い事に起因するように見える。Disk Inspectionの結果(写真15)もこれを裏付けており、別にバスがボトルネックというわけではないようだ。

 では、HDDを4台に増やしたらどうか? というと少々変な結果になっている。Readはほとんど成績が変わらないし、Write/Copyは大幅に遅くなっているのだ(表12下側)。

【写真13】6300ESBにBarracuda 7200.7を1台繋いだ状態 【写真14】6300ESBにBarracuda 7200.7を2台繋いでRAID0を構成した状態 【写真15】SATARAID4P-PCIにBarracuda 7200.7を2台繋いでRAID0を構成した状態

【表12:3D HDBench(SATARAID4P-PCI使用時)】
  Read Write Copy
Sil3114 RAID0 (2台) MB/sec 110.4 91.8 57.4
Sil3114 RAID0 (4台) MB/sec 116.9 58.4 58.9

【写真16】SATARAID4P-PCIにBarracuda 7200.7を4台繋いでRAID0を構成した状態

 Disk Inspectionは、ディスクの最内周近くまでほぼ一定(126MB/sec程度)の値を保つという不思議な結果(写真16)になっている。これはもう明らかに、PCIバスがボトルネックになっていると考えて間違いないだろう。2台で120MB/sec近い性能なのだから、4台ならば最外周部分は240MB/sec近くまで行き、そこから内周に移行するにつれてなだらかに性能が落ちてゆくはずなのだが、PCIバスがボトルネックになって上限が126MB/sec付近で切られてしまい、合計転送速度がこれより落ちる最内周付近に達するまでこの状態が続くのだ。



 一方、再びPCI-XでのDisk Inspectionの結果を見ると、2台の場合(写真17)と4台の場合(写真18)のグラフの形状が、右下がりの曲線を描いて綺麗に一致しており、もはやバスがネックになっていない事が判る。852GME-MGFのPCI-Xバスは、少なくとも200MB/sec以上の転送性能を確実に提供してくれることがわかった。

 もっともこのPCI-Xバス、色々トリッキーではあるようだ。たとえばSATARAID4P-PCIの場合、内部的には32bit/66MHzのPCIバスに対応している。32bit/33MHz PCIバスでは帯域が足りないが、66MHz駆動になれば最大266MB/secだから帯域が間に合う計算である。そこでSATA4RAID4P-PCIをPCI-Xバスに装着したところ、ブートしなくなってしまった。POSTシーケンスでBIOS Setupの後、SATARAID4P-PCIのセットアップ画面に移行するのだが、PCIバスに装着したときは普通に動作したSATARAID4P-PCIが、PCI-Xバスではメッセージが出た瞬間にハングアップし、接続されているHDDの表示やF4キーを押してのConfiguration画面に移動出来ない。もちろんそのまま放置してもOSのブートが始まらず、結局66MHz動作は断念せざるを得なかった。

 それどころか、SATA2RAID-PCIXでもセットアップが実行できなかった。こちらはBIOS表示が出てから数分待つとOSのブートは可能な分マシなのだが、カードの初期化の時点で接続されているHDDを認識できないし、Configuration Utilityも起動できない。

 ではどうやってRAIDのConfigurationをするかというと、まずカードを通常のPCIバスに挿してブートし、接続されているHDDのConfigurationを行なって、セーブ後に一度電源を落とし、カードをPCI-Xバスに差し替えてブートする(挿し直してもConfiguration Utilityは起動できないが、何故か設定した内容は有効なまま保持される)。

 今回は2枚のカードでしか試してないので断言は出来ないが、何となくPCI-XバスのInitialization Sequenceの一部がPCIの標準的な手順と異なる印象を受ける。それが852GME-MGFのインプリメントの問題なのか、それとも6300ESBの問題なのかはここでは断言できないが、PCI-Xバスを使う場合には相性が出ることを覚悟しておくべきだろう。

【写真17】SATA2RAID-PCIXにBarracuda 7200.7を2台繋いでRAID0を構成した状態 【写真18】SATA2RAID-PCIXにBarracuda 7200.7を2台繋いでRAID0を構成した状態

●雑感

 全般的には、良くまとまったパッケージであることは間違いない。もちろん、PCI-Expressを使えない点は、モバイルIntel 915PM/GM/GMEにやや見劣りするのは仕方がない。特に最近はビデオカードの新製品が明確にPCI-Expressに移行しているから、この点は残念ではある。それを除けば普通に使う分に不足を感じるケースは無いだろう。特にPCI-Xバスの威力はやはり大きい。たとえば3wareなどのRAIDCORE(現Broadcom)のマルチポートRAIDカードを使ってファイルサーバーを、という場合、従来ならXeonやOpteron用の巨大なマザーボードを組み合わせなければ意味がなかったわけだが、852GME-MGFを使えばスマートなファイルサーバーを構築できる可能性がある。このあたりは、microATXならではというメリットであろう。

 ただ、最近はPentium Mマザーボードの価格もどんどん値下がりしている中で、3万円前後という市販価格はやはりネックかもしれない。特にPCI-Xバスにメリットを感じられないユーザーは、無駄に高価格という印象を受けるかもしれない。また、上にも述べた通りPCI-Xバスがちょっとトリッキーで、相性問題は明確に存在する。従って、使うにあたってもそれなりの覚悟が必要だ。

 しかし、こうした使いこなしが難しい製品こそ、使いこなす事が楽しいという面があることは事実。癖のある上級者向けの一品としてお勧めしたい。

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【1月12日】【槻ノ木】Pentium M対応ベアボーン「AOpen XC Cube EZ855」を試す
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0112/pclabo30.htm
【2004年12月25日】FSB 533MHz対応のi852搭載Pentium MマザーがDFIから(AKIBA)
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20041225/etc_852gme.html

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(2005年2月8日)

[Reported by 槻ノ木隆]


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