大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

JCSSA新春セミナーで7社の首脳が講演
~東芝がHD DVD搭載に言及




 PC販社、量販店などによって構成される社団法人日本コンピュータシステム販売協会(JCSSA)が、毎年新春と夏に開催しているJCSSAセミナーは、販売店などの業界関係者を対象としたセミナーであるため、記者会見では聞けないような、思わぬ発言が出ることもしばしばだ。

 今年も、その「JCSSA新春セミナー」が、1月24日に都内のホテルで開催された。

 今年は、「2005年我が社の製品・販売施策」と題して、PCメーカー7社の首脳による各社のPC事業戦略の方針説明が行なわれたので、顔を出してみた。

●日本HP、今年春以降にデジタル家電に参入へ

日本ヒューレット・パッカード 取締役副社長 馬場真氏

 毎年、このセミナーで爆弾発言をするのが、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)の馬場真副社長である。

 昨年は、HPブランドのiPodの国内投入計画をいち早くこの場で宣言するなど、話題を集めたが、今年はやや大人しい雰囲気。

 とはいえ、エンターテイメント分野においては、「CESでは、17機種におよぶ大型フラットTV、プロジェクターなどのTV製品が発表され、デジタル・エンターテイメントの製品群が出揃う。ぜひ、日本でもコンシューマ市場に参入したい」との意向を表明。「この分野に取り組んでいかなくては、日本HPの成長はない。今年春から夏にかけて、みなさんにコンシューマ市場参入についてのご案内をさせていただけるようになるだろう」と、これらの製品を国内投入する計画があることを明確に示した。

 ただ、その時に、CESで話題を集めたHDTV Media Hubが含まれるかどうかについては言及しなかったのは残念。また、TVについても、CESで発表された17機種すべてが国内投入されるとは考えにくいことから、春以降の発表時点でどんな製品が対象となるのかが気になるところだ。

 一方、PC分野においては、ブレードPCと呼ばれる製品を今年春に投入する方針を明らかにしたのも新たな事柄だ。CPUやメモリ、HDDなどをセンター側に集約して、クライアント側ではキーボード、マウス、ディスプレイで構成されるブレードPCを国内投入することで、企業向けの新たな製品として戦略的に販売していく考えだという。

 「セキュリティの観点からも注目を集めている製品で、新たな顧客層を獲得できるはず」と話す。

 最後に馬場副社長は、「2004年第4四半期には、サーバー分野でもデルを抜いて2位になったと見ている。あと2~3年でデルを追い抜く」と鼻息も荒い。

 2004年は、PCの年間出荷が70万台に達し、対前年成長率33%増(台数ベース)という業界平均を大きく超える伸びを見せていること、そして、「これまで弱かった」(馬場副社長)と自省するノートPCでは、53%増という伸びを見せたというだけに、発言の端々に強気ぶりが見られた。

【お詫びと訂正】初出時、馬場副社長の写真が誤って掲載されておりました。ご迷惑をおかけいたしました関係者の方にお詫び申し上げるとともに、訂正させていただきます。

●東芝は、20周年記念のノートPCを投入へ

東芝 執行役常務 PC&ネットワーク社 副社長 能仲久嗣氏

 同じように製品出荷計画に言及したのが、東芝のPC&ネットワーク社の能仲久嗣副社長。

 欧州でノートPCの第1号機であるT-1100を発売したのが'85年。今年は、それからちょうど20周年を迎える。

 「一昨年はかなり苦しんだが、1年を過ぎて、かなり順調に回復し、成果をあげてきている」と前置きし、「差異化できる技術が社内に蓄積されており、それを生かしたThin&Lightの製品を投入し、これが高い評価を得ている」と昨年発表したdynabook SS MX/LXシリーズの好調ぶりを示した。

 そして、「20周年ということで、研究開発部門は、それを意識した新しい商品を出すべく準備をしている。Thin&Lightのコンセプトを実現したノートPCを、今年のできるだけ早い時期に出したい」と話した。

 また、「HD DVDを搭載したノートPCを今年中に出したい。これによって、業界をリードしているというイメージを改めて作り上げたい」と語った。

 同社幹部から、20周年記念モデルの投入と、HD DVDドライブ搭載PCの年内投入が言及されたのは初めてのことだ。

●アップル、音楽配信サービスは間近か?

アップルコンピュータ 代表取締役 山元賢治氏

 アップルコンピュータも、今年は、例年に比べてややリップサービスが見られた。

 前年のこのセミナーは、日本マクドナルドへ移籍した原田永幸前社長が、アップルコンピュータ社長として公の場に登場した最後の機会となったが、今年は昨年夏に、日本オラクルから電撃的に移籍した山元賢治代表取締役が登壇。「音楽配信サービスは、もうすぐというところ。そこまで努力が実ってきた」として、国内での音楽配信サービス開始を、日本法人幹部としては、初めて公の場で認めることになった。

 具体的な時期などについては言及しなかったが、早期のサービス開始を求めるのは多くのユーザーに共通するところ。今後数カ月は、アップルの動きから目が離せないだろう。

 また、山元代表取締役は、「今月末から発売するMac miniは、新たなユーザーをマックの世界に誘導することができる製品」とし、「販売店のみなさまには、ぜひ、Windows PCの展示してあるスペースの真ん中に置いてほしい。Mac miniは、iTunesのデータサーバーとして、写真や動画のサーバーとして利用でき、アップルの強みを発揮できる分野で、iPodとともに、Windows売り場に同居させてほしい」と、展示スペースをマック売り場のみの形態から脱却させたいとの意向を示した。

 一方、iPod shuffleが慢性的な品薄になるなど、販売店、ユーザーなどに迷惑をかけている点についても言及。「アップルの仕組みは、スーパーサプライチェーンなどと言われるが、今後はプリオーダーをとって、需給バランスをとるなど、会社のすべての仕組みを見直したい」との意向を示した。しかし、この点は、どこまで解消させることができるかはやや疑問。日本法人の努力に期待したいところだ。

●日本IBMは、新生Lenovoで低価格戦略に乗り出す?

日本IBM 理事 PC&プリンティングシステム事業部長 向井宏之氏

 今年第2四半期に、新生Lenovoとしてのスタートが決定している日本IBMは、Lenovoの日本法人社長に就任が決定している向井宏之理事が登壇し、冒頭に、「12月8日の突然の発表では、誤解を招き、また、販売店の現場の方々には、お客様への説明に多くの時間を割いていたことに感謝申し上げます」と挨拶。「Lenovo・IBMは、グローバルカンパニーであり、PCの専門会社であり、PC事業に余計なものを排除した会社。今年は台風の目となる」とした。

 また、向井理事は、「新生Lenovoは、米国の会社でも、中国の会社でも、日本の会社でもない。最初のグローバルPCカンパニーだ」として、「第2四半期には、東京、ニューヨーク、北京、パリの4つの拠点を同じタイミングで立ち上げることになる」という計画を新たに発表した。

 また、今回の講演では、「バリューとは、品質を価格で割ったもの。価格を安くすることは必要」と、これまでの日本IBMの幹部には聞かれなかった、価格戦略を前面に打ち出したコメントが相次いだ。

 向井理事は、「価格の追求は徹底的に行なう。これまでのIBM PCは、ハイクオリティ、ハイバリュー、グッドサービス、グッドサポートといわれたが、価格についてはリーズナブルプライス(ちょうどいい価格)と表現されていた。だが、これからは、価格についてもグッドプライスと言われるようにしたい」と、価格訴求がPC事業戦略において、大きなウエイトを占めることを示唆した。

 果たして、新生Lenovoでは、どんな価格設定をするのか。期待を抱かせる発言だったといえよう。

●国産メーカー幹部も今年の方針を発表

 そのほか、ソニー、NEC、富士通の幹部からも、今年のPC事業戦略について発表された。

ソニー・執行役専務 IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー NCプレシデント 木村敬治氏 NEC 執行役員常務 片山徹氏 富士通 経営執行役パーソナルビジネス本部長 伊藤公久氏

 ソニーのIT&モバイルソリューションズネットワークカンパニーの木村敬治NCプレジデントは、「今年は、高次元AVソリューションへのチャレンジ、ものづくり復権へのチャレンジ、新しいインターフェイスへのチャレンジの3つのチャレンジに挑む」として、HDソリューションへの本格対応などの方針を打ち出したほか、NECの片山徹執行役員常務兼NECパーソナルプロダクツ社長は、昨年来掲げている顧客満足度No.1、スピードNo.1、シェアNo.1の3つのNo.1戦略を推進するとともに、山形県の米沢工場で、昨年10月からPCの生産管理にRFIDを採用していることを明かし、品質と生産性が10%向上したことなどを説明した。「今後は物流やサポートまでを含めたバリューチェーン全体にRFIDを活用したい」(片山執行役員常務)としている。

 また、富士通のパーソナルビジネス本部長・伊藤公久経営執行役は、国内生産にこだわり続けていることを示し、「海外の生産拠点とのベンチマークを行なっているが、品質の点では国内生産の方が優位である。また、日本で売るには、日本で生産するのが適しており、問題が発生した時にもすぐに対処ができる」と、そのメリットを強調した。

●元気な外資系PCメーカー

 与えられた時間は1社あたり約7分という極めて短い時間だったが、振り返ってみると、外資系メーカーの勢いを強く感じたのは、多くの出席者に共通した印象だったのではないだろうか。

 この勢い通りに、国内のPC市場が変化するのか、それとも国産メーカーが依然としてその強みを発揮するのか。まずは、外資系メーカーの一手に注目したい。

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【1月5日】【大河原】今年のキーワードで占うIT業界
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0105/gyokai113.htm
【2004年1月21日】日本HP、今年秋にもiPodの国内投入へ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0121/hp.htm

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(2005年1月26日)

[Text by 大河原克行]


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